──新世界、とある海域。
「何故ここに貴様らがおるんじゃ……白ひげ海賊団!!」
「グララララ……そう熱くなるなマグマ小僧」
バギー海賊団と百獣海賊団の抗争。海賊同士のいざこざとはいえ、海軍としてもこれを見過ごすことは出来ない。結果によっては新世界の均衡が崩れ、民間人にも多大な被害を及ぼしかねない。それを阻止し、あわよくば両海賊団の戦力を削ぐために海軍は大規模な船団を派遣したのだが……カライ・バリ島に向かう途中であった彼らの前に立ちはだかっているのは、世界最強の海賊団だった。
「あれが白ひげ……海賊王と渡り合った伝説の海賊……!!」
白ひげ、エドワード・ニューゲート。かつては海賊王ゴールド・ロジャーのライバルであった伝説の大海賊が本船であるモビーディック号の船首に立ち、圧倒的な覇気で海軍を睨みつけていた。
「肩書きに惑わされるな!! 伝説とて過去の話だ!! 全艦、砲撃用意!!」
しかし海軍側も引く訳にはいかない。元々五皇を相手取るつもりでやって来たのだ、目の前にいる相手が千両道化だろうが百獣だろうが白ひげだろうが関係はない。……しかし
「ハナタレ小僧共が……おれを誰だと思っていやがる」
「……!!」
白ひげが薙刀を振り上げ、強靭な覇気とグラグラの実の能力をそこに込める。そしてそれを振るった瞬間、海は真っ二つに割れた。
「おれァ白ひげだァ!!」
衝撃波が殆どの軍艦を宙に舞いあげ、瓦礫の雨と変えた。唯一赤犬の乗っていた軍艦だけは彼が覇気でガードした為に無事だったが、それでも大艦隊はほぼ壊滅状態だ。
「おのれ……白ひげ……!!」
「グララララ……このおれが手ェ貸してやってんだ。簡単に負けやがったら承知しねェぞ赤っ鼻。ロジャーから受け継いだ物を見せてみろ」
目の前の海軍を蹴散らし、白ひげは不敵な笑みを浮かべる。自身の最大のライバルであったロジャー。その意志を受け継いでいるであろう二人の皇帝に、白ひげは期待とも言えぬ感情を抱くのだった。
♦♦♦♦♦
──そしてほぼ同時刻、少し離れた海上。
「ここから先は行かせないよリンリン!! 悪いけど海の藻屑になって!!」
「ハ〜ハハハハハ!! 本当に悪いと思ってんならそこをどきやがれ!! 今回はどんなお菓子でも許してやらねェぞミズキ!!」
カイドウとの戦闘をバギーとヤマトに託したミズキは単身ビッグ・マム海賊団の艦隊を足止めしていた。ビッグ・マム海賊団もまた、この機を逃さずバギー海賊団と百獣海賊団を潰す為に大規模な艦隊を派遣した。
「マンマママンマ!! ミズキ、この船団が見えねェのか? おれ一人にも勝てないおめェに勝ち目はねェよ」
「言っとくけど、あの時とは違うからね!! あの時はまだ力に慣れてなかったけど、今ならリンリン相手だろうと負けるつもりは無いよ!!」
ビッグ・マムは以前ミズキと戦った時のことを回想し、そして結論付ける。自分一人と相討ちがやっとだった男が、更に将星や大幹部も乗っている船団をまとめて相手にして勝てるはずもない。
「くくくく……この戦力差、これじゃまるでガキのイジメだ……ペロリン♪」
「油断するなペロス兄……“宵魔女”はママと張り合うほどの男だ」
「邪魔をするなら殺して進めばいい、簡単な話だ」
長男ペロスペロー、最高幹部である3将星のスムージーとクラッカー、その他にもダイフク、コンポートなどビッグ・マムの子供達は猛者揃いだ。将星最強の男であるカタクリが不在とはいえ、その戦力は計り知れない。
「とはいえ……確かにこれ全部相手にするのはさすがにキツイかな。少し数を減らさせてもらうよ!!」
「!!?」
並み居る艦隊の全てを相手取るのは不可能と判断し、ミズキは飛び上がる。そして短剣の先にエネルギーを集め、衝撃波を放とうとする。
「ガト〜〜ショ……!!?」
「そうはさせねェよ」
しかしそんなミズキの動きを、流動する何かが止めた。その主はペロスペロー。彼は能力によりキャンディを生成し、意のままに操ることでミズキを拘束し動きを止めたのだ。全身をキャンディで固められ、ミズキは身動き一つすら取れない。
「このまま全身飴細工にしてやるぜ……ペロリン♪」
「よしペロス兄、そのまま抑えてろ!!」
その隙を逃すほどビッグ・マム海賊団は甘くない。まずはダイフクがホヤホヤの実の能力で呼び出した魔人をミズキにけしかけ、動けない彼に容赦ない一撃をお見舞いする。
「
「ッッッ!!?」
覇気で防御はしたものの、さすがに無防備な状態で全てのダメージを防ぐことは出来ず、口から血を吐きながらミズキは吹き飛ばされる。彼が落下したのはビッグ・マム海賊団の艦隊の一隻。そこで幹部を始めとした並み居る強者達が待ち構えていた。
