新世界に拠点を構え、まるで皇帝のように君臨する海賊達“四皇”。現在は一枠が不在であり実質“三皇”状態ではあるが、その影響力は変わりない。
そんな四皇の一角であるビッグ・マム海賊団船長、シャーロット・リンリン。その実力は人間の範疇を逸脱しており、生まれついてのモンスターと称される程だ。全世界で見ても確実に五本の指に入ってくる彼女とやり合える者はそう多くない。他の四皇や海軍本部大将、一部の七武海、そのくらいだろう。さらに勝てる可能性のある者となればさらに絞られてくる。
要するに彼女と戦闘を成立させているというだけで世界でも屈指の実力者ということになり、それは誰もが知り得る共通認識だった。故に彼女の子供達は目の前で繰り広げる戦闘を見て顔色を悪くして驚いていた。
「嘘だろ……ママと互角に戦うなんて……」
「ッッ!! カタクリとスムージー以外は早く避難しろ! 巻き込まれるぞ!」
「クワハハハ! 面白い! 面白いぞ“宵魔女”! これはビッグニュースだ!」
ビッグ・マムの子供達は目を丸くして驚愕し、ペロスペローが将星であるカタクリとスムージー以外に撤退を命じた。ホールケーキ
「
「……!!」
ナポレオンにプロメテウスの炎を纏わせ、燃える巨剣で攻撃する。それをミズキはバリアでガードするが、防ぐことは出来たものの徐々にひび割れバリアは破壊される。
「……やっぱり直接防ぐのは無理だね……」
遠距離の斬撃である威国はこのバリアで防ぎきることが出来たが、やはり直接バリアに剣を叩きつけられるとそのパワーも相まって破壊されてしまうようだ。しかし数秒ビッグ・マムの攻撃を防ぐことが出来ただけで相当な耐久力と言っていいだろう。
「今度はボクの番」
「……!!? ……ぐォ……!!」
ビッグ・マムの目の前からミズキの姿が消え、次の瞬間には彼女の腹に拳を突きつけていた。武装色と覇王色を纏わせた拳はさすがのビッグ・マムでもある程度のダメージは避けられない。
「……また消えた……!! どうなってるんだい!? ……ブべェ……!!」
今度は頭上に現れたミズキのかかと落としをくらい、ビッグ・マムは嗚咽を漏らす。ただの高速移動であれば彼女の見聞色の覇気が見逃すはずもない。仮にそれすら上回る程の速度だったとしても、この場には見聞色の覇気の達人がもう一人いるはずだ。
「……どういうことだ?」
見聞色の覇気を鍛えすぎて未来すら見える男、シャーロット・カタクリ。新世界でもトップクラスの見聞色の使い手である彼ですら、ミズキの動きを捉えることが出来なかった。未来を見てもそれは同じ、まるでこの世から消失したかのようにどこにも彼の姿がないのだ。
「まさか……」
そこからカタクリは一つの結論を導き出した。ありえないことではあるが、それくらいしか目の前で起こる現象を説明出来ない。
「時間を……止めているのか……!」
にわかには信じ難いことだ。だがカタクリはミズキの能力の多彩さを知っている。覚醒したとなればあるいは……。
「……なるほどねェ……時を止めてるのかい……そういえばロックスも同じ技を使っていたね」
カタクリ同様にビッグ・マムもそれを見破った。かつての船長、ロックスも同じような技を使用していたのだ。つまりある程度の対策も頭に入っている。
「
「!!!」
ゼウスを手に握りミズキを叩きつけると共に電撃を浴びせる。思わぬ反撃にミズキはガードが間に合わず地面に打ち付けられ口から吐血した。
「知っているよ、その時を止める技……体力の消耗が激しいんだろう? それに何秒か溜めが必要なはずだ」
その技の性質と弱点を口にして、ビッグ・マムは笑う。目の前の少年はロックス同様能力を使いこなしているが、どうやら練度という点ではロックスの方に分があるようだ。ならば付け入る隙はいくらでもある。
「あっそ……ならやり方を変えるだけだよ」
口元の血を拭いながらミズキは飛び上がる。そして短剣の剣先をビッグ・マムに向け、エネルギーを溜め込む。
「ビター……
「ぐ……ォォォォ!!」
ビッグ・マムの身体を覆う程の巨大なエネルギー波は彼女の身体を焼き焦がし、地面に着弾して大爆発を起こす。火花が散る中、ビッグ・マムは軽々と起き上がってくる。ダメージはあるはずだがそれでも彼女の無尽蔵の体力を削るにはまだ足りないようだ。
