転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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LEVEL6

 

 

 ──海底監獄インペルダウン。

 

 そこは今、大パニックに陥っていた。突如襲来したバギー海賊団によって看守はほぼ全滅、警備のために飼っていた猛獣達も能力者によって奪われ、もはや残った戦力は監獄署長のマゼランと看守長のシリュウの二人のみだった。

 そしてLEVEL5、極寒の拷問が行われるその場所でシリュウとバギー海賊団が対面していた。

 

「……お前が“千両道化のバギー”か……」

 

「ああ? 誰だおめェは……ヘックション!! さみィなここは……!!」

 

「おい、キャプテン・バギーに今すぐ防寒着を!」

 

「はっ!」

 

 興味深そうにバギーを睨みつけるシリュウ。彼の正体を知らないバギーは怪訝な表情を浮かべるが、寒さに震えてそれどころではないようだ。そんな彼を見かねてか、テゾーロが部下に上着を持ってくるように指示した。

 

「キャプテン・バギー!! LEVEL5の囚人達の解放、完了致しました!」

 

「そうか……よし、テゾーロ! おめェはそいつら連れてLEVEL4に上がれ。ミズキ達とLEVEL3で落ち合って脱出だ!」

 

「……!! ……承知しました……!」

 

 明らかな実力者の出現、そして彼の得物が腰に帯刀している刀だということを確認してバギーはテゾーロに指示を出す。彼とて伊達に長年海賊をやっている訳では無い。見聞色の覇気を使用出来ずとも、相手の実力くらいはある程度見分けることが出来る。シリュウは確かに実力者だろうが、バギーはバラバラの実の能力者だ。斬撃は無効であり、剣士であるシリュウに負ける道理は無い。

 

「逃げたか……まァいいだろう。用があるのはお前だけだ」

 

 言うがいなや一閃。シリュウの刀がバギーの身体を真っ二つに斬り裂いた。常人であれば大量の血を流し、即死に至るだろう。だがバラバラの実の能力の前には、シリュウの実力は無駄だった。

 

「ぎゃはははは!! ハデ馬鹿め!! おれに斬撃は効かねェぜ!!」

 

「……なるほど、それが噂に聞くバラバラの実の能力か……」

 

 バギーの能力を確認し、シリュウは僅かに警戒を強めた。どうやら噂通りバギーに斬撃は効かないらしい。だとしたら剣士である自身は得物を封印して戦わなければならない。厳しい戦いになるだろう。

 

「……!!?」

 

 その時、頭上に気配を感じてシリュウは後方に回避した。彼のいた場所を雷が撃ち抜き、凍りついていた床は黒焦げになった。

 

「……お前は」

 

「あはは♪ いいね、今のを避けれる人は中々いないよ!」

 

 シリュウが頭上に視線を向けるとそこにいたのはピンク色の髪をポニーテールに束ねた可愛らしい少女。いや、噂通りであれば少年だろう。その顔をシリュウもよく知っている。何せその少年こそがバギー海賊団の副船長、宵魔女なのだから。

 

「……マゼランはどうした?」

 

「ん? 今頃寝てるんじゃない? 聞いてた通りかなり強かったよ、ちょっと本気になっちゃった」

 

 宵魔女はマゼランと戦闘中だったはず、それが今この場にいるということは勝ったか逃げたか。確認するように問いかけると、ミズキは笑いながらあっけらかんと答えた。よく見れば彼の身体には幾つか傷跡があり、激しい戦いの後だということが想像出来た。

 

「まァボクに毒は効かないから、相性が悪かったね」

 

「……!! そうか……」

 

 刀を構え、警戒態勢に入る。ただでさえ相性の悪い千両道化。そこに四皇に匹敵すると言われる宵魔女がいればシリュウに勝ち目などなかった。だがここは海底の監獄、逃げ場などない。故シリュウには迎え撃つという選択肢しかないのだ。

 

「ねェ“雨のシリュウ”、ボク達と来ない?」

 

「……なに?」

 

 ミズキの口から出た言葉は勧誘。それにシリュウは驚き、思わず体勢を緩めた。そんな彼の反応を楽しむかのようにミズキは笑みを浮かべ、続けて言葉を紡ぐ。

 

「君もこんなところで看守やるのも飽き飽きしてるでしょ? ボク達と来れば戦いには事欠かないし、好きなだけ敵を斬れるよ」

 

