転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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覚醒

 新世界、ホールケーキアイランド南西の海岸“誘惑の森”

 

「ねェ! なにか飛んできたよ!」

 

「人か!? 女の子だ!」

 

「僕この子知ってるよ! “宵魔女”だ!」

 

「僅かにママの気配を感じる。こりゃママにズタボロにやられたな♪」

 

 突然飛んできた人影に驚く数々の声、しかしその場に人間は一人もいない。花、木、草、地面。この森にいるのは(ソウル)を与えられ擬人化した植物や動物達、“ホーミーズ”だ。

 

「殺す? 殺しちゃおう♪」

 

「ば〜か! もう死んでるよ! ママにやられたんだぞ! 生きていられるはずがない♪」

 

「だったら獣の餌にしよう♪ 魂はママに取ってもらって仲間を増やそう♪」

 

 地面に落ちたミズキを囲みながら歌うように話すホーミーズ達。一見すればメルヘンチックだが会話の内容は人の生き死にをまるで道楽のように決める残酷なものだった。

 

「……見つけたわよ」

 

 そこに一人の女性が降り立った。白を基調とした服を身に纏った美女、お茶会に招待されていたゲストの一人、歓楽街の女王ステューシーだった。しかしその裏の顔は世界政府の諜報機関、サイファーポール“イージス”ゼロのメンバーだ。

 

「あ、ステューシー様だ!」

 

「なんでステューシー様がこんなところに?」

 

「ふふふ……リンリンに“宵魔女”の様子を見てきて欲しいと頼まれてね」

 

 ホーミーズ達に怪しまれないように適当な言い訳を述べつつ、ステューシーはミズキに近づく。彼女に課せられた任務は宵魔女を消す、たったそれだけのことだがそれだけ動けば十中八九ビッグ・マム海賊団にバレてしまうだろう。故にここで誤魔化せてもどのみち彼らに殺されるのは変わらないのだが、ホーミーズ達に邪魔をされるのも癪なので一応はまだゲストという体を保っていた。

 

「……!!? 驚いた……まだ息があるのね。ほとんど死にかけみたいだけど」

 

 ビッグ・マムの技を全身で受けたのにも関わらず辛うじて生きていたミズキのしぶとさにステューシーは素直に驚くと共に感心した。

 

「あなたの何が彼らをあんなに警戒させているのかは知らないけど……任務は果たさせてもらうわ」

 

 目の前の少年を見てもそこまで警戒心は湧かなかった。もちろん気絶し、死にかけである者にそのような感情を抱くこと自体が少ないのだろうが、それでも五老星があそこまで畏怖するならば何かしらの理由があるはずだ。故にこの状態でも何かあるのかと思っていたが考えすぎだったようだ。

 指を武装色の覇気で硬化させ、六式の技である指銃で心臓を一突きにしようとする。死にかけの少年一人、この程度で十分すぎる一撃──のはずだった。

 

「……!!?」

 

 ステューシーが指を構えた直後、ミズキの周囲を赤黒い電流が走りその衝撃でステューシーは危うく飛ばされそうになる。腕で身を隠し衝撃に耐えようとするが、次の瞬間彼女の身体は激しい圧力によって押し潰されそうになる。

 

「ぎゃああああ〜〜!!!」

 

「……これは……覇王色の覇気……!?」

 

 周囲のホーミーズが次々泡を吹き倒れていく状況でステューシーはその原因を知った。珍しい力とはいえ覇王色の覇気は新世界ならば使い手もそれなりにいるが、これほどの強さの覇気は滅多にいない。覇王色の覇気は相手との力量差がかなり開いていないと効果はない。ステューシー程の実力者ならば四皇最高幹部クラスの覇王色ですら問題なく耐えることが出来るはずだが、それでも彼女の意識は飛びかけた。それはつまり、彼の覇王色がそれを更に超え、四皇クラスの域にすら達していることを意味していた。

 

「……何が……起こって……!!?」

 

 突然の事態にさしものステューシーも動揺する。しかし諜報員としての使命を全うしようと再び倒れているミズキに意識を向ける。が──

 

「……!!? いない……!?」

 

 その場にいたはずのミズキの姿はどこにもなかった。ステューシーの見聞色の覇気にすら引っかからず、彼は消えてしまったのだ。どこへ行ったのかと周囲を見渡そうとしたその時、ステューシーは背後からおぞましい程の殺気を感じてその身体を硬直させる。

