転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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エレジアの真実

 

 

 エレジアの古城、その地下にある古い書庫でゴードンがエレジアに起きた悲劇の真実を語る。エレジアは赤髪海賊団ではなく、トットムジカという存在に滅ぼされたのだと。

 

「トットムジカについて語る前に、ウタの能力を知ってもらわなければならない」

 

「ウタの能力? 能力者だったの、ウタ?」

 

「うん……私はウタウタの実の能力者だよ」

 

「ウタウタの能力は歌を聞いた相手を現実ではなくもう一つの世界、ウタワールドへと誘うことが出来る。今我々がいるこの世界も現実ではない」

 

「!!!」

 

 ウタウタの実の能力者は歌うことによってそれを聞いた者を別世界へと引き込むことが出来る。ミズキ達もウタの歌を聞いたことにより知らず知らずのうちにウタワールドへと迷い込んでいたのだ。

 

「そういやァそんな能力を持ってるって前言ってたな、だからウタの歌を聞くといつもみんな寝ちゃってたのか」

 

「その通り、現実世界の我々の身体は眠っているのと同じ状態だ。まるで全員で同じ夢を見ているかのようにね」

 

「それはわかったが、その能力とエレジアが滅んだことに何の関係があるんだ?」

 

 ウタの能力は理解したが、それがエレジア崩壊とどう結びつくのかとエースが問うた。

 

「トットムジカっていうのはそのウタウタの能力と関係があるとか?」

 

「ああ……トットムジカは古よりこのエレジアに伝わる禁断の歌だ。ウタウタの能力者がひとたび歌えば魔王が呼び出される」

 

 ゴードンはウタに憐れむような視線を向け、一瞬言葉を呑んだ。だが覚悟を決めてトットムジカの真相を語り始める。

 

「魔王の力は絶大だ、一度呼び出されれば最後、能力者が力尽きて眠るまで際限なく破壊を繰り返す。そしてあの日、ウタはトットムジカを歌ってしまった」

 

「……!! ということは、エレジアを滅ぼしたのは赤髪海賊団じゃなくてその魔王ってこと?」

 

 ミズキの質問に、ゴードンは再び言葉を詰まらせた。今まで隠してきた真実をウタに知られるのが怖いのだ。しかしここまで話してしまっては、誤魔化すことなど不可能だろう。

 

「その通り、魔王はウタが眠るまでの間破壊の限りを尽くした。赤髪海賊団は魔王を止めるために戦ってくれたが、それでも魔王を止めることは敵わなかった。そしてエレジアはたった一晩で滅ぼされた、魔王の手によって。生き残った国民は私一人だけだ」

 

 驚くべき真実にその場は静まり返った。元々防音だったこともあり、書庫の中は静寂に包まれ僅かな音も聞こえない。その静寂を破ったのはルフィだった。彼は口元をニヤつかせると、ウタに寄って行った。

 

「おい聞いたかウタ!! やっぱりシャンクス達じゃなかったんだ!!」

 

 ルフィが嬉しそうにウタに手を伸ばすが、ウタはそれを払いのけてその場にうずくまった。そして頭を抱えると荒い息使いで何とか言葉を発した。

 

「私だった……!! シャンクス達じゃない……私がエレジアを……皆を殺した!!」

 

「ウタ、それは違う!! 君は何も悪くない、ただトットムジカに利用されてしまっただけだ!!」

 

「でも私がここに来なければ……エレジアが滅びることもなかった」

 

「ウタ……」

 

 やはりこうなってしまった。真実は僅か12歳の少女に背負わせるにはあまりにも酷すぎたのだ。悪意はなくとも、ただ利用されてしまっただけでも、自分がエレジア壊滅の原因と知ればこうなるだろう。だがゴードンにも非はある。少なくとも、彼自身はそう思っていた。だからこそ、彼はあの日の詳細を語り出した。

 

「……ウタ、君は悪くない。悪いのは私だ──」

 

 三年前、ウタがエレジアを出ていくと知った音楽院の者達は最後の機会だからとウタに色々な歌を歌わせた。ゴードンはウタの素晴らしい歌声を国民にも聞かせたいと国中に聞こえるようにした。だがそれがいけなかった、彼女の歌は城の地下に封じ込まれていたトットムジカの楽譜を呼び起こしてしまった。そしてウタを誘った、ウタウタの能力で自由になるために。

