その日、とあるニュースが新聞の一面を飾った。それは海賊に関する事件であり、この大海賊時代に星の数ほどいる海賊の中の頂点、四皇に関する出来事だった。今の時代海賊は腐るほどいるが、その中でも
しかしその海賊はそんな例に当てはまらず、四皇に抗い続け力を蓄えてきた。そしてついに四皇の一人に数えられるほどの大海賊へと成長を遂げた。
『 “四皇”赤髪のシャンクス、新たな海の皇帝誕生か!?』
二年前に
「シャ……シャンクス〜〜!? あの野郎いつの間に!?」
そして新聞の一面を目にして、驚く男がここにもいた。赤髪のシャンクスの兄弟分でありバギー海賊団船長の千両道化のバギーだ。彼は新聞を握った手をわなわなと震わせ、怒りと驚きを顕にしている。
「ふ〜ん……シャンクスが四皇ねェ、
その隣で神妙な面持ちで何かを考えるのは副船長である宵魔女ミズキだ。彼の言葉の意味は周りにいる人間にはわからない、彼にしか理解しえないことだった。シャンクスが四皇の一角に数えられるようになったのは確か原作開始時から四年前のことだ。しかし正確にはわからないが、今は原作開始時から八年前といったところだろう。いくらなんでも早すぎる。時期が早まった可能性があるとすればやはりバギー海賊団の存在だろうか。幼少からの馴染みであるバギーが原作とは違い、シャンクスと同等の実力を持ち、戦力を率いている。その事への対抗心から原作よりも早く実力をつけたと考えれば納得はいくだろう。
「ぐぬぬぬぬ……なぜあの野郎が……」
「とか言って、内心嬉しいんでしょ? シャンクスが左腕無くした時、結構落ち込んでたもんね」
「そんな訳あるか!!」
悔しがるバギーが内心では喜んでいることを見抜き、ミズキはからかうように言った。実際バギーはシャンクスが四皇に値する実力を持ち合わせていないとは思っていなかった。寧ろシャンクスならば当然だとすら思っている。だが、それとはまた別にバギーにはどうしても納得出来ないことがあるのだ。それは──
「なぜシャンクスが四皇と呼ばれておれ様は呼ばれねェ!? 政府は見る目がねェんじゃねェのか!?」
「そうだそうだ! ボクらが赤髪海賊団に劣ってるとでも言うの!?」
赤髪海賊団が四皇の括りに入ったというのに自分達は入っていない。彼らが不満に思っているのはその一点のみだった。だが確かに、自分達が四皇の一角に数えられる程の戦力を保持していないのもまた事実だとミズキは冷静に考える。
「まァだけど……確かに今のままだと戦力が足りないよねェ……」
バギー海賊団の総数は傘下も含めると一万人を超える。数としては十分かもしれないが、問題は量よりも質の方だ。平均的な船員の強さが、四皇の海賊団と比べると明らかに低い。強い船員が多ければ、赤髪海賊団のように数が少ないとしても十分な戦力を確保出来る。バギー海賊団が未だ四皇に数えられていないのは、そこが原因だとミズキは考えていた。
「おう、ならどうする? このままシャンクスに負けたままなんてごめんだぞ……!」
「……しょうがないね、こうなったらあの作戦を実行するしかないよ……!」
そうしてミズキは自分の考えた作戦をバギーに耳打ちする。それを聞いたバギーは驚き、言葉を詰まらせた。ミズキの考案した戦力増強のその作戦、それは世界的に見ても異例の大事件だった。
♦♦♦♦♦
マリンフォード、海軍本部。
「センゴク元帥!! い、一大事です!!」
勢いよく開かれた元帥の執務室の扉。入ってきた海兵はそこそこの地位がある者であり、かなり動揺していた様子だった。
「どうした?」
「ま、マリージョアの衛兵から連絡があり…………敵襲です!! バギー海賊団の海賊船が空から襲来!! 現在マリージョアで交戦中の模様です!!」
「なんだと……!?」
その報告を聞いたセンゴクは頭を抱え、眉間に皺を寄せる。今は大将三名が引退し、新大将に切り替わる調整期間だった。故に職務も普段より多く、更には赤髪海賊団の台頭もあり慌ただしい時期だった。それに加え今回の騒動だ、頭が痛くなるのも当然であった。
「常駐していた衛兵は既に全滅に近く……天竜人は大将三名を全員派遣するように要求されています……如何なさいますか?」
「……ッ……! 当然そうなるか……!」
五年前のマリージョア襲撃事件。それがきっかけで天竜人はバギー海賊団、それも宵魔女を酷く恐れていた。となれば自身の持つ権限を最大限活用し大将を全員寄越すように命令するのも当然であった。
「……だがバギー海賊団を止めるには大将が複数人必要なのも事実か……三人は今どこに?」
「はっ! 大将黄猿、並びに青雉はこのマリンフォードにいらっしゃいます! 赤犬大将は先程赤髪海賊団の目撃情報があったとの事でシャボンディ諸島に向かわれました!」
「……遠征に出ていなかったのが不幸中の幸いだな……全員即刻マリージョアに向かわせるように伝えろ! 動ける人員と軍艦は全て事態の収束に当たれ!」
「承知致しました!」
「……」
敬礼し素早く行動に移す部下の後ろ姿を見ながら、センゴクは頭を巡らせた。どこか引っかかると。確かにバギー海賊団はかつてマリージョアを襲撃した前科がある。しかしそれは奴隷を解放し戦力増強するためだと調べはついている。今回の襲撃も同様の目的だとしたら、かつての事件で奴隷の大半を失ったマリージョアを態々再び襲うだろうか? 確かに失った分の奴隷は調達されてはいるが、それでも五年前と比べれば半分以下の数だ。奴らもそれがわからない程馬鹿ではないだろう。
「……だとすれば奴らの目的は一体……」
だが不可解さはあっても肝心の目的がわからない。奴隷以外にもマリージョアには天竜人が所有している莫大な財産が保管されている。それを狙っていると考えられなくもないが、既に海賊団として大成し巨万の富を得ているバギー海賊団が金のためにリスクを冒すものなのか?
