「や、奴らを止めろ!! ブルゴリはまだか!?」
「どうして牢屋の鍵が……!?」
鉄壁の海底監獄インペルダウン、そこは今混乱の最中にあった。既にLEVEL1の囚人のほとんどが解放され、バギー海賊団に合流している。
「おれ達の救世主!! キャプテン・バギーに続け!!」
「よくもひでェ拷問にかけてくれたな!!」
牢屋から開放された囚人達は今までの恨みを晴らすため、看守達に襲いかかる。LEVEL1とはいえインペルダウンに収容される程の悪党だ。一人一人が少なくとも懸賞金を懸けられる実力は有していた。
「……!? ぶべェ〜〜!!?」
「ありゃあ……ブルゴリだ……!!」
しかしそんな彼らが恐れる海の格闘家がいた。インペルダウンで飼育されているブルーゴリラ、通称ブルゴリ。本来は海に生息している生物だが、このインペルダウンでは囚人を抑制する戦力として使用されている。その強さは並ではなく、LEVEL1の囚人では歯が立たない。
「に、逃げろ〜〜!? ブルゴリに狙われちゃあ命がねェぞ!!」
「……あれが海の格闘家と呼ばれるブルゴリか」
自分らを捕縛しようと向かってくるブルゴリに適わず、囚人達は悲鳴を上げる。だがそれはあくまで囚人達に限った話だ。バギー海賊団の船員達は両刃斧を振り回し襲い来る巨体にも怯まず進行する。
「イェ〜〜ス!!」
「……危ねェ……!?」
十体以上のブルゴリに向かっていった巨体の男。彼はブルゴリの斧を顔面に強打され血を流し顔を顰めるが、しかしその顔はみるみる幸福そうな表情へと変わっていった。
「う〜〜!! 気持ィ〜〜!!」
『え〜〜〜!!?』
幸せそうな雄叫びを上げ、周囲をドン引きさせた大男はダイス。元は裏世界の格闘チャンピオンだったが、世界一危険と言われるデスマッチショーですら無敗を誇った実力者だ。その強さをミズキとテゾーロに見込まれ、スカウトされてバギー海賊団に加入した経歴があった。そして彼は、重度のドMだった。
「だがァ!! ミズキさんの一撃に比べりゃ物足りないねェ!! もっともっと……強ェのくれよォ!!」
「すげェ!! さすがキャプテン・バギーの一味だ!!」
「あれと一緒にされるのは心外だな……」
ブルゴリを薙ぎ倒し進撃するダイスに囚人達が羨望の眼差しを向ける。だが他の船員達からしたらあんな変態と一緒にされるのは避けたいことだ。それをカバジが誰に聞こえるでもなく呟いた。
「おい兄弟達! こいつを使いな!」
「……これは!?」
「お嬢特製の魔法武器だ! こいつならあんなゴリラにゃ負けねェぜ!」
ブルゴリに苦戦する囚人達を見かねて、バギー海賊団の船員から武器が渡された。ミズキが魔法を込めた特製の武器であり、バギー海賊団の基本装備ではあるがその威力は絶大だ。剣、銃、槍と種類は様々だがそれぞれに各種魔法が仕込まれていた。
「すげェ……!! こいつがあればブルゴリも怖かねェ!!」
「ありがとう!! お嬢!!」
「あはは♪ さァ、どんどん進もう!!」
LEVEL1の囚人は全て解放し、進行する先頭集団の目の前にはLEVEL2へと進む階段への扉が見えていた。だが彼らを止めようと、数十体のブルゴリと看守が待ち構えている。
「来たぞ!! 絶対にLEVEL2には行かせるな!!」
「ここは私にお任せを……!」
そう言って飛び出したのはギルド・テゾーロ。元奴隷という経歴を持つ彼は今やバギー海賊団でも幹部という地位を手に入れていた。ゴルゴルの実の能力を使用し、その力を奮う。
「
黄金を纏った拳でブルゴリを殴りつけ、更には余波で周囲の看守も吹き飛ばした。彼の実力は四皇幹部にも匹敵するもの、ブルゴリ程度に止められる理由はなかった。
「これでLEVEL1は制圧だね。それじゃあ作戦通りここからは二手に分かれようか。タナカさん!」
「するるるる……わかっております。ボトムレス・ヘル!! 」
