転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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今回からフィルムREDに関するネタバレを多く含みます。それでもいいという方だけ閲覧をお願いします。


音楽の島エレジア

 

 少女にとって、その時間は何よりも大切なものだった。

 

『あたしは赤髪海賊団の音楽家、ウタ!! みーんなが自由になれる新時代を歌で作る女よ!!』

 

『さァ、うちの音楽家のステージだ!!』

 

『お前、なんで父ちゃんのことシャンクスって呼ぶんだ?』

 

『お父さんだけど、あたしの憧れの船長だから!! かっこいいでしょ?』

 

 自分を娘と呼び、育ててくれた赤髪の船長。家族同然の船員達、競い合い喧嘩も多いが仲の良い友達。そんな彼らに歌を披露するのを、彼女はいつも楽しみにしていた。赤髪海賊団と一緒に海に出て、戦闘中は留守場でちょっぴり寂しいけどそれでも楽しかった。

 

『まだ決着はついてねェ!!!』

 

『出た、負け惜しみィ!!』

 

 年下の癖に生意気な少年も彼女には唯一と言っていい友達だった。文句を言いつつも引っ付いてくる彼を、口では鬱陶しそうに言っていたが大切に思っていた。こんな日々がずっと続けばいい……

 そんな思いは無情にも砕かれることになる。

 

『素晴らしい!! 君の歌声はまさに世界の宝だ!! ここには音楽の専門家達や、楽器、楽譜が集まっている!! 是非このエレジアに留まってほしい!! 国を挙げて歓迎する!!』

 

 それは赤髪海賊団が音楽の国として栄えるエレジアを訪れた時だ。ウタは国王であるゴードンに謁見し、人々の前で歌声を披露した。彼女の歌は国民達に絶賛され、国に残り素晴らしい歌声を世界に届けることを提案された。音楽家として、それは誇らしいことだ。しかしいくら乞われても、彼女が首を縦に振ることはない。

 

『なァ、ウタ。いいんだぞ、ここに残っても。世界一の歌い手になったら迎えに来てやる』

 

『バカ!! あたしは赤髪海賊団の音楽家だよ!! 歌の勉強の為でもシャンクス達と離れるのは……』

 

 ゴードンに案内されたこの国の音楽施設はどれも素晴らしいものだった。ここに残れば、音楽家として大成することは間違いないだろう。だがどんなことがあろうとも、シャンクス達と離ればなれになるのは嫌だとウタは涙を滲ませながら訴える。

 

『……わかった、そうだよな。明日ここを離れよう』

 

 シャンクスは困ったように笑い、彼女を抱き寄せて優しく言葉をかけた。涙で滲んだ目で彼を見つめながら、彼とずっと一緒にいようとウタは改めて思うのだった。

 

 ──だがその日の夜。

 

 目を覚ましたウタが見たのは破壊されたエレジアの街並みだった。美しかったレンガ造りの街は見る影もなく、建物は傾き倒壊し、あちこちで火の手が上がっている。

 

『全て奪われた!! 皆……殺された!! あいつらは君の歌声を利用してエレジアに近づき、この国の財宝を奪う計画だったんだ!!!』

 

『……あいつら?』

 

『君もずっと騙されていたんだ!! 赤髪海賊団とシャンクスに!!!』

 

 震える声で告げるゴードンの言葉を、ウタは信じることが出来ない。シャンクス達はそんなことしないし、自分を大切に思ってくれていた。ゴードンの言葉から耳を塞ぎ、彼女は港に向かって駆け出した。

 

『シャンクス!!! 置いていかないで!!!』

 

 ウタが港に着く頃には、赤髪海賊団は既に出航した後だった。レッド・フォース号の甲板に積み上げた宝箱の上に座って乾杯している。誰一人としてエレジアに、ウタに振り返ろうともしなかった。

 

『シャンクス……なんで……!!! なんでだよ!!!』

 

 それがエレジアとウタに起きた悲劇。以降ウタは滅びたエレジアでゴードンと二人で生活することになるが、彼女の心の傷が癒えることは数年経った今でも一度もなかった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

「……音楽の国エレジア壊滅、犯人は赤髪海賊団……ね」

 

 船の甲板にて、少し古びた新聞を眺めてミズキは呟いた。この事件は当時世界を騒がせたのを今でも覚えている。この出来事がきっかけでシャンクスの懸賞金は跳ね上がり、バギーと二人で悔しがったものだ。

 

「なァミズキ、これからどこに行くんだ?」

 

「……かつて音楽の国とした栄えた国、エレジアだよ」

 

