新世界のとある島。
その島のとある店でオークションが開かれていた。闇世界の住民達が参加する闇取引。奴隷やドラッグ、武器などあらゆる物が出品されるそのオークションに海賊を始めとした無法者達が次々と集まっていた。
その店を裏で密かに運営するのは近年名を上げてきた海賊、ドンキホーテファミリー。
そして噂によれば出品される商品の中で一番の目玉は悪魔の実。それも一攫千金を狙えると評判のゴルゴルの実だ。そんな珍品が出品されるとなれば普段より客が集まるのも必然であり、オークション会場は熱狂的な盛り上がりを見せていた。
──しかし
「おい……なんか暑くねェか……?」
「確かに……!? なんだあの煙……!?」
「か、火事だ〜〜!? 逃げろ〜〜!?」
会場に火の手が上がり、すぐさま建物全体に燃え移る。すぐにドンキホーテファミリーはゴルゴルの実を持って避難しようとした。
「……!? ゴルゴルの実が……無い……!?」
火事の騒ぎに乗じてゴルゴルの実は何者かに盗まれてしまった。その報告はすぐにファミリーのボスである“天夜叉”ドンキホーテ・ドフラミンゴに伝わり、犯人の捜索が行われた。
「……!? まさか……!?」
しかし犯人の正体を聞いて、ドフラミンゴは冷や汗を流した。なぜなら犯人はあのバギー海賊団の船員だったからだ。四皇にも平気で喧嘩を売り、副船長は先日あのビッグ・マムと互角の戦いをしたというイカれた海賊団。
それほどの大物に奪われるとは想定していなかった。例えばそこらの海賊であればドンキホーテファミリーの敵ではない。刺客を送り込み、ゴルゴルの実を奪い返せばいいだけの話だ。しかしバギー海賊団に喧嘩を売り、もし戦争にでもなれば万が一にも勝ち目はない。いずれは彼らとも取引をしたいと考えていたし、ここで敵対するのはリスクが大きすぎる。
結局ドンキホーテファミリーはゴルゴルの実の確保を諦めた。いや、諦めざるを得なかったという方が正しいか。いくら彼らが名の知れた海賊だったとしても、新世界の怪物には敵わない。頭のいいドフラミンゴはそれを理解し、部下達にゴルゴルの実から手を引くように指示を出した。
無論彼の心の奥は怒りと屈辱で満ちている。本来客引きのために用意し、売る気すらなかった代物を奪われ諦めなければならない。この借りはいつか返すと、ドフラミンゴは心の奥底で誓うのだった。
♦♦♦♦♦
「ただいま戻りました。キャプテン・バギー、ミズキさん」
巨大なテントの中で跪き、テゾーロは目の前のステージ上のスポットライトに照らされた煌びやかな椅子に座る二人の男達に挨拶する。彼らこそがテゾーロが所属する海賊団の船長と副船長であり、そして人生の大恩人でもあった。
「ぎゃはははは! ご苦労だったなテゾーロ!」
「おかえり〜。成果はどうだった? 例の実は手に入ったの?」
「ええ、もちろん。こちらがドンキホーテファミリーが所有していた悪魔の実、ゴルゴルの実です」
周囲で盛り上がる船員達の騒ぎ声を聞きながら木製の宝箱を開き、中身を彼らに見せる。ドンキホーテファミリーから奪ってきた悪魔の実、ゴルゴルの実だ。どこからかオークションの情報を掴んできたミズキの指示により、テゾーロはオークションへと潜入。連れていった部下達を巧みに利用して悪魔の実を奪い去ったのだ。
「へえ……あのドンキホーテファミリーから奪ってくるなんてやるじゃん!」
「ああ、褒めてやる!」
「勿体なきお言葉……ありがとうございます」
テゾーロは頭を深く下げ、二人に感謝の意を示した。そして宝箱を前にやり、バギーに捧げようとする。
「よし、テゾーロ! その悪魔の実はお前が食え!」
「……!? しかし……よろしいのですか?」
「構わねェ! それはおめェの手柄だ! 能力を得る権利はおめェにある!」
