転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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脅迫

 バギー海賊団は命からがら、何とかカライ・バリ島に帰還した。重傷者を大量に出したものの死者の数はそれほど多くなく、白ひげ海賊団が殺さないように加減していたことは明らかだ。

 帰還したバギー海賊団を迎える島民の反応は様々、バギーの敗北にありえないと狼狽える者や白ひげ海賊団が相手ならばしょうがないと同情する者、今後の島の存続が危ういのではないかと畏怖する者、それぞれが違った反応を見せている。

 だが人の噂は七十五日とはよく言ったもので、半年も経つ頃にはいつも通りの生活が戻っていた。バギー海賊団が敗北したのが白ひげの一味というのも大きいだろう、彼らは無駄な殺生を拒む不殺主義の海賊としても有名であり、負けたからといってしつこく追ってくるような者達ではないのだ。もちろん海賊である以上殺しをすることもあるだろうが、ひとまずはこちらから手を出さなければ大丈夫だろう。

 それでもバギー海賊団の面々、特に先の戦いで白ひげ海賊団の隊長相手に敗北したギオンなどはさらに修練に励み腕を上げようとしている。その他の部下達もバギーが白ひげに敗北したのは自分達が白ひげの部下を抑えられなかったからだと自らの無力さを痛感し、各々実力を磨こうとしていた。今回の敗北は彼らにとってもある意味いい刺激になったのかもしれない。

 

「わ、ミズキさんだ!」

 

「ミズキさん〜僕また強くなったんだよ!」

 

「はいはい、皆落ち着いて。そんなに寄ってきたら歩けないでしょ」

 

 ミズキが訪れているのは島にある孤児院だ。バギー海賊団が経営していて、親のいない子供を預かり、将来の戦力や島の労働力として育てている。半数以上がマリージョアから逃げ出してきた元奴隷の子供であり、その容姿も相まってか皆とてもミズキに懐いていた。子供に優しくするミズキはバギー達から見ると気持ち悪いらしいが、彼からしてみればそれは納得できないようだ。

 

 

「で、重傷を負った子がいるんだっけ? もしかしてまたあの子の仕業?」

 

「う、うん……訓練の途中で」

 

 ミズキの質問に子供達の中の一人が肯定すると、全員の視線が部屋に一点に集中した。それを浴びせられた部屋の隅に座っていたオレンジのショートヘアーの少女は視線に気づくと子供達を睨み返した。その迫力は脅えて泣いてしまう子供がいる程だ。

 

「う〜んコアラちゃん、やる気があるのはいいけどやりすぎはよくないでしょ? 死人が出たらどうするの?」

 

「……別に死んでもいい。死ぬのは弱いから……弱い人なんてどうせいつか死ぬんだし」

 

 まだ十歳にも満たない少女とは思えない発言をし、コアラはミズキを睨んだ。この孤児院でもとりわけ高い実力を持つ彼女だが、力のあまり他の子供を殺しかけてしまうことが多々あった。

 それでも大人に負けない実力を持っているので、ミズキは暇な時間があればコアラの特訓を見てやっていた。だが彼女は他の者はもちろん、ミズキにも心を開くことはなかった。

 

「まァそうなんだけどさ。コアラちゃん強いし将来性あるからある程度は許してあげるけど、節度は守ってね? じゃないと君の目標も果たせなくなるよ?」

 

「……わかった、気をつける」

 

 ミズキがコアラの発言を一部肯定する。しかしそれでもやりすぎはよくないと注意すると、一応は納得したのかコアラは頷くとそれだけを呟いて部屋から立ち去った。その背中を見つめ、ミズキはやれやれとため息をつくのだった。

 その時だ、孤児院の外に備え付けられている中庭から重苦しい音が鳴り響いたのは。

 

「今度はなに!?」

 

「ミズキさん! 庭でネオンが爆発した!」

 

「はァ!?」

 

 その音の発生原因はもう一人の問題児だった。ミズキが子供達を連れて中庭に出ると、地面がえぐれ芝生が殆ど燃え尽きた見るも無惨な中庭の光景が目に入った。

 その中央で顎に手を当てその様子をまじまじと見つめる青髪の少年に、ミズキは若干引きながらも怒鳴りつける。

 

「ふむ……火薬量を少しいじってみたが思った以上に威力が向上したな。魔法の部分は専門外ではあるが、ある程度は理解できつつある。後は調整と実験を繰り返せば……」

 

「ちょっとネオン! 中庭を爆破するなって何度言ったらわかるの! 今度は一体なんの実験!?」

 

「ミズキか。いやなに、バギー玉の改良をしていただけだよ。現時点ではお粗末な兵器だと言わざるを得ない。僕なら今の十倍は威力と射程範囲を高めることができるからな……とりあえずもう一発行っとくか」

 

「やめなさい!」

 

 ミズキがネオンの頭をどつく。このネオンという少年はマリージョアから逃げてきた元奴隷で、弱冠十二歳でありながら天才的な頭脳を持っておりよく発明を披露していた。腰まで伸ばした青色の髪の、一見すると少女にも見える整った容姿の少年だがその発明品は危険物ばかりだ。こうして中庭や街を荒らしてミズキに叱られるのも一度や二度ではなかった。