 

「……!!?」

 

 そのあまりのプレッシャーに冷や汗を流す。裏世界で長年生きてきた彼女だが、それでもこれほどの殺気を感じたことはない。その場にいるだけで潰されてしまいそうな圧力、恐ろしい気迫だ。

 しかし任務を放棄することなど出来ない。ステューシーは意を決して振り返り、そしてミズキを仕留めようと動く。

 

「……ガハ…………!!」

 

 だがそれが叶うことはなかった。ステューシーは段々力が抜けていく感覚を味わい、そして意識が遠のいていく感覚を覚えた。徐々に薄れゆく意識の中で彼女が最後に見たのは、自分の口から抜け出る白い物体と、それを喰らうミズキの姿だった。

 

「……美味しい……のかな。さすがはサイファーポール“イージス”ゼロ……」

 

 表情を変えることなくステューシーから飛び出させた白い物体、“魂”を飲み込む。味の方はまあまあ美味なようだ。程よく甘みがあり、のどごしもいい。

 

「……さて……と」

 

「ひっ……!!」

 

「なんだ……!! この感覚……!!」

 

 騒ぎを聞きつけ集まってきたホーミーズ達。その誰もが恐怖に戦慄し、擬人化された顔を青くする。覇王色の覇気とはまた違う、得体の知れない恐ろしさにホーミーズ達はすっかり縮まってしまっていた。

 だがそれもそうだろう。主であるビッグ・マムへの恐怖とはまた違う、魂そのものを統べる者こそが目の前の少年の正体なのだから。

 

「少し……試してみようかな」

 

 ホーミーズ達の悲痛な叫びが森を包み込み、誘惑の森はその日限りでただの森に戻った。しばらくしミズキが飛び去った後の森は、かつての賑やかさの欠片も感じられなかった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 ビッグ・マム海賊団の面々は母であるビッグ・マムの様子を確認する為に、彼女とミズキが戦っていた平原へと足を運んだ。捕らえられたルナリアは海楼石の錠で拘束され、逃げることを許されない。

 

「カタクリ、“宵魔女”はどうなった?」

 

「……ママの威国で誘惑の森の方角に飛ばされた。……生きているとは思えないが」

 

「そうか、なら死体を回収しねェとな……おい! 誘惑の森に行って奴の死体を回収してこい!」

 

「はっ!」

 

 カタクリに確認をしたペロスペローが部下の何人かにミズキの死体を回収するように指示を出す。

 

「……!! おやおや……もしかしてそいつが……!!」

 

「ああ、ご所望のルナーリア族だママ」

 

「そうかい! ハ〜ハハハ! 嬉しいねェ……これでおれの国にいない種族は残り二種。……それにしても、可愛らしい娘だ」

 

「……き……さま……!! よくもお兄様を!!」

 

 ミズキがやられ、怒りを見せるルナリア。だがビッグ・マムはそれをも楽しむようにルナリアの頭を撫でる。

 

「お〜お〜元気もいいねェ。確か“憎炎”って言ったかい? お前うちに入れよ。ルナーリア族をコレクションにしとくのはもったいないからねェ。もし入るならそれなりの待遇を約束するよ」

 

「……!!」

 

 それは絶対絶命の状況に追い込まれたルナリアからすれば破格の条件だった。このままではモンドールの能力で永久に本の世界に囚われるだろう。ならばビッグ・マムの下に降り、幹部としての待遇を受けた方がいいに決まっている。 誰もがそうするだろう。

 しかしルナリアの返答はそれとは真逆のものだった。

 

「……断る……! 私が忠誠を誓ったのは……ミズキお兄様だけ……!」

 

「……!! ハ〜ハハハ!! そうかい、まァそれならしょうがないね。……モンドール! この小娘を本の中に閉じ込めておきな!」

 

 キッパリと提案を断ったルナリアを、ビッグ・マムは別段驚く様子もなく笑った。そもそも一端の海賊ならばこのような誘いに乗らないことなど彼女もわかっていた。一応は聞いてみるが期待は出来ないだろうと理解していたのだ。

 ルナリアをモンドールに預け、彼のブクブクの実の能力で図鑑の中へと閉じ込めるように命令する。

 

「……!!? ママ!!」

 