 

『目を覚ましてくれウタ!! 取り込まれるな!!』

 

 何も知らないウタはトットムジカを口ずさみ、魔王を呼び出してしまった。魔王はビーム光線で次々と街を破壊し始めた。ゴードンの必死の声も届かず、シャンクス達赤髪海賊団も全力で戦ったが破壊を食い止めることは出来ず、防戦一方だった。だがウタがまだ幼かったことが幸いし、彼女が眠ったことで魔王は消え去った。しかしその時には既にエレジアは壊滅していた。

 

『ウタには黙っていてくれないか。真実を知らせるのはあまりに酷だ』

 

『ああ、海軍には私のせいだと伝えよう……』

 

 エレジアの異変を聞きつけた海軍の軍艦が迫る中、生き残ったゴードンとシャンクスは燃え盛る街を背景に話し合った。誰かが責任を取らなければならないと。

 

『いいや、おれ達だ。“赤髪のシャンクス”とその一味、赤髪海賊団がやった。ウタにはそう伝えてくれ』

 

『……ウタを置いていくつもりか?』

 

『あいつの歌は最高なんだ。海軍に追われるおれ達がその才能ごと囲っちまうわけにはいかない。あんたの手で、最高の歌い手として育ててくれ』

 

 軽く笑うと、シャンクスは眠るウタをゴードンに手渡した。普段通り、冷静に振舞ってはいるが彼の腕は微かに震えていた。

 

『あいつの歌声に罪はない』

 

『シャンクス……』

 

 シャンクスの決意を受け取ったゴードンは、手を掲げエレジアの王として赤髪海賊団全員に聞こえるほどに胸を張って答える。

 

『承知した!! エレジアの王ゴードンは、音楽を愛していた全ての国民に誓おう!! 必ずウタを世界中を幸せにする最高の歌い手に育てあげる!!』

 

 そして赤髪海賊団はエレジアを出航した。皆トットムジカとの戦いで傷ついていたが、誰一人として暗い表情はしていなかった。たとえそれが痩せ我慢だとしても。

 

『ウタ、離れていてもお前は一生……おれの娘だ。だから……笑って別れよう。おれ達の音楽家の大事な門出だ!!』

 

 酒を注いだジョッキを高らかに掲げ、シャンクス達は泣きながら笑った。目から涙は止まらないが意地でも笑い続けて、そして酒を飲み干した。その間、誰もエレジアを振り返ることはしなかった。

 

「私が愚かだった……あの日、私が国中に君の歌を届けようなどと思わなければ……トットムジカが君の前に姿を現すこともなかったかもしれない。許してくれ……」

 

「ゴードン……」

 

 ウタの前で手をつき、ゴードンはサングラス越しに涙を流して謝罪する。

 

「違うよ……私だ。私が歌わなければこんなことには……私が皆を殺したんだ。それなのに……シャンクス達をずっと恨んでた……」

 

 ウタの目から光は無くなっていた。ずっとシャンクス達の仕業だと思っていたエレジアの壊滅の原因が、大好きな自分の歌だったのだ。そんな彼女に、ルフィもエースも声をかけられずにいた。だがそんな空気なのにも関わらず、ミズキは溜息を吐くと、やれやれといった口調で言い放った。

 

「ばっっかみたい……結局誰も悪くないじゃん。ウタもゴードンもシャンクスも、皆自分が正しいと思ったことをしただけでしょ? それを自分が悪いだのなんだの……どう考えても一番の元凶はその魔王でしょ? 別にウタが気に病む必要なんて無いと思うけどね」

 

「でも……私がトットムジカを歌わなければ!! そもそも私なんかがエレジアに来なければ……!!」

 

「だから!! あの時どうすればとか考えても意味無いでしょ!! ボクそういうウジウジしたの大嫌いなの!!」

 

 ウタの言葉を真正面から否定すると、ミズキはとある本をウタの前に投げ渡した。どうやらゴードンが話してる間に書庫の中から取ってきたようだ。

 

「いい? 悪いのは国を滅ぼした魔王。そしてそのトットムジカから魔王を作り出した能力者だよ」

 

