平和の象徴、
「おい“鷹の目”! お前なんでこんなところにいるんだよ!?」
「ただの暇つぶしだ……お前達が揃ってこの東の海に向かっているという情報を得たのでな」
「情報を得たって……それだけで追いかけてきたのか? お前相当暇なんだな」
「フン、慌ただしく海を行き来するお前達が忙しないだけだろう」
「こら〜!! ボクらを無視するな!!」
三つの船の上で会話をする三人の海賊達。その誰もが東の海には本来いてはならない程の実力者達だ。その有り得ない光景に固唾を飲むのは護送任務の最中だった男、フーズ・フー。予想外の顔ぶれに面食らう彼はただただ呆然とするしかなかった。
「おいおい……どうなってんだよ」
「フーズ・フーさん! 赤髪海賊団にバギー海賊団、それにあれは七武海の“鷹の目のミホーク”です」
「うるせェ! そんなの見りゃわかるんだよ!」
報告をしに来た部下に思わず強い口調で罵倒するように答える。こんな事態は予想外だ。
東の海は全ての海の中でも最弱と言われる場所だ。海賊もレベルが低く、たとえ襲撃を受けたとしてもCP9であるフーズ・フーなら容易に返り討ちに出来る。だが目の前で言い合いを続ける海賊達は文字通り桁違いだ。
「もう! とにかくゴムゴムの実はボクらが貰うからね!」
バギー海賊団副船長“宵魔女ミズキ”懸賞金20億6900万ベリー
「……!? お前らもそれが狙いか……そういうことなら手加減は出来ないな……!」
赤髪海賊団船長“赤髪のシャンクス”懸賞金25億4890万ベリー
「……おれは悪魔の実などに興味はない……お前達と決着をつけに来ただけだ」
王下七武海海賊“鷹の目”ジュラキュール・ミホーク
「……ッッ……! こんなところで噂の“決闘”か……!」
赤髪のシャンクスと鷹の目のミホーク、両者の決闘の日々は最早伝説として語り継がれており、最近ではそこに宵魔女も加わり更に激しさを増していると聞く。噂話として聞いている分にはいいが、実際自分がその現場に出くわすと迷惑極まりない。しかもよりにもよって今は任務の真っ最中だ。
「てめェら! こんな東の海の辺境で……一体何が目的だ!?」
鬱憤を晴らすようにフーズ・フーは叫んだ。ただの決闘が目的ならばこんな辺境で戦いを始める必要はない。何か別の目的があるはずだ。それは先程の赤髪や宵魔女の口ぶりから想像出来るものではあるが、彼は確認せずにはいられなかった。
「CP9か……おれ達はゴムゴムの実をいただきに来た。大人しく渡してくれれば手出しはしない」
「だからボクらを無視するなっての! ゴムゴムの実はボクらが貰うって言ってるでしょ!」
「ゴムゴムの実……だと……!?」
彼らの返答を聞き、フーズ・フーは冷や汗を流した。四皇に次ぐと言われる海賊達が自分が護送している悪魔の実を狙っている。そんな事実に彼は驚き、焦る。
「あの悪魔の実がなんだってんだ……!?」
彼はゴムゴムの実の重要性を理解していなかった。態々東の海に護送船を送る程だ、何かあるとは思っているがそれがどれほどのものかはわからない。
「まァいいや……早い者勝ちだよ!」
「あいつ……!?」
ミズキが乗っていた船から飛び去り、一直線にフーズ・フー達のいる護送船へと向かってくる。その圧倒的な速度は政府の諜報員として長年訓練を積んだフーズ・フーですらほとんど反応出来ないもの。ミズキはあっという間に護送船までたどり着き、その中で一番地位のあるであろうフーズ・フーに狙いを定めた。そして彼に向かって短剣を振るうが。
「……!!?」
それをシャンクスが止めた。彼もいつの間にか護送船まで移動しており、腰に帯刀していた愛刀グリフォンでミズキの短剣を受け止めたのだ。両者の剣がぶつかり合った瞬間黒い稲妻が周囲を駆け巡り、護送船に乗っていた政府の役人はフーズ・フーを除き全員白目を剥き、気を失ってしまった。
「また腕を上げたようだな……ミズキ!」
「そっちも……大将を退けたって噂は伊達じゃないね……シャンクス!」
「化け物共が……!!」
その激突を間近で見たフーズ・フーは尻もちをつき、恐怖で身体を震わせた。彼とて闇の諜報機関CP9の一員として恥じない実力は持っている。四つの海はもちろん、
