転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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カマバッカ王国

 

 ──偉大なる航路(グランドライン)、とある島

 

 偉大なる航路のある島に、一隻の海賊船が漂流していた。帆に記されているのは赤い鼻のドクロのマーク。この世界で今や知らぬ者はいない大物海賊、バギー海賊団の海賊旗だった。しかし船は嵐にでも出くわしたのか、浜辺に乗り上げてしまって横転している。その付近に人影が四つ、話し合いをしているようだった。

 

「ハァ〜〜、マジ最悪。まさかあんな大嵐に遭遇しちゃうとはね」

 

 びしょ濡れになった上着を絞りながら溜め息を吐く金髪の美女。──否、性別は男なのだがそこらの女性より遥かに美しい容姿を持つサラが先程起こった出来事を思い出し、もう一度深い溜息をついた。

 

「偉大なる航路の気候はメチャクチャだからしょうがないよ、一旦落ち着こうサラちゃん。……それよりここはどこなんだろう?」

 

 そんなサラをたしなめるように口を開いたのは茶髪をツインテールに結んだ小柄な少年、アミーだ。彼も可愛らしい見た目をしており、女子と言われても誰も疑わないだろう。そんな彼がサラとは違い穏やかな口調で彼に落ち着くように声を掛けた。

 

「……目的地からはそんなに離れてないと思うけど」

 

 次に口を開いたのは紫の髪をポニーテールに束ねた青年、フルーレ。身長はこの場にいる四人の中で最も高く、例に漏れず美しい容姿を持つ彼は腰に帯刀した刀を撫でながら冷静に現在地を分析する。とある島を制圧するために偉大なる航路前半の海に駆り出された彼らは、バギー海賊団の精鋭を集めた部隊〖天使の小悪魔〗に所属する者達だ。しかし航海の途中で大嵐にみまわれ、舵が破損したことでこの島に流れ着いた。

 

「……ダメだ、電伝虫は全て流されてしまったみたいだな。この島に野生のが生息していれば作ることも出来るが」

 

 そして最後の一人、水色の髪を背中まで伸ばした当然のように美しい容姿の青年が、横転した船の中を探索して戻ってきた。バギー海賊団随一の発明家であるネオンだ。彼は電伝虫で連絡を取ろうとしていたのだが、どうやら嵐で全て海に流されてしまったようなのだ。幸い船に積んであった彼の趣味で作った発明品はいくつか残っているので、この島に野生の電伝虫がいれば本拠地であるカライ・バリ島に連絡を取ることが可能だ。

 

「ま、幸い永久指針(エターナルポース)は無事だから船さえ直せば何とかなるでしょ」

 

「そうだな……それより今はここがどこなのか確かめるのが先決だ。他の海賊のナワバリだと面倒だが……」

 

「それじゃあそうしようか。それにしてもこの島すごいね、一面ピンク色……」

 

 冷静に状況を分析し、まずは周囲の探索を開始する。まず一目見ればわかる事だが、この島は一面がピンク色で覆われていた。草木も川も空も、そして動物までもだ。

 

「わァ、見てフルーレちゃん。動物さん達も皆ピンク色で可愛い」

 

「……本当だね。……でも、髭生えてない?」

 

 島の内部に少し入ったところで、〖天使の小悪魔〗は島の動物達を見かけた。鳥、熊、ライオン、ワニ、色々な種類の動物がおり、島の外観と同じくピンク色だ。それにそれぞれが女の子のような髪やメイクをしている。しかしそんなにも可愛らしい要素が揃っている動物達だが、フルーレが指摘したように何故かびっしりと青髭が生え揃っていた。恐ろしくアンバランスな見た目をしたそれらが、森の中にある池の周囲を楽しそうに散歩している。

 

「……ん? 向こうから複数の気配を感じる。しかもそれなりに大きな気配だ」

 

 そんな異様な光景に戸惑っていた最中、ネオンが島の中心を指差し見聞色の覇気で気配を感じ取ったことを皆に伝えた。そしてそれに答えるかのように、彼らの身体に地響きにも思える振動が伝わってきた。

 

