「いつまで続くんだ……この地響きは……!?」
「今日はクラッカー様の結婚式じゃなかったのか……!?」
「ママが暴れてるって!? こんなに長引くなんて……相手は一体誰なんだ!?」
ホールケーキアイランドの首都、スイートシティ。そこに住む住民達は混乱の最中にいた。まるで天災かのように続く地響きで建物は倒壊し、各所で怪我人が続出している。しかしその揺れは自然災害などではない、既に半日以上続いている人間同士の戦いによる二次災害だ。
「全住民に告ぐ! ここももう危ない、今すぐ街から避難せよ! ママの戦闘範囲から少しでも逃れるんだ!」
「そ、そんな……この街は一体どうなるんだ……!」
「ママにそこまで張り合うなんて……どれだけ強い相手なんだ……」
ビッグ・マム海賊団の兵士が住民達に避難命令を宣告するために街を駆け回る。ビッグ・マムの名に守られていた住民達は未だ経験したことない自体に困惑し、不安を強める。
そしてその元凶である二人の戦いは、人智を超える域に到達していた。
「オアアアアア!!」
「ハアアアアア!!」
空中で剣をぶつけ合うミズキとビッグ・マム。その一撃全てが必殺級、衝突する度に覇王色の覇気を周囲に撒き散らし、衝撃波が地面を削り大地を揺らす。このような激しい戦いを半日以上も続けているのだ。周辺の大地は軒並み抉り取られ既に原型はなかった。
「カタクリ兄さん! このままではスイートシティどころか島ごと崩壊してしまうぞ!」
「わかっている……! だがママを止めるのは不可能だ……ママと互角に戦う“宵魔女”ももはやおれ達の手に負える相手ではない……!」
崩壊していく島を想像して、最高幹部“3将星”であるスムージーすら冷や汗を流す。シャーロット家の最高傑作と称されるカタクリですら止められない怪物同士の戦いは激しさを増し、誰にも邪魔出来ない領域まで突入していた。
「ハ〜ハハハ! 本気を出すのなんて何年ぶりだろうねェ! 楽しくなってきたよ!」
「ボクもだよ! だけどそろそろ終わりにしよう!」
互いに笑い合い、得物をぶつけ合う。海賊同士の戦い、命を懸けた戦闘であることは間違いないが、それでもこの戦いは彼らにとって楽しいものであった。自身に肉薄する者など久しいビッグ・マムにとってミズキは何年ぶりかの本気を出せる相手だった。
「
「ッッ……!!」
ナポレオン、プロメテウス、ヘラが融合した光の巨剣。それによって繰り出される上段の斬撃をミズキはバリアで受け止める。しかし受け止めること自体は出来るものの防ぎきることなど不可能。故にミズキはバリアが破壊される前に時間を止め、ビッグ・マムの背後に回りこんだ。
「
ビッグ・マムの背後から彼女を狙い定め、無数の光の玉を出現させる。それら一つ一つが超高温の熱と破壊力を持つ必殺の一撃だ。
「
それらを全てビッグ・マムに投げつける。鋼鉄すら凌ぐ硬さを誇る彼女の肉体を貫通し、光の玉は地面に着弾して爆発を起こした。
「ガ……ッッ!!」
ビッグ・マムといえど無視出来ないダメージを受ければ怯み、嗚咽を漏らす。
「ハァ…… ハァ……お前の父親、ロックスはロクでなしだが強かった! お前も世界の王を目指すのか!?」
「ゼェ……そんなのに興味はないね! ボクはバギーを海賊王にする! そのために……まずは君を倒す!」
「ッッ……やれんのかい!? お前に! おれァ四皇“ビッグ・マム”だぞ!」
既に両者の体力は限界に近い、故にビッグ・マムは決着をつけるべく大技を放とうとする。ミズキとの戦いは楽しい時間ではあったが、楽しいことは一瞬で終わるものだ。
「だから倒すんだよ! 四皇を超えるのが海賊王への第一歩だからね!」
それにミズキも応えようとする。決着は彼も望むところ、ここでビッグ・マムを打ち倒し王座への道を開ける。その覚悟で最後の一撃を繰り出そうとする。
「
「!!!」
四皇ビッグ・マム。ロックスの時代から何十年と海に君臨しロジャー、白ひげ、金獅子と伝説の海賊相手に互角以上の勝負を繰り広げてきたその姿はまさしく怪物。故に、それを倒すことが出来れば海賊王に大きく近づくことだろう。
鳴光剣から放たれたヘラとプロメテウスが直接ミズキに襲いかかり、激しい熱と電圧で全てを焦がし尽くさんとする。その破壊力に絶命は確実かと思われた。
しかし──
「ハァ……ハァ……バギーは……!」
「おめェ……まだ立ち上がるのかい!?」
「海賊王になる男だ!」
それでもミズキは立ち上がった。それは
「
黒い炎が烈火の如く放たれ、ビッグ・マムの肉体を包み込む。島を包み込む程の大轟音と共に爆発が起こり、焼き焦がされたビッグ・マムは膝をつき苦しそうに呻き声を上げる。そしてそのまま白目を剥き、地面に崩れた。
「ハァ……ハァ……」
ビッグ・マムが倒れるのを見たミズキも、体力の限界を越えた戦いにとうとう力尽き意識を失って仰向けに倒れる。ビッグ・マムVSミズキ、両者の戦いは痛み分けという形で決着となった。
