──バギー海賊団によるインペルダウン襲撃から半年後。
バギー海賊団によって引き起こされた世界一の海底監獄インペルダウンの襲撃事件。彼らによってインペルダウンに収容されていた囚人達はそのほとんどが解放され、約八割がそのままバギー海賊団に吸収された。世界政府は信用に関わるとその事実を隠蔽しようとしたが、バギー海賊団に囚人達が加入し暴れ回っていること、ダグラス・バレットやパトリック・レッドフィールド、バーンディ・ワールドなどの過去の大海賊達がシャバで目撃されたことで襲撃事件の噂は口伝いに広がっていった。
──そして新世界、カライ・バリ島。
バギー海賊団が統治するその島は活気に溢れていた。街を歩く人々の顔は一様に笑顔であり、とても海賊が治める国とは思えない。そもそも大海賊時代に突入してからというもの、海賊の数が爆発的に増えた影響で被害が増加、新世界の島々は海賊の支配下に入らなければまともな生活は送れないような状況だった。しかし海賊の支配下に下っても安泰とは言えない。法外なみかじめ料や労働力としてこき使われる若い男達、海賊達の欲を満たす為に連れていかれる若い娘達。比較的平和と言われるビッグ・マムのナワバリでさえ、彼女に寿命を差し出さなければ居住権を得ることは出来なかった。
「お、ご苦労さま。これ今月のお金ね」
街の一角にある八百屋。その店主がお金の入った封筒を渡したのは黒い球体に羽と目が一つだけついた奇妙な生物。バギー海賊団副船長であるミズキの能力によって生み出された使い魔であるその生物は封筒を不思議な力で宙に浮かせて回収して行った。八百屋が渡したのは毎月支払い義務が課せられているみかじめ料、これを支払うことでカライ・バリ島の居住権と様々な恩恵を受けることが出来る。
その辺の海賊のナワバリであればこのみかじめ料が法外な値段であり、生活が苦しくなり払えない者も出てくるだろう。しかしカライ・バリ島は違った。個人個人の収益によって適切なみかじめ料が定められ、生活に困らない程度に調整される。また何らかの原因で支払いが滞った場合も他の海賊のように殺されることはなく、過去に支払ったみかじめ料から引かれて数ヶ月は待ってもらえる。
そしてミズキの魔法やバギー海賊団の科学者による科学技術、これらが組み合わさることにより農業、工業、娯楽業問わずに利益を出すことが出来、職を失うこともそうそうありえない。このように他の海賊と比べて圧倒的に待遇は良く、故にこの島に住みたいと志願する新世界の住民は多い。
そんな栄えた街の中心にそびえ立つ巨大なテント。中には巨大な宴会場があり、そこでバギー海賊団の船員達が飲み食いをして楽しんでいた。彼らは海賊団の船員でありながら、もう一つの立場がある。それはバギー海賊団が新たに始めた事業、バギーズデリバリーの傭兵であるということだ。
簡単に言えば海賊派遣会社、報酬と引き換えに所属する海賊を傭兵として各地に送り込んでいた。このような事業を行っている者達は世界に複数いるが、バギー海賊団は実力、ネームバリューともに圧倒的。開業して早々に業界NO.1の地位を不動のものとした。
「ギオン姉さん! 今日も海賊傭兵の依頼の電伝虫が鳴りやみません!」
「そうかい……全く物騒な世の中だね。そのおかげでアタシらは甘い蜜を吸えてる訳だが」
数十匹を超える電伝虫が並べられたその部屋で、部下から報告を受けた和風のドレスを身に纏った美女は呆れながらも事業の大成功を喜んでいるようだった。
バギー海賊団クラスSS傭兵“桃兎” ギオン懸賞金7億ベリー
