地平線の彼方に夕日が沈みかけ周囲が紅く染まる時間になっても、エレジアでの戦いは続いていた。ウタワールドからミズキが、現実世界から迫り来る海軍の相手を仲間に任せエレジアに上陸したシャンクスがそれぞれ攻撃を仕掛け、魔王はかなりの疲労を見せていた。
「さすがに限界が近いみたいだね……!!」
攻撃をしながらも、ミズキは挑発するようにニヒルな笑みを浮かべる。それは魔王に向けた言葉だが、魔王の中にいるウタにも言えることだ。故にミズキは最大限にパワーを溜め、今までで一番の攻撃を加えようとする。
「……!! どうやらそれしかないようだな」
その考えは見聞色の覇気を介してシャンクスにも伝わった。ミズキの作戦を理解したシャンクスは剣にありったけの覇気を纏わせ魔王に接近する。
「んにゃろ〜〜!! ゴムゴムの〜〜!!」
「馬鹿!! いい加減その役立たずの能力は諦めろ!!」
「役立たずじゃねェ!!」
ルフィがゴムゴムの能力で音符の戦士を攻撃しようとするが、案の定失敗しエースに庇われた。そんなルフィにエースが悪態をつくが、ルフィは聞き入れずに再び音符の戦士に向かっていく。
「さァ、これで終わりだよ!!」
ミズキは時間を止め、急上昇し魔王の真上に到達する。魔王がミズキを見失った一瞬の隙に力を蓄え、現実世界のシャンクスのスタンバイを待つ。現実世界でもシャンクスがグリフォンにありったけの覇王色の覇気を炎のように纏わせ、魔王に振り被ろうとしていた。
「……ハァハァ……頼む、ミズキ君!! ウタを救ってやってくれ!!」
「おっさん……!!」
ルフィとエースを追ってきたゴードンが息を乱しながら膝をつき、涙を流してミズキに懇願する。魔王を倒したところでウタの心が救われるかはわからない。だが少なくとも彼女を縛る重りが減るのは事実だ。
「そんなの……言われなくても!!」
シャンクス側の準備が整ったのを感じ取ったミズキがシャンクス同様に覇王色の覇気を短剣に纏わせ、巨大な剣へと変えて魔王に振り下ろす。シャンクスの剣が赤い炎のような覇気を纏っているとするならば、ミズキの剣は桃色の炎を纏っていた。
『今だ!!!』
ミズキとシャンクスが同時に、同じ箇所を攻撃する。凄まじい覇気を纏った攻撃をくらい、魔王はビームで抵抗しようとするもかなわず力尽きる。
「ギャ────ーッッ!!」
魔王は断末魔を上げ、大量の音符となって消えていった。解放されたウタは消えゆく意識の中で、たくさんの誰かの感情を感じ取った。それは魔王を形成していた歌を愛する者達の感情、『寂しい』『誰かに見つけて欲しい』そんな負の感情から作り出された魔王は、行き場のない自身の衝動を受け止めてくれる存在を探していた。
「──なんだ、アンタも寂しかったんだね」
消えていく魔王に向けて、ウタは優しく語りかけた。
「ハァ……ハァ……倒したのか……?」
ルフィとエースを囲んでいた音符の戦士達も消え、彼らはほっとため息をついた。そんな最中だった。
「……ウタ!!」
「!!!」
魔王から解放されたウタは意識を失い、空中に放り出された。元々魔王の巨体の上部にいたウタは、そのまま落下したら死んでしまうだろう。
「しまった……ウッッ……!!」
ミズキがすぐに助けに入ろうとするが、疲労で思うように身体が動かない。どうやらウタワールドで能力を使うのはかなり体力を削られるようで、元より消耗の激しい時間停止を使ったミズキは気付かぬ内にかなりの体力を持っていかれていたようだ。
「ウタ〜〜〜!!!」
ウタのピンチに、誰よりも早く駆け出したのはルフィだった。子供ながらに必死に、ウタを助ける方法を思考し、そして思い出すのはミズキとの修行中の記憶だ。
『クソ〜〜!! なんで上手くいかねェんだよ……!!』
『いいルフィ、悪魔の実の能力を使いこなすために大事なのは発想力だよ。自分の能力で何が出来るのか、工夫して捻り出すの』
『う〜〜ん……難しいことはわかんねェ!!』
『難しくないよ、君の能力はいくらでも応用出来そうだし。ま、焦らずやっていこう』
能力を使えれば、ウタを助けられるはずだ。ルフィは必死に走り、考える。そうこうしている内にルフィはウタの真下付近に到達し、見上げればウタがすぐそばまで迫っていた。
「ゴムゴムの〜〜風船!!!」
ルフィは咄嗟に思いっきり息を吸い込み、身体を風船のように膨らませた。ゴムの身体を持つ彼だからこそ出来る芸当。そうして落下してきたウタを身体で受け止めると、ウタはルフィの身体で跳ねて落下の勢いを失い地面に柔らかく落ちた。
「ウタ!!」
ゴードンがウタに駆け寄り、彼女を抱き抱えた。ウタは寝息を吐きながらゆったりと眠っていて、命に別状はなかった。