「……!!?」
しかしそんな彼らの間を鋭い斬撃が襲撃した。それは軍艦を真っ二つに両断し、更にはそれでも飽き足らずその先の海までも斬り裂いた。それを見聞色の覇気で予知し二人は回避し、それを放ったであろう人物に視線をやる。
「ちょっとミホーク! ゴムゴムの実に興味が無いなら邪魔しないでよね!」
「……おれはお前達と決着をつけに来ただけだと言ったはずだ……」
「鷹の目ェ……!? てめェは
「……別に貴様らに危害を加えるつもりはない。おれの戦闘範囲に入ってきたならばその限りではないがな……」
「……てめェ……!」
屁理屈でしかない鷹の目の言い分にフーズ・フーは歯噛みする。確かに王下七武海である鷹の目は政府側の人間であり、本来ならばフーズ・フーと協力してミズキやシャンクスと戦わなければならない立場だ。しかし王下七武海は鷹の目に限らず完全に政府の言いなりになっている者などおらず、大抵は適当な屁理屈を並べて政府の命令を無視している。さすがに断れば七武海の称号を剥奪するとまで言われれば従うが、それ以外であれば鷹の目は政府の一諜報員にすぎないフーズ・フーの言うことなど聞く気はないのだ。
「ふざけやがって……おれァCP9の中でも有望株って言われてんだ! 出世街道をてめェらのために潰されてたまるか……!」
部下を一瞬で気絶させられ、怪物達の実力を直に見せられ一度は萎縮してしまったフーズ・フー。しかしここで任務失敗となれば出世への道は完全に絶たれてしまう。将来を期待され、あの天才ロブ・ルッチに引けを取らないとまで言われていた彼はプライドを思い出し、剣を手に取った。
「くたばれ! クソ野郎ど──!?」
『うるさい!! /うるせェ!!』
「ぶべェェ〜〜!!?」
しかしミズキとシャンクスの戦いに割り込もうとした直後、両者の得物を受け一瞬で吹き飛ばされる。口から血反吐を吐き、フーズ・フーは海へと落下して行った。
「さて、邪魔者もいなくなった事だし」
「ああ、決着つけるか……!」
「フッ……忙しない男達だ……」
フーズ・フーをまるでゴミのように海に落とし、彼らは戦いの続きを始めた。一撃一撃が海を割り、天を割る、東の海にはおおよそ似合わない高レベルな戦いが繰り広げられる。
「あいつら……目的忘れてないかい?」
その様子を見て、ギオンは呆れてその場に立ちつくしていた。ゴムゴムの実の確保が目的のはずだが、彼らは完全に戦いに夢中になってしまっている。本当ならこの隙にゴムゴムの実を確保したいところだが、生憎戦場となっている軍艦にあるため手出しが出来ない。
「そっちも苦労してるみたいだな……」
「わかるかい? まったく頭が痛いよ……」
敵であるはずの赤髪海賊団副船長、ベックマンが親しげにギオンに話しかける。彼の言葉にわかってくれるかとギオンは頭を押さえて答えるのだった。
♦♦♦♦♦
「う〜ん……失敗したなァ……やっぱり赤髪海賊団を相手にするなら全員連れてこなきゃダメだよねェ……」
とある酒場のカウンターでジュースを飲みながら、ミズキはため息を漏らした。ここは東の海のドーン島に存在するゴア王国、そこに属するフーシャ村のPARTYS BARという酒場だ。シャンクスや鷹の目との戦いの後、結局ゴムゴムの実は赤髪海賊団に持っていかれてしまった。やはり戦力の一部しか連れてこなかったミズキ達と全員が揃っていた赤髪海賊団では後者が有利であり、隙を見て持ち去られてしまったのだ。
「そもそも何故そこまでゴムゴムの実に拘るんだい? ただの
「まァね、ボクも噂話くらいでしか知らないけど」
パフェを口に含みながらミズキは答えた。ゴムゴムの実に何か秘密があるのをミズキは知っている。しかしそれがなんなのか、どういった秘密なのかを彼は知らない。故にゴムゴムの実を狙ったのも興味本位であり、東の海には別件で用があったのでそれのついでだ。
「ま、今は観光を楽しもうよ」
「こんな田舎に観光出来るところなんてあるんですかい?」
「ないだろうね、東の海でもここはかなりの田舎さ。ワインは美味だけど」
「ええ! このハンバーグも美味しいわ!」