バギー海賊団の幹部の中でも一人を除けば最高位に位置するクラスSSに属するギオン。元は海兵であり、バギーに下る形で海賊団入りした経歴を持つ女性だ。その実力は折り紙付き、頭脳面でも優れておりバギーズデリバリーの指揮を取っているのも彼女だった。
「さて、アタシ達も一段落して宴に参加しようか」
「ホントっすか!? ギオン姉さん太っ腹っす!!」
仕事も片付いたところで、ギオン達は今宴会場で行われている宴に参加しようとする。バギー海賊団がとあることを成し遂げたのを記念する宴で幹部のほとんどが参加していた。
「あ、来たわねギオン!! 遅いわよ!!」
バギー海賊団クラスS傭兵“森の中のアップル” 懸賞金3億5000万ベリー
宴会場に足を踏み入れたギオンに手を振り呼んだのはアップル。ミンク族と人間のハーフであり、天真爛漫な性格の可愛らしい女性だ。
「ウサフフフ……悪かったね、仕事が長引いちゃってさ。もう全員揃っているのかい?」
「ええ! 皆もう楽しんでいるわよ!」
一見すれば二人とも絶世の美女だが、その正体は大海賊団の幹部だ。バギー海賊団最強の幹部、四人のクラスSSとそれに準ずる六人のクラスS。バギー海賊団に所属する海賊は全員その実力によってクラスごとに分けられる。クラスはD〜SSSまで存在し、一人しかいないSSSクラスを除けばSSクラスは海賊団内の最高位だ。
「おいてめェ……いい加減にしろよ!! あの化け物を仕留めたのはおれだ!!」
「ふざけんな!! あいつはおれの能力で下僕にしてやったんだ!! それをてめェは真っ二つに斬りやがって!!」
「ああ!? てめェがチンたらやってるからだろうが!! あれじゃ団子食わせる前にてめェが胃袋行きだな!!」
「カバジ……てめェ……!! ヘンテコな髪型しやがって!!」
「てめェにだけは言われたかねェ!! だいたいおれの方が先輩だろうが!! 口の利き方に気をつけろ!!」
その時聞こえてきた二人の男達の怒鳴り声。一人は左だけ長い特徴的な髪型にマフラー、もう一人もこれまた特徴的なまるでケモ耳のような髪型をしており、彼らは休む間もなく目の前の男を罵倒していた。
バギー海賊団クラスS傭兵“大道曲芸のカバジ” 懸賞金3億3000万ベリー
バギー海賊団クラスS傭兵“猛獣使いのモージ” 懸賞金3億2200万ベリー
「ちょっとちょっとアンタ達!! 宴の席で何おっ始めてんだい!?」
「ぎ、ギオン姉さん!!?」
「これはその……こいつが……」
「どっちもどっちだろう? 楽しい宴の場に水を差すんじゃないよ!! いい加減にしないとミズキに言いつけるよ!!」
「そ、それだけはご勘弁を……!! 今度こそ本当に殺されちまう!!」
刀を抜き、あわや一触即発という状況でギオンが止めに入った。彼女には頭の上がらない二人は気まずそうに動きを止めるが、不満があることを見抜かれてミズキの名を出されたことで大人しくなった。
カバジは十年以上前にワノ国にて加入した古株であり、ミズキに散々鍛えられたこともあり彼の知る原作よりも遥かに強くなった。元々ワノ国出身ということで素質はあったのだろう。
モージは素の実力こそカバジに劣るが、キビキビの実の能力によって強力な軍隊を編成していた。インペルダウンで捕まえてきたブルゴリやマンティコラ、スフィンクスや軍隊ウルフなどだ。それらの脅威は相当なものであり、億超えの賞金首でさえ容易に倒してしまえる。
「だったら大人しくしてるんだね……まったくみっともない」
「はい……ケモ耳野郎が……似合わねェんだよ」
「すみませんでした……ちっ……クソ剣士め」
ギオンに注意され引き下がるも、小声で罵倒しながらどつきあう。そんな二人の様子にギオンは呆れ果て、頭を押えた。