「……なんとかなったみたいだね」
「ああ……ありがとう」
魔王が倒されたことにより彼らはウタワールドから抜け出し、現実世界へと戻っていた。ゴードンは辺りをキョロキョロと見回すと、先程までいたであろう人物がいないことに気づいた。
「シャンクスは……?」
「もう行っちゃったよ」
ミズキが島の外に見える海を指差すと、そこには背を向け去っていくレッド・フォース号の姿が見えた。どんな理由があれど一度ウタを手放した自分達に会う資格はないとでも思っているのだろうとミズキは考え、呆れて思わず失笑した。
「ま、ルフィに会う訳にもいかないだろうしね」
彼らの約束を知っているミズキがそう言うと、彼らははしゃぐルフィとそれに呆れているエースの方を見つめた。
「見たかエース!! おれのゴムゴムの風船!!」
「ただ身体を膨らませただけじゃねェか……戦いにどうやって使うんだよ」
「なんだと〜〜!! 大砲だって防げるんだぞ!!」
「そうかよ……まァ、初めて役に立ったなその能力」
息を吐き、やや口元を緩ませてエースが言う。確かにルフィの能力でウタを救えたのは事実であり、それを否定するつもりはエースにはない。
「──ゴードン……シャンクスは?」
「……!! ウタ、目を覚ましたのか」
「シャンクスは!!?」
「……行ってしまった」
「!!!」
目を覚ましたウタがゴードンに問いかける。ゴードンが言いづらそうに口を開くと、ウタは返答を聞いて俯いてしまった。また置いていかれてしまったと。
「ねェウタ、ボクらのシマに来ない? シャンクスには迎えに来るように言っておくからそれまでさ」
「……だけど、シャンクスはきっと来てくれない」
「絶対来るって!! だってこのエレジアまで君を助けに来たんだよ? 君のためにさ!! ……それに、ウタだってシャンクスと一緒にいたいでしょ?」
シャンクスが迎えに来なければ赤髪海賊団に乗り込んで無理やり引きずり出す、それくらいのことはしてやろうとミズキは考える。ウタはシャンクスといたいし、シャンクスも同じ気持ちだろう。だがそれをプライドだとか責任感とかくだらないもので押し潰しているのだ。
「ゴードンさんもどう? ちょうど今シマの子供達に音楽を教えてくれる人を探しててさ」
「……そうだな、私もシャンクスにウタを任せられた責任がある。ウタがここを出ると言うなら私も同行しなければ……少なくともシャンクスとウタが再会するまでは」
シャンクスにウタを世界一の歌い手として育ててくれと頼まれた身として、その使命を果たすつもりだった。だがウタがそれを望まず、赤髪海賊団に戻りたいと言うのならばその意思は尊重しなければならない。そして、シャンクスの下に無事ウタを返すところまでが彼の仕事だ。
「後はウタがどうしたいかだけど……決まってるでしょ?」
「……うん」
ミズキがウタにどうしたいか問いかける。だが聞かずともウタがどう思っているかは表情から読み取れていた。そしてやはり、ウタの答えは予想と同じものだった。
「あたしは……赤髪海賊団の音楽家だよ!!」
「そうこなくっちゃ!!」
指をパチンと鳴らし、ミズキは嬉しそうにウタを見つめた。そうしてエレジアでの戦いは終止符を打ち、ミズキ達は乗ってきた船にウタとゴードンを乗せカライ・バリ島へと向かうのだった。
♦♦♦♦♦
「おいミズキ、このガキんちょ共はなんだ!!」
「ん〜? こっちの男の子二人はボクの弟子のルフィとエース、女の子の方はシャンクスの娘のウタだよ」
「なんでェ、シャンクスの娘か。あいついつの間に子供なんか────娘〜〜〜!!? 」
「“赤髪のシャンクス”に娘がいたのカネ!!?」
数週間後、無事カライ・バリ島に帰還したミズキはバギーの待つ街の中心にあるテントの中でバギーやその部下達にウタ達を紹介していた。ウタがシャンクスの娘だと知ったバギーは座っていた椅子から転げ落ちる程驚き、近くで聞いていたギャルディーノや部下達も皆目を飛び出させて驚いていた。
「あなたがシャンクスが言ってたバギー? 知ってるよ、鼻が赤くてずるいけど面白くて良い奴なんでしょ?」
「誰の鼻が赤くてずるいだァ!!! ハデに生意気なガキめ……シャンクスにそっくりだ……!!」
ウタが地面に転がるバギーの近くに寄り、シャンクスから聞いていたらしいバギーの情報を言うとバギーは勢いよく起き上がると能力で身体をバラバラにしながらウタにツッコんだ。
「わァ、本当にバラバラになるんだ。面白い!!」
ウタをビビらせようとしたバギーだったが、逆に面白がられぐぬぬと歯を噛み締めた。そんな彼らの様子を面白そうに見ていたミズキの元に小さな影が飛び込んでくる。
