転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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東の海にて

 

新世界、カライ・バリ島。

 

 バギー海賊団の本拠地であるその島の中心街、最も栄えたその場所の更に中心にそびえる巨大なテント。一見すればただの大きいだけのテントだが、中にはバギー海賊団幹部格の居住スペースや宴会場であるステージなど様々な施設が揃っている。

 そしてその中の一つ、会議室のように使われている部屋の円卓を囲み、バギー海賊団の幹部が勢揃いし会議をしていた。その議題はミズキが抱いている赤ん坊に関係することだった。

 

「……さて、まずは詳しく説明してもらおうカネ?」

 

「何が?」

 

「何が? ……じゃないガネ!? その赤ん坊のことに決まっとるガネ!!」

 

 円卓を両手で叩き、ギャルディーノはキョトンとした様子のミズキにツッコミを入れる。このような会議は一ヶ月に一回のペースで開かれており、進行役は海賊団内でも随一の頭脳派の彼が務めることが多い。

 

「街じゃその話題で持ち切りだよ。バギーの子供ってだけならともかく……ミズキとの子供って話が広まって色々噂が飛び交ってる」

 

「というかそもそもの疑問なんですが……どうやって作ったんですか?」

 

 ギオンの言葉に続いてルナリアが誰もが気になっている重大事項を質問する。純粋無垢な子供がするような質問だが、子供が親に聞くそれとは訳が違った。何しろ生物的にありえないことなのだから、気になるのも当然だろう。

 

「どうって……バギーが酔い潰れて寝てる時にこう……寝込みを襲う感じで」

 

 珍しく顔を赤くして恥じらいながらそう呟いたミズキの言葉を聞いて、隣に座っているバギーの顔がみるみる青くなる。口をあんぐりと開け、この世の終わりのようなその表情から絶望の二文字を読み取ることは容易だ。

 

「お、おま……おれ様が寝てる間に……」

 

「うん……血液貰っちゃった」

 

「……は? ……血液?」

 

「そ! バギーが寝てる間にこっそり血を抜いて、それを元にボクの血液と混ぜて作ったのがこの子!」

 

 自慢げに言ってのけるミズキの発言にほぼ全員が同時にずっこけた。バギーは手を胸にやり、ほっと安堵した。いつの間にか自分の貞操がよりにもよって男に奪われていたと聞いて、この世の全てに絶望していたがどうやらそれは早計だったようだ。

 

「ま、まァ……ツッコミどころはあるが……そういうことならまだ納得だガネ。私はてっきりとお前達がそういう関係になっていたと……」

 

「んなわけあるか! おれァハデに女が好きなんだよ! 男に興味は──痛ェ!?」

 

 バギーとミズキが大人の関係にあることを懸念していたギャルディーノがそうではなかったと知り、彼は胸をなでおろした。海賊団のトップと二番手の色恋沙汰など面倒なことになることはわかりきっている。そんな彼にバギーはそんなはずがないだろうとはっきりと言った。自分が好きなのは正真正銘女であり、いくら見た目がよかろうと男であるミズキにそのような感情を抱くはずがないと。

 それを聞いたミズキはバギーの頭をひっぱたいた。頬を膨らませ、何やら不満げな視線をバギーに向けている。

 

「子供まで作れるなんて……アンタの能力は本当になんでもありだね。とにかく、広まってる噂をどうにかするように手を回しておくよ」

 

「うん、お願い! まァボクは噂が広まったままでも別にいいんだけど」

 

「絶対ダメだ!!」

 

 それだけはダメだとバギーは声を大にして強く訴える。自分にそっち系の趣味があると思われては癪なのだ。

 

「オギャ〜〜!! ホギャ〜〜!!」

 

「バギーが大声出すから驚いちゃったでしょ!? ほらほら〜大丈夫だよ、うるさいパパだねェ?」

 

 バギーの大声に驚き、泣き出してしまった赤ん坊をミズキが優しい猫なで声であやす。世間ではそのルックスから人気ではあるが、懸賞金20億を超える凶悪犯として知られているミズキ。だが意外と子供には優しいのだ。それが自分の血を分けた実の息子なら尚更だろう。

 

「ホント、うるさいパパ……ねェ? ……フリーダ」

 