♦♦♦♦♦
「お、おい……どうなったんだ?」
島全体を揺らしていた地響きが収まり、今度は静寂が訪れていた。ホールケーキ
「ぐッッ……お兄様……!」
「おい! 大人しくしていろ!」
海楼石の鎖で自由を奪われ、オーブンに捕らわれているルナリアが拘束から抜け出そうと暴れるが、力が抜けている状態ではどうにも出来ずにオーブンに殴られ痛みに悶えた。
「クソ……モンドールがいれば本の中に閉じ込めてしまいだが……“宵魔女”め……!」
ミズキとビッグ・マムの覇王色の覇気によって気絶した者の中にはブクブクの実の能力者であるモンドールもおり、彼が不在であることでルナリアを本の中に閉じ込めることが出来なくなっていた。
「……!! スムージー! ママと“宵魔女”はどうなった!?」
「……ペロス兄か……ママはあそこだ……しかし……」
「!!!」
ペロスペローの問いかけにスムージーは煮え切らない様子で視線をずらした。ペロスペロー含めその場にいた皆がスムージーの視線の先に目をやり、そして言葉を失った。
「ハ〜ハハハママママ!! なんだいお前、案外話がわかるじゃねェか!!」
「あはは♪ そっちこそね!! このチョコのお酒もお菓子も美味しいし!!」
彼らの目に入ったのはどこから持ってきたのかお菓子と酒を口に運びながら仲良さげに盛り上がるビッグ・マムとミズキの姿だった。
「おいカタクリ! これはどういう状況だ!?」
「おれに聞くなペロス兄……! 戦闘が終わったと思ったらこの騒ぎ……ママに直接聞いてみろ……!」
「ッッ……! ママ、どういうことだ!?」
頭を抱えて投げやりに答えるカタクリの様子にペロスペローは反論することが出来なかった。いつもは真面目で寡黙な男なだけに尚更だ。故にお菓子を楽しむ母に口を挟むのは少し抵抗はあったが、ペロスペローはビッグ・マムに直接尋ねることにした。
「ハ〜ハハハ! ペロスペロー、見てみろ。ミズキが持ってきてくれたこのおしるこ♡こいつは絶品だ!」
「お、おしるこ? ……そうか……しかしママ、それだけであいつのやったことを許すのか?」
ビッグ・マムが夢中で食べるそのおしるこという食べ物をペロスペローは知らないが、恐らく甘味の部類だろうと推測する。甘いものが大好きなビッグ・マムを甘味で懐柔したのだろうと。だがそれだけでミズキのやった所業を許すとも思えないのだが。
「ママママ! もちろんそれだけじゃないさ、これを見てみな」
「……!? これは……まさか……!?」
ビッグ・マムが見せてきたのは一枚の紙だ。しかし普通の紙に比べてはるかに大きく、ペロスペローの身長程の大きさがあった。そしてそこにはなにやら文字が書かれていた。その文字はペロスペローも見覚えのあるものだった。
「そうさ、これはロード
『え……えええええええ!!?』
ビッグ・マムが見せてきたそれはロード歴史の本文、その写し。最後の島、ラフテルに行き着くために必要不可欠な書物であり、世界中の海賊達が喉から手が出る程に欲しがる代物だった。
「マ〜ママママ! こんな手土産があるなら最初に言ってくれればよかったのにねェ」
「あはは♪ ごめんね、もしもの時のとっておきだったんだけど……まァこうなっちゃったらしょうがないよね」
ミズキとしても写しを渡すのは不本意であったが、状況的に仕方ないだろう。たとえビッグ・マムと引き分けたとしてもミズキ自身も力尽きて将星始め実力者に囲まれてはどうしようもない。故にビッグ・マムを懐柔し、許しを得るしかないのだ。
「おいオーブン! その娘を解放してやりな」
「……!? しかし……いいのか?」
「ああ、ルナーリア族を手放すのは惜しいが……それ以上の土産を貰っちまったからねェ」
オーブンにルナリアを放してやるように言うと、彼は意外そうに問い返した。ビッグ・マムが珍しい生物、しかも長年欲していたルナーリア族を手放すとは思わなかった。つまりそれほどまでにロード歴史の本文は価値があるということだ。
「……わかった」
渋々ながらルナリアの海楼石の錠を開け、彼女を自由にする。
「だ、だがママ! その写しが本物とも限らねェだろう! 偽物を掴まされてる可能性も十分にある! おれだったらそうするぜ!」
ペロスペローの懸念も尤もだ。海賊王を目指す上で必須な写しをそう簡単に敵に渡すものなのだろうか? 偽物で誤魔化そうとするのが普通であり、自分がミズキの立場だったらそうするだろう。
「ちょっと! 変な疑いかけないでよね! 正真正銘ロード歴史の本文の写しだよ!」
「それを証明する手段がねェって言ってんだ! お前は黙ってろ“宵魔女”!」
「ママママ! 心配すんなペロスペロー、この写しは本物さ! おれが何年海賊をやってると思ってんだ?」