「ママうえ〜〜!! おかえりなさい!!」
「おわッッ!! ただいまフリーダ。ママじゃなくてパパだっていつも言ってるでしょ?」
「でもパパうえが二人だとややこしいからママうえって呼べってヤマト兄が言ってたよ?」
「……ヤマト、余計なことを……」
息子のフリーダに抱きつかれ、ミズキはそれを受け止める。なんの偶然か、フリーダはウタと同じように左と右で髪色が分かれている。左はバギーと同じ青、右はミズキと同じピンクだ。偶然といえばそれまでだが、ウタがシャンクスの娘だというのも含めて運命を感じずにはいられない。
「ほら、ボクらは話があるからウタ達と遊んできな。ルフィ、エース、ウタ!! 悪いけどフリーダを見ててくれる? その辺で遊んできていいから」
子供達を外に出し、ミズキは懐から伝電虫を取り出すと手近なテーブルの上に置いた。数秒コールを鳴らすと、彼らには聞き慣れた声が聞こえてくる。
「……ミズキか、何の用だ?」
「わかってるでしょ、ウタの事だよ」
電伝虫の先にいるシャンクスの言葉に少しイラッとしたミズキだが、落ち着いた声で用件を言う。そして次の言葉を紡ごうとした瞬間、横からバギーが割って入ってきた。
「シャンクスてめェ!! とっとと迎えに来やがれ!! クソガキの世話なんて死んでもゴメンだぞ!!」
「……!! バギーか……。だがどんな理由があれど、おれは一度ウタを捨てた……今更会う訳には……」
「あのさァ……親なんだから
「…………」
バギーとミズキに責められ、シャンクスは無言になる。沈黙は数十秒続き、それに耐えられなくなったのかミズキが最初に口を開いた。
「まァ……どの道同盟組むならその擦り合わせで半年以内にはこっちに来てもらわなきゃいけないし……その時に二人で話しなよ。それまでは面倒見ててあげるから」
「……わかった。すまないな、ミズキ、バギー」
「待て待て!! おれはまだ面倒見るなんて言ってねェぞ!! ──切ってんじゃねェよ!!」
バギーのツッコミを無視し、シャンクスは通話を終えた。まだウタを迎えに来ることを渋っているようだが、何とか会わせることには成功したようだ。
「じゃあもう少ししたらボクはルフィとエースを
「ハァ!!? てめェ自分で連れて来といておれ様に押し付けんじゃねェぞ!!!」
「ま、そういうことだからよろしくね♪」
「人の話を聞きやがれ!!!」
一方的に言葉を並べて出ていくミズキに、バギーがツッコミを入れる。だがバギーはミズキの頼みならば断らない、それを理解しているミズキは鼻歌を唄いながら外にいるであろうルフィ達の元へと向かっていった。
♦♦♦♦♦
──ミズキがルフィとエースを連れて出航して数時間後、カライ・バリ島の中心街付近の空き地。
「やァ〜〜!!!」
「……!! 甘いね!!」
「うわァ……!!?」
フリーダが短剣を振るい女性に攻撃するが、彼女はそれを軽く受け流し逆にフリーダを空中に放り投げてしまった。能力で空中で静止したフリーダは目の前の二本の角が特徴的な女性を見た。
「む〜〜!! ヤマト兄、少しは手加減してください!!」
「それじゃあ訓練にならないだろう? これでも怪我しないように気をつけてるんだからね」
バギー海賊団の大幹部、クラスSS傭兵のヤマトが得意武器である金棒を地面に置いて微笑する。この空き地にて、フリーダに戦い方を教えるのは彼女にとって日常茶飯事であり、すっかり習慣と化していた。
「ほら、強くなってバギーに外に出ることを認めてもらうんだろ? この程度で弱音を吐いてたら話にならないぞ」
「パパうえは過保護すぎるんです……別にママうえやヤマト兄がいれば外に出ても大丈夫なのに……」
「確かに……僕やミズキがいれば大抵の危機は乗り越えられるけど、バギーはあれで結構心配性だからね」
この島でバギーとミズキの息子として何不自由なく育ったフリーダ。しかしバギーの過保護に彼は不満を持っており、外の世界に憧れを抱いていた。そんなフリーダに、ヤマトはかつての自分の姿を重ねていた。
「ま、フリーダも僕のような立派なおでんになれればバギーにも認めてもらえるさ!!」
「はい、ボクも早く光月おでんになりたいです!!」
ヤマトが胸を張って言う。ヤマトが変に光月おでんの話をするせいでフリーダに曲解して伝わってしまっているのが最近のバギーやミズキの悩みだったりするのだ。
「よし、そうと決まれば再開だ!! 一日も早く立派なおでんになるぞ!!!」
「お〜〜!!!」
フリーダの元気な声がカライ・バリ島の空に響き、彼らの訓練は再開された。