「ちょっ……なにこの振動!?」

 

「どんどん近づいてくるよ!!?」

 

 振動はどんどん彼らに接近し、数十秒経つ頃にその正体が見えてきた。地響きだと思っていたものは大勢の人間が同時に走ることで生み出されたもの。つまり近づいてきたのは、人間の集団だった。

 

「あら、可愛らしいお客さんね。食べちゃいたいくらい♡」

 

「いらっしゃい、ここは偉大なる航路でも有数の楽園。楽しんでいってね」

 

「……おい……ここは地獄かなにかか?」

 

 敵意の一切ない、歓迎ムードで出迎えてきたこの島の住民らしき者達。しかしそんな彼ら──いや、彼女らを見て一同は言葉を失った。何故なら住民は全員がオカマ、しかも皆一様にとても美しいとは言えない見た目をしていたからだ。

 

『ようこそ!!! カマバッカ王国へ!!!』

 

 〖天使の小悪魔〗が迷い込んだのは第二の女ヶ島と名高いカマバッカ王国。その名の通り、〖オカマ王〗エンポリオ・イワンコフが統治する島である。

 

「遭難したの? 大変だったわね。でももう大丈夫よ♡」

 

「あたすらがお出迎えしてあげる♡」

 

「あはは……ありがとうございます……」

 

「……気持ち悪い」

 

「ちょっと……!!? フルーレちゃん!!」

 

 擦り寄って歓迎の意を示してくるオカマ達にアミーが苦笑いしつつも礼を述べるが、その隣でフルーレが露骨に嫌そうな顔をして暴言を吐き捨てた。

 

「でもごめんね〜わたす達、女の子には興味無いのよ〜〜。でもこっちの青髪の子は可愛くて好みよ♡」

 

「ええい、寄るな暑苦しい!! それに僕らは全員男だ!!」

 

「ええ!!? そうなの、それじゃああたす達お仲間ね♡」

 

 ネオンの発言にオカマ達が驚いた反応を見せる。確かに〖天使の小悪魔〗はミズキが選んだだけあって全員が女性にしか見えない美貌を持っており、ネオンを除き服装やメイクも女物のため見破るのは不可能に近いだろう。そんな彼らをオカマ達は仲間だと認識し、態度を少し軟化させた。しかしその発言はとある人物の逆鱗に触れることになった。

 

「仲間……? ふざけないで!! だいたいアンタらなんなの!? よくそんな見た目で人前に出られるよね!!」

 

「なんですって!? あたす達がブサイクって言いたいの!?」

 

「ブサイクとかそういう次元じゃないっつーの!! 青髭は目立つわ毛の処理もしてない!! メイクだってただ顔に塗ればいい訳じゃないからね!? 服もただ可愛い服着とけばいいとか思ってるんでしょ!!」

 

「……なんか変なスイッチ入っちゃったね」

 

「さ、サラちゃん落ち着いて……」

 

 オカマ達の発した仲間という言葉がどうやらサラの逆鱗に触れたようだ。元々彼はバギー海賊団内でも人一倍美容に気を使っていた。元々インペルダウンlevel5にいた彼だが、監獄内でもツテを使って美容グッズを調達していたくらいだ。そんな彼にとって、おおよそ見た目に気を使っているとは思えないオカマ達と同列に語られるのは我慢ならないようだ。

 

「……ちょっと言い過ぎちゃったけど、本当はアンタらもわかってるんでしょ?」

 

「……!? 確かに、これまでこの島に辿り着いた船は数多くあるけど、あたすに振り向いてくれる男子はいなかったわ」

 

「大丈夫、アタシらがプロデュースしてあげるから。アタシらだって最初から可愛かった訳じゃないんだよ」

 

「……あたす達でも……可愛くなれるの?」

 

「うん、もちろん。可愛くなりたいって気持ちさえあればね」

 

「おいちょっと待て、まさか僕らにまで協力しろと言うんじゃないだろうな?」

 

「いいじゃん、どーせ暇でしょ?」

 