「そうだね! テゾーロならゴルゴルの実の能力を活かせそうだし!」
ゴルゴルの実を食べていいというバギーの言葉に、テゾーロは思わず問い返した。無論許されるのならゴルゴルの実を食べ、その能力を自分のものにしたかった。彼にとって金は全てだ。金さえあれば全てを手に入れ、自分の思い通りに物事を進められる。そして金さえあれば、最愛の人を失うこともなかった。
だが今、彼はあくまでバギー海賊団の船員だ。たとえ自分で手に入れた悪魔の実だったとしても、一度は船長であるバギーに献上するのは当然。その上で彼が認めてもらえばいいのだが、それを決めるのはテゾーロではない。故に彼はその能力が自分の手に渡ることはないと思っていた。バギー海賊団にはヤマトやギオンといった能力を持たない強者が所属している。彼女らに能力を渡した方がいいとバギーは判断するだろう、少なくとも自分ならそう思うと彼は考えていたのだ。
「……わかりました……お二人の期待に応えられるよう、このゴルゴルの力でより一層活躍して見せます」
しかし他ならぬバギーとミズキは自分を認め、能力を得ることを許してくれた。そのことになんとも形容しがたい高揚感を覚え、テゾーロは迷うことなくその悪魔の実を口へと運んだ。
「フフフ……ハハハ……ついに手に入れたぞ……! これでもう……誰にも支配されることはない……!」
テゾーロは狂気的な笑みを浮かべ、その喜びを口にする。しかしその感情は、聞こえてきた泣き声で遮られることになった。
「オギャ〜〜!! ホギャ〜〜!!」
「おーおーどうした? 腹が減ったのか? それともオムツか?」
泣き出したのはバギーらが座っていた椅子の隣のゆりかごで眠っていた赤ん坊だった。テゾーロは任務達成の高揚感で気づいていなかったが、左右で青色とピンク色に分かれたなんとも珍しい髪色をした赤ん坊がゆりかごに寝かせられていた。
「失礼ですが……そちらの赤ん坊は?」
あまりに場違いなその存在に、テゾーロは思わずそう問いかけた。赤ん坊を抱きながらあやしているバギーはそれを聞くと自慢げに答えた。
「おう! こいつはおれ様の息子よ! どうだ? 可愛いだろう!」
「……!? キャプテン・バギーのお子様でしたか。それはそれは、おめでとうございます」
遠征に出ていたテゾーロは知らなかったが、その赤ん坊はどうやらバギーの息子なようだ。その事実に対してテゾーロは素直に驚くが、すぐに祝福の言葉を述べた。息子が出来たのは驚いたが、バギー程の人物なら別に子供がいてもおかしくはない。
それよりも気になるのは──
「ところでキャプテン・バギー……その子、母親は誰なんですか?」
「……! あー、それはだな」
誰もが気になるそれを騒いでいた船員のうちの一人が問いかけた。その問いにバギーはなにやら考え、迷う。そんなに答えにくい質問だったかと皆疑問に思うが、そこまで詮索するのも失礼なので黙ってバギーの答えを待った。そして一分程経ったところでバギーが口を開いた。
「母親っつーか……こいつを産んだのはミズキだ」
「はいはい! ボクが産みました!」
『は?』
言いづらそうにミズキを指差しバギーが答えると、ミズキは手を挙げて自慢げに宣言する。それを聞いた一同は言葉を失い、頭に疑問符を浮かべる。冷静なテゾーロでさえ間抜けな声を漏らす程だ。
ある者は純粋にバギーとミズキはそういう関係だったのかと驚き、ある者は生物的にありえないと頭を抱えて混乱するのだった。
♦♦♦♦♦
何の変哲もないその島に、一隻の海賊船が停泊していた。奴隷解放の英雄フィッシャー・タイガーが率いるタイヨウの海賊団の船だ。その船に乗る者達は誰もが人間にはない特徴を持っていた。ヒレがあったり肌の色が違ったり下半身が魚だったり。つまり彼らは皆魚人か人魚であった。