ヌケヌケの実の能力者、タナカさんにミズキが指示を出し彼がその能力で床に穴を開ける。
「じゃあバギー、そっちは任せたからね。ギャルディーノが作った鍵、持って行って」
「おう、手筈通りLEVEL3で合流だな!」
タナカさんが開けた穴を利用してバギー、テゾーロ、ギオンらが一足先に下へと降りていく。本来であれば階段を使用し一階ずつ降りていかなければならないが、タナカさんの能力を利用すれば一気に降りることが可能だ。
「行くぞ野郎共!! 一気にLEVEL5だ!!」
『おおおおおお!!』
二手に分かれてインペルダウンの上層と下層から同時に攻め立てる。これがバギー海賊団が立案した作戦だった。それを実行に移すため、半数はタナカさんの開けた穴から下へと降りていく。
「さて、ボクらは階段から降りてLEVEL2へ行くよ!」
『はい!』
ここまでは作戦通り、順調そのものだ。しかしこれより下はそう簡単にはいかないだろう。LEVEL2から複数の強力な気配を感じる。その中の一つは特別強く大将にも匹敵するかもしれない。
多少の懸念がありながらも、ミズキ達はLEVEL2へと到達した。
「出ろ兄弟!! キャプテン・バギーに感謝しな!!」
「うォ! 解放してくれんのかよ!」
インペルダウンLEVEL2、LEVEL1よりも強力な囚人が閉じ込められており、懸賞金3000万以上の実力者が多いエリアだ。
だがその分、警備も厳重だ。このエリアに解き放たれているのは爆発するサソリ、パズルサソリや人の顔を持つ人食いライオンマンティコラなどの凶暴な生物達だ。
「カギ……カギヲヨコセ……!」
「フンドシ……イチゴパンティ……!」
「アホな言葉仕込まれてやがる!!? だが強ェ……!!」
囚人達になにやら変な言葉を仕込まれているが、その力は本物。囚人達は苦戦を強いられる。しかしバギー海賊団がそれを対策していないはずはなかった。
「モージ! 手筈通りね!」
「お任せを! き〜び〜だんごっ!」
モージが自身の頬をつねり取り、それを団子状の球体へと変化させる。そしてそれを、猛獣達の口の中へと放り投げた。キビキビの実、ミズキがワノ国で見つけた悪魔の実であり、その能力はモージへと渡っていた。
「さァ行けお前達、看守共を蹴散らすのだ!」
「フンドシ……クマサンオパンツ……!!」
「うわァァァ!!? なぜマンティコラが!?」
モージのきびだんごを食べたマンティコラやサソリ達は彼の号令で看守達を襲い始めた。キビキビの実の能力によって生み出されたきびだんごは、食べた動物を従えることが出来る。猛獣を警備の一環として採用しているインペルダウンには天敵とも言える能力だった。
「……!!? なんだあの化け物は……!!」
「でけェ!? ライオン……いやおっさんか……!!」
LEVEL3へと続く階段、そこを守る超巨大羽毛人面ライオンスフィンクス。天井まで届く程の巨体が階段への扉を塞いでいた。
「アーメン……」
『アーメン……!!?』
「ソーメン!! チャーシューメン!!」
『麺類中心に覚えさせられとる!!?』
その巨体から繰り出されるパンチは一撃が床にヒビを入れる強さだ。LEVEL1や2の囚人ではとても太刀打ちできないだろう。
「しょうがないなァ……ちょっと寝ててもらうよ!」
「ヴォグルヴェァァァ〜〜!!?」
だがそれも新世界の強者には通用しない。飛び上がったミズキの覇王色の覇気を纏った拳一発で、スフィンクスはあっけなく意識を失った。
「さすがお嬢!! あの怪物を一撃で!!」
「すげェ!! これが副船長の実力か!!」
ミズキの強さにバギー海賊団の船員達は改めて尊敬の意を表し、囚人達は驚きの声を上げた。階段の門番を倒したことにより、LEVEL3への道が開かれた。いいペースだ、このままいけば予定通り海軍の援軍が到着する前に事を終わらせられるだろう。