「ああ? ……!!?」

 

 突然カタクリが顔を青くしてビッグ・マムに警告するように叫んだ。それは彼の強すぎる見聞色の覇気故だったが、彼以外は何のことだかわからない。ビッグ・マムも例外ではなくいきなり叫んだカタクリに疑問符を浮かべるが、次の瞬間にはその巨体をくの字に曲げ、吹き飛ばされた。

 

「な……!?」

 

「敵襲……!? どこから!?」

 

「ママ!! 大丈夫なのか!?」

 

 ビッグ・マム海賊団の猛者達でも視認出来ない程の速度で船長であるビッグ・マムが吹き飛ばされたことにどよめく。一部からは彼女を心配する声も出るが、それに答えるように彼女はすぐに起き上がった。

 

「……誰だい!!」

 

「……」

 

「……あれは!?」

 

 頭を抱え起き上がったビッグ・マムの前に降り立った黒い影。それは彼女も見覚えのある人物だった。なにせ数十分前まで戦っていた相手だ、忘れるはずもない。しかし顔こそ同じだがその姿は先程とはかなり違っていた。

 まずピンクだった髪は暗闇のような真っ黒に染まっていて、全身を黒い炎が包んでいた。身長は元の姿とさほど変わらないが、背中からは黒い翼が生えている。以前の獣型でも翼は生えていたがそれともまた違う、まるで天使のような翼だった。しかしその色は一般に想像される白ではなく、髪と同様に吸い込まれそうな程の黒だ。

 

「生きてたのかい、確認もせずに悪かった。随分様子が違うようだが……なるほど、“覚醒”か……! ハ〜ハハハ! 面白いねェ!」

 

 死の淵にいたはずのミズキの復活、そして変化を見てそれを悪魔の実の覚醒によるものだと確信する。しかしビッグ・マムはそれをあくまで面白いと言ってのけた。そして右手にナポレオンを構え、小手調べだと言わんばかりにミズキに向けてその巨剣を振るった。

 それを見たミズキは表情を一切変えず、背中に背負った短剣を抜き迎え撃とうとする。そして互いの得物が激突した。

 

「……!!?」

 

「触れてねェ!!?」

 

 だがビッグ・マムの巨剣、そしてミズキの短剣は触れ合うことはなかった。その前に赤黒い稲妻が周囲を包み、比較的実力の低いビッグ・マム海賊団の面々は意識を失った。

 それが意味するのは即ち覇王色の衝突であり、そして互いに覇王色の覇気を纏った一撃だったということだ。

 

「天が……割れた!?」

 

「ぐっ……おい! 倒れた奴らを連れて離れろ!」

 

 ペロスペローが倒れた者達を連れて避難するように指示をする。しかし何とか倒れずに済んだ者達は天を仰ぎ、その現象に見入っていた。ビッグ・マムとミズキ、二人の激突により真っ二つに裂かれた雲の隙間から光が差し込み、幻想的な光景を作り出していた。

 

「ママ!!」

 

「カタクリ! 手は出すなと言ったはずだ! 息子の分際で出過ぎたマネすんじゃねェよ!」

 

 唯一カタクリだけは冷静に状況を判断しビッグ・マムに加勢しようとするが、それを他ならぬマムが一喝し止めた。

 

「確かにさっきとはまるで違うようだね……だがこの程度でおれを倒せると思ってんじゃねェ!!」

 

 拮抗していた両者のぶつかり合い。しかしビッグ・マムが剣を押す力をより一層強め、ミズキは弾かれ後退した。自分の手のひらを閉じて開いてを繰り返してそれをまじまじと見つめている。

 

「……うん、これならなんとかなりそう」

 

 ミズキはそう呟くとビッグ・マムを睨みつけ、覇王色の覇気で威圧する。それをくらったビッグ・マムは僅かに怯むが、すぐに乾いた笑みを浮かべた。しかしミズキの狙いはビッグ・マムではなく、彼女の手に握られた巨剣とその周囲を飛ぶ太陽と雷雲だった。

 

「!!!」

 

「ひっ……!!」

 

「マ、ママ……ダメだ、おれ達あいつに逆らえない……!」

 

「ああ!!? 何言ってんだい!?」

 