「エレジア?」

 

 物思いにふけていたところに声を掛けられ、ミズキは風でなびいた髪を手でかきわけながら振り返った。そこには首を傾げて彼を見つめる少年、ルフィが立っていた。

 

「おれ海に出るの初めてだから楽しみだ!! ……でもなんでこの船飛んでるんだ?」

 

 ミズキの船は特別製であり、彼の能力で空を飛び海の気候関係なく様々な場所に移動することが出来る。当然他にはなく、興味深そうにルフィはあちこちに目移りしていた。

 

「別に珍しいことでもないよ、ルフィも海賊になったら空を飛ぶ機会くらいいくらでもあるって」

 

「え!? 本当か?」

 

「馬鹿、真に受けるんじゃねェよ。こいつが特殊なだけだ」

 

 ミズキの言葉に驚いたルフィに横からもう一人の少年、エースがツッコんだ。ミズキの言った事を冗談だと思ったのだろう。ミズキにそのつもりは無かったのだが、普通に考えて海賊が空を飛ぶなんてことは例外中の例外なのでエースの反応は正しい。

 

「で、なんでそのエレジアにおれ達を連れていくんだ?」

 

「二人共この半年のボクの修行でだいぶ強くなったし、他の島に遠足に行くのも悪くないかなって……それに」

 

 ミズキは持っていた新聞を二人に差し出し、例の記事を彼らに見せる。それを受け取ったエースは新聞をルフィにも見えるように広げた。

 

「……赤髪海賊団がエレジアを滅ぼした?」

 

「え!?」

 

 特に赤髪海賊団と面識もないエースは少し驚いたもののそれ以上の反応は見せなかったが、驚愕したのはルフィの方だった。信じられないといった様子で声を荒らげ、その記事に書かれていることを否定する。

 

「嘘だ!! シャンクス達がそんなことするわけねェ!!」

 

「ボクもそう思うよ、だから確かめに行くの」

 

 ルフィはもちろん、ミズキにもその事件はにわかには信じ難い事だった。赤髪海賊団とはライバルとして何度も戦い、時には共闘し彼らの人柄はわかっている。故に理由もなく国を滅ぼすとは思えないのだ。大方政府に罪を擦り付けられたというところだろうとバギーとミズキは結論づけていた。

 しかし火のないところに煙は立たない。今まで通りライバルであるならいいが、同盟を組むとなればこの話の真偽は確かめなければならないだろう。別に海賊なのだから略奪くらいしてもおかしくはないのかもしれないが、相手を信頼して後ろから寝首をかかれてはお終いなのだ。

 

「……見えた、あれがエレジアだよ」

 

 永久指針(エターナルポース)の示す方向に島が見えてきた。かつて音楽の国として栄えた場所、しかし遠目でもわかる程に先にある島はボロボロだった。人が生活しているような様子はなく、静寂が支配しているようだった。ほどなく彼らは上陸し、島の惨状を改めて認識する。

 

「……ひでェな」

 

「確かに……これは明らかに人の手で破壊された跡だね」

 

 建物は念入りに破壊されており、おおよそ自然災害のようには思えなかった。明らかに悪意を持った何者かが破壊したようだ。

 

「これを赤髪海賊団がやったってことか」

 

「エース!! シャンクス達はやってねェって言ってるだろ!!」

 

「じゃあこれは誰がやったって言うんだ!?」

 

 実際に破壊跡を見てもルフィはまだ信じられないようだ。エースに掴みかかり騒ぎ立てるルフィを横目で見ながら、ミズキは破壊された街を回っていった。

 

「……!! しっっ、二人とも静かにして」

 

『え?』

 

 騒ぎながら取っ組み合いをしていたルフィとエースに、ミズキが人差し指を口に当てて黙るように言った。二人は掴みあっていた手を離し、ミズキが見ている方向に視線と耳を傾けた。

 

「──♪」

 

「……歌?」

 

「こんな島で歌ってる奴がいるのか?」

 

 どこからともなく、歌声が聞こえてきた。ほんの僅かに聞こえてくる程度だったが、それでも美しいと思える歌声だ。無人だと思われた島で聞こえてくる歌声に彼らは疑問符を頭に浮かべた。

 

「──ただひとつの夢♪ ──決して譲れない♪」

 

「この建物の中からか?」

 

 歌声に誘われるように街から外れた建物へと一行は足を踏み入れた。外観は他と同じくボロボロだが、内部は誰かが生活しているのか綺麗に整頓されている。彼らは頭上から歌声が聞こえるのを確認すると、階段で二階へと上っていく。