 

「相変わらず暴力的だな、もういい歳したおじさんなのだから少しは落ち着いたらどうだ? 確か今年三十……二、いや三だったか?」

 

「ちょ、ちょっとネオン君……!? そんなこと言ったら……」

 

 殴られた頭を押さえながら言ったネオンの失礼極まりない発言を、慌てて他の子供達が諌めようとする。ミズキにおじさんというワードは一番言ってはならない言葉だとその場にいる誰もが理解していた。以前街に現れた海賊がミズキを実年齢のことで馬鹿にしたことがあった。その時ミズキは烈火のごとくブチ切れ、その海賊達を一人残らず細胞レベルで灰にしてしまったのだ。そのことを知っている島民、バギー海賊団は誰一人としてミズキに年齢の話をしようとはしない。彼の逆鱗に触れれば自分も同じ目に遭うと恐れているからだ。

 

「あはは♪ ネ〜オ〜ン〜♡今のもう一回言ってみて? 後ボクはまだ三十じゃないからね! 二十九だから!」

 

「殆ど同じだろう、誕生日が来れば三十代の仲間入りだ。というか全部聞こえているではないか、何故同じことを繰り返し言わなければならない? 時間の無駄だ」

 

「ちょっ……お前火に油を注ぐな!」

 

「やべェ、皆逃げろ! 巻き添えくらうぞ!」

 

 顔は笑っているが口元をピクピクと震わせ、微量ではあるが覇王色の覇気を撒き散らしているミズキを見て、子供達は即座にその場から逃走しようとした。当然だろう、誰だって巻き込まれるのはゴメンだ。

 

「む……! この電波は……またあのお転婆か。おいミズキ、そこ危ないから離れた方がいいぞ」

 

「は?」

 

 ミズキがその言葉に振り向くと、孤児院の壁を突き破り少年が吹き飛んできた。身体中に血を滲ませたその少年をミズキが受け止めると、壁に開いた穴からコアラが不満そうな顔で姿を現した。

 

「……弱い、こんなのじゃちっとも強くなれない」

 

「ちょっと!? コアラちゃんさっき注意したばかりでしょ!?」

 

 先程注意したばかりなのにも関わらずもう問題を起こしているコアラに、ミズキは頭を抱えたくなる。ブチ切れ寸前だったのも忘れて改めてコアラを叱ろうとするが、その前にネオンが彼女に食ってかかった。

 

「おいコアラ、暴れるのも程々にしろと言っているだろう! 見ろ、お前が壊した壁の破片で僕の発明品が傷ついた!」

 

「そんなの知らない、大切だったらしっかり守ってなよ」

 

「ッッ!! そもそもお前が必要もなく暴れ回らなければいい話だろう! 他人の迷惑も考えたらどうだ!」

 

「いや君が言えたことじゃないからね」

 

 ミズキがツッコむが、二人には聞こえていないのか変わらず睨み合っている。

 

「言ってもわからないようなら身体に教えてやるしかないな! 強い相手をご所望なのだろう? だったらこの僕が相手をしてやるさ!」

 

 その瞬間、コアラの拳が赤く光り高温の熱を帯びた。その熱さに彼女は思わず飛びのき、ネオンを睨みつける。その現象はコアラ自身の能力ではなく自然現象でもない、ネオンの能力だ。彼は超人(パラミシア)系パラパラの実の電波人間、電波を操り物体を熱するだけではなく物体の動きや人の思考、電伝虫の盗聴などもできる便利な能力だ。

 

「……やってくれるね。いいよ、殺してあげる!」

 

 コアラが僅かに口元を緩ませ、その力を解放した。普通の少女のそれだった身長は成人男性よりも大きく伸び、特徴的なトサカとカモのようなくちばしが生えてくる。動物(ゾオン)系、それも古代種の能力だ。

 

「ふむ……動物系古代種、リュウリュウの実モデル“パラサウロロフス”と言ったところか。いつの間にそのような能力を」

 

「コアラちゃん……恐竜になっちゃった……」

 

「すっげェ〜〜!!」

 

 ネオンが冷静にその能力を分析し面白いと笑う。子供達はコアラのその変化に驚き、特に男子達は目を煌めかせ喜んだ。しかし一番驚いているのは、ミズキだった。

 

「……え? ……は? ……コアラちゃんいつから……というかそれ敵船から奪った悪魔の実でしょ!? 無いと思ったらコアラちゃん食べちゃったの!?」

 

「……不味かった」

 

「味の感想とか聞いてないから!!」

 

 ミズキの勢いのいいツッコみを無視してパラサウロロフスに変形したコアラはトサカを震わせて音を反響させる。そうして生み出されるのは、超音波だ。

 

「!!?」

 

「うわァァァ!!?」

 

 コアラの発した超音波によって建物の窓は割れ、その場にいた全員が苦しそうに耳を塞いだ。パラサウロロフスのトサカは複雑な内部構造をしており、声を反響させることでより大きな声を出すことができたという。それで超音波まで出せるのかは不明だが、大きな問題ではないだろう。