「ジンベエさん! 遊んで〜!」
「ハチさん! おれまた縄跳び上手くなったんだぜ!」
「ニュー〜〜、船の修理があるからまた今度な」
本来魚人や人魚は蔑まれ、見下されてきた種族だ。それは長い奴隷の歴史があった故、そして人間が彼らについて無知な故だった。しかしタイヨウの海賊団がこの島に停泊して約一年、子供達はすっかり彼らに懐き、大人達も彼らを信用し歓迎するようになった。
海軍の襲撃にあい船を破壊されたタイヨウの海賊団は何とかこの島に辿り着き、船の修理の間停泊することを願い出た。当初は島の人間は彼らが海賊であること、そして何より魚人であることから反対していたが、この島にはタイガーによってマリージョアから逃げてきた元奴隷が何人かいた。彼らの強い要望によって島に停泊する許可を得ることが出来たのだ。そして一年の間に島の人間達と交流することによって今ではすっかり馴染むことが出来ていた。
ある一人を除いて。
「……あ、あの……これ……お菓子」
「ああ? ……いらねェよ、失せろ人間!」
おそるおそる菓子を手渡してきた子供の手を払いのけ、アーロンは機嫌が悪そうに歩いていく。人一倍人間を嫌っている彼だけは島の人間に馴染むことはなかった。それでも子供達は彼にお菓子やおもちゃを持って行って仲良くなろうとしていたが、アーロンが心を開くことはなかった。
「ニュ〜〜……結局アーロンさんはあの調子か……」
「いや、そうでもねェさ。以前のあいつならあれだけしつこく話しかけりゃ手を上げてただろう。そうしねェのは少なからず心を開いてるからさ」
アーロンの様子にため息をつくハチに、人魚のアラディンがそう言った。確かに以前のアーロンならば子供だろうが人間は毛嫌いし、手を上げていても不思議ではなかった。しかし今は拒否こそすれど危害を加えることはなくなっていた。それはこの一年人間達と接し、アーロンの考えが少なからず変わったことの何よりの証拠だった。
そして更に二週間の時が経ち船の修理が完了、出航の日がやってきた。
着々と出航準備を進めている船の前に、タイガーに助けられた元奴隷の人間達、そして子供達が集まってきた。
「タイガーさんありがとう! あんたのおかげでおれ達は自由になれた!」
「あんた達のことは一生忘れねェよ!」
「ハチさん! また遊んでね〜〜!」
手を振り感謝の言葉を述べる人間達に、タイヨウの海賊団の面々に自然と笑みが零れた。そして彼らもまた手を振り、島に別れの言葉を送った。
「あ、アーロンさん……これ……最後だから……」
一年間アーロンに声をかけ続けた少女がお菓子の詰められた袋を彼に差し出した。アーロンは彼女に目線を向けることはなかったがそのお菓子を受け取り
「……ありがとよ」
と一言だけ呟き少女の頭に手を置いた。緊張した様子だった少女の顔は一気に明るくなり、船に乗り込むアーロンにいつまでも手を振っていた。
「……素直じゃないのォ……」
「うるせェな、アニキにだけは言われたくねェ」
ジンベエに茶化されたアーロンがそう言って悪態をつく。その様子を見ていたタイガーの心は今までよりも明るかった。仲間達には話していないが、彼には誰にも知られたくない暗い過去がある。トラウマとも言えるそれはなくならないが、これからの自分達の活動によって変えていけるかもしれない。魚人島で人間との融和、共存を訴えるオトヒメ王妃の考えも今なら心から理解出来る。少なくとも、あの島の人間達との交流でタイガーはそう信じたいと思った。その希望を胸に、彼らは次の島へと航海を続けるつもりだった。
―しかし
「……!? タイのお頭! 前方から海軍の軍艦が!!」
「……なんだと!?」