 涙を浮かべて怯えている様子のナポレオン、ゼウス、プロメテウス。ビッグ・マムの魂を直接与えられた彼らが恐れ、逆らうことが出来ないと言う程の存在。たとえ他の四皇を相手にしてもそこまで怯えることはない。つまり彼らが恐れるのはもっと根底的なことが要因だった。

 

「……当然でしょ? ボクは魂を喰らう悪魔。君が魂を使役出来るのだとしても、ボクはそれを全て喰らい尽くす」

 

 翼をはためかせ、ミズキはそう宣言した。自分は魂を喰らい尽くす悪魔、たとえビッグ・マムが魂を操れるのだとしても、自分には全く無意味なのだと。

 

「……!!? ……ハハハ……その能力、それに覇気……そうかい、おめェロックスの息子か」

 

「……!!? あのロックスの!?」

 

 ミズキの能力と纏う覇気を鑑みて、ビッグ・マムは彼の正体を知る。彼女の上の子供達、ロックスの船に乗っていた経験のある者達はその姿を思い出し、驚きの声を上げる。カタクリでさえ顔を青ざめさせる程だ。

 

「ハ〜ハハハ! マンマママンマ! 別に驚くことじゃねェさ、あのロクでなしなら子供がいたって不思議じゃねェ」

 

 ビッグ・マムの記憶の中のロックスは残虐でロクでもない男であり、船に乗ってはいるが彼女はロックスを全く信用していなかった。特に女性関係は最悪の一言であり、気に入った女を見つけては無理やり連れ去り己の欲求を満たし、飽きたら捨てるという天竜人と同じような行為に及んでいた。しかし捨てた女を殺さなかっただけ彼にしては優しかったと言える辺り、ロックスがどれだけロクでなしであったか想像に難しくないだろう。故に彼に子供がいたとしても不思議なことではなく、公になっていないだけでもっといてもおかしくないとビッグ・マムは考えた。

 

「おい、おめェら……おれとあの小僧……どっちが怖いんだい? 

 

「!!?」

 

「そ、それは……」

 

 ビッグ・マムが自らの分身であるナポレオンらに脅しのように問いかけ、彼らは言葉を失う。主である四皇ビッグ・マム。その恐怖は言うまでもなく、たとえ目の前に自分達を喰らおうとする悪魔がいたとしても、やはり恐ろしいのはビッグ・マムなのだ。

 

「ハ〜ハハハ! わかりゃいいんだよ。とはいえ……お前達をここまでビビらせるあいつを褒めてやらなきゃねェ……」

 

 ビッグ・マムはナポレオンを振りかぶり、筋肉に力を込める。先程ミズキを吹き飛ばし半殺しにしたエルバフの槍、威国。それをもう一度彼に放とうとする。

 

「せめてもの情けさ……一思いに殺してやるよ!」

 

 それに対しミズキは左手を前にかざすだけで避けるような仕草も見せない。ビッグ・マムはそんなミズキにいい度胸だと口元を不気味に緩ませる。

 

「威国!!!」

 

 剣を振ったビッグ・マムから放たれた衝撃波は地面をえぐり進み、手をかざしたままのミズキに直撃した。粉塵が巻き起こり彼の姿は砂煙の中に隠れる。その場にいた全員がミズキの死を確信し砂煙が晴れるのを待つが、数十秒後に現れたミズキの姿は、全くの無傷だった。

 

「……!? 嘘だろ……ママの威国を受けて……!?」

 

 手をかざしたミズキの前には紫色に輝く光の壁、俗に言うバリアが展開されておりそれが威国を防ぎきった。それに対し驚きの声が上がるが、終わりでない。次の瞬間にはミズキの姿が消失し、視界から消え去った。

 

「……!!? ぶべェェ……!!!」

 

 頬を思いっきり蹴りつけられ、ビッグ・マムは悲鳴を上げながら吹き飛んだ。誰の目にも、カタクリやビッグ・マムでさえ視認出来ない程の攻撃は彼女に少なくないダメージを与えた。その戦闘力と能力こそが世界政府が恐れ、その名を歴史から消した悪魔の実の力であった。

 

動物(ゾオン)系幻獣種ヒトヒトの実モデル悪魔 “堕天状態”(ロストモード)

 

 かつて世界を震撼させたロックス海賊団船長、ロックス・D・ジーベック。その能力と血を受け継ぎミズキは覚醒した。それは世界政府にとって、最も恐れていた事態だった。

 

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