 先程までの騒がしさとは一転、自分の胸の中ですやすやと眠る息子を大事そうに抱えながら、ミズキはなんとも言えない感傷に浸るのだった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 海賊王を目指すのならば、理不尽など当たり前に起こる。この広大で残酷な海を生き残るためには力と知識、これが不可欠であり、どちらか片方でも欠ければ生き残れない残酷な世界。毎年巨万の富を夢見て、あるいは海賊の生き様に憧れて海に出る若者は多い。そのほとんどが夢半ばに力尽き、その小さな命を散らすことになるのだ。

 

「だってよ……!! ……ジャングズ……!! …………腕が……!!!」

 

「安いもんだ、腕の一本ぐらい……無事でよかった」

 

 故にシャンクスはルフィ少年に海の怖さ、海賊を志す事の過酷さを伝えるために自らの腕を犠牲にした。

 

「この帽子をお前に預ける……いつかきっと返しに来い、立派な海賊になってな」

 

 そして自身のトレードマークであり、亡き船長から受け取った麦わら帽子を託した。彼がいつか仲間を率いて強大な海賊になり、自分達のライバルになると信じて。

 

「ダダン?」

 

「そうじゃ、今日からそこで暮らせ」

 

 かくして大海賊赤髪のシャンクスから麦わら帽子を託された少年は祖父ガープに連れられ、彼と因縁のある山賊一家に預けられることとなった。

 

「そもそもアンタはもう海兵じゃねェんだ! あたしらがてめェの言う事聞く義理はねェんだよガープ!!」

 

「確かにわしは海軍を辞めたが、お前達を縛り付けて海軍基地の前に捨てることくらい容易いぞ?」

 

 そこでルフィは里親となる山賊ダダン、そして二人の兄弟と出会うこととなる。それはまさに、運命とも言える出会いだった。

 

「おれ達は今日から兄弟だ!!」

 

 海賊王の息子、ポートガス・D・エース。そして高町に住む貴族の息子、サボ。二人の義兄弟と共にルフィは悪名を広めていくことになる。

 だがしかし、事件は起こった。

 

「ジャルマック聖、船には子供が……」

 

「海賊旗を掲げれば何者でも海賊だえ……なによりィ……下々民が私の艦の前を横切った!!!」

 

 貴族である父親に連れ戻され、彼らの非人道的な所業を知ったサボは海へと出ることを決意した。しかし船出の直後、視察に来ていた天竜人の艦の前を横切ってしまった。彼の怒りを買ってしまったサボは船を爆撃され、大怪我を負い海の底へと沈んでいった。

 

「遅いじゃないのよドラゴン、いつまで待たせチャブルの!!?」

 

「すまん」

 

「……ドラゴンさん!? その子供は!?」

 

 サボは運良く革命軍の総司令官、モンキー・D・ドラゴンに助けられた。革命軍の必死の治療もあり、何とか一命を取り留めた彼は意識を取り戻す。

 

「大丈夫か? 一体なぜあんなところに……名前は言えるか?」

 

 子供が一人で海に出て、天竜人の艦の前を横切った。その不可解な行動をドラゴンから聞いていた医者がそのことを問うた。

 

「……わからない……おれは……」

 

 しかし彼は爆破のショックで記憶を失っていた。名前も出生も家族のことも何もかもわからない。一つわかるのは親のところには戻りたくない、その強い意志だけだった。

 

「……サボ!? お前どうしてこんなところに!? その傷は!?」

 

「……おっさん、誰だ?」

 

「……!? ……お前……わしがわからないのか……?」

 

 たまたま医務室を通りかかったガープはサボの姿を見て、そして自身のことがわからない様子の彼に驚愕する。エースと同じように、彼はサボのことも本当の孫のように可愛がっていた。その孫が傷だらけで運び込まれ、更には自身のこともわからないのだ。

 

「……ッッ……!! ルフィやエースの事は!? それも覚えていないのか!?」

 

「ルフィ……? ……エース……?」

 

「……なんて……ことだ……」

 

 盃を交わした義兄弟達のことすら忘れてしまったサボにガープは絶句する。どうしてこのような状態になってしまったのか答えを求め、隣に立つ息子へと視線を向けた。

 

「……天竜人の艦から砲撃され、その子の乗っていた小船が沈んだ。おそらく……天竜人の前を横切ったことで怒りを買ったのだろう」

 