半世紀近く海賊をやっているおかげでビッグ・マムの観察眼はかなりのものだ。嘘をつかれてもすぐにわかる。故にミズキの言葉を本当だと考え、その上で釘を刺した。
「だが……仮に偽物だったとしたら……殺さなくちゃねェ……!」
「!!!」
和やかな雰囲気が一変、緊張感が走る。確かに今は仲良くやっているかもしれないが、仮に歴史の本文が偽物だとしたらそれも終わり。容赦なくこの世から消し去ると断言して見せた。ミズキはビッグ・マムと互角に戦えてはいたが、未だバギー海賊団とビッグ・マム海賊団では戦力差が大きい。将星などの幹部を倒せるほどの戦力をバギー海賊団が所有していない以上、戦闘になれば敗北は必至だ。
「もう、本物だって言ってるでしょ! なんでそんなに疑うのさ! リンリンの馬鹿!」
「ちょ……!? おいやめろお前……! ママを怒らせんな……!」
「ハァ……誰ですか、お兄様にお酒を飲ませたのは……」
ビッグ・マムの頭をバンバンと叩くミズキにビッグ・マムの子供達、主にペロスペローを筆頭に上の子供達は顔を青ざめさせ慌てた。ルナリアは頭に手を当てミズキに酒を飲ませたのは誰だと呆れている。ミズキの酒癖の悪さはバギー海賊団内では常識であり、彼に酒を飲ませるなと暗黙の了解で決まっているが、そのことをビッグ・マムは知る由もない。
「ハ〜ハハハ! 別に構いやしねェよ! 疑って悪かったねェ……本物ならいいんだ。筋さえ通してくれればおれ程話のわかる女はそうそういねェよ」
「……だがママ、奴らを生かしておく理由はねェぜ……」
ペロスペローがビッグ・マムにだけ聞こえるように耳打ちする。それに対しビッグ・マムは僅かに口元を緩ませてこちらもペロスペローにだけ聞こえるように答えた。
「ハハハ……考えてみな、“千両道化”は元ロジャー海賊団だ。ロード歴史の本文の情報を持ってても不思議じゃねェ、在り処がわからねェ残り二つの石の場所もな」
「……!? ……そうか……奴らが歴史の本文を集めたところを奪うって訳か……ペロリン♪」
「ああ……だから今はせいぜい泳がせてやりな、最後に勝つのはおれ達だ……!」
そう言ってビッグ・マムはほくそ笑む。ミズキから貰ったお菓子は美味だったし、彼とも気が合うのは本当だ。しかしそれはそれだ、海賊の世界はなれ合いなどという生ぬるい考えでは生きていけない。今は生かし、泳がせてやる。だが然るべき時が来れば皆殺しにし、奪うべき物を奪ってやるとビッグ・マムは確かに企むのだった。
しかし、なにもそのような考えを持っているのは彼女だけではない。
「……お兄様、ロード歴史の本文の写しを渡して本当によかったのですか? 複製品とはいえ、書かれている内容は本物なのでしょう?」
「うん、大丈夫だよ。ビッグ・マムに写しを渡しても四つの石を全部集められることはないからね」
「……? そうですか、それならいいのですが」
ビッグ・マムが石を集めきることはないと言いきるミズキにルナリアは疑問符を浮かべる。何故そのように言うことが出来るかはわからないが、ミズキが言うならそうなのだろうと納得した。
彼がそう言いきることが出来るのは彼が持つ情報故だ。ミズキの知る原作ではビッグ・マムは十年以上経っても所持している赤い石は一つだけだった。つまりここで写しを渡したとしても残りの二つを集めきることはなく、在処を知ることもないのだ。だからこそ、ミズキはなんの迷いもなく写しを渡すことが出来た。
「それに……ビッグ・マムの持ってるロード歴史の本文の写しはもう手に入れてあるからね」
「……!? いつの間に……!?」
「ふふ、最初にホールケーキ城に潜入した時に使い魔を忍ばせておいたんだ。だから心配しなくても、最後に勝つのはボク達だよ!」
表向きは仲良くするが裏ではお互いにお互いを利用しようと画策する。この騙し合いこそが海賊の世界であり、裏社会の生き方だ。それを強く理解し、ミズキは笑みを浮かべた。
♦♦♦♦♦
数週間後、
強い風の吹くその地は、一般には知られていないがとある組織の本拠地であった。その組織は反政府主義の者達が多く集まっている反政府組織であり、奴隷の解放、天竜人の打倒を主な目標と定め活動していた。
組織の名は“革命軍”。そのトップである総司令官の男、世界最悪の犯罪者と呼ばれるモンキー・D・ドラゴンはなにやら神妙な面持ちで新聞の一面を眺めていた。
「どうしたのドラゴン、同じ記事をずっと眺めているようだけど……なにか気になることでもあるのかしら?」
「……イワか……いや、少々大きな事件が起こっているようでな。おれ達の活動にも支障をきたすかもしれない」
ドラゴンに問いかけたのは常人より遥かに大きな顔面が特徴のオカマ、幹部のエンポリオ・イワンコフだ。彼は強引に顔面を潜り込ませてドラゴンが見ていた記事に目をやる。そこにはこう書かれていた。
──ホールケーキアイランドに大打撃! バギー海賊団が四皇“ビッグ・マム”に牙を剥く!