ミズキが連れてきたのはギオン、アップル、カバジの三人と部下が百人と少し。さすがに全員で町に繰り出すのは無理があるので三人以外は船で待機させている。
「お口にあったようで何よりです。この辺りに来るのは初めてですか?」
「ああ、少し用があってね」
親しげに話しかけてくる女主人にギオンが答えた。まだ二十歳からそこらの中々美人な女性だ。
「そうなんですね、船乗りの方なんですか?」
「海賊よ!」
「バカ! 正直に言う奴があるか!」
馬鹿正直に自分達の正体を明かしたアップルにカバジがツッコミを入れる。別に海賊だとバレて海軍を呼ばれたとしてもどうということはないのだが、やはり面倒は起こさないに越したことはない。
「あら、海賊の方達だったんですね。それにしては随分可愛らしいですけど」
「……あんた、怖くないのかい? アタシ達は海賊なんだよ?」
だが女主人は海賊だと聞いても怖がる様子もなく、寧ろ好意的に接してきた。それに対しギオンは不思議に思い、質問を投げる。
「ふふ、最近この島を拠点にしている海賊さん達がいるんですよ。とても面白い人達だから、海賊にもあまり悪いイメージが持てなくて」
「へェ、こんな場所にも海賊がいるのか。だがそいつらが面白かったとしてもおれ達がそうだとは限らないだろう? この島を襲うかもしれないぞ?」
「大丈夫ですよ。あの人達はとても強いから、いざという時は守ってくれます!」
「へ〜……」
女店主の言葉に、ミズキは口元を緩ませる。仮にこんな東の海の田舎の海賊が守ってくれたとしても、ミズキ達をどうにか出来るはずがない。新世界のレベルを知る者であれば誰もがそう思うだろう。その証拠にギオンやカバジはさほど真に受けていないようだ。
だがミズキは知っていた。この女の言う海賊の正体を、そしてその海賊達が今この酒場に向かってきていることを。
「……なんだい? 外は妙に騒がしいね……?」
店の外が騒がしくなってきたことに気づき、ギオンは首を傾げた。そこまで活気ある村には見えなかったので、不思議に思ったのだ。そして次の瞬間、酒場の扉が勢いよく開いた。
「おいマキノさんいるか!? ルフィの手当をしてやってくれ!」
「……ルフィ!? どうしたのその傷!!」
慌ただしく入ってきた男達。それはバギー海賊団の面々なら誰でも知っている男達であり、ギオンらは目を見開いた。なにせ数日前まで殺しあっていた相手なのだ、その反応も無理はない。
「……!? おいミズキ、お前らなんでここにいるんだ!?」
「あはは〜♪ シャンクス久しぶり……という訳でもないね!」
麦わら帽子を被った赤髪の男、シャンクスがミズキ達に気づき驚くと、ミズキはそれに答えるように手を振った。ミズキは驚くシャンクス達の反応をひとしきり楽しむと、彼が抱える頬から血を流した少年に話題を移した。
「それよりその子の手当をしなくていいの? 結構傷が深いみたいだよ?」
「……!? そうだ、マキノさん救急箱あるか!?」
「は、はい!!」
「いいよいいよ、そんな回りくどいことしなくて」
シャンクスがマキノに救急箱を持ってくるように頼んだ。しかしミズキはそんな物必要ないと言い、痛みに苦しむルフィと呼ばれた少年に手をかざした。
緑色の光が辺りを包み、そしてルフィの傷は徐々に癒えていった。
「……痛くねェ……」
「ルフィ……大丈夫なの!?」
マキノがルフィに駆け寄り、心配そうに見つめる。そして傷があったはずの場所に目をやるが、傷跡こそあれど血はすっかり止まっていた。
「悪いなミズキ、助かった」
「別にこれくらいお礼を言われる程のことでもないよ」
感謝の言を述べたシャンクスにミズキは気にするなとあっけらかんに答えた。別に礼を言われるような事でもないし、彼を助けたのも善意からではない。ただ興味があるだけだ、彼が迷い込んだこの
「あ〜痛くなかった……」
「嘘つけ! 馬鹿なことするんじゃねェ!」
「もう……何があったんですか? 船長さん」
涙目で強がるルフィにシャンクスが語気強めにツッコんだ。そのやり取りを見て、マキノは呆れ半分でシャンクスに事の経緯を問いかけた。