「そんな……くだらないことで……!!」

 

 ドラゴンが語った事の顛末を聞き、ガープは怒り拳を震わせる。天竜人の醜悪さを彼はよく知っている。そもそも彼が海軍を辞めることになった原因は天竜人だ。彼らの極悪非道な行動を見て見ぬふりが出来なくなったからこそ、彼は海軍を退役する決意をした。そんな天竜人が今度は自身の孫を殺害しようとしたとなれば彼の怒りも相当だろう。

 

「とにかく身元がわかっているなら両親の元へ……」

 

「……!? いやだ! 戻りたくない、このままどこかへ連れて行ってくれよ!!」

 

 記憶が戻っていないにも関わらず、サボは親元へ戻ることを強く拒んだ。それだけ心の奥底に貴族への嫌悪感が刷り込まれていたのかとガープは自身の出生国でもあるゴア王国への失望感を募らせた。

 

「……だが確かに、この子をゴア王国へ戻すのは危険かもしれない。顔を覚えられていたとしたら命を狙われてもおかしくはないだろう」

 

「ああ、元よりサボは高町でも有名なゴロツキじゃ。わしも四六時中ついてはいられない、手の届く距離で保護した方が得策じゃろう」

 

 天竜人を怒らせ、更には元からサボの名前と顔は悪い意味で有名だ。ガープがいれば守ってやることも出来るが彼もいつまでもゴア王国だけに留まる訳にはいかない。

 

「それに……兄弟に忘れられたと知ってルフィとエースはどうなる? 今はまだ……サボが生きているのをあいつらに教えるべきではないじゃろう……」

 

 ガープの言葉にドラゴンも同意した。少なくとも、サボの記憶が戻るまでルフィとエースに言うべきではないと。死んだと思っていた兄弟が生きていると知って、彼らは喜ぶだろう。しかしその兄弟は自分達のことを忘れてしまっている。子供にはあまりにも残酷な話だ。

 そうしてサボは革命軍の一員となり、ドラゴンやガープと共に世界を見ることになる。そしていつしか彼も革命軍の思想に賛同し、天竜人を打ち倒すために活動することになるのだが、それはまた別の話だ。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 赤髪のシャンクスが東の海(イーストブルー)で左腕を失った。そのニュースは瞬く間に新世界を駆け巡り、誰もが驚いた。新世界において四皇に次ぐ実力者と称され、あの鷹の目と互角の決闘を繰り広げた男が最弱の海と言われる東の海で腕を失った。中々衝撃的な事件であり、素直に信じることが出来ない者も多くいたそうだ。

 

「……シャンクスの奴が…………!」

 

 そしてそれを最も信じられないのがこの男だろう。赤髪のシャンクスと同じロジャー海賊団の元船員であり、彼の兄弟分。その強さも強く理解しており、故に部下から記事を渡されその内容を把握しても信じることなど出来なかった。

 

「ふざけんじゃねェ! こんな記事……デマに決まってらァ!」

 

「しかしキャプテン・バギー、確かに赤髪のシャンクスの腕がなくなっていたとの目撃情報が……」

 

「うるせェ! ……あいつの強さはおれ様が一番よくわかってんだ! あいつがそう簡単に腕失ってたまるかってんだ!!」

 

 癪ではあるが、バギーはシャンクスの強さを認め尊敬していた。能力の相性上タイマンで戦った場合は自分に分があるかもしれないが、純粋な強さで考えればシャンクスの強さはバギーの上をいっており、それをバギーも認めている。だからこそ、最弱の海で腕を失うなどと到底思えないのだ。

 

「キャプテン・バギー、えらく動揺してるな……」

 

「しょうがねェさ、キャプテンと赤髪はロジャー海賊団時代からの兄弟分って話だ」

 

 彼の部下達はそんな彼を心配する。あれほど動揺する彼も珍しく(と部下達は思っている)、彼を心の底から崇拝している部下達からは彼の体調や精神面を案じてる声が出続けていた。

 そんな中ミズキはというと、意外にもそこまでバギーを心配はしていなかったようだ。シャンクスが腕を失うことを事前に知っていた彼にとって、その事件は起こるべくして起きたものであり、驚くことではない。ライバルの身に起こった不幸は残念ではあるが、彼がそこに込めた想いを知っているので彼らしいと僅かな笑みを浮かべるのみだ。