 ミズキの提案はシリュウにとって魅力的なものだった。確かにこんな閉鎖的な空間にいることを窮屈に感じていたのは事実で、囚人を斬って憂さ晴らしはしていたがストレスを溜め込んでいた。

 

「……確かに、海賊になっちまえば斬る敵には困らねェだろうな。ここに居てもおれの未来は見据えてる」

 

「ぎゃはははは! そうだシリュウ! おれ様の海賊団に入れ!」

 

「だが……そっちはおれを信用出来ねェだろう?」

 

 ミズキの提案を受けるメリット、それをシリュウも肯定しバギーが更に自身の海賊団に入ることを促した。だがシリュウには懸念するべき問題がある、葉巻を吹かしながら彼はそれを口にした。

 

「う〜ん、それはそうだけど……別に君が裏切ったところでボクらには勝てないし」

 

「……はっきり言いやがる」

 

 そう言い切るミズキにシリュウは僅かに青筋を立てるが、彼の言うことに間違いはない。相性の最悪なバギーは元より、ミズキもマゼランを倒しここに現れた。つまり彼と同格と言われるシリュウはミズキに勝てない。感じる覇気からも、それは明らかだった。

 

「……ならさ、こういうのはどう? これならボクらも君を信用出来るでしょ?」

 

 そこでミズキの口からとある提案が語られた。それは確かに彼らがシリュウを信用するには十分なことであり、またシリュウも望むところだった。

 

「いいだろう、やってやる」

 

「OK〜期待してるよ。それじゃバギー、ボクらも行こうか……LEVEL6に……!」

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 ──LEVEL6。

 

 静寂が場を包み、聞こえてくるのは囚人達の吐息のみ。捕らえられているのは誰もが政府に存在を消されるほどの凶悪犯。そんなLEVEL6に、彼の声は響いた。

 

「ごきげんよう! 暗い檻の中で一生を終えるであろう夢なき囚人共!」

 

「……ああ?」

 

 突如現れた男女のうち鼻の赤い男の方がそう叫んだ。囚人達は突然の出来事に興味を持ち、一様に彼を睨んだ。

 

「おれ様は“千両道化のバギー”!! どうだおめェら、そんな檻の中にいても退屈だろう!! おれ様の部下になるならシャバに連れ出してやる!!」

 

「マジかよおめェ! よし、おれを出せ! ここを出られるなら部下にでもなんでもなってやる!」

 

「おれもだ! 自由になれるなら喜んで部下になるぜ!」

 

 歓喜の声が薄暗いフロアに響く。LEVEL6の囚人といえど、全員が高いプライドを持っているわけではない。無限の退屈から解放されるなら部下にでもなるという者も一定数いるようだ。もっとも、他のフロアに比べればバギーの言葉に耳を傾ける者が少ないのも事実だが。

 

「カハハハハ……面白ェ、随分出世したようだな。赤っ鼻ァ……」

 

「だァれが赤っ鼻じゃァ……!! ……おめェは……バレット……!!?」

 

 数ある檻の中の一つから、乾いた笑い声が聞こえてきた。その声が発した赤っ鼻という禁句に反応し、バギーが檻に突進し鉄格子を掴み怒るが、声の主の正体を知り後ずさった。

 

「おめェみたいな雑魚がシャバじゃ調子に乗ってるみてェだな。まァいい、まずはおれを出せ」

 

「誰が出すか! おめェみてェな危ねェ野郎を解放したら命がいくつあっても足りねェよ!」

 

 ダグラス・バレット。元ロジャー海賊団の船員であり、副船長レイリーと同等の実力を有していた怪物だ。その思想も危険そのものであり、目標として定めていたロジャーの死後に大暴れを繰り返し、バスターコールにて捕らえられこのインペルダウンに投獄された。

 

「いいよ〜、出してあげる」

 

 しかしミズキはそれを知りながら、嬉々としてバレットの入っていた檻の鍵を開けた。バレットはニヤリと笑い、ゆっくりと檻から外に出た。

 

「ぎゃあ〜〜〜!!? おめェ何やってんだ!?」

 

「あはは♪ こっちの方が面白いじゃん! それに……」

 