「うちのナワバリで暴れてくれたツケ、払ってもらうわよ」
鬼婦人の通り名で知られるアマンドが愛刀である白魚を抜きミズキに斬り掛かる。未だキャンディで拘束されているミズキは回避しようとするが、その状態では彼女の剣技をかわすことは出来ない。
「スローワルツ!!!」
「ぐッッ……」
神速の回転斬りがミズキを斬り裂く。彼の覇気によって切り傷こそつかないが、ダメージはあり空中へと投げ出された。
『クリーム……!!!』
「!!!」
『パンチ!!!』
武装色の覇気を纏ったダブルパンチで押し潰され、ミズキの小さな身体は巨大な拳の間に隠れた。これだけの連撃、それも無防備な状態で受ければいくらミズキだろうと一溜りもないだろうと誰もが考えた。
「いっったいな〜〜」
「……!!」
「馬鹿な!!?」
だがミズキは痛がるどころか笑って見せた。彼にパンチを放ったカウンターとカデンツァを強引に弾き飛ばすと、口元の血を拭って不敵な笑顔を見せる。
「それじゃあ次はボクの番だね」
「!!?」
ミズキの姿が変化していく。ビッグ・マム海賊団の中にはその変化を知っている者も多く、一様に警戒心を剥き出しにした。髪の色、背中に生えた翼、以前に母であり船長であるビッグ・マムと互角の戦いを繰り広げた際に見せた変化だった。
「どいてなお前達!!」
「ママ……!!」
そしてその姿を見せたミズキの前に、ビッグ・マムが立ちはだかった。いくらビッグ・マム海賊団の大艦隊といえど、今のミズキを相手出来るのは自分しかいない。子供達にはせいぜいサポートでもさせておけばいいという考えの下、彼女は自ら出撃した。
「ハ〜ハハハハハ!! やっぱりおめェにゃおれが直々に手を下さなきゃならないようだねェ!!」
「やれるならやってみなよ!! 返り討ちにしてあげるから!!」
「……!! グッ……覇王色の衝突か……!!」
ミズキの短剣とビッグ・マムのナポレオンが衝突。周囲を赤黒い稲妻が走り実力の低い者は意識を失ってしまった。世界最高峰の実力を持つ者同士の覇王色の覇気の衝突、それを開戦の合図とし、ミズキとビッグ・マムの二度目の戦いは幕を開けた。
♦♦♦♦♦
──カライ・バリ島に程近い無人島。
ただ一人の人間もおらず、大自然が広がる無人島にて因縁の対決が繰り広げられていた。
「
「!!!」
龍へとその身を変化させたカイドウが放つ高熱の光線。それをすんでのところで回避し、ヤマトはカイドウに向かって突撃する。カイドウの胴体に金棒を叩きつけ、ダメージを与えようと試みるが──
「弱ェ……」
「なッッ……!!?」
カイドウにはまるで効かない。その鋼鉄よりも遥かに硬い皮膚は覇気などなくとも並大抵の攻撃は通じず、大砲も爆弾も意味をなさない。だがヤマトの攻撃が弱いはずもなかった。少なくとも、当たれば多少のダメージを通せる位の実力は持っているはずだ。本来の実力を発揮出来たならば。
「迷いがあるなら戦場に立つな……おれを倒すとお前は言うが……中途半端な覚悟のクソガキじゃ到底無理な話だ」
「……そんなことは!!」
図星を突かれてヤマトは動揺する。その隙は僅か一瞬、しかしカイドウの攻撃速度はその巨体から想像出来ない程に速い。ヤマトが体勢を立て直す前に彼女の目の前にカイドウの金棒が迫っていた。
「
「ガハッッ……!!?」
宙を鮮血と共にヤマトの身体が舞い、地面に二度三度バウンドして彼女は動かなくなってしまった。死んではいないだろうが、少しやりすぎたかとカイドウは頭を抱えた。ヤマトが海に出てしまったのは不本意だが、最終的に実力をつけ戻ってくれば水に流してやるつもりだった。だから多少の勝手は見逃したが、その結果がこのザマかと。
「終わりだなヤマト。つまらねェ反抗期もここまでだ」
倒れるヤマトを見下し、カイドウはため息をつく。どこで教育を間違えたのかと過去の自分を呪うが、それは後の祭り。今はもう一方を片付けるべく、そちらに意識を集中させた。
「お前も十分だろう。いい加減に降伏しろ、おれの部下になるなら生かしてやる」
「ぐッッ……!!」
カイドウが見下ろす先には地面に倒れるバギーの姿。ミズキとの特訓によりまた覇王色の覇気の扱いが上達したバギーだったが、相手は世界最強生物。ヤマトとの二人がかりでも勝機は薄かったようだ。
「船長が部下より弱ェなんて情けねェ話もあったもんだ。“宵魔女”はリンリンのババアのところか……奴は確かに強ェがリンリンには及ばねェ。年季が違うんだ小僧共」
「……!!」