 

「ちょ……コアラちゃんいい加減に……!」

 

「ははは! 面白い、ちょうど試したい新兵器がある! お前で試してやろう!」

 

「……! ネオンも……!」

 

「そんなおもちゃ試す暇なんてないよ、すぐに死ぬからね!」

 

「だから……!」

 

「そちらこそトカゲ如きの能力で僕を倒せるとでも──」

 

「いい加減にして!!」

 

 互いに煽り合い、ヒートアップしていくコアラとネオン。そんな二人を言葉で落ち着かせようとするが聞く耳を持たない彼らにミズキが選んだ手段は、拳による武力行使だった。

 いくら彼らが子供達の中でとびきり優秀であろうが、四皇の最高幹部と張り合うような実力者がそれなりに力を込めて殴れば一発で伸びる。動物系の古代種を食べていようがそれは変わりない。

 

「──あ、やっちゃった……」

 

 そして我に返り思う、やってしまったと。いくら言う事を聞かないとはいえ子供相手にムキになってしまったと少し反省するが後の祭りだ。すぐさま部下を呼び二人を治療室へと運ばせた。

 こうして一応騒ぎは収束したがこの件を見ていた子供達はしばらくミズキを怖がってしまい、それにショックを受けたミズキがバギーに泣きつくという出来事が起きたのだが、それはまた別の話だ。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 ──新世界、万国(トットランド)

 

 偉大なる航路(グランド・ライン)“新世界”にあるホールケーキアイランド及び三十四の島とその周辺の海域、それら全てを合わせた総称だ。

 四皇“ビッグ・マム”のナワバリであり、島それぞれを大臣と呼ばれるビッグ・マムの実の子供達が管理している。

 当然ながら世界政府非加盟国ではあるが一般の住民が生活しており、半年に一度寿命をビッグ・マムに献上することで万国での生活と安全が保証されている。海賊のナワバリな上に寿命を差し出さなければならないとリスクはあるが、それを補ってもあまりある四皇の圧倒的な安心感、それに惹かれてここに住まう者も多いのだ。

 そしてその首都である本拠地、ホールケーキアイランドにあるホールケーキ城。その最上階付近に位置する“女王の間”に、この国を治める女王が特大の椅子に腰掛け電伝虫で誰かに連絡を取っていた。

 

『ふざけるんじゃねェババア! こっちは息子を取られてんだ、邪魔するなら殺すぞ!』

 

「マ〜マママ〜マ! まァそう怒るな、あのガキ共に用があるのはおれも同じだ」

 

 九メートル近い巨体に二角帽を被った女性、この国の支配者“ビッグ・マム”シャーロット・リンリンだ。大海賊時代より遥か昔から新世界に君臨してきた大海賊の一人である彼女が、電伝虫越しに話す相手もまた、四皇の一人。そもそも彼女と同等の立場で話ができる者など、今や同じ四皇しかいない。

 

「こっちはあのクソガキ共とモルガンズのバカが流しやがったデマのおかげでメンツが丸潰れだ。落とし前はつけなきゃならねェ。そうだろ、カイドウ?」

 

『もう十年近く前の話だろう? ウォロロロ……今まで何をしてやがった? 怪物ババアもついに衰えたのか?』

 

「誰に口を利いてやがるんだい、あんなガキ共おれが出れば一瞬さ。だが生憎とそういう訳にもいかねェ……わかるだろ?」

 

 電伝虫の向こうの相手、“百獣のカイドウ”に同意を求める。もう何十年も前の話、彼がまだ見習いの頃によく面倒を見てやっていた。カイドウからすればウザイババアに絡まれたとしか思っていないかもしれないが、少なくともビッグ・マムにとっては未だ彼は可愛い弟分だ。

 

『そんなことはどうでもいい! 早ェ話がだ、おれはガキ共をぶち殺して息子を取り返す! それだけだ!』

 

「まァ待てよ。“千両道化”を潰すにはある程度の戦力が必要だ。おめェが行けば簡単だと思うが、そうなればワノ国がどうなるか……わかるよな?」

 

『……ババア! 陰湿な脅ししやがって!』

 

「脅しじゃねェよ、忠告してやってるのさ。それにおめェ、おれにデカイ借りがあるよな?」

 

『……昔の話だ、いつまでも引きずってんじゃねェ!』

 

「ハハハ……いいや一生モノさ。いいね? 抜けがけするんじゃないよ」

 

 それだけを一方的にいい、彼女は受話器を置いた。 四皇や海軍本部、王下七武海から成り立つ世界の勢力図、仮にビッグ・マムやカイドウがバギー海賊団を潰そうと動けばその隙に別の四皇、もしくは海軍本部に攻められ滅ぼされる。特定の本拠地を持たない白ひげ海賊団であればある程度自由に動けるが、万国やワノ国を拠点として構えるビッグ・マム海賊団や百獣海賊団はそうもいかない。ゆえに脅しにも近い忠告を行ったのだ。

 だからといって見逃してやる道理もない。戦力を整え、準備が済んだらすぐにでも消してやる。その意を込め、彼女は乾いた笑い声を部屋に響かせるのだった。

 

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