「……!!? 危ない!!」
「へ? ……ぎゃああああああ〜〜!!?」
ミズキが何かを感じとり叫ぶがすでに遅く、階段の下から紫色の液体が囚人達を包んだ。それに身体を包まれた囚人達は苦しみだし、床をのたうち回る。
「ぐ……ぐるじぃ……!! 全身がいでェ……!!」
「……思ったより早いけど……お出ましみたいだね」
囚人達を襲ったのは、毒液。それもかなり強力であり、触るだけで相当な苦痛をもたらすものだった。そんなことが出来るのは一人しかいない、ミズキはその相手を鋭く睨みつけた。
「そこまでだ、侵入者共!」
「ま、マゼランだァァァ〜〜!!?」
監獄署長マゼラン、ドクドクの実の能力者にして大将にも匹敵する実力者が、騒動を抑えるためにミズキ達の前に立ち塞がった。
「ふ〜ん……署長自ら出てくるなんて、よっぽど焦ってるみたいだね」
「図に乗るなよ“宵魔女ミズキ”貴様らの目的はわかっている。これ以上インペルダウンの顔に泥を塗る真似はさせない!」
「ルナリア! ギャルディーノ! 皆を連れて先に進んで! マゼランはボクに任せておいてよ!」
「お兄様……承知しました」
「了解だガネ!」
マゼランの脅威をよく知るミズキは仲間を先に進ませて一人マゼランを止めるために立ち向かった。ミズキの実力は今や四皇に差し迫るほど、しかし決して舐めてかかれる相手ではない。
「行かせると思うか?」
「!!?」
だが易々とルナリア達の進行を許すほどマゼランはやわではない。毒液を彼らの方に放って阻止しようとする。
「ギャルディーノ!!」
「わかっているガネ! キャンドル
マゼランの毒液を、突如発生した蝋の壁が防いだ。まさか止められるとは思っていなかったのか、マゼランは眉間に皺を寄せた。
「うォォォォォ! 惚れ直したぜ3兄さん!」
「……蝋か」
「いかにも……私はドルドルの実のろうそく人間。鉄の硬度のこの蝋の壁、毒液など通しはしないガネ!」
沸き立つギャラリーを他所にマゼランがギャルディーノの能力を分析し、彼はそれを肯定した。どんな強力な能力にも相性というものがあり、不利な相手では十分な力を発揮することは出来ない。どうやら相性という一点においてはドルドルの実の方が勝っているようだった。
「さァ、今のうちに階段を降りるガネ!!」
「そうはさせん…………!!?」
「ボクのこと忘れないでよね!!」
LEVEL3へ降りようとするバギー海賊団を止めようとなおも動くマゼラン。しかし背後からミズキの斬撃を受け、立ち止まらざるを得なかった。腕に覇気を込めて防御はしたものの、ミズキはマゼランとて容易に倒せる相手ではなく、全力を出さなければ一瞬でやられてしまうだろう。
「足止めか……くだらん真似を……!」
「足止め……何か勘違いしてない? 君程度がボクに勝てるとでも思ってる?」
「勝てる勝てないの話ではない……世界の平穏を守るために、貴様はここで処刑する……!」
四皇に匹敵する程の実力者、ミズキの言う通り勝ち目が薄いことはマゼランも強く理解していた。だが少なくとも、こいつは生かしておいていいはずがない。互いの信念の元、彼らは拳をぶつけあった。
♦♦♦♦♦
──LEVEL3。
ミズキがマゼランを止めたおかげで、少ない犠牲で下の階層へと降りることに成功したバギー海賊団。LEVEL3の囚人達も順調に解放していく彼らの前に、別の脅威が迫っていた。
「あ……熱い……このフロアは私には地獄だガネ……」
「情けない男ですね、しっかりしてください」
「ね……年がら年中燃えているお前に言われたくないガネ……」
ろうそくの能力者であるギャルディーノにとって、灼熱のフロアであるこのLEVEL3は辛いものがあるようだ。尤も、このフロアは下に比べればまだ可愛いものなのだが。