だがそんな彼らの喧嘩を、愉快そうに眺める者もいた。
「なんだ、やめちまうのかお前ら。せっかくいいとこだったのによ」
「シリュウ……余計なことを言わないでおくれ」
バギー海賊団クラスSS傭兵“雨のシリュウ” 懸賞金8億4000万ベリー
元インペルダウンの看守長であるシリュウ。世界政府を裏切りバギー海賊団に加入した彼もまた、ギオンと同じクラスSSの実力者だ。その強さも尋常ではなく、戦場では既に多くの戦果を挙げている。
「いいじゃねェか、海賊の宴だ。多少暴力的な方が盛り上がるってもんだろう」
「はァ、女心がわからない奴だね。女子っていうのは上品にしたいものなんだよ」
「……女子って歳じゃねェだろう」
ギオンの冗談とも本心とも取れないセリフに、シリュウは軽くツッコミを入れておいた。そんな時に横から会話に入ってきて、彼らの視線を集めた者がいた。
「ムルンフッフッフッ……ダメよシリュウ……女の子はいくつになっても乙女として扱ってあげなきゃ……」
「デボン……おめェにだけは言われたくねェな」
バギー海賊団クラスS傭兵“
どこからともなく現れた女。若月狩りの異名で知られ、美しい女性の生首を集めるのが趣味というサイコパス的思考の持ち主であるカタリーナ・デボンは、シリュウの発言を是正する。元インペルダウンの囚人と看守長、歪な組み合わせではあるが彼らは顔なじみであり、故にバギー海賊団に加入してからも腐れ縁的な関係にあった。
しかしシリュウからしてみれば女性に対し猟奇的な事件を数多く起こしてきた彼女から女性の扱いの手ほどきを受けるのは嬉しいことではない。
「フフフ……それは失礼。でもあなたの趣味も似たようなものよね?」
「……否定はできねェな」
「そんなことより!! デボン、またあれやってくれないかしら!!」
「ムルンフッフッフッ……いいわよ。好きねェあなたも」
アップルが目を輝かせて何かを頼むと、デボンは特に嫌がる様子もなく頷いた。そしてその場で跳躍し、身体を前方に一回転させる。彼女の身体を煙が包み、それが晴れると中から出てきたのはデボンではなく、アップルだった。正確にはアップルに化けたデボン。世にも珍しい
「すごいわ!! よ〜し、そのまま私と勝負よ!!」
「待ちな!! カバジやモージならともかく、ここでアンタらが暴れたら建物ごとバラバラになっちまうよ!!」
ギオンの言う通り、カバジとモージは喧嘩をしながらも周囲に危険が及ばないように一応の配慮はしていた。しかしアップルはその辺の見境がない。故に彼女はアップルの発言を一喝し、止めたのだ。
「……まったく、いつもいつも騒がしいですねあなた達は……」
そんな時だ、溜息をつきながら現れる者がいた。褐色肌に白髪、そして背中に生える翼に燃え盛る炎。あまりに特徴的なその美女にその場にいた誰もが目を向ける。
バギー海賊団クラスSS傭兵“憎炎のルナリア” 懸賞金9億2910万ベリー
「ルナリア……!!」
「なんだおめェ……戻ってきてたのか」
「こちらの仕事も一段落しましたので」
クラスSSの一人であるルナリア。その実力は半端ではなく、故にバギーやミズキの代わりに最前線で指揮を執ることも多い。そのため幹部の中でも島にいる時間は最も短いのだが、今回は戻ってこれたようだ。
「それで、結果はどうだったんだい? まァアンタがいて万が一なんて起きないだろうけどさ」
「ええ……思ったよりは手強い相手でしたが、どうとでもなる程度でしたね。後は彼らに任せてきました」
「彼ら……ああ、あいつらか」
「……おれあんま思い出したくないっス……」