出航から数分、島の影も小さくなってきた頃にその声は響いた。タイガーが確認すると確かに前方から軍艦が五隻、真っ直ぐにこちらに向かってきていた。
「クソ……なんでおれ達の居場所が……!?」
「考えるのは後だ! 逃げきれる距離じゃない! 全員戦闘準備!」
逃げきれないと判断したタイガーの指示により魚人達は次々と海へ飛び込んでいく。元々人間の十倍の腕力を持つ魚人族だが水中では更にその真価が発揮される。水中戦でのみ考えれば彼らの実力は四皇の海賊団にすら引けを取らないとまで噂される。故に彼らが水中戦を挑むのは必然だ。
「
しかしそれは叶わなかった。突如として海が凍りつき、周囲は氷の大陸へと変化してしまう。
「なんだこれ!? 海が凍って……!?」
「……!? あいつの仕業か……!!」
軍艦の一隻から海に手を入れているサングラスをかけた男。海軍本部中将クザン。ヒエヒエの実の能力者であり、次期大将候補と名高い男がその能力で海を氷に変え、魚人達の戦場を奪っていた。
「水中から攻撃されると分が悪いからな……悪いが、足場作らせてもらうよ」
「クッッ……これじゃ海に入れねェ……!」
自分達の得意なフィールドを封じられて魚人達は立ち往生する。そうしているうちに海兵が氷の大陸へと降り、タイヨウの海賊団の船向けて進軍してきていた。
「わしが氷を砕く! お前達は海兵を止めておけ!」
船から飛び出した巨漢。タイヨウの海賊団の海賊団のNo.2である海侠のジンベエが拳を突き出し氷を割ろうとする。確かに彼の腕力に魚人空手が加われば分厚い氷をも砕くことが可能だろう。しかし、海軍側はそれを許してくれない。クザンとはまた違う怪物、大将候補が海軍側にはもう一人いた。
「
「……あつッッ……!?」
しかしその行動は突如発生した光の玉、レーザーとも言うべき攻撃によって阻止される。幾つかを身体に喰らいジンベエは氷の上を転がった。
「お〜〜、これがタイヨウの海賊団かい……確かに魚人だらけ、怖いねェ〜〜!」
海軍本部中将の一人、ピカピカの実の能力者であるボルサリーノ。だらけた態度とは裏腹にその実力は折り紙付きだ。
「大人しく降伏しなさいよォ……水中ならともかく、陸上でわっしらに勝てる訳ないでしょうがァ」
水中ならいざ知らず、陸上で大将に匹敵する二人を相手に出来る戦力はタイヨウの海賊団にはない。加えて軍艦が五隻大砲でこちらを狙っており、更にボルサリーノとクザン程ではないが、十分な実力を兼ね備えた将校が数名軍艦で待機している。タイヨウの海賊団にはもはや勝ち目などなかった。
「……ジンベエ、皆を連れて逃げろ! 殿はおれが受け持つ……!」
「しかし……!? タイのお頭──!」
「これは船長命令だ……! 早く行け!!」
戦力差をいち早く理解したタイガーは少しでも多くの仲間達を逃がすため、一人残り海軍を足止めしようとする。タイヨウの海賊団には元奴隷の者も多く、仮に捕まってしまえばまたマリージョアに逆戻りだろう。
それだけは避けたかった。その苦しみを誰より理解しているからこそ、タイガーは己を犠牲にしてでも仲間達を逃がす覚悟を決めた。
「……ッッ……! 氷の届いていない箇所まで走れ! 海に入ってしまえば逃げきれる!」
「ふざけんなアニキ! 大アニキを見捨てて逃げるってのか!?」
「お頭の覚悟を無駄にするなと言うとるんじゃ……!! お前も早く逃げろアーロン!」
ジンベエの言葉を受け、タイヨウの海賊団は戸惑いながらも氷の範囲から逃げるべく走り出した。最後まで抵抗したアーロンも半ば強引にジンベエに連れられ戦線を離脱した。
「あらら……逃げられちまうな。隊を複数に分けてタイヨウの海賊団を追いな! 賞金首には注意しなさいよ!」
『はっ!』