 

「お嬢……やはりキャプテン・バギーはかなり動揺されているようで……」

 

「そっか……しばらくはそっとしておいてあげて。時間が経てば自分で折り合いをつけるはずだから」

 

 ミズキの知る原作のバギーならいざ知らず、今のバギーは相当強くなっている。それは肉体だけではなく精神面でもそうだ。原作とは比べ物にならない程の修羅場をくぐりぬけてきている。故にミズキもそこまで心配はしなかった。

 

「やっほ〜! みんなしっかりやってる?」

 

 ミズキが訪れているのはバギー海賊団で使用している訓練場のような場所だ。元々は島の闘技場として使われていたが、バギー海賊団が島を本拠地とするようになってからは海賊団内で訓練を行う場所として使用していた。

 

「ふ……副船長……少し…………休憩……」

 

「え? ダメだけど?」

 

 訓練場の中にミズキが入った瞬間、一人の少年がミズキに泣きついてきた。ライオンの着ぐるみのような髪型をしたモージだ。東の海のとある島で孤児として生活していたところをミズキに拾われ、バギー海賊団の一員に加わった。

 

「バ……バウ……」

 

「こら! リッチーもサボってないで訓練しなさい!」

 

 そしてモージと共にくっついてきた子ライオンのリッチー。幼少の頃より彼と過ごしてきたようでモージによく懐いている様子だった。彼らを将来のバギー海賊団の幹部とするために、ミズキは彼らにスパルタじみた訓練を行っていた。

 

「ボクは君に期待してるんだよ? だから悪魔の実をあげたんだから、もっと頑張ってよね」

 

「は……はい、頑張ります」

 

 孤児として生き誰にも期待されなかったモージにとって、成功出来る環境を与えて謎の期待まで寄せてくれるバギーとミズキは紛れもなく恩人であり、尊敬していた。しかしそれはそれとしてこの訓練はキツすぎると挫折しかけていた。

 

「な……なぜおれまで……」

 

 そしてその隣でへばっているのはカバジ。モージのついでにと一緒に訓練をさせられていたのだ。彼がバギー海賊団に入って七年、随分実力も上がり今では億超えの懸賞金を懸けられる程。しかしそこまで実力をつけてもまだミズキを満足させることは出来ないようで、未だ訓練を続けていた。

 

「も、もうダメだ……死んでしまう……」

 

「わかる……その気持ちよ〜くわかるぞ……!」

 

「おお、わかってくれるか兄弟よ……!」

 

 スパルタじみた特訓の時間を共有する中で、彼らには深い絆が生み出されていた。互いに何故か他のメンバーよりも期待されているという共通点もあり、打ち解けるのにそう時間はかからなかったのだ。

 

「どうしたアルビダ、もう終わりか?」

 

「ハァ……ハァ……いえ……まだまだやれます……!」

 

 そして少し離れた場所で二人の少女が金棒を持ち訓練をしていた。一人はバギー海賊団の幹部、頭に生えた二本の角が特徴のヤマト。もう一人はモージと同じく東の海でミズキに拾われた黒髪の少女、アルビダだ。

 

「君の食べたスベスベの実は物理攻撃を無効化出来る。使い方によっては戦いにも役に立つ、あとは自分自身の力をつけるだけだよ」

 

「はい……!」

 

 年齢はアルビダが十四、ヤマトが十五で一歳差だが、やはり実力の違いとヤマトがバギー海賊団に所属して長いこともあって立場はヤマトの方が上。金棒を得物として使うアルビダに戦い方を教えて欲しいとミズキに頼まれ、ヤマトはこうやって彼女に金棒での戦闘を教えていた。

 

「あはは♪ いいねいいね! この調子でどんどん強くなってよ!」

 

 彼らの訓練を見て、ミズキは満足そうに頷いた。彼の実力は既に四皇と互角に戦えるほどに高い。しかし部下の質、数で考えれば未だ四皇の海賊団には及ばない。バギーを海賊王にするためにも、部下の強化や新たな戦闘員の補充は必要不可欠だ。そのための作戦も考えている。

 近い将来、四皇にも負けない戦力を整えたバギー海賊団の姿を思い描き、ミズキは一人口元を緩ませるのだった。

 

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