「……!! 待ってくれ、魔王を作り出した能力者? そんな話は……」

 

「ここに入ってからどうも嫌な感じがしてね、ちょっと調べてたんだけど……ここを見て。魔王はトットムジカに込められた人の思いの集合体、寂しさや辛さ、心に落ちた影から生み出された。そしてそれを利用して魔王を作ったのは悪魔の能力者」

 

 ミズキは本のある1ページをゴードンに見せ、魔王の成り立ちを説明する。

 

「この悪魔の能力者ってのは文字通り、ヒトヒトの実幻獣種モデル悪魔……今ボクが身に宿してる能力をはるか昔に所有していた能力者が、ウタウタの実とトットムジカを利用して魔王を作った」

 

「!!!」

 

「おかしいとは思ったんだよ。赤髪海賊団総出でも倒せないような怪物を、たった一つの能力で作り出すなんて。でもこれで納得がいった、ウタウタの能力はあくまで魔王を呼び出す鍵にすぎない」

 

 本を静かに閉じると、ミズキはウタを見つめて落ち着かせるように頭を撫でた。そしてさっきとは違い、優しい声色でウタに語りかける。

 

「まァだから、君達が一人で背負い込む必要はないってこと。魔王を生み出したのが先代の能力者ならボクにも責任はあるしね。罪を背負い込むことには慣れてるんだよボク。なんてったって31億の賞金首だからね」

 

「…………うん」

 

 まだウタの表情は暗いが、心做しか光が戻ったようにも見える。不器用ながらもウタを元気づけようとしたミズキの言葉に少しは元気が出てきたようだ。そんなウタに今度はエースが歩み寄った。

 

「なァ、おれの父親知ってるか? “海賊王”ゴールド・ロジャーなんだ」

 

「……え?」

 

「おれは生まれてきて良かったのかなってずっと思ってた、ルフィ達に会うまでは。罪を背負ってるのはお前だけじゃない。だから……そう気に病むなよ」

 

「…………」

 

「エースは相変わらず不器用だね、でもいいとこあるじゃん」

 

「うるせェ……お前に言われたくねェよ」

 

 エースの不器用な励ましにミズキが茶々を入れるが、どうやらウタも思うことがあったようで無言ながらも頷いた。

 

「さて、じゃあ行こうか」

 

「……どこに?」

 

「決まってるでしょ? 魔王を退治しに行くんだよ。ここじゃ狭いからね」

 

 軽快に立ち上がりながら、さも当然のようにミズキは言う。そして自ら壊した壁の穴からルフィとエースを連れて書庫から出ていこうとする。

 

「魔王は現実とウタワールド、両方から同時に同じ箇所を攻撃しなければ倒せない。現実に誰もいない以上それは不可能だ」

 

「普通はね。だけどボクなら魔王を抑え込むことが出来る。だって魔王を作ったのはボクと同じ能力者なんだから」

 

 作り方を知っているなら壊し方も知っている。本来現実とウタワールドの両方から同時に攻撃を加えなければ魔王は倒せないが、ミズキならばその限りではないと彼は確信していた。

 

「……だが、トットムジカを歌わなければ魔王は現れない。またこの子にトットムジカを歌わせる気か?」

 

「決めるのはウタだよ。ここで魔王に怯えながら永遠に引きこもって暮らしたい? ボクだったら死んでもごめんだけどね」

 

 ミズキはいまだにうずくまっているウタに歩み寄った。ウタがチラリとミズキの顔を伺うと、彼は優しく微笑んだ。

 

「ねェ、シャンクスに会いたくない?」

 

「シャンクスに……?」

 

 ウタは三年前に別れた父親の顔を思い出す。あれから年月は経ったが鮮明に思い出すことが出来る。赤髪海賊団での思い出、シャンクスとの思い出、その全てを。ウタの答えは決まっていた。

 

「……会いたい!! シャンクスに会いたい!!」

 

 ウタは大粒の涙を流しながら訴えた。シャンクスに会いたいというそのたった一つの思いを。

 

「だけど……シャンクスに合わせる顔がないよ……」

 

「大丈夫、シャンクスなら心配いらないよ。もしウタを避けるようなことがあればボクが新世界の果てまでぶっ飛ばしてあげる!!」

 

「なぜそこまでしてくれるんだ? 君は……」

 