クザンの指示により海兵達はいくつかの隊に分かれ、それらを将校が率いてタイヨウの海賊団を追跡する。そうしてその場に残されたのはタイガー、そしてクザンとボルサリーノのみとなった。
「仲間を逃がしてどういうつもりだい? わっしらを止めたとしてもどのみちタイヨウの海賊団は全員逮捕だよォ〜〜!」
「あいつらを舐めるな。お前達をおれが止めさえすれば、あいつらは逃げきれる……!」
「命を捨てる覚悟アリ……か。こりゃあ楽な戦いにはなりそうにないな」
タイガーの覚悟を目の当たりにし、クザンは僅かに警戒を強めた。敵は二人とも
♦♦♦♦♦
「ハァ……ハァ……お頭……!!」
「振り向くな! お頭がそう簡単に死ぬはずねェ……!」
タイヨウの海賊団は氷の大地を走り抜け、なんとか氷が届いていない範囲まで辿り着くことが出来ていた。しかしそこで終わるはずがない。海軍の追っ手もまた、すぐそこまで迫っていた。
「タイヨウの海賊団を逃がすな! 全員捕らえろ!」
海兵達の銃撃により一人、また一人と倒れていく。だがタイヨウの海賊団もやられっぱなしではない、クザンとボルサリーノという怪物がタイガーに止められているならば、彼らも海兵に負ける道理はない。
「魚人空手……五千枚瓦正拳!!!」
『ぐァァァァ……!!!?』
ジンベエの正拳突きが海兵達をまとめてなぎ倒す。タイガーだけではない、彼の実力もまた並の海兵では相手にならない程高かった。
「!!?」
「お前がジンベエだな……?」
しかし一人ジンベエに肉薄する人物がいた。長細い頭が特徴のストロベリー少将だ。彼はジンベエと拳をぶつけ合い、激しい戦いを繰り広げた。
「お前の首もいただくぞ!!」
「取れるもんなら取ってみィ!!」
その戦いはどんどん激しさを増し、他の魚人や海兵は近づけない。しかし最初は互角かと思われた両者だが、徐々にジンベエがストロベリーを押し始めた。
「なぜわしらがあの島にいるとわかった!?」
「……お前達が停泊しているとあの島の者から通報があった。島民達もこの騒ぎのことは黙認してくれている。天竜人の所有物だった者達を見逃すという条件でな」
「……! 貴様らはどこまでも!!」
ストロベリーの言葉にジンベエは言葉を失う。そして海軍の卑劣なやり方に対する怒りが込み上げ、拳に込める力を強くした。
「!!?」
「許さんぞ海軍!!」
とうとうジンベエの拳がストロベリーを直撃し、彼は血反吐を吐いて氷の上を何度も滑り転がった。吐息を荒くしたジンベエはその行く末を見届けた直後、その視界に海軍の軍艦が映った。
「……軍艦!? そうか、氷のない箇所を回りこんできおったか……!」
ジンベエは状況を冷静に考察した。魚人族とはいえ、船もなしに偉大なる航路の次の島に辿り着くのは不可能だ。逃げるためには船を一隻奪う必要がある。幸い怪物中将二名はタイガーが食い止めているので、あの軍艦に乗っている海兵に実力者は少ないはずだ。それならば、海中からの攻撃で十分に奪うことが出来るだろう。
「アーロン! 軍艦を一隻奪って撤退しろ! わしはタイのお頭を連れ戻す!」
「おい、アニキ!!」
それよりも今心配なのはタイガーの安否だ。彼の実力はジンベエが誰よりも知っているが、それでも大将に匹敵する怪物を二人相手にして無事でいられるとは思えない。ジンベエはアーロンの制止も聞かずに来た道を引き返し、タイガーの無事を確認しに行く。途中立ち塞がる海兵を退け、ジンベエは最初の地点へと戻ってきた。そこで彼はある光景を見た。
「ハァ……ハァ……ぜェ……」
「タイの……お頭……」
大量の血を流し、身体の一部が氷漬けになり、またいくつかの身体を貫通する穴が開いた痛々しい姿のタイガーがジンベエの視界に飛び込んできた。