「ムルンフッフッフッ……いいじゃないのよ、可愛くて」
ルナリアが後を任せてきたという彼ら。その話を聞いてシリュウは特に顔色を変えなかったが、モージは何やら嫌な思い出でもあるのか顔を青くし、デボンは高笑いした。
「みんな揃ってるみたいだね!!」
「!」
そのやり取りに割って入る人物。その少年が発した声に全員の視線がそちらに向いた。ピンク色の髪をポニーテールで結んだ可愛らしい少女のような見た目をした少年、バギー海賊団副座長であるミズキだ。
バギー海賊団副座長兼クラス
バギー海賊団に一人しか存在しないクラスSSSの称号を持った最強の戦士。かの王下七武海、海賊女帝ボア・ハンコックが世界一の美女と言われるならば、世界一の美少年は宵魔女だろう。人々がそう揶揄するほどに高い人気を誇っている大海賊、マリージョアの一件もあり奴隷解放の英雄としても尊敬を集めている彼の人気は、とても海賊とは思えないほどに高かった。
「もうそろそろバギーも来るだろうし、ゆっくりしててよ」
「ミズキ!! 久しぶりね!!」
「あはは♪ 久しぶり、アップル! 二ヶ月ぶりくらいかな?」
副船長という役職柄ミズキも島を空けることが多く、ここにいる面々と顔を合わせるのも二ヶ月ぶりくらいだ。
「そういや報告があったよ。うちの傘下に入ったアバロ・ピサロ、バスコ・ショット、サンファンウルフ、その他にもLEVEL6の脱獄囚が数名百獣海賊団の船と衝突したそうだ。結果、大看板のクイーンを倒したみたいだけどカイドウはブチギレるだろうね」
「ああ……まァカイドウはあれで割と慎重派だからすぐに攻めてくることはないだろうけど……あの人達のヤンチャぶりには参っちゃうね」
バギー海賊団がLEVEL6から連れ出した囚人の中で、正式に加入し幹部になったのはデボンのみ。残りは傘下に入れるということで落ち着いた。我が強い強者を何人も海賊団内に置いておくと必ず内部崩壊を起こすというミズキの意見により、そのように決まったのだ。ロックス海賊団がいい例だろう。
「……そういえば副船長、ヤマトの奴の姿が見えませんが」
「もう来ると思うよ……あ、ほら!」
ミズキが宴会場の入口を指さした直後、二人の男女が入ってきた。一人は緑色に近い髪をオールバックにして高級感漂うスーツを身に纏った長身の男。そしてもう一人は銀髪と頭に生えた角が特徴の美女だった。
バギー海賊団クラスS傭兵“黄金帝”ギルド・テゾーロ 懸賞金6億7700万ベリー
バギー海賊団クラスSS傭兵“鬼姫ヤマト” 懸賞金8億1110万ベリー
「いやいや、遅くなってしまい申し訳ありません……ステージが長引いてしまいました。ヤマト様とは先程偶然お会いしまして」
「……私は君とあまり話したくないんだけどな」
「おやおや、これは手厳しい」
ヤマトの否定的な言葉にも顔色ひとつ変えずに平然と流したテゾーロ。彼はつい最近に自身の名を冠する海賊船、グラン・テゾーロを立ち上げ大成功を収めていた。その為バギー海賊団に所属し、クラスSにまで来たものの戦場に赴くことは少なかった。
ヤマトはガイモンの死後何か思うところがあったのか今まで以上に鍛錬を続け、四皇の最高幹部にも匹敵する実力を身につけた。元から実力は高かったが、それに更に磨きがかかった形だ。
「大丈夫だよ、ボクもさっき来たところだし。まだバギーも来てないしね」
「それは良かった。キャプテン・バギーとお会い出来ると思うと今から楽しみです」
テゾーロがミズキの言葉に答えたその時だ、会場が一気に沸き上がった。その様子に誰もがあの男の登場を確信する。照明が落ちたと同時に楽器の音が鳴り響き、スポットライトがステージの一点を照らした。そこに飛び出してきたのは、赤い鼻が特徴的な男だ。