 海賊じゃないか、その一言をゴードンは飲み込んだ。赤髪海賊団のような海賊もいることを彼は知っている。世間一般では海賊というのは残虐非道なイメージだが、全てがそうではないと。

 

「そりゃボクだってホイホイと人助けなんてしないよ。だけど赤髪海賊団には借りがあるし、そもそも同盟組んでるんだから無視は出来ないでしょ」

 

 ゴードンの言葉の意図を、ミズキも理解していた。ミズキとて海賊、人助けなど自分達にも利益がある状況でなければしないし、むしろ傷つける側の方が多い。だが赤髪海賊団への借りや同盟を組んでいるという状況、何よりミズキ自身がこうするべきだと判断したのだ。やりたいことをやる、海賊というのは自由なものだと。

 

「魔王は現実にも現れるんだよね……ウタ、現実のボクらの身体を安全なところに移動できる?」

 

「……うん、やってみる」

 

「ありがと。それとゴードン、悪いんだけどエースとルフィを見ててくれるかな? トットムジカの楽譜はボクが取りに行くよ」

 

「……うむ、承知した。楽譜はこの書庫の更に地下に隠してある」

 

「ミズキ、おれも戦う!!」

 

「話聞いてた? 赤髪海賊団が束になっても止められなかった怪物だよ? ルフィが戦っても……悪いけど足手まといにしかならない」

 

 自分も戦うと息巻くルフィをミズキは制止した。確かにルフィもエースもミズキとの修行でそこらの大人には負けないくらい強くはなった。しかし魔王を相手にするにはあまりにも力不足、ミズキもどこまで守りきれるかわからない以上参戦させるにはリスクが大きすぎる。

 

「でも……!!」

 

「さァ、ルフィ君……島の端ならば魔王の攻撃も届かない。急いで離れよう」

 

「……ウタ!!」

 

「……!!」

 

 ルフィはゴードンの手を払い除け、ウタに駆け寄ると頭に被った麦わら帽子をウタに被せてやった。かつてシャンクスが自分にしてくれたように。

 

「これでシャンクスと一緒だ。だけどこの帽子を預かってるのはおれだから、絶対返しに来い!!」

 

「……ルフィ」

 

 ウタは麦わら帽子に手を添えると、目元が隠れるくらい深く被り直した。それだけで、なんだか勇気が湧いてくるようだった。

 そしてゴードンはエースとルフィを城の外に連れ出し、その場に残ったのはウタとミズキのみ。ミズキは先にウタを城の外に出すとゴードンから聞いた場所に隠してあるトットムジカの楽譜を持ち出した。

 

「さて……覚悟はいい?」

 

「うん……!!」

 

 二人は城から少し歩いて比較的開けた広場に出た。ミズキはウタにトットムジカの楽譜を渡すと彼女から少し距離を置く。ウタは楽譜を手に取り少し震えていたが、深く深呼吸して呼吸を整えると不吉なメロディが構成するその禁断の歌を歌い始めた。

 

「ッッ……!!」

 

 その瞬間周囲に禍々しいオーラが飛び散った。ミズキも思わず動揺してしまうパワーを持つ歌。オーラは徐々に力を増し、やがて黒い渦へと変化していく。その力を目の当たりにして、ミズキは冷や汗を流しながらも戦闘態勢に入るのだった。

 




※補足
魔王の辺りはオリジナル設定が入ってます。トットムジカが人の負の感情の集合体みたいな感じで映画ではふんわりと説明されてましたが、詳しいことはわからないので自分なりに考察してみました。明らかにウタウタの能力の一部ではないし、どっちかというと追加コンテンツみたいな感じだったのでもしかしたら別の能力者がウタウタの力を利用して作ったんじゃね?って感じで。
それでそういうのが出来そうな能力者を考えたらうちの主人公の能力出来そうじゃない?となったわけです。

簡単に言うと元々トットムジカという負の感情が閉じ込められた楽譜があり、それとウタウタの能力に目をつけた大昔のヒトヒトの実モデル悪魔の能力者がトットムジカ歌うことで顕現する魔王を作り出したという感じです。
まぁ素人の適当な考えといえばその程度なのでこの小説ではそういうもんだ!って感じで読み流しておいてください。
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