シャンクスは今起こったことを簡単にマキノに説明する。航海に連れて行って貰いたいルフィが自分の覚悟を示すために自らナイフで頬を刺したことを。
「おれは怪我だって全然こわくないんだ! 連れて行ってくれよ次の航海! おれだって海賊になりたいんだ!」
「バ〜カ、お前みたいなガキ連れて行けるか。後十年経ったら考えてやるよ」
「でも小さいのに度胸があるね、連れて行ってあげればいいのに」
「そうだぜお頭! 連れて行ってやれよ!」
「そうそう、ケチケチすんなよ!」
「……じゃあ誰か船降りろ」
「さて、酒の続きを飲むか……」
「お前ら味方じゃねェのかよ!」
怪我なんて怖くないというルフィを小馬鹿にするようにシャンクスが言う。いつの間にか酒盛りを始めていた赤髪海賊団の面々が連れて行ってやれと言うがそれをさらりと流した。そんな彼とは対極にミズキは感心するようにルフィの頭を撫でてやっていた。
「子供扱いすんな! おれはガキじゃないぞ」
「え〜、こんなに可愛いのに。あ、ジュース飲む?」
「うわァ、ありがとう!」
「ほらガキじゃねェか!! 面白ェ!!」
「嵌めやがったなお前ら!? きたねェぞ!」
ルフィをからかって楽しむシャンクスとミズキをマキノは微笑ましく見守っていた。だが一つ疑問に思ったことがあり、それをシャンクスに問いかけた。
「そういえば船長さん、その人達とはどういう関係なんですか?」
「ああ、こいつらはおれの昔馴染みの海賊団の船員達だ。で、こいつが副船長のミズキだ」
「え!? お前ら海賊なのか!? じゃあ連れて行ってくれよ!」
「いいよ〜、ボクらは子供だろうとやる気があれば歓迎だからね!」
「ホントか!? やった〜〜!!」
連れて行ってくれと頼むルフィにミズキは軽い調子で了承した。それに対しシャンクスは思うところがあるのか顔を顰めるが、それ以上反応はせず何も言わなかった。
「だけどね……海っていうのは君の想像以上に過酷なところだよ。君みたいな子供が海に出ても死ぬだけ。それでも行くの?」
「!!?」
和やかな空気から一変、重い空気の中ミズキはそう告げた。ルフィのようななんの力もない子供が海に出たところで死ぬだけ。最弱の海と言われているこの東の海ですら、航海術や腕っ節、あるいはその両方を持ち合わせていないと生き残れない。他の海や偉大なる航路なら尚更だ。それを知っているからこそ、ミズキは隠すことなくその事実をルフィに伝える。
「おれは……」
しかしその話を聞いてもルフィの決意は揺るがない。頬を刺して示した通り、彼の覚悟は堅い。それをミズキに伝えようとしたその時だ。
「邪魔するぜェ……ほほう、これが海賊って輩か……間抜けなツラしてやがるぜ」
扉を蹴り開けて複数の男達が入ってきた。男達は店内のシャンクス達には目もくれず、店主であるマキノに話しかける。
「おれ達は山賊だ、だがこの店を荒らそうって訳じゃねェ。酒を売ってくれ、大量にな」
「ごめんなさい、お酒は全て出てしまっていて……」
「……? おれの見間違いか? 海賊共は酒を飲んでるように見えるが?」
「ですから……今出ているので最後なんです」
マキノの言葉を聞くと山賊は店内を見回し、軽くため息を吐いた。
「悪いなァ……おれ達が店の酒を飲み尽くしちまったみたいだ。これで良かったらやるよ、まだ栓も開けてない」
「……ふざけてんのか?」
「!!?」
シャンクスが瓶に入った酒を手渡した瞬間、山賊はそれを叩き割った。ガラスの瓶が割れる音が店内に響き、こぼれた酒でシャンクスはびしょびしょになってしまった。
「おい貴様、おれを誰だと思ってる? これを見ろ、800万の懸賞金がおれの首にかかってる。第一級のお尋ね者って訳だ」
ヒグマと書かれた自身の手配書を見せびらかし、山賊はシャンクスに脅しをかける。カウンターに頬杖をつきながら座っていたミズキは思わず吹き出しそうになった。それもそうだろう、たった800万かそこらの雑魚が25億の男に自身の賞金額を誇らしげに語っているのだから。こんな田舎で山賊をやっているのだから仕方ないのかもしれないが、やはり無知ほど恐ろしいものはないのだ。
「悪いなァマキノさん……雑巾あるか?」
「あ、いえそれは私が……!」