「よォてめェら、ハデに騒いでるか?」
「最高だぜ!! キャプテン・バギー!!」
「ぎゃはははは!! そりゃ良かった!! 腹ごしらえが済んだら戦場でハデに略奪して来やがれ!! おめェらがどれだけ海賊行為を行おうが、“五皇”の圧倒的ネームバリューの前に逆らう奴はいねェ!!」
「ウォォォォォ!!!」
“五皇”バギー海賊団座長“千両道化のバギー” 懸賞金36億1090万ベリー
半年前のインペルダウン襲撃により、大量の囚人達を海賊団に取り込み五番目の海の皇帝と呼ばれるに至った男。五皇、赤髪のシャンクスと同じく元ロジャー海賊団の船員であり、彼と兄弟分でもある正に生ける伝説だ。
「バギー座長!! よっ!! 男前!!」
「かっこいいですぜ座長!!」
バギーを尊敬するカバジとモージがバキーに声援をかけ、テゾーロも手を叩き彼を賞賛している。アップルとミズキも二人ではしゃぎ、その他の面々は特に表情を変えずに彼を見ていた。
「おめェらのおかげでうちの海賊傭兵に依頼殺到!! 市場はおれ様達の一人勝ちだ!! ちょうどついさっき連絡があった!! アイツらがジェルマ66を落としたとな!!」
そしてバギーが口にしたアイツら。どうやら任務中だったようだが、この場に幹部はほとんど全員揃っている。それもそのはず、彼らはバギー海賊団内で唯一特定のクラスを持たずに自由に動き回る言わば特別隊だ。ミズキが選出したメンバーで構成されており、全員が高い実力を誇っている。そして一つ、彼らには特徴があった。
♦♦♦♦♦
──新世界、とある島。
その島は今、戦争の真っ只中にあった。隣接する二つの国のいがみ合いが激化し、ついには抗争に発展したのだ。戦況は拮抗したが、片方の国がとある手札を切ってきた。ジェルマ王国という国家の所有するジェルマ66という軍隊。科学戦闘部隊として名高く、世間では空想上の悪の組織として知られているが、実際に存在する軍隊である。そんな強力な軍隊が依頼を受け、片方の国に味方したのだ。
「クソ……ジェルマめ……!!」
「国王様……このままでは……!!」
「やむを得ん……海賊傭兵に電伝虫を!!」
当然戦況は傾き、ジェルマの猛攻を受けた国はあっという間に全滅寸前まで追い込まれた。そんな危機的状況を鑑みて、国王は苦渋の決断を下す。目には目を、向こうがジェルマに頼るのならばこちらは海賊傭兵だと。
「国王様!! バギーズデリバリーの傭兵が到着しました!!」
「よし、こちらに通せ!! ……!!?」
そして到着した傭兵の姿を見て、国王は驚愕した。その要因はいくつかあるが、まず一つが派遣された傭兵がたった四人だったこと。当然ながらジェルマの軍勢は千を優に超えており、それに敵国の兵士も加わっている。いくら名高いバギーズデリバリーの傭兵だったとしてもたった四人でその数をどうこう出来るはずがない。加えて彼が驚いたのは、到着した彼らの容姿だった。
「……君達が、本当にあの“千両道化”の? ……間違いではないのかね?」
「きゃはは! ちょ〜失礼じゃん! ま、ウチら可愛いししょうがないね!」
「大丈夫ですよ。私達はミズキ副座長に選ばれた精鋭、“天使の小悪魔”ですから」
「天使の……小悪魔?」
派遣された四人の姿を見て、国王は本当に彼らがバギー海賊団から派遣された傭兵なのかを疑った。それもそのはず、それぞれに特徴があるものの一様に彼女らは美しい少女、あるいは女性であり、とても海賊とは思えなかった。