「いやそんな訳ないだろう!!? ただでさえ戦後のあれこれや赤髪海賊団との同盟話でまともに動けるのが僕らだけだったんだぞ!! こんなところで道草を食っている場合じゃないだろ!!」

 

 サラの突然の提案に、ネオンが理屈交じりにツッコんだ。先の百獣海賊団との戦争の後始末や、赤髪海賊団との同盟で今はバギー海賊団の幹部達は軒並み手一杯だった。副座長のミズキが何故か東の海(イーストブルー)に行ってしまったことも相まっててんやわんやな状況だ。

 

「まァまァ、どーせ船の修理終わんなきゃこの島出られないんだし。だったらその間何してても同じでしょ?」

 

「……確かにそれはそうだが」

 

「無駄だよネオン。こうなったサラは梃子でも動かない」

 

「サラちゃんがここまで言うんだから、協力してあげようよ」

 

「ハァ、わかったよ」

 

 1度言い出したら聞かないサラの性格を知っているフルーレは早々に説得を諦め、アミーは純粋に協力する姿勢を見せた。そんな彼らを見てネオンは渋々といった様子だが首を縦に振った。

 こうして〖天使の小悪魔〗によるカマバッカ王国の大変革が始まった。サラは住民を一箇所に集めると、彼らの前に立ち高らかに宣言した。

 

「という訳で、今からアタシらの得意分野をそれぞれ教えていくよ!! まずはそのだらしない身体!! 可愛くなりたいなら体型から変えていこう!! それじゃフルーレ、よろしく!!」

 

「……面倒だけど、まァいいか。準備運動から始めるよ、全員でこの島の周り百周してきて」

 

「準備運動でそれ!? あたすら死んじゃうわよ!!」

 

「……なんか文句あるの?」

 

『……!!? いいえ、今すぐ走ってきます先生!!』

 

 フルーレが島の周囲を百周走れと無茶を言うと、オカマ達はさすがに無理だと声を上げた。フルーレはそれを聞くと腰に携えていた剣を抜き、表情は変えず地面に叩きつけて威圧した。彼の周囲を走る赤い稲妻に当てられたオカマ達は萎縮し、全員揃って駆け出した。

 

「お前な……急に覇王色を撒き散らすな」

 

「これが一番手っ取り早いでしょ?」

 

 数百万人に一人の覇気の持ち主の前ではさすがのカマバッカの住民も動かざるをえなかったようだ。そうしてフルーレのスパルタダイエット教室は丸三日ほど続いた。

 

「次は僕の番だな。体型は少しマシになったようだが、そのせいで髭やムダ毛が余計に目立つ。そこで君らが走っている間にこんな装置を作ってみた」

 

「なァにこれ?」

 

「特殊なレーザーを用いて毛根を全て焼き尽くす装置だ。出力を最大限に高めているので一発で焼却出来る」

 

 三日後、科学者であるネオンが披露したのは人が丸ごと入れるような巨大な箱型の装置。四角形の装置に扉がついているだけのシンプルなデザインだが、効果は折り紙付きのようだ。

 

「いやレーザーって……アンタさりげなくすごいモン作ってるね」

 

「この間海軍基地に潜入した時にベガパンクの研究資料を盗み見てな。さすがに兵器利用出来る程の出力は出せなかったが、まァ人間の毛くらいなら楽勝だろう。さァ、誰でもいいから入りたまえ」

 

 ネオンが機械の扉を開け、中に入るように促す。だが未知の機械に入るのはやはり抵抗があるようで、皆後退りして入ろうとしない。

 

「キャロライン、あんた行きなさいよ」

 

「あたす……? なんだか怖いし嫌よ、あんたこそ行きなさいよ」

 

「安心してくれたまえ。このレーザーは黒い物体に反応するように作ってある。毛根以外に効果はないし怪我の心配もない」

 

「そ、そう? それなら……」

 

「おっと、入る前にこのヘルメットを被ってくれ。髪まで抜けてしまうからな」

 

 ネオンに手渡されたヘルメットを被り、渋々とキャロラインが機械の中に入っていく。彼が機械の中のベッドに寝たのを確認したネオンは扉を閉める。

 