知将とも呼ばれるセンゴクはその頭脳を最大限に生かし考えるが、明確な答えは定まらなかった。
しかし数時間後、自ずと答えは彼の耳に届いてきた。それは彼にとって、それどころか世界政府にとって最悪の答えだった。
♦♦♦♦♦
数時間後、聖地マリージョア。
天竜人の勅令によって集められた海軍本部の精鋭、大将が三名に十隻以上の軍艦とそれに乗る中将十名含む数千人規模の海兵の大軍団。マリージョアを襲撃するバギー海賊団を止めるため、正義の名の下にその場に乗り込んだ彼らは困惑していた。
「おいおい……こりゃあ一体どういうことだ?」
その大軍勢の最前で指揮を執る三名の大将達。しかし到着した彼らは現場の違和感、それも特大のものに眉をひそめた。何しろ聖地を襲撃するバギー海賊団を迎撃せよとの命令でここまでやってきたというのにそのバギー海賊団が影も形もないのだ。街は確かに破壊され、襲撃の跡はあるが襲撃者達は一人も見当たらなかった。
「おのれ……! 海賊風情が小癪な真似を……!」
人一倍正義感が強く、そして過激な思想を持つ赤犬が拳を震わせる。大将三名を含む大軍勢、それを一箇所に集中させ当の襲撃者達は一人もいない。その意味が理解出来ない程彼らは馬鹿ではなかった。
つまり、陽動作戦だ。
「役人達の話によればバギー海賊団はおれ達がここに到着する直前に消えたそうだ。文字通りな……」
「う〜〜ん……“宵魔女”の能力によるものかねェ〜〜。なんにせよ、一杯食わされた訳だ……」
ミズキと戦闘経験のある青雉と黄猿が彼の能力によるものだと推察する。その時だ、青雉の懐の電伝虫が着信を伝えるべく鳴いた。
「……なんだと……!?」
部下からの報告を聞いた青雉はその顔を青ざめさせた。その報告はほぼ同時刻に海軍本部のセンゴク元帥にも届いており、彼も同様に報告を聞き、血の気が引く感覚を覚えた。
「くッ……やられた……!! そういうことだったのか……!!」
バギー海賊団によるマリージョア襲撃はフェイク、海軍及び天竜人の注意を引きつけるための罠でしかなかった。五年前のマリージョア襲撃もこのための布石だったのかはわからないが、とにかく彼らの目的は別にあった。
彼らの真の目的地は──
巨大な海王類が大量に生息し、一切の風が吹かない海を凪の海という。ただでさえ通常の船では航海が不可能なその海に、正義の門という政府の所有する巨大な開閉扉がある。これが開かれる時に生じるタライ海流に乗ることにより、政府の三つの重要機関に行き着くことが出来る。海軍本部、エニエスロビー、そしてもう一つが海底監獄インペルダウン。
その警備体制の厳重さから鉄壁と称され、内部には拷問室や処刑台が立ち並び、世界中で暴れ回った凶悪な囚人達がひしめき合っている。
中には起こした事件が凶悪すぎて存在を抹消された者もおり、鬼の跡目、赤の伯爵、過去にはかのロジャー海賊団と渡り合った金獅子のシキも収監されていた。
囚人達が閉じ込められているフロアは地下一階から地下六階まで分けられており、順にLEVEL1からLEVEL6までランク付けされている。危険度の高い囚人ほど下の階に収容され、過酷な拷問を受けることになる。
「ん? あれは……?」
そんな鉄壁の監獄にその日、亀裂が走ることになる。初めに異変を察知したのは外門を見張っていた警備の者だった。霧に隠れて遮られる視界の奥から、船のような影がこちらに向かって飛来してきていた。
「まさか……!?」
近づくにつれて明らかになってくる正体に気づいた彼は冷や汗を流す。近づいてきたそれは海賊船。それも新世界に居を構える大海賊、バギー海賊団の海賊旗を掲げていたからだ。
「て、敵襲!! 敵襲です!! バギー海賊団の船が……そ、空から……!!」
「あはは♪ 陽動作戦も成功したみたいだし、後はここを落とすだけだね!!」
