──インペルダウンLEVEL2。
バギー海賊団襲撃から数時間が経ち、囚人達はそのほとんどが解放されバギー海賊団に合流していた。LEVEL5から攻めていたテゾーロ達も合流し、騒動は更に加速していく。
「ぐッッ……ここから先は……一歩も行かさん!!」
「ハンニャバル副署長……!! もう立たないで……死んじまいます……!!」
殆どの看守が倒された中、残った僅かな看守達を指揮しているのは監獄副署長のハンニャバル。インペルダウンから脱出しようとするバギー海賊団をたった一人で辛くも食い止めていた。普段の勤務態度は芳しくない彼だが、いざという時の責任感と正義感は人一倍強い。しかしそれだけではどうにもならないのが現実だ。
「
「ガ……ゲボッッ……!!」
ヤマトの金棒がハンニャバルを吹き飛ばし、全身の骨という骨をズタボロにする。彼女の実力は鬼ヶ島にいた時よりも年齢による成長もあり大きく伸び、四皇の幹部にも匹敵するほどだ。そんな彼女の放つ必殺技は、ハンニャバルにはオーバーキルもいいところ。しかしそれでも彼は立ち上がった。
「ハァ……ハァ……まだまだ……!!」
「……!? ……もう立たない方がいい、死んでしまうぞ……!」
とっくに死に至ってもおかしくない程のダメージを負いながらも立ち上がるハンニャバル。それに対しヤマトは死んでしまうと忠告するが、それでも彼は引かなかった。
「なんの……お前達をここで止められるのならば……この命尽きようが本望!! 市民達の安心と安全は……私が守る!!」
「ハンニャバル副署長……!!」
「ッッ……!!」
ハンニャバルの覚悟にヤマトは歯噛みする。出来れば殺さずに済ませたかったが、相手が引かぬ以上こちらも引く訳にはいかない。
「
「ガハッッ……!!」
今度はテゾーロがハンニャバルの頭上に飛び上がり、黄金と覇気で武装した拳を叩きつける。ハンニャバルの顔が地面にめり込み、歯が折れ血反吐を吐く。
「な……なんのこれ……しき……!!」
「
「ガッッ……!!」
ハンニャバルは再び立ち上がろうとする。だがいくら強い精神力を持っていようとも、身体が追いつかなければ意味は無い。ギオンの斬撃によりダメージの限界を迎えたハンニャバルは白目を剥きながらその場に倒れた。
「ようやく倒れたかい……ものすごい執念だったね……」
倒れるハンニャバルを見据えながら、ギオンがため息交じりに呟いた。かつては彼女も彼と同じように正義感を胸に海兵として戦っていたものだ。
「……今の政府に……命を懸ける価値なんてあるのかい?」
意識ももうないハンニャバルに、そして自分自身にも問いかけるようように質問を投げかける。しかし答えなど返ってくるはずもなく、監獄の石製の壁に僅かに響くのみだった。
「ギオン姉さん、解放した囚人達は全員LEVEL1への扉前に集めまってます!」
「……よし、このまま脱出するよ!!」
邪魔する者達を全て撃破し、囚人達も全員が集結している。作戦は成功間近、後は彼らを連れて逃げるのみだ。しかし、一筋縄ではいかないのが世の常だ。彼らを阻む最後の障害は、背後から現れた。
「待て……!! 絶対に逃がさんぞ……ネズミ共!!」
「マゼラン!!?」
「
『ぎゃあ〜〜〜!!?』
背後から猛追してきたマゼランが、血濡れになりながらも囚人達を捕らえようと毒で生成した竜をけしかけてくる。そこにはハンニャバル同様に鬼気迫る覚悟が感じ取れる。
「あの野郎……!!? お嬢にやられたんじゃなかったのか!?」
「……大将に匹敵するという噂は本当のようですね」
ミズキに敗北したはずなのにも関わらず、自分達を追い込んでくるマゼランにバギー海賊団は驚愕し、ルナリアは彼の実力に対する評判が決して過大評価ではなかったと改めて認識する。そもそもマゼランは自分以外が対面した場合全力で逃走するようにミズキがキツく言っていた程の相手だ。ルナリアやヤマトならば戦闘を成立させ、足止めくらいなら出来るかもしれないがそれでも勝利の確率は低い。それをわかっていたからこそ、ミズキは出発前に部下達に何度も忠告していた。
「……くたばるんじゃないぞ……ハンニャバル。おれの後任は……お前しかいないんだ……!!」