「ああそうだ、怪我の心配はないが痛みはあるぞ。死ぬ程痛いと思うがまァ死ぬことはない」

 

「……え?」

 

 扉が閉ざされる直前のネオンの言葉に、キャロラインは顔を青ざめさせる。しかし時すでに遅し、彼の眼前では機械がけたたましい音を立て、レーザーが発射させる直前だった。

 

「ぎゃああああ〜〜〜!!?」

 

「…………」

 

 外のオカマ達から見えたのは音を立てながら光り輝く機械の姿。そして施術中の十数分の間、キャロラインの悲鳴が途切れることはなかった。顔面蒼白になり身体を震わせる彼らの前に立ち、ネオンは楽しそうで、しかし不気味な笑みを浮かべて語りかける。

 

「一回の施術に二十分はかかるからな。順番までフルーレのところで訓練でもしてこい。おっと、逃げるんじゃないぞ?」

 

 その日からカマバッカ王国には悲鳴が響き続け、ついぞ止むことはなかったという。国民全員の脱毛を終えるのには一週間がかかり、その間フルーレのスパルタ訓練を受け続け住民達の身体はかなりのモデル体型に変化していた。

 

「よォし、次はウチの番だね。皆ダイエットに脱毛で様になってきた!! ウチが教えるのはメイクだよ。ウチらの副座長みたいにノーメイクでめっちゃ可愛いずるいのもいるけど、まァほとんどはメイクで変わるからね」

 

 一人一人を椅子に座らせ、鏡と睨めっこしながらメイクを教えていくサラ。趣味がメイク研究なだけあり、サラのメイク技術はそれだけで食べていける程のものだ。

 

「う〜ん……ここはこの色の方がいいかな? いやでもこっちの方が……」

 

「サラちゃん、楽しそうだね」

 

「こんなことにあれだけ本気になるとは、理解に苦しむな」

 

 そんな光景を眺めながら、アミーは微笑みネオンがやれやれといった様子で肩を揺らした。フルーレは特に表情も変えずに見ていたが、内心ではサラのメイク技術を盗もうと考えていた。

 メイク教室は半日続き、ようやく全員に納得のいくメイクを施すことが出来たようだ。

 

「OK、完璧!! じゃあアミー、ラストは任せるよ」

 

「うん、私から教えるのは仕草とか作法だよ。いくら見た目が可愛くなっても、行動が可愛くないと意味がないからね」

 

 そして最後、アミーから女性らしい仕草などを教わり、合間にメイク練習やダイエットをする生活をカマバッカ王国の住民達は一ヶ月程続けた。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 ──一ヶ月、カマバッカ王国。

 

「クソ……まさか嵐に遭遇しちまうとはな」

 

「ですが島に辿り着けたのは幸運でしたね、船長!」

 

 カマバッカ王国にまた一隻の海賊船が漂流してきた。船長の懸賞金は3000万、偉大なる航路では平均的な海賊団だった。彼らは島の外観を見つめ、ピンク一色の景観に苦そうな顔をする。

 

「なんだァ……随分甘ったるい場所じゃねェか」

 

「へへ、街でもありゃあ略奪が出来そうだぜ!!」

 

 海賊達は知らなかった。自分達が辿り着いたこの島が一ヶ月まで地獄だったことを。そして今、この島を彼らはなんと呼ぶだろうか? 

 

「あら、もしかして海賊さん?」

 

「あん? 誰だ……うォ!! すげェ美女!!」

 

 森の中から現れた美女に、海賊達は目をハートにして下品な吐息を漏らした。美女はお淑やかに笑うと、彼らの前に歩み寄って行った。

 

「漂流したの? 可哀想に、私のところに来る?」

 

「お、おう!! そういうことなら世話になってやろう!!」

 

「うふふ……ワイルドなのね、そういうの好きよ私」

 

「うひょおお〜〜!! たまんねェぜ!!」

 

 美女に手を引かれ、海賊達は島の内部へと入っていく。見れば見るほどピンク一色、そして目の前にいる美女を見て、海賊達は噂話を始めた。

 

「おい、ここってもしかして女ヶ島じゃねェか?」

 