「ぎゃははは!! 見やがれ世界よ!! このおれ様、千両道化のバギーをな!!」
「ま、マゼラン署長に連絡を……ぎゃあ〜〜〜!!?」
船から降り立つバギー海賊団の船員達。幹部格もほぼ全員確認され、それぞれが億を超える懸賞金を懸けられた強者達だ。
「まったく……本当にインペルダウンを襲撃するなんてね。ミズキの考えることはいつも型破りだね」
「ですが海軍本部の精鋭達はマリージョアにおびき寄せることが出来ました。狙うなら今です」
「さァ、強い人からかかってらっしゃい!! 私が相手よ!!」
入口の扉を破壊し、バギー海賊団がインペルダウン内部になだれ込む。当然看守達は抵抗し、バギー海賊団の侵攻を防ごうとするが多勢に無勢、入口付近にいた看守だけではバギー海賊団を止めることなど出来ない。
「マゼラン署長! マゼラン署長! 一大事です署長!」
その知らせはすぐにLEVEL4にある監獄署長室に伝えられた。監獄署長マゼラン、インペルダウンを統べる地獄の支配者にしてドクドクの実の能力者。その実力は大将にも匹敵すると噂されるほどの実力者だ。
「あ〜〜どうした? このおれの戦いを遮るなら相応の要件なんだろうな?」
「襲撃です! 敵はバギー海賊団! 空飛ぶ船でこのインペルダウンの上空に現れ、既に入口付近の看守は全滅です!」
「……何!? それは本当か!!」
日課の下痢を終え、腹を押さえてトイレから出てきたマゼランにその報告が伝えられた。彼はそれを聞き、驚くがすぐに思考を巡らせた。
「海軍本部への報告を急げ! 看守をLEVEL1に集め迎え撃つ! シリュウはどうした!?」
「現在LEVEL6におられるかと! 海軍本部へは報告済みですが……大将並びに精鋭はマリージョアに向かっており、すぐには駆けつけられないと……」
「ッッ……そこまで奴らの作戦の内というわけか……」
数時間前にマリージョアがバギー海賊団に襲撃を受けているという報告は聞いていた。どうやったかはわからないがそれはブラフであり、真の狙いはこのインペルダウンだったという訳だ。現にバギー海賊団はこの場に現れている。
「奴らの狙いは囚人の解放のはずだ、牢の鍵を全て破壊しろ! 奴らに奪われることだけはあってはならん!」
「し、しかしそれでは……」
「早く行け! インペルダウンの歴史上最大の危機だ! おれもLEVEL1に向かう!」
海賊が態々監獄を襲撃する理由は一つ、囚人を解放し戦力を強化すること。ならばまずは囚人を解放されないように鍵を破壊するのが最も有効な対処だろう。
「もう一度言うがこれはインペルダウン発足史上最大の危機! 全員速やかに対処し、奴らを止めろ!」
「はっ……はい……!!」
厳格に、そして的確に指示を出し襲撃者に対処する。しかしバギー海賊団は四皇に準ずる実力のある海賊団と称される。海軍本部からの増援も期待出来ない現状で止めるのは至難の業だとマゼランは理解している。だがだからと言って何もしない訳にはいかない。市民の安全を守るために、そして監獄署長としての責務を果たすために彼はLEVEL1へと向かっていった。
「うぉぉぉぉ〜〜!! 自由だ!! おれ達は自由なんだ!!」
「ありがとうキャプテン・バギー!!」
「ギャ〜〜ハハハハハ!!! そうだ、暴れろてめェら!! このクソみてェな地獄に今までの借りを返してやれ!!」
しかし既に暴動は起こっていた。牢の鍵は全て破壊したはず、だがLEVEL1の牢屋の錠、そして囚人につけられた錠の鍵は全て外されていた。
「ど、どうして……なぜ鍵も無しに牢屋の錠が開けられるんだ……!?」
「よォしてめェら、向かうはLEVEL2だ!! 囚われの同士達を解放してやれ!!」
「ウォォォォォ!!!!」
「早く増援を……と、とても止めきれな……ぎゃあああああ〜〜!!?」
その日、地獄の門は破壊された。