 ミズキがそこまで言った瞬間、彼らの視界にバレットの拳が目にも止まらぬ速度で迫ってきていた。

 

「……血の気が多いね……!」

 

「カハハハハ! やるじゃねェか!」

 

 武装色の覇気を短剣に纏わせ、自身の拳を受け止めたミズキの実力を知りバレットは嬉々として笑みを浮かべた。監獄内とはいえ、シャバの情報はある程度耳に入ってくる。特にLEVEL6ではあらゆるツテを使い新聞などを入手する者もおり、情報の入手は容易だった。

 

「面白ェ……四皇とやりあった実力を見せてもらおうか。そこの雑魚共じゃ物足りねェと思っていたところだ……!」

 

 故にバレットはミズキのことを知っており、その実力が本物であることを喜んだ。そして彼の背後、チラリと向けた視線の先の彼が捕らえられていた檻の中にはおびただしい数の死体が転がっていた。LEVEL6クラスの囚人、それでもバレットを満足させることの出来る者は少なくとも同室にはいなかったようだ。

 

「……一応聞くけど、ボクらと来る気はないよね?」

 

「赤っ鼻の部下なんて死んでも御免だ。そうでなくとも、おれは誰の部下にもならねェ……おれは一人で……世界最強を目指す!!」

 

 そう、バレットの目指すは世界最強。目標であったロジャーは死んでも、彼の目的は変わることは無い。たった一人で四皇を、政府を倒し真の世界最強を得るために彼はこのインペルダウンの拷問の中で修行を繰り返した。その成果を試すのに、目の前の相手はちょうど良かった。

 

「あっそ、じゃあ死んでもらおうかな……! ガト〜〜死光羅(ショコラ)!!! 

 

 ミズキの構えた短剣の先からエネルギー波が放たれる。その威力は四皇の幹部でさえダメージを免れない程強力だ。それを挨拶代わりと言わんばかりにバレットに向けて放つ。

 

「そんなもんか……! なめんじゃねぇぞ“宵魔女”!」

 

「!!!」

 

 しかしそれをバレットは紙一重で回避した。そしてその圧倒的脚力で跳躍し、一瞬でミズキに接近して彼の腹に拳を叩き込んだ。

 

「……ッッ……!!」

 

 バレットの動きはミズキの想像を超えていた。パンチの重みもそうであり、武装色で防御したとはいえ少なくない痛みを受けてミズキは腹を押さえた。

 

「どうした!? 四皇とやりあったって実力はこんなもんか!!?」

 

「やってくれるじゃん!」

 

 容赦のないバレットは続け様にラッシュを繰り出し、ミズキはそれを受け後退する。短剣で何とか防いではいるものの、防戦一方といった状況だ。それだけにバレットの実力は高く、ミズキの予想の遥か上をいっていた。

 

「おいおい、アンタの連れやべェぞ……!」

 

「ああ、バレットの野郎はイカれてやがる! 殺されるぞ!」

 

 自身の部下になると言った者達を、バギーは解放して回る。檻の外に出た囚人達はバレットとミズキの戦いを見て震えた。そしてバレットの強さと残虐性をよく知っている彼らはミズキが敗北すると考えバギーに忠告した。

 

「へ、確かにバレットは強ェ……だがおれの相棒はもっと強ェぞ」

 

 しかしバギーはそれを否定し、ミズキが勝つと言いきった。十数年にわたり自分を支え続けてきた副船長。普段の態度には出さないが、バギーからミズキに寄せられた信頼は強固なものだった。

 

「そんなもんか“宵魔女”……!! これじゃあ一瞬で終わっちまうぜ!!」

 

 押しているのはバレット。殴られ、蹴られ、そして叩きつけられミズキの身体に無数の傷が増えていく。体格差は元より、武装色も見聞色も自身の方が上だとバレットは確信した。

 

「うぐッッ……!!」

 

「カハハハハハ!!」

 

 ラッシュの最後、腹に強烈な一撃を受けてミズキは吹き飛ばされる。壁に激突し砂埃が巻き起こり、そんな中ミズキはフラフラと立ち上がった。

 

「これで終わりだ!!」

 

 トドメの一撃。ミズキに急接近して今までで一番の武装色の覇気を纏わせた拳を彼に振るう。ラッシュを受け続けフラフラのチビ一人、これで倒せないはずがない。自分の実力に絶対の自信を持つからこその一撃だった。