「おれも思ってたぜ! 間違いねェ!」

 

「だが女ヶ島は凪の海(カームベルト)にあるって聞いたことがあるような……?」

 

 そんな話に花を咲かせていると、海賊達は天国のような場所に招かれた。目の前にはたくさんの美女、それぞれに特徴はあれど皆美しく、男であれば興奮するなと言われても無理だろう。

 

「うへへ……決まりだな、ここが女ヶ島だ!!」

 

「ようこそ、カマバッカ王国へ」

 

「……うん? カマバッカ王国?」

 

「そ、それって革命軍のイワンコフが治めてるってオカマだらけの……」

 

「てことはもしかして……」

 

 そこで海賊達は気づいた。絶世の美女達が女性ではなく、オカマだということに。しかし目の前のオカマ達はそこらの美女よりも遥かに美しく、とても男には見えなかった。

 

「……おれ、いけるかもしれねェ……!!」

 

「確かに……こんだけ可愛けりゃな……」

 

「どうしたの?」

 

「そんなところに立ってないで、こっちにいらっしゃい♡」

 

「うひょおお〜〜!! もう性別なんて関係ないぜ!!」

 

「ここがおれ達の女ヶ島だ〜〜!!」

 

「あらあら、可愛いわね♡」

 

 目をハートに変えオカマと戯れる海賊達。最早この島は第二の女ヶ島の噂に恥じない場所となったと言えよう。そんな様子を、少し離れたところから〖天使の小悪魔〗が見ていた。

 

「うんうん、いい感じになったね〜〜。さすがウチら!!」

 

「しかしすごい変わりようだな……若干引くレベルだぞ……」

 

「皆すごく可愛くなったね!!」

 

 サラ、ネオン、アミーがそれぞれの反応を見せる。サラは満足そうに、ネオンはあまりの変わりように少し引いていてアミーは素直に喜んでいた。そんな中唯一フルーレだけ、別の問題に頭を使っていた。

 

「それはいいんだけど、結局船の修理やってないよね」

 

『……あ』

 

「……とりあえずバギっちとミズッちに連絡入れとく?」

 

 そう、肝心の船の修理が全く終わっていない。それどころか一ヶ月間連絡の一つもしていなかった。キレ散らかすバギーと、淡々とお仕置してくるミズキの姿を想像して、彼らは顔を青くするのだった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 ──同時期、東の海ドーン島ゴア王国。

 

 東の海の辺境の島にあるゴア王国の外れの山中を歩く筋骨隆々の大男。年相応の白髪に、不相応の肉体を持つその男は野生の気配溢れる山の中を堂々と歩いていた。普通の老人には無理な芸当だ、この辺りは凶暴な獣が多く普通の人間が通れば命の保証はない。しかし猛獣達は何故かその老人を畏怖し、逃げ隠れしていた。それが彼と動物達との力関係を表している。

 

革命軍副司令官“ゲンコツのガープ”(元海軍本部中将“英雄ガープ”)

 

 元海軍本部中将、数々の伝説と戦い勝利を収めてきたまさしく英雄。今は海軍を離れ革命軍に所属している男、ガープが孫達に会うため故郷に帰省してきていた。

 

「ルフィ、エース! じいちゃんが来たぞ!!」

 

 孫達を預けている山賊ダダンの根城に顔を出したガープ。しかし中はもぬけの殻であり、人っ子一人の気配すら感じなかった。

 

「うん? どこに行きおった?」

 

「うわああああ〜〜!!!」

 

「……!! あっちか……」

 

 外の方から悲鳴のような声が聞こえ、ガープは怪訝に思いながらもそちらに向かっていった。森を少し入ったところで、オレンジ髪をカールにした中年女性の背中が見えてきた。

 

「なんじゃいダダン、こんなところにいたのか」

 

「げ……!!? ガープ……さん!! 帰ってきたのかよ!!」

 

「ルフィとエースはどこじゃ? それと腹が減った、なんかよこせ」

 

「そんな場合じゃにーんだよ、ガープさん!!」

 

「ああ?」

 