「まだ立つのかい〜〜? しぶといねェ〜〜……わっしらに勝てる理由はないでしょうに」
「さすがは奴隷解放の英雄と言ったところか。いたぶる趣味はねェんだが、しかたねェよな」
とっくに死んでもおかしくないような重傷を負いながらも、タイガーは立ち上がった。身体はとっくに死んでいるはずだが、その瞳に映る意志は未だ生きている。その執念は海兵である彼らですら賞賛してしまうものだった。
「あんたを殺すことは許可されてないからねェ〜〜。少しばかり眠っててもらうよォ〜〜!」
「……やめろ貴様らァァァ!!!」
「……お前は……“海侠のジンベエ”か……」
タイガーの意識を奪おうと指先に光を溜めるボルサリーノにジンベエが殴りかかろうとする。しかしその間にクザンが立ち塞がり、ジンベエの進行を許さない。
「お頭ァァァァァァ!!!」
眩い光が辺りを包み込み、タイガーの身体を光線が突き抜けた。
──と思われた。
光が収まるとそこには変わらぬタイガーの姿と、もう一人別の人物の姿があった。
「……あらら、こりゃあえれェ大物が出てきたな」
「なぜこんな場所にいるんだい? 面倒だねェ〜〜!」
「……あいつは……!?」
黄猿のレーザーを受け止め、タイガーを救った人物。それはもう一人の奴隷解放の英雄だった。少女のような見た目とは裏腹にその悪名は全世界に轟く新世界の大物海賊。バギー海賊団の副船長であり、最近ではとある男との血縁関係が政府の一部で話題になった。
「バギー海賊団副船長……“宵魔女ミズキ”……!」
冷や汗を流しながらクザンがその名を口にする。大将候補と言われた彼ですら、油断出来ない強敵。最近ではあの四皇ビッグ・マムと渡り合ったという程だ。
「お前……なぜここに……?」
「あはは♪
ミズキがパチンと指を鳴らすと、タイガーの姿が消えジンベエの目の前に瞬間移動した。そして彼らの方を振り向き、手をヒラヒラさせながら言う。
「一緒にマリージョアを襲撃した仲でしょ? この二人はボクが止めておいてあげるから逃げていいよ」
それを聞いたジンベエはタイガーを抱え、一目散にそこから逃げ出した。だがそれを怪物中将二人が黙って見ているはずがない。
「行かせる訳ないでしょうがァ〜〜!」
「!!!」
ボルサリーノが再び指に光を溜め、タイガーを抱えて走るジンベエを狙い撃ちしようとする。しかしすぐさまミズキが短剣で彼の身体を切り裂き、それを阻止した。武装色の覇気を込めてはいたが、ボルサリーノが血を吐くことはない。
「ふ〜ん、思ったよりやるじゃん。伊達に大将候補なんて言われてないね」
「勘弁してくれませんかァ〜〜? あんたとタイガーを捕えないとマリージョアの天竜人達がうるさくてねェ〜〜!」
「あんなゴミクズの言うこと聞かないといけないなんて大変だね。ボクだったら耐えられないけどなァ……!?」
ミズキの言葉を遮るように、今度は氷で出来た刃が彼を襲った。それを全て回避し、ミズキはその攻撃の元凶を見る。
「あんたには色々思うところもあるが……今はそこ、どいてもらうよ」
「思うとこ……ね。それってガープのことかな?」
「……答える必要はねェだろう」
実質肯定とも取れるクザンの返答にミズキは薄く笑みを浮かべる。ガープが海軍を引退した実質的な要因はミズキにある。ガープを尊敬してやまなかったクザンとしても色々思うところはあるのだが、今はそれよりも任務が優先だ。
「……さすがに大将級二人を相手にするのに……このままじゃ厳しいよね」
ミズキは強い。しかしそれでも今の状態で大将と同等の実力を持つ二人を同時に相手するのは難しい。故に彼はその変身を解放した。四皇とも渡り合ったその姿を。
「……変身した……!?」
「
「あはは♪ さァ、ショータイムを始めようか!!」