 

「!!?」

 

 しかし、その拳は受け止められた。立つのもやっとだったはずのミズキはその華奢な腕でバレットの拳を止め、彼がどれだけ拳を動かそうとしてもビクともしない。見ればミズキの姿は変化しており、髪は伸び薄紫の翼が生え、そして悪魔のような尻尾まで生えていた。

 

「……遊びはここまでだよ」

 

「……ガハッッ……!!?」

 

 顎をアッパーで殴られ、バレットは吐血し吹き飛ばされる。だが意識を失うほどではない、すぐさま体勢を立て直し反撃の一手に出る。そう思考した瞬間、目の前にミズキの影が現れた。

 

「!!!」

 

 今度は上からかかと落としで叩き落とされ、バレットは地面にその巨体を打ち付けられる。そして次の瞬間には蹴り上げられ、今度は天井に激突した。そのバレットにミズキはすぐさま追いつき横から顔面に強烈なパンチをおみまいする。そこからのバレットはまさにピンポン玉状態。殴られて吹き飛ばされ、蹴られて地面に叩きつけられ、お返しと言わんばかりのミズキの猛攻を彼は防御も回避する間もなく受けるしかなかった。

 

「……き……さまァ……!」

 

 何十回と攻撃を受け続け、ようやくバレットは地面に叩きつけられた。だが戦意はまだ失っておらず、恨みの籠った眼差しをミズキに突き刺す。

 

「まったく……雑魚が調子に乗らないでよね」

 

 堕天状態(ロストモード)。悪魔の実の覚醒を使用したそのミズキの変身を目の当たりにして、バレットは身震いした。このような感覚はロジャーに敗北した時以来だ。

 

「おれが……雑魚だと……!? ……ふざけるなァァァ!!!」

 

 雑魚だと吐き捨てられたことにバレットは激高し、全身の骨が折れているのも厭わずミズキに突進し拳を突き立てる。しかしそんな決死の攻撃も、変身したミズキには通用しない。彼の拳は片手で容易に受け止められ、返しのカウンターパンチでバレットの意識は失われた。

 

「まァ能力も使ってなかったしこんなものかな。今度やる時はお互いに本気を出せるといいね」

 

 互いにまだ本気ではなかった。だがやはり現時点の実力ではミズキが圧倒的に優勢のようだ。少なくとも、ミズキの魔法をほとんど引き出せなかった時点でバレットの敗北は確定していたようなものだった。

 

「お、おいマジか……バレットの野郎を倒しやがったぞ……!!」

 

 彼らの戦いを見ていた檻の中の囚人達からそのような驚きの声が上がる。いくらLEVEL6といえどバレットに勝てる者は少なく、多くの者はミズキの実力を目の当たりにして驚きを隠せなかったのだ。

 

「あれで副船長!? だったら船長の実力はどれほどなんだ!?」

 

「おれも連れて行ってくれ! アンタ達にならついていけるぜ!」

 

「おれもだ! 勝ち馬に乗るってのはこのことだ!」

 

 ミズキの強さを見て、多くの者がバギー達について行く意思を示した。ミズキが態々バレットを解放したのはこれが目的、自身の実力を示して囚人達の信用を得るために彼を利用したのだ。

 

「ぎゃははははは! そうだ! おれ様について来りゃ確実に勝ち馬に乗せてやるぜ!」

 

『うォォォォォォォォ!! キャプテン・バギー!!』

 

 LEVEL6のフロア内を歓声が支配した。それはインペルダウン、そして世界政府からすれば最悪の展開だった。

 

「……フン、ロジャーの船の見習いか……奴について行く選択肢など我にはないが……この騒動は利用させてもらおう」

 

 しかし全ての囚人がバギーに付き従う訳では無い。LEVEL6の中でも強者、所謂銀メダリスト達は各々の意思を口にし、それに従うように行動する。

 

「ムルンッフフ……面白いじゃない、あの可愛い子も私の好みだし……ついて行ってみようかしらねェ……」

 

「シャバか……随分懐かしいニャア」

 

「トプトプトプ……! つまらなけりゃ殺せばええ……!」

 

「……おれの乗れる船、あるのか?」

 

 それぞれの野望や意思を胸に刻み込み、世界最悪の囚人達は解き放たれた。

 

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