ボロボロになり意識を失っている部下に対し、マゼランはその労をねぎらい死ぬなと言う。その言葉の真意は、覚悟。ここで自身の命を捨ててでも囚人達を食い止める。その覚悟を持って彼は全身から能力で猛毒を出現させた。
「
部下にハンニャバルを移動させ、マゼランは切り札とも言える奥の手を切った。毒液の塊で作られたドクロの巨人、それは彼の動きに連動して確実に囚人達を追い詰める。生物だけでなく無機物をも侵食する毒は盾や鎧などでは到底防ぐことなど出来ない。
「わ、私の蝋が効かないガネ……!!」
「ダメだ防げる訳がねェ……逃げろ〜〜!!?」
「ここまで来て死にたくねェよ〜〜!!?」
この場にいるのは四皇の幹部にも匹敵する実力者が数名、更に億超えも多数いるがそれでも逃げの一手しか選択肢がない。ギャルディーノの蝋やテゾーロの金で防ごうにも侵食する毒を止めることは出来ず、被害は拡大する一方だ。
「
「!!!」
ヤマトが金棒を振るい、毒の巨兵を攻撃する。衝撃波がその巨体を襲い変形させるが、直接的なダメージにはならずすぐに元の形へと戻った。自身の攻撃の効果がないことに、ヤマトは舌打ちをした。
「ちっ……!! あの巨人に攻撃しても意味はないか……!!」
「……だとしたら狙うは本体ですが……迂闊に近づけばあの毒の餌食……ですね」
マゼラン攻略に苦戦し、バギー海賊団は思うようにLEVEL1へと進めない。ここまで接近された以上誰かが足止めしないと被害が拡大するのは確実だ。だが毒の能力の前に長時間足止めするのは難しい。手詰まりになり、ルナリアは頭を悩ませる。
「鬱陶しいな……囚人共のように簡単にはやられてくれないか」
しかしマゼランもマゼランで歯痒い思いをしていた。そこらの雑魚ならともかく、バギー海賊団はレベルが高く簡単にはやられてくれない。ある程度は殺せるだろうが、全員を仕留めるのはかなり難しいだろう。
「……手こずってるようだなマゼラン。お前らしくもない」
「シリュウ……!! LEVEL6はどうなった!?」
「おっと、気をつけろよ。おれまで殺すつもりか? ……問題ない、“千両道化”は仕留めた。“宵魔女”は逃げ回ってるが時間の問題だろう」
不意に背後から声を掛けられ、マゼランが振り向いた反動で飛んできた毒液を避けながら、シリュウは現状を報告した。千両道化は捕え、宵魔女も時間の問題だと。
「そうか、ならば残りの海賊と囚人共を捕らえるぞ!」
「……ああ、そうだな……」
「……!!? うぐゥゥ……!!?」
マゼランがシリュウに声を掛け、再び敵に視線を向けた瞬間だ。不敵な笑みを浮かべながら、シリュウが彼の腹を刀で斬り裂いた。不意をつかれたマゼランは口から吐血し、その場に崩れ落ちた。
「シリュウ……!!? 貴様……!!」
「悪ィなマゼラン、おれはあっち側につかせてもらうぜ」
刀を振るい付着した血液を振り払い、シリュウはマゼランを見下ろしてそう宣言する。それを聞いた直後、マゼランは白目を剥きその意識を暗闇へと移した。
「まァそういう訳だ……おれの事は“宵魔女”から聞いているだろう?」
「ええ……どうやら本当に政府を裏切ったようですね、“雨のシリュウ”」
「ああ、よろしく頼むぜ……」
口元を緩ませながらそう言うシリュウに警戒心を抱きながらも、ミズキが言っていたこともありルナリアは彼を一応は信用する。他のメンバーも概ね同じような反応であり、多少の疑いもあれど彼を受け入れた。
「あはは♪ よくやってくれたねシリュウ!」
「……おれにとってどちらにつく方が利があるか考えただけだ」
「ぎゃはははは!! 歓迎するぜシリュウ!!」
「……ふ、お前達のような男との出会いをおれは待っていたのかもしれないな。キャプテン・バギー……」
ミズキとバギー、やるべきことを終えてこのLEVEL2に戻ってきた二人に声を掛けられ、シリュウはぶっきらぼうに返答した。
「これで目的は達成だね。海軍が来る前に船に戻って逃げよう」
バギー海賊団の目的、囚人の解放及び勧誘は大成功を収めた。LEVEL1からLEVEL5の囚人達はそのほとんどがバギーのカリスマと彼への恩義で加入を決意しており、LEVEL6の囚人も一部引き入れることに成功した。