「ハ〜ハハハ! 確かに痛ェよ! だがこの程度でおれは倒れねェ!」
ゼウスに飛び乗り、空中を飛ぶミズキにその巨体からは考えられない程の速度で迫る。そしてナポレオンで彼を切り裂こうとする。それを時を止め回避するミズキだが、瞬間ビッグ・マムは振り向き、巨剣を振り下ろした。
「
「……ガハッッ……!!」
攻撃をくらったミズキは武装色で防御したもののダメージは大きく、地面に向けて落下していく。しかし途中で体勢を立て直し、反撃に出る。
「
「なんだこりゃあ!? ああああ〜〜!!?」
巨大な渦を作り出し、ビッグ・マムを吸い込む。その中に響くのは魂達の悲痛な叫び、怨嗟の声だ。彼女の巨体をいとも簡単に吸い込んだ渦はさらに勢いを増し彼女を翻弄する。そしてミズキは未来を見てビッグ・マムが弾き出される地点を予測、時を止めその場所へ先回りする。
「クソ……! ゼウス!」
「目が、目が回る〜〜!」
「何やってんだい! しっかりしやがれ!」
「……もう遅いよ」
ゼウスと離されたビッグ・マムは体勢を直すために彼を呼ぶが、散々かき回されたゼウスは平行感覚を失いまともに飛ぶことが出来ない。そうしている内にビッグ・マムは渦の外、空中に放り出される。移動手段であるゼウスを失い、空中で身動きの取れない彼女に対し、ミズキは短剣を突きつけた。
「何度やっても無駄だ! おれにおめェの攻撃は効かねェ……!」
「うん、知ってる……だから中から潰してあげる……」
ビッグ・マムの硬い皮膚の前には覚醒したミズキといえど大きなダメージを与えるのは難しい。確実に痛みはあり、体力も減ってはいるがそのペースは緩やかだ。もっと効率良くダメージを与えるには、身体の頑丈さが意味をなさない内側から崩すことだ。
「
「ぶへェ〜〜!!」
鉄よりも遥かに硬いビッグ・マムの肉体。それに内側から衝撃波を何重にも撃ち込んでいく。さしものナチュラルボーンモンスターでも体内からの攻撃は防ぎようがない、口から大量の血を吐いたビッグ・マムは地面に落下していく。
「マ、ママ……あんなに血を……!?」
「人の心配してる場合? やっと離れたね、ゼウス」
「え?」
いつの間にかゼウスの背後に移動していたミズキは反撃の隙すら与えずに雷雲を真っ二つに斬った。本来武装色の覇気を用いたとしても雷雲であるゼウスを斬ることは不可能なのだが、魂を喰らう悪魔である彼には関係ないことだった。
「ぎゃあ!?」
「貰うよ、その魂……」
二つになったゼウスの中から抜け出てくる魂。それを掴み、口に含む。ゼウスはただの雲に戻り、やがて水蒸気となって消滅した。悪魔は魂を取り込むことで強くなる。ビッグ・マムが直接与えたホーミーズの魂なら尚更だ。ゼウスの魂を飲み込み、ミズキは地面に倒れるビッグ・マムの前に降り立つ。
「……ゼウスがやられたかい……ハハハ、悪いね……少し侮ってたよ」
「そのまま油断しててもらって構わないよ。その間に殺してあげるから」
「マ〜ママママ! 生意気な……しょうがねェ、おれの寿命を二年分使うよ。これじゃなきゃおれ自身を強くすることは出来ねェ……」
「……!!?」
少なからず自身にダメージを与えた相手を舐めていたことを認め、本気を出すことを宣言する。寿命を減らすことで力を増すビッグ・マムの奥の手、元より人間離れした巨体だった彼女の身体はさらに大きくなり、パワーを増大させた。そしてゼウスがやられたことにより不在になったはずの雷雲は、新たな存在に生まれ変わっていた。
「さァ初陣だよ……お前の力を見せてみな、ヘラ!! 」
「オ〜ホッホ♡ハーイママ♡」
「
「……ッッ……ガッッ……!?」
新たに作成した雷のホーミーズ、ヘラによる雷撃。ゼウスの時よりも強力になったその一撃はミズキに直撃、全身を焼き焦がした。
「ぐッッ……さすがにこんなに簡単に終わる訳ないよね……」
「ハ〜ハハハ! そうさ! おれを誰だと思ってやがる! おめェが赤ん坊の頃からこの海を生き抜いてんだおれは!」
「!!?」
プロメテウスを纏ったナポレオンの斬撃を時を止めて回避する。しかし先程ビッグ・マムに見抜かれた通り体力の消耗が激しい上に数秒のインターバルが必要だ。その隙を突かれた二度目の斬撃は避けることが出来ない。