そんな国王の不信感を悟って、四人のうちハイヒールやドレスで派手に着飾った金髪の女性が彼の発言を失礼だと言った。しかし本当にそう思っている様子はなく、むしろしょうがないとすら感じているようだ。
それに付け加えるように、今度は茶髪をツインテールで纏めていて小柄な体躯には似合わないハンマーを持った少女が国王を安心させるように発言した。自分達はミズキが選んだ精鋭、天使の小悪魔であると。聞き慣れない単語に国王は疑問符を浮かべる。
「ま、見ててよ! すぐに終わらせてくるからさ!」
その言葉の通り、彼女らはたった四人でジェルマの一団を全滅させてしまった。戦場の跡に残っているのは大量のジェルマの兵士の死体。
「お……おのれ……貴様らのような下賎な海賊に……我らが悲願が……!!」
「きゃはは!! 弱すぎて話にならなかったし、ウケる〜!! ね、アミー!! このおっさんもとっとと殺しちゃう?」
「だ、ダメだよサラちゃん……ジェルマは傘下に入れるってミズキさんが言ってたでしょ」
バギー海賊団“天使の小悪魔”“凛粉のサラ” 懸賞金3億6200万ベリー
バギー海賊団“天使の小悪魔”“戦鎚のアミー” 懸賞金2億1000万ベリー
ミズキの言葉を借りればギャルのような容姿と性格、そして背中に生えた翅が特徴のムシムシの実モデルアゲハ蝶の能力者、サラ。元インペルダウンの囚人であり、先の襲撃事件の際に一味に加入した経歴を持つ。そしてそんなサラとは見た目も性格も正反対のアミー。カライ・バリ島で保護されていた孤児の一人であり、ミズキによって鍛えられ弱冠十五歳にして幹部にまで上り詰めた。
「クソッッ……我が息子達さえ育っていれば貴様らなど……!!」
「……見苦しいね、子供を言い訳に使うなんて」
「全くだ、同じ科学者として情けない限りだな」
バギー海賊団“天使の小悪魔”“終雪のフルーレ” 懸賞金4億ベリー
バギー海賊団“天使の小悪魔”“蒼天のネオン” 懸賞金3億8500万ベリー
紫色の髪をポニーテールで纏めた美女、そして剣士でもあるフルーレ。彼女もまたインペルダウンの脱獄囚であり、相応の実力を持ってバギー海賊団の幹部となった。そんな彼女は子供を言い訳のダシに使うジャッジをどうでもよさそうに見苦しいと吐き捨てた。そしてその意見に同意するのはネオン。アミーと同じく孤児院出身であり、超天才と呼ばれる頭脳を持っていてバギー海賊団内でも優秀な科学者として通っていた。
「すげェ!! あの悪名高いジェルマをたった四人で!!」
「女神だ……!! 勝利の女神様達が微笑んでくれた!!」
その圧倒的力と美貌に国民達は沸き上がり、勝利をもたらしてくれた海賊達を称えた。だが一つ、彼らには秘密があった。
「でもよ……彼女ら……いや彼ら全員……男らしいぞ……」
「……は?」
彼らが称えていた女神様はその全員が男性であり、そしてそれこそがミズキが選んだ天使の小悪魔の正体。つまり全員がミズキと同じいわゆる“男の娘”であり、その中でも精鋭のみを集めたのがバギー海賊団内にて唯一クラスを持たない特別部隊だった。
「ん? ……ねェみんな、ミズっちから伝言! すぐに戻って来いってさ!」
「ミズキさんの使い魔……それにしても全員を戻すなんて何かあったのかな?」
サラの前に降り立ってきた球体に一つの目と羽がついただけの奇妙な生物。ミズキが使役していた使い魔が手紙を渡し、その内容をサラが他の三人にも話した。
「戦争だって。相手は…………百獣海賊団!!?」
『……は?』
ミズキからの伝言の内容、それは戦争をするというものであり相手はバギー海賊団と同じ五皇の一角、百獣海賊団だった。