「……!? ……強い気配が複数、こっちに向かってきてる」
「確かに……この気配は……」
接近してくるなにかの気配に気づき、ヤマトがそちらの方角に意識を向けた。その言葉でルナリアや見聞色の覇気を扱える者もそれに気づき、警戒を強める。
「この揺れは……!」
「あ、あいつら……!!」
地響きと共に現れたのは巨大な獣人。牛、コアラ、シマウマ、サイの特徴を持った、4m~5m程の体躯を誇る怪物がバギー海賊団を止めるためにLEVEL3に集結していた。
「獄卒獣だァァァ〜〜!!?」
「4人もいるぞ!?」
「ダメだ強すぎる!! 逃げろ〜〜!!?」
その巨体で武器を振るい囚人達を叩きのめす。その実力はLEVEL3の囚人でも容易に叩き潰す程だ。
「覚醒した
「まったく……貧弱なのも困りものですね」
獄卒獣の正体、それを動物系の覚醒だと見抜いたヤマトが厄介だと苦言を呈した。次々にやられる囚人や部下を見て、ルナリアは僅かに顔を顰める。これ以上数を減らされては面倒だと。
「ヤマト、行きますよ!」
「ああ!!」
故にヤマトは金棒を構え、ルナリアは身体を雪に変え、そして背中の炎を腕に纏わせて獄卒獣に向かって行った。
「
「
ヤマトとルナリアの一撃が獄卒獣を吹き飛ばし、KOさせる。いくらタフネスに特化した動物系の覚醒者だったとしても、圧倒的な力を持った実力者の攻撃に耐えられる道理はなかった。
『えええええ〜〜!!?』
「獄卒獣が全員……一瞬で……!!?」
頼みの綱だった獄卒獣を倒され、看守達は驚き絶望の表情を浮かべる。マゼランはミズキに止められ、獄卒獣は一瞬で倒されてしまった。もはやバギー海賊団を止める手段はないに等しい。
「こ、こんな奴らどうやって止めればいいんだ!?」
「怯むな!! これ以上囚人を解放させるわけにはいかない!」
しかしそれでも彼らはバギー海賊団に向かっていった。極悪な囚人を世に解き放ってはこの世界は地獄になる。それを阻止するために。
♦♦♦♦♦
「おい! 上で何が起きてる!」
「脱獄か!? 面白ェ! おれも出しやがれ!」
「うるせェな……ゴミ共が……」
──LEVEL6。
一般には知られていないその最下層のエリアには、起こした事件が残虐すぎて表向きには公表できないような凶悪犯のみが収監されていた。通称無限地獄、その場所に一人退屈そうな顔をしているのが看守長のシリュウだ。
「マゼランの野郎……LEVEL6の護衛なんてつまらねェ仕事よこしやがって」
バギー海賊団が攻めてきたとの報告を聞いた時、シリュウは喜んだ。つまらない日常に飽き飽きしていた彼にとって、襲撃者や逃げた囚人を斬れるのは何にも代え難い娯楽だった。
しかし実際はマゼランの指示によりこの無限地獄の警備に回された。LEVEL6の囚人など一人逃げただけで世界に対する影響は絶大だ。故にここを死守するためにマゼランと同等の実力を持つシリュウを配置するのは当然とも言えた。だがそれはあくまで理屈の話、シリュウ本人は納得などしていなかった。
「シリュウ看守長……!! LEVEL5の看守から連絡があり……バギー海賊団が天井に穴を開け一気にLEVEL5に到達したとのことです……!!」
「……そうか、面白ェじゃねェか……」
「……看守長?」
その報告を聞き、シリュウは笑みを浮かべた。自分から来てくれるのなら好都合だ、マゼランに言われたのはここの護衛だが、そんなことはどうでもいいと。
『ぎゃああああ〜〜!!?』
「斬捨て御免……」
ついてきていた数人の部下を斬り伏せ、シリュウはLEVEL5へと続く階段に向けて歩いていく。
「LEVEL4にハンニャバルがいたか……奴らを止められるとも思えねェが……獲物は取らせねェぞ……」
久しぶりの血の匂い、そして強者を斬ることができるという事実が、彼になんとも言えない高揚感、そして快感を与えるのだった。