「マーマ
「!!!」
その巨体に似合わぬ速度で振り下ろされた巨剣。武装色の覇気と覇王色の覇気を纏わせたその一撃はミズキに白目を剥かせ、地面に巨大な穴を開ける。底が見えないほど大きいその穴に、意識を失ったままミズキは落下していった。
だがそれで終わりではない。落下していくミズキに容赦なく、ビッグ・マムは追撃を行う。
「ナポレオン!」
「ハイママ!」
「プロメテウス!」
「おうママ!」
「ヘラ!」
「ハ〜イママ♡」
『合体!!!』
ビッグ・マムがそれぞれの名を呼び、そうして三体のホーミーズは合体し弓矢のような形状に変化する。
「喰らいな! おれの新たな技! お前が最初の被害者さ!」
「!!!」
弓矢の先に光が集まり、矢となったヘラがビッグ・マムの合図で発射される。
『
放たれた光の矢はミズキを貫通し、そのまま穴の底で大爆発を起こす。強烈な追撃を受けたミズキはもはや飛ぶことすら出来ず、力無く穴の底へ沈んでいった。
「やったね! さすがママ!」
「オ〜ホッホ! 口ほどにもなかったわね、せっかくママに作ってもらったのに♡」
「おれが頼んだんだぜヘラ! ゼウスは役立たずだから新しい仲間が欲しいって!」
ビッグ・マムの周りを飛び回りはしゃぐプロメテウス達。しかし当の彼女は勝利の笑みを浮かべることもなく、ミズキが落ちていった穴の底を睨んでいた。
「油断するんじゃねェよ、あいつがロックスの息子ならこの程度でくたばりやしねェ。なにより、声が消えてないからね」
はしゃぐ彼らに忠告し、油断するなと言ってのける。彼女の知るロックスはこの程度で死ぬことはないはずだ。なにより穴の底からうるさい程に声が響いている。来るなら来い、その意味を込めて彼女は僅かに口元を緩ませた。
♦♦♦♦♦
穴の底に落ちながら、ミズキは暗闇の中にいた。ここが現実なのか、それとも自分の空想の世界なのか、それすら理解が追いつかない。結局自分では四皇には敵わないのだろうか。自分ではバギーの隣に立つのは、彼を海賊王にすることは出来ないのか。そんな後ろ向きな思考を巡らせていると、目の前に知った顔が現れた。
『ジババババ……! なんだおめェ、結局勝てなかったのか? それでおれの息子とは……笑えるぜ』
目の前の男、ロックスはミズキを見下すように嘲笑う。
「……うるさいな、態々バカにしに来たの?」
『ジババババ! そうじゃねェさ、おめェに一つ提案がある』
「提案?」
『おれに身体を寄越せ! そうすりゃリンリンの奴を……いいや、カイドウもニューゲートも世界政府のジジイ共すらぶち殺して……お前は世界の王になることが出来る!』
ロックスの提案は突拍子も無く、馬鹿げたものだった。しかしそれを彼は堂々と両手を広げて言ってのけた。
『どうせこのままじゃあリンリンの奴に殺されて終わりだ! お前の意識はおれのものになるが構わねェだろう? 響き渡るんだよ! 全世界にお前の名が! ……この際だ、おれがお前に名前をつけてやろう。父親としてのせめてもの贈り物だ』
そう、ミズキの名はバギーに助けられた際に自分で考えた名前だ。父親であるロックスが名付けるのであれば、それが本来の名になるのだろう。彼に身体を譲ることも、このままでは死ぬしかないことを考えればそれしかないのだろう。身体を預け、ビッグ・マムを倒してもらうのが最善策なのは間違いない。
だが、そんなことで納得出来るはずもない。
「……お断りだよ」
『……? 何故だ? おれならリンリンを殺すことくらい容易い……ああ、お前の船長の赤っ鼻のことか? 安心しろ、おれが世界の王になった暁には奴にもそれなりの地位を与えてやる。他ならぬ息子の頼みだからな。だから大人しく──』
「バギーは海賊王になる男だ!!」
『……ああ?』
言葉を遮って叫んだミズキを、ロックスは怪訝な顔で見る。ミズキは血が流れる程拳を握りしめ、確かな意志を含んだ目でロックスを睨みつける。そして語るのは、他ならぬ彼の本心だ。
「海賊王に……ううん、それすら超えて君の言う世界の王になる者がいるのだとしたら……それは君でもロジャーでも白ひげでもない、カイドウでもビッグ・マムでもシャンクスでもない。王になるのは……バギーだ!」