カイドウのその言葉にバギーは反応を見せる。ミズキがビッグ・マムに負けるなどとは思っていない。彼の強さはずっと隣で見てきて誰よりも知っている。そう、知っているからこそ情けないのだ。カイドウの言う通り、バギーの実力はミズキには及ばない。無論ミズキに無いものをバギーが持っているが、しかし強さという一点においてはバギーはミズキに届かない。
「……んなことはわかってんだよ」
「ああ?」
しかしそんなことは重々承知の上だ。普段口には出さないが、バギーはミズキの事を心の底から信頼している。それは長い間時間を共にした事により築き上げられた強固な信頼、相棒関係だ。その相棒がカイドウを自分に任せた。ならば応えなければならないだろう。
『悪魔の実の覚醒?』
『ああ、どうすれば覚醒すんだよ』
いつもの特訓の最中、そんな一時をバギーは回想する。彼としては何気なく聞いただけだが、それを聞いたミズキは腹を抱えて爆笑した。
『何が可笑しいんだよ!!?』
『あはは♪ ごめんごめん、だってバギーが自分から強くなろうとするなんて珍しいんだもん。覚醒ね、ボクの時は死にかけて……ていうか死んでたねあれは。う〜ん、一回死にかけてみたら?』
『出来るかァ!!?』
結局ミズキの覚醒の例は特殊すぎて何の参考にもならなかったが、今この状況を覆せるのは悪魔の実の覚醒のみ。そして手がかりなのがミズキの言葉だけな以上、やるしかないと腹を括った。
「やってやらァ!! 死んでもカイドウ、てめェを倒す!!」
「……ウォロロロロ!! 急にやる気を出しやがったな、面白れェ!!」
バギーの様子に笑い、金棒を持つ手に力を込めるカイドウ。その時、起き上がってきたもう一つの気配に気づきそちらに視線を向けた。
「ヤマト……お前もか」
「ハァ……ハァ……あの時誓ったんだ……たとえこの命が尽きようとワノ国の為に戦うって……!! だから……こんなところで死ぬ訳にはいかない!!」
「……バカ息子が」
バギーに感化されてか立ち上がり、再びカイドウに戦意を向けるヤマト。だが状況は何も好転してはいない。気合を入れただけで実力差が埋まる訳もなく、彼らは絶望的な戦いを強いられると思われたその時。
「
「!!!」
空から割って入ってきた青い炎を纏った影がカイドウの胴体を直撃、彼に僅かながらの血を吐かせてぶっ飛ばした。カイドウが近くの岩場に激突したのを確認した後、青い影はバギーとヤマトの元へと降り立った。
「やるじゃねェか“千両道化”、見直したよい!!」
「おめェは……“不死鳥マルコ”!!?」
白ひげ海賊団のNo.2、不死鳥の異名を持つ男の登場にバギーとカイドウは驚いた。そしてもう一人、彼らの背後から現れた男の姿を見て、ヤマトは目を丸くした。
「君は……イゾウ……!!?」
元光月おでんの家臣であるイゾウ。ヤマトは数年前に彼と対峙しており、カイドウの娘である彼女はイゾウの怒りを買ってしまっていた。故にあまり顔など合わせたくはなかった。
「“鬼姫”……いや、ヤマト。あの時はすまなかった……カイドウの娘というお前の立場を疑い……責めてしまった。だがお前が必死になってカイドウと戦う姿を見て、お前の言葉が偽りでないとわかった」
「……へ?」
気まずそうな顔をするヤマトにイゾウが声をかける。思ってもみなかった彼の言葉に驚き、ヤマトは言葉を失った。
「こんなことを頼める立場ではないかもしれないが、おれ達も共に戦わせてくれ」
「……いいの? 僕も……君達と一緒に戦って……」
「当然だ。おれ達は志を共にする同志だからな……ただ、おでん様の名を名乗るのは程々にしてくれ……」
「ああ、あれはおれ様も鬱陶しいと思ってた」
「ええ!!?」
イゾウの切実な願いにバギーも頷いて同意し、ヤマトがそれにショックを受けた。その様子を微笑ましそうにマルコが眺めるが、そんな隙をカイドウが見逃してくれるはずもなかった。
「白ひげ海賊団ともあろう者がこんなガキ共に手を貸すのか……どういう風の吹き回しだ」
「おでんはおれ達にとっても家族だ。その敵討ちに手を貸すのは当然だよい」
「そうだ!! カイドウ、おでん様を殺したお前をおれ達は許さない!!」
「……そうか、そういやァおでんは昔白ひげのジジイの船に乗ってやがったか」
どういう組み合わせだと怪訝に思っていたカイドウだが、おでんが過去に白ひげ海賊団に所属していたことを思い出し納得した。つまりこの四人の目的は一つ、光月おでんの敵を討つことだと。
「カイドウ!! お前は必ず僕が……僕達が倒す!!」
「ウォロロロロ!! やってみろ!! 光月おでんに討てなかったおれをお前達が勝てんのか!!?」
片やこの世における最強生物と呼ばれるカイドウ。片や光月おでんの敵討ちに燃える四人の海賊達。再び無人島は戦場となり、先程よりも激しさを増した激闘に島全体が揺れるのだった。