 ダタンとその部下、マグラやドグラが呆然と見つめる方向にガープも目をやる。彼の目に映ったのは木々が倒れ、岩が砕かれている異様な光景。その中心に、へとへとになって倒れるルフィとエースの姿があった。

 

「どうしたの? まさかもう限界なんて言わないよね?」

 

「む、無茶言うな……お前みたいなバケモンに付き合ってたら命がいくつあっても足りねーよ……」

 

「おれまだ死にたくねーよ……」

 

「貴様……“宵魔女”!! ルフィとエースに何をしておるんじゃ!!」

 

バギー海賊団副座長“宵魔女ミズキ”懸賞金31億1270万ベリー

 

 ガープとも因縁のある〖五皇〗バギー海賊団の副座長ミズキ。ガープに気づいた様子の彼は、ピンク色のツインテールを風になびかせガープの方を振り返った。

 

「あ、ガープ。見ての通りルフィとエースを修行してたんだよ」

 

「修行じゃと!! こんなに二人をボロボロにしおって、これが修行な訳あるか!!」

 

「いやあんたが言うなよ!!!」

 

「……なんじゃいダタン、何か文句でもあるのか?」

 

「あ、いえ別に……」

 

 ミズキの発言にガープが怒り交じりにツッコミを入れるが、普段の彼の修行方法と大差がないことを知っているダダンが重ねるように指摘した。しかしガープに睨まれ、彼女は萎縮してしまった。

 

「大体何故貴様がこんなところにおるんじゃ!!」

 

「別に東の海はボクの故郷でもあるんだから、帰省中なだけだよ。お互い今は無法人なんだからそんなにカリカリしないでよ。てことでこの二人は責任持って強くするから任せといてよ」

 

「海賊にわしの大事な孫達を任せられるか!! 修行ならわしがつける!!」

 

「どっちも地獄だ……」

 

 ミズキとガープの口論を、顔を青くしながら聞くエース。普段強気なら彼には珍しい光景だ。そしてルフィはというと何やら決心をしたかと思うと、ガープの前に立った。

 

「じいちゃん!! おれ、ミズキに修行してもらいてェ!!」

 

「な!? 何を言い出すんじゃルフィ!!」

 

「ほら、やっぱり子供は強面じいさんより可愛いお兄さんの方がいいんだって」

 

 驚くガープにミズキが勝ち誇ったように言った。勿論ルフィはミズキが可愛いから言った訳ではない。ミズキはルフィが尊敬する海賊、シャンクスのライバルだ。そんな彼に教えを乞えば、シャンクスのような立派な海賊に近づけるかもしれない。

 

「ぐぬぬぬぬ……」

 

「まァまァ、ボクもそんなに長くいれるわけじゃないし、それにガープが帰ってきた時は譲ってあげるから」

 

「……ルフィとエースに何かあればタダじゃすまさんぞ」

 

「大丈夫、君には借りもあるしね」

 

 ミズキはガープがまだ海軍に所属していた頃、逃がしてもらった借りがある。別にそれがなくとも変わりはしないが、借りがある以上ルフィとエースに手を出すことはしない。

 ガープは納得はしていない様子だが今は自分も政府に追われる立場、海賊にとやかく言うことは出来ないと言葉を飲み込んだ。

 

「おい、あたしらの意見は無視かい!! ガキがもう一人増えるのなんて御免だよ!!」

 

「でも結局住まわせてくれるんでしょ? いいクソババアだよねダダンって。ルフィも言ってたよ」

 

「余計な情報持ってんじゃねェよ!!」

 

 こうして人知れずロックス、ロジャー、ガープ。今や伝説となった事件の当事者とその血筋が東の海に集まることになった。そしてこの出会いが後に世界の運命を大きく変えることになるとは、今はまだ誰も知らなかった。

 




活動報告にてミズキのプロフィールの更新、その他のオリキャラのプロフィールを載せておきました。興味のある方は御一読お願いします。
また、次回予告になりますがエレジア編を次回更新からスタートしようと思っています。映画のネタバレ等多く含みますので、ご視聴の上閲覧していただけると幸いです。
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