 

「──心に帆をあげて♪ ──願いのまま進め♪」

 

「……女の子?」

 

「……!!」

 

 二階の一室を覗くと、ルフィやエースと同年代くらいであろう少女が窓の外を眺めながら歌っていた。右側が赤く左側が白い独特な髪色と髪型の少女だ。

 

「──いつだってあなたへ♪ ──届くように歌うわ♪」

 

「……ウタ?」

 

 ミズキとエースがその少女に多少の警戒をする中、ルフィは呆然とその少女を見つめ、そして彼女に向かってゆっくり歩みを進めていった。

 

「──大海原を駆ける♪ ──新しい風になれ♪」

 

「ウタ!!!」

 

「え?」

 

 少女が歌い終わったとほぼ同時にルフィが少女の目の前に駆け出していき、彼女に笑顔を見せる。数秒キョトンとしていた少女だが、ルフィに気づくと驚いたように目を見開いた。

 

「……ルフィ?」

 

「久しぶりだな!! お前なんでこんなところに……」

 

「ッッ……!! ルフィ……!!」

 

「おわっっ!!」

 

 ウタと呼ばれた少女はルフィに思いっきり抱きつき、その反動でルフィは後ろに倒れてしまった。ウタがルフィに覆いかぶさる形になったが、それでも彼女はルフィから離れようとしなかった。

 

「ルフィ……シャンクスが……!! シャンクスが……!!」

 

「シャンクス? シャンクスに何かあったのか!?」

 

 ルフィの服を掴み、泣きじゃくるウタに困惑する。フーシャ村にいた頃はどんな事があってもルフィに泣きつくようなことはなかったからだ。その様子を見て、ミズキとエースもまた困惑した。

 

「ルフィ、そいつ誰だ?」

 

「こいつはウタ、シャンクスの娘だ!!」

 

『娘!!?』

 

 エースの問いにルフィは予想だにしない言葉を返した。シャンクスと面識のないエースでさえ、あの〖五皇〗赤髪のシャンクスに娘がいたのかと驚く。十年以上前から付き合いのあるミズキはそれ以上だ。

 

「へ〜。なんだ、シャンクスちゃんとやることやってんじゃん」

 

「やることってなんだ?」

 

「子供は知らなくていいの」

 

「それよりウタ、お前なんでシャンクスの船から急にいなくなったんだ?」

 

「……」

 

 ミズキとエースのどうでもいい会話を流し、ルフィは純粋な疑問をウタに投げる。それを聞いたウタは気まずそうに顔を青くしてルフィから視線を逸らした。そのウタの反応に、ルフィは疑問を強めた。

 

「ウタ……?」

 

「シャンクスは……あたしを捨てた。このエレジアに……あたしを置いて行っちゃったんだ!!!」

 

「──え?」

 

 ウタの叫ぶような返答にルフィは言葉を失った。シャンクスがウタを捨てた? そんなはずはない、シャンクスは、赤髪海賊団はウタを実の娘のように可愛がり、大切にしていたはずだ。そんな彼らがウタを捨てるなんてありえないと。

 

「ウタ……シャンクスがウタを捨てたってどういうことだよ?」

 

「──それは私が説明しよう」

 

「……!!」

 

 その時、部屋に男が入ってきた。つぎはぎが残る頭にサングラス、ヘッドホンをつけた大柄な男だ。

 

「……君は?」

 

「私はこのエレジアの元国王、ゴードンという者だ。君はバギー海賊団のミズキ君だね?」

 

「まァね、よく知ってるじゃん」

 

「もちろん、赤髪海賊団との同盟話が話題になったばかりだからね」

 

 ミズキは警戒の色を強め、睨むようにゴードンを見た。それほど強い気配は感じないが、仮にあの記事が本当だとしたら彼がこちらに敵意を向けてくる可能性は十分にある。

 

「そう警戒しないでくれ、ウタの話をしたいだけだ。国民がいなくなったエレジアで、ウタは私が育てた」

 

「へェ、それでどうしてエレジアは壊滅したの?」

 

「……赤髪海賊団に滅ぼされたんだ」

 

 そこからゴードンはこのエレジアに起きた悲劇を語った。かつてこのエレジアは世界一の音楽の国として栄えたこと、そこにウタを連れた赤髪海賊団がやってきたこと、そして赤髪海賊団の目的はエレジアにある財宝だったということ、そして赤髪海賊団はウタを置き去りにして去っていったこと。

 

「……これがこの国に起きた悲劇の全貌だ」

 