今回の襲撃、勝者はバギー海賊団で幕を閉じることとなった。
♦♦♦♦♦
「ま…………て……!! 逃がさん……!!」
「……うるせェな」
血濡れになり、足を引きずりながらもマゼランは逃げる囚人を食い止めようとする。しかし彼はミズキとシリュウから受けた傷で死にかけの状態であり、加えて逃げ出したLEVEL6の囚人に痛めつけられもはや生きているのも不思議な状態。毒すら出せず、そんな彼にその男は止められるはずもなかった。
「てめェも“宵魔女”にやられたか……哀れだなマゼラン……!」
「ガ……!!?」
強烈な拳を腹に受け、マゼランの意識と命は暗闇の中へと吸い込まれていく。彼にトドメを刺した浅黒い肌の大男もまた傷を負っており、その傷をつけた者に対しての怒りを込めた一撃だった。
「いつか必ず殺してやる……“宵魔女”……!!」
本気のミズキにボロボロにやられながらも、生きていたバレット。鬼の跡目の異名の通りロジャーの強さを継ぐと言われたその男はミズキへの恨みを募らせ、再びシャバへと解き放たれた。
──そして同時刻、インペルダウンの正面入口前。
バギー海賊団と新たに加わった囚人達を逃がしたミズキは自身も箒を出現させ飛び去ろうとしていた。一応海軍や看守が追跡してきた時のために殿として残っていた彼だが、マリージョアで決行した陽動作戦が思った以上に上手くいっていたようで海軍が追ってくる様子もなく、また看守も全滅しており殿の必要もなかったようだ。
「なるほど。貴様……ロックスの息子か……」
「!!!」
その時背後から聞こえた声、そして頭を触られたことにミズキは驚き振り向いた。警戒のために見聞色の覇気は最大限に使用しており、油断などしていなかった。しかしその男は容易に彼の背後を取り、その場に現れたことを感知さえさせなかった。
「ビックリしたなァ……でも君なら納得だね」
しかしミズキは自身の背後を取った男の顔を見てその事実に納得した。彼の瞳に映る老人、看守室から奪ったのか黒と赤を基調としたマントや衣装を纏った男をミズキは知っていたからだ。
「“赤の伯爵”……パトリック・レッドフィールド……」
「光栄だな……話題の海賊に我の名を知ってもらっていようとは」
かつてたった一人でロジャーや白ひげと渡り合った大海賊。通称赤の伯爵、または孤高のレッド。彼の見聞色の覇気の練度、精度は凄まじく未来視は当然として触れた者の記憶すら探ることが出来る。
「で、その伯爵様がボクになんの用? バギー海賊団に入りたいなら歓迎するよ……それとも……」
「フン、今貴様と戦って勝てると思い上がる程我は馬鹿ではない。全盛の時代ならともかく、老いさらばえた今の我ではな……」
短剣を構えて警戒するミズキに、レッドフィールドは吐き捨てるように言った。全盛期の彼であれば四皇と戦っても勝機があるだろうが、今の老いた彼ではミズキの相手は難しい。
「我の興味は貴様のその能力だ。貴様は二十年近く姿が変わっていないと聞く、なにかわかればと思ったが……この世に同じ能力は二つとて存在しない。どうやら無駄足だったようだな」
「ふ〜ん……ま、ボクが死ぬまで待っててよ。どう考えてもそっちが先に死んじゃいそうだけど。伯爵様のお手を煩わせて悪かったね」
「そうでもない。ロックスの息子……その情報は面白い。あの悪魔の息子が人に仕えるとはな」
レッドフィールドが活躍していた時代、それはロックスの時代とも被る。怪物揃いのロックス海賊団にも屈せずに対抗していた一人が彼だ。
「“千両道化”にも伝えておけ……海賊王になるのは現四皇の誰でも、お前達でもない、我だ……!」
「ま、いいけど……海賊王になるのはバギーだよ」
「口の減らない男だ。まァいい……海軍が出てきては面倒だ。我はこれで失礼する」
その言葉を残し、レッドフィールドは姿を消した。ダグラス・バレットにパトリック・レッドフィールド、その他にもLEVEL6から逃げ出しバギー海賊団に入らなかった強者は大勢いる。自ら敵を増やす形となってしまったがそれならそれで戦うだけだ。
それ以上にバギー海賊団が多大な戦力を得た。これならば四皇にも引けを取らないだろう。世界政府が頭を抱える姿を想像して、ミズキはほくそ笑むのだった。