シャンクスとマキノが床に散らばった瓶の欠片と酒を掃除しようとする。だがヒグマはそんな彼らを嘲笑うかのように剣を振り、カウンターの上の皿やグラスを床に落とした。
「掃除が好きらしいな、これくらいの方がやりがいがあるだろう」
そうシャンクスを笑い、山賊達は出ていこうとする。しかしカウンターの奥で騒動を眺めていたミズキ達に気づくと、にやけ顔になり踵を返した。
「へへ、よく見りゃイケてる姉ちゃん達がいるじゃねェか。おいおめェら、こんな湿気た連中と飲んでねェでおれ達と来いよ」
「……悪いけど、あんた達じゃアタシらには釣り合わないよ。他を当たってくれ」
「死なないうちに出てった方がいいと思うよ。まァボクらが可愛いってところはわかるんだけどね」
「おめェみたいなちんちくりんに用はねェんだよ、引っ込んでろクソガキ!」
「あ……」
ヒグマがそう口にした瞬間、場の空気が凍りついた。カバジは顔を青くして視線をミズキに移し、赤髪海賊団やギオンですら冷や汗を流している。そんな中ミズキは立ち上がると、ゆっくりと入口に向かって歩き出した。
「!!?」
瞬間、山賊達の間に強烈な電流が走り彼らは意識を失いその場に倒れ伏す。数百万人に一人の覇気、覇王色の覇気に当てられた山賊達は誰一人として抵抗すら出来ずに意識を刈り取られた。
「はァ、なんかしらけちゃったな……もう帰ろっか」
「いいのかい? こいつらに落とし前をつけなくて……」
「こんな小物、殺す価値もないよ。カバジ、お代払っといて」
「は……はい!」
「え〜、戦わないの!? ……まァ弱そうだししょうがないわね」
ミズキが店を出ていくと、三人も続いて退出した。あんな小物相手にムキになっていては自分達も同列だと認めているのと同じだ。シャンクスもそれをわかっているからこそ、ヒグマに好き勝手されても笑い過ごした。だがなんの制裁も与えないのは逆にプライドに障るので、死なない程度に眠ってもらったのだ。
「しかし……あんたや赤髪の顔を知らないなんて、やっぱり最弱の海なんて呼ばれているだけはあるね」
「ゴムゴムの実を赤髪海賊団から奪わなくてよかったんですかい? 絶好のチャンスだと思いますが……」
「気づいてなかった? 食べちゃってたよ、あのルフィって子が。今頃大パニックだろうね」
カバジから問われたミズキはパニックになる店内を想像してくふふと笑った。原作でも重要なシーンに自分が関われたのは嬉しいし、その後のルフィの活躍を思うとワクワクする。
「……じゃああの子供を拐うか……最悪始末してでも奪うかい?」
「う〜ん、もういいかな……一度はシャンクスに出し抜かれた訳だし」
ギオンにはそう言うが、ミズキには別の思惑があった。ずっと気になっていたことではある。たとえば今原作主人公と呼べる子供を殺したとして、この後の世界はどうなるのか? バッドエンドとなることは確定だろうが、それでもこの世界──物語は続いていくのか。それとも創作物でよくあるように均衡を保てなくなった世界が崩壊でも始めるのか。それはやってみないことにはわからないが、一つだけはっきりしていることがある。
あの少年こそが未来の海賊王候補であり、バギーが海賊王を目指すにあたって最も厄介な敵となるということだ。ならばこそ、シャンクスと敵対することになっても無力な子供のうちに始末しておくべきなのは確かだ。今更原作の展開を壊すことに躊躇いもない。
だが──それでは面白くないし、なによりそんな程度の覚悟でバギーを海賊王にすることなど出来るのか。最大の敵を打ち倒してこそ、海賊王という称号を得ることが出来るのだろう。故にミズキはルフィを見逃すことにした。少なくとも、無力な子供のうちにどうこうするつもりはない。
「ま、今日は面白いものが見れたから良しとしようかな!」
「次は私も赤髪海賊団と戦いたいわ!」
「おめェは本当にそればっかだな……」
「ウサフフフ……いいじゃないかい、向上心があって」
そう遠くない未来に四皇以上の強敵になるであろう子供の様子を見ることが出来て、ミズキは満足したように言った。そして必ずその強敵をも越えてバギーを海賊王にしてみせると改めて決意を固めるのだった。