内容を要約するとバギー海賊団副船長、宵魔女がビッグ・マム海賊団の本拠地であるホールケーキアイランドで船長ビッグ・マムと激突。互角に渡り合い、勝負はつかずにその場はひとまず和解したらしい。
「あの“ビッグ・マム”に喧嘩を売るなんて……噂通りのイカレ具合ダブルね」
「そのようだ……この一件でバギー海賊団の評判はかなり上振れた。武器や悪魔の実の取引も活発になるだろう。……それともう一つ、これを見てみろ」
「……!? ……これはまた……負けず劣らずの大事件……!」
──赤髪海賊団がエッドウォー沖にて海軍本部大将二名率いる大艦隊と交戦! 海軍側に被害者多数!
ドラゴンが見せたもう一つの記事にイワンコフは目を見開く。かつてロジャー海賊団と金獅子海賊団が大激闘を繰り広げたエッドウォーの海戦。その戦場となったエッドウォー沖にて赤髪海賊団と海軍大将二名が率いる海軍の艦隊が激突。大将一名を撃破しもう一人にも重傷を負わせ艦隊もほぼ壊滅状態まで追い込んだ。赤髪海賊団の勝利で戦いの幕を閉じたという。
「海軍に四皇……三大勢力の二つに少なくない打撃を与えたとなれば世界の情勢もまた不安定になるだろう。近々世界に散らばる幹部達を集める必要がありそうだ」
「そうね……二年前のマリージョア襲撃事件から政府もピリピリしてる。ヴァターシ達からしてもやりづらいったらありゃしない。意見のすり合わせは必要だッチャブル」
世界各地で自由のために戦う革命軍にとって世界の情勢は非常に重要だ。故に幹部達の意見を互いに確認し、話し合う必要がある。
「新世界の情勢が不安定になれば違法な取引も増える。思わぬ大物が出てくることもあるだろう、各自十分に注意を払うように伝えておいてくれ」
「ええ、了解よ」
その会話で最後、ドラゴンは無言で何かを考え始めてしまった。今回の一件でバギー海賊団と赤髪海賊団はまた勢力を拡大した。近々、この二つの海賊団で四皇の座をかけて争うことになるかもしれない。そうなればさらに世界の情勢は不安定になる。恐らくそのように考えているのだろうとイワンコフは当たりをつけた。付き合いの長いイワンコフには大体何を考えているか察しはつくが、彼の性格上長い沈黙はあまり好ましくなかった。そのため何か話題を考え、そして初めに思いついたものを口にする。
「そういえば……ガープが今朝出航したわよ。孫に会いに行くですって、まったく呑気なものダッキャブルね」
「そうか……親父も色々気苦労があるだろう。多少の休暇は必要だ」
「あのガープに気苦労なんてあるとは思えないけど……まァいいわ。それより、ヴァナタと海軍の英雄ガープが親子だと知った時は驚いたわ。息子がいるのにはもっと驚いたけどね。ヴァナタ、女に興味あったのね」
「おれとて人間だ、息子くらいいてもおかしくないだろう? あまり素性の詮索はするな、イワ」
「あら、失礼。でも残念だわ。ヴァナタはてっきりそっちの方に興味があると思っていたから……ヴァターシ好みのニューカマーにしてあげようと思っていたのに……」
同胞の身震いするような言葉にドラゴンは珍しく顔を青くし、息子がいて良かったと心の底から安堵するのだった。