あの日、暗く閉ざされた牢屋から救い出してくれた男の顔を思い浮かべる。その時からミズキは確信していた、彼こそが海賊王になる男だと。
「そして……その時隣にいるのはボクだ! ボクがバギーを王にする! 父親だろうがなんだろうが、それを邪魔するのは許さない!」
バギーは必ず海賊王になる。その時に隣に立って彼を支えるのは自分でなければならない。そうでないと納得なんて出来るはずもない。その為ならば四皇だろうが伝説の海賊だろうが関係ない、全て倒して前に進む。それが嘘偽りないミズキの想い、それを目の前の父親に宣言する。
「ボクの名はミズキ! バギー海賊団の副船長! 誰の血を引いていようが、どんな運命を背負っていようが関係ない! 過去は全てあの牢屋に置いてきた! 誰にもボクの……ボク達の邪魔はさせない!」
たとえ自分が伝説の海賊の血を引いていようが、数奇な運命を背負った一族──Dの一族だったとしても、ミズキはバギー海賊団の副船長。その事実に変わりはない。そんな決意を胸に、彼は堂々と自分の名前を叫ぶ。
『……!! ……そうか……! ……ジババババ!! ああ、それでいい!! 』
「……? ……どういうこと?」
てっきり自分の要求を拒否されたことに激高でもすると思ったのだが、ロックスは笑った。ミズキの出した答えに満足するように。
『覚醒はお前の意志が強くなればなるほど更なる力を発揮する、覇気と同じようにな。それが悪魔の実の“覚醒”ってもんだ! お前はそのまま意志を強く持て!』
「……ボクの意志を試したってこと?」
『まァそうなるな、お前が何の抵抗もせずにおれに身体を譲ろうとするなら貰っちまおうと思ったが……どうやらその心配はなかったようだな。さすがはおれの息子だ』
能力者の心身が能力に追いついた時に起こるのが覚醒。そして覇気も同様だ。肉体の強さはもちろん、精神の強さがそのまま覇気や能力の練度に繋がる。それを伝えるためにロックスは発破をかけたのだ。
『Dは必ずお前に数奇な運命を与える。だがな、そんなものは気にしなくていい。おれもアイツらもとっくの昔にくたばった。死人に口なし、お前はお前のやりたいようにやれ。そうすりゃ悪魔の実も必ずお前に力を与えるだろうぜ。なんせあの悪魔の実は能力者の理想を叶える代物だ。おれが望んだのは世界の王だったが……お前はなんだ? 女になりたかったのか? だとしたら失敗だな』
「……さァね」
そうやって受け流すが、自分が何を望んでいたのかミズキ自身が一番よくわかっている。ミズキは愛して欲しかったのだ。誰でもいい、牢屋の中に閉じ込められているだけの自分をただ愛して欲しかった。その想いの結果が今のこの姿だ。そう願った結果散々酷い目にあってきたのは皮肉な話だが、そのおかげで今の自分があると思うとそれらも全て過去の話だと流すことが出来る。
「……お礼は言わないよ。そこで大人しくバギーが王になるのを見てて」
『ジババババ! 生意気だな! ああ、見せてもらうぜ! いい退屈しのぎになりそうだ!』
その言葉を最後にミズキの視界からロックスの姿は消え、声が聞こえることもなくなった。そして彼の意識は現実に戻される。暗い穴の底に落ちる身体に力を入れ、翼をはためかせ光が見える方へと飛んでいくのだった。
「……終わったのか? カタクリ兄さん」
「……いいや、まだだ……来るぞ……!」
「!!?」
スムージーの問いかけにカタクリはややあって答える。その瞬間、穴の中から影が猛スピードで飛び出してきた。それはビッグ・マムに向けて突っ込んでいき、覇気を込めた蹴りを彼女に打ち付ける。
「ハ〜ハハハ! やっぱり生きてたね! コロコロと姿を変えやがって!」
武装色を纏わせた腕でそれを防御してビッグ・マムは笑う。彼女が言うようにミズキはまた姿が変化していた。真っ黒だった髪は元のピンク色に変化し淡いピンクと明るいピンクのグラデーションに、身長もやや伸びており翼も大きく、薄紫に変化している。そしてその瞳の色は、赤と青のオッドアイとなっていた。
「あはは♪ 安心してよ、これで最後だから!! 決着つけよう!!」
覇王色の激突は天を、大地を割る。どちらも退くことは無い覇気の激突はホールケーキアイランド全土を揺らし、最後の決戦を知らせる開戦の合図となった。