「絶対嘘だ!! シャンクスが……!! 赤髪海賊団がそんなことするか!!!」

 

「おいルフィ!!!」

 

「君は……そうか、君がウタの言っていたルフィ君か。信じたくない気持ちはわかるが、今話したのは全て真実だよ」

 

「ルフィ……あいつらは私を捨てたんだよ。あんたのことも、きっと利用するつもりだった」

 

「……」

 

 ゴードンの語った事実がどうしても信じられないルフィは彼に掴みかかろうとする。それをエースが止め、ルフィは目に涙を溜めながらシャンクスから預かった麦わら帽子をより深く被った。冷たい声で言ったウタの言葉も聞こえないフリをする。

 

「ねェ、ゴードンさんって言ったっけ? 今の話、本当のこと?」

 

「ああ、嘘偽りない事実だ」

 

「そう……そっか」

 

「!!!」

 

 今度はミズキがゴードンの話の真偽を改めて問うた。ゴードンがその問いに頷くと、ミズキは背中の短剣を抜くと一瞬でゴードンに詰め寄り、彼の喉元に剣先を突きつけた。

 

「何を!!?」

 

「これでも海賊団の副船長だからさ、君が嘘をついてるかどうかはある程度わかる。これ以上くだらない嘘をつくならホントに殺すよ」

 

 少しだが覇王色の覇気を出し、ミズキはゴードンを睨みつける。見聞色の覇気を使えば相手の動揺くらい探るのは容易だ。ゴードンは話の最中明らかに様子がおかしく、それをミズキの覇気は見逃さなかった。もしあの話が嘘なのだとしたら、シャンクスをバカにされているようでミズキもいい気分はしない。

 

「君はボクらが赤髪海賊団と同盟を組んでると知っていた。自分の国を滅ぼした海賊の同盟相手が来たらもっと動揺したりするものだと思うけど?」

 

「それは……」

 

 図星を突かれてゴードンは言葉が出なかった。ミズキは彼の反応をひとしきり観察し、短剣をゆっくり彼の喉元からどけて背中に背負った鞘に戻した。

 

「なんてね、君に悪意がないのはわかってるし殺すつもりなんてないよ。ただ、本当のことを知らないウタが可哀想だとは思うけどね」

 

 それを聞いたゴードンは我に返ってウタの方を見た。彼女は明らかに動揺した様子でゴードンを見つめていた。余程ショックだったのか、焦点の合わない視線を必死に彼に向けようとしている。

 

「ゴードン、どういうこと? 嘘って……シャンクス達がエレジアを滅ぼしたっていうのは嘘だったの?」

 

「ウタ……」

 

 しばらく苦悩した様子のゴードンだったが、ウタの視線を見て決心したのか溜息を吐き、部屋の扉の前に立ち全員に言った。

 

「……付いてきてくれ」

 

「どこに行くの?」

 

「このエレジアの城だ、そこに全ての真実がある」

 

 部屋の外に歩いていくゴードンを、一同はここで話せないのかと疑問に思いつつも後を追った。そうしてしばらく歩いていくと、市街地の真ん中にある立派な城にたどり着いた。誰も使っていないからか古びてはいるが、他の場所に比べれば中は無事なようだ。

 

「ミズキ君、ここを開けられるかい?」

 

「壁? まァいいや、任せて」

 

 彼らは城内の書庫の前にやってきた。固く鍵のかかった扉をミズキが無理やり壁ごとぶち破り、室内へと足を踏み入れる。中には埃を被った本や楽譜がぎっしり詰まった本棚がズラリと並んでいた。

 

「……あれだ」

 

 ゴードンが天井を指差す、暗闇でよく見えなかったのでミズキが能力を使って灯りを灯すと、天井には不気味ながらもどこか美しい古代の絵画が描かれていた。

 

「……あれは古代文字?」

 

「トットムジカ……そう書かれているはずだ」

 

 よく見ると絵画の中には古代の文字が散りばめられていた。ミズキ達には読むことは出来ないが、ゴードンは言い伝えか何かで内容を知っていたようだ。

 

「トットムジカ……それはなんなの?」

 

「この国を滅ぼした元凶だ。ウタウタの実の能力者が歌うことにより顕現される歌の魔王だよ」

 

「……!!!」

 

「エレジアを滅ぼした……元凶?」

 

 その事実に、ウタはショックを隠せない。エレジアを滅ぼしたのは赤髪海賊団ではなく、トットムジカという魔王だという。そしてそれを呼び出したのはウタウタの実の能力者、つまり自分だという事実に。

 




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