転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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ロジャー同盟

 

 

 ──エレジアの一件より半年後、新世界カライ・バリ島。

 

「こちらです、キャプテン・バギーは既にお待ちで……」

 

「ああ、すまない」

 

 カライ・バリ島の港に着港した一隻の船。新世界であれば知らぬ者などいないであろう海賊団の船長の男が、迎えによこされた女性に案内され島の中心街へと向かっていた。五皇〖赤髪のシャンクス〗その後ろには副船長のベン・ベックマン、他にもラッキー・ルウやヤソップなど幹部達が揃っている。

 彼らの目的は主に二つ。一つは先の戦争の際に流れで結んだバギー海賊団との海賊同盟の詳細を打ち合わせること、そしてもう一つはかつて別れた娘に会うことだ。

 

「おい見ろ……あれが“赤髪のシャンクス”……!! キャプテン・バギーと同じ元ロジャー海賊団で兄弟分の……!!」

 

「そして今じゃキャプテン・バギーと並んで海の皇帝の一角……!! あの男もまさに伝説の一人だ!!」

 

 

“五皇”赤髪海賊団大頭“赤髪のシャンクス”懸賞金40億4890万ベリー

 

 

 当然だが、赤髪海賊団はバギー海賊団の船員や島民達からかなりの注目を集めていた。普段歓迎されることなど少ないであろう彼らはやや困ったような反応をし、視線を先頭を歩く船長に移した。

 

「しっかしこの島は五皇のナワバリだってのに呑気なもんだな……いいことなんだろうけどよ」

 

「恐怖で支配するより成果に対して適切な報酬を与えた方が反乱は起こらねェ……それを奴らはわかってるのさ」

 

 ヤソップが気の抜けた声でシャンクスに言うが、彼は振り返ることも答えることもしない。そんな彼を見兼ねて、ベック・マンが代わりに答えた。これまで数々の海賊のナワバリを見てきた彼の目から見ても、この統治法は確かに合理的だ。この時代それが実現可能な海賊団など数える程にしかないだろうが、実現出来るならやらない手はない。

 

「同盟を組む以上覚えといた方がいい……今後もここを訪れることになるだろうからな」

 

「ああ……向こうには美味そうな焼肉屋があった。覚えといた方がいいな」

 

「飯屋の話じゃねェよ!!! つーかおめェはコックなんだから自分で作りやがれ!!!」

 

 ベック・マンの言葉に続いてライムジュースが口を開く。それにラッキー・ルウも同意するが、全く関係の無い話だったので隣を歩いていたホンゴウが彼に強烈なツッコミを入れた。

 

「お頭……」

 

「…………」

 

 そんな中、未だ無言を貫いているシャンクスに気づき彼らは口を開くのをやめてしまった。彼の心境を思い、いたたまれない表情をする。数年前に苦渋の別れをした娘、ウタ。赤ん坊の頃に出会い、赤髪海賊団は実の娘のように可愛がっていた。特にシャンクスとは実の親子にも負けない程の絆を育んでおり、離れ離れになってしまった時の心境は計り知れない。そんな娘と数年ぶりに再会する。喜ばしいことだが、シャンクスの胸の中には常に後悔の念があった。あれで良かったのか、おれは無責任に娘を捨ててしまったのではないかと。恨まれてやしないかと。

 そして海賊である自分達が類まれなる才能を持つウタを再び縛り付けてしまってもいいのかと。シャンクスの中で結論は出ておらず、今なお葛藤していた。

 

「──♪」

 

「……!!」

 

「この歌は……!!」

 

 どこからともなく、歌が聞こえてくる。彼らにとっては馴染み深く懐かしい、それでいて彼らの記憶よりも更に洗練されている歌だ。それを聞いた赤髪海賊団の誰もが歌を歌唱しているのが誰なのか理解した。その歌は彼らが案内されたテントの中に入ると、更に強く聞こえてくる。

 

「──ビンクスの酒を届けにゆくよ♪ ──我ら海賊海割ってく♪」

 

 その歌は彼らにとって思い出深い歌だった。まだ幼くことある事に泣きじゃくっていたウタを、この歌でなだめ泣き止ませていた。

 

『ほぎゃ〜〜!! ほぎゃ〜〜!!』

 

『おい、ウタが泣いてるぞ!! 誰か泣き止ませろ、子守唄だ!!』

 

『誰も子守唄なんて知らねェよ!!』

 

『お頭〜〜!! 何とかしてくれよ〜〜!!』

 

『おれに言うな!! あ〜〜ちくしょう、これでどうだ!! ──ヨホホホ〜〜♪ ヨ〜ホホ〜ホ〜〜♪』

 

『おいおいお頭……それは子守唄じゃあ──』

 

『きゃははははは!!!』

 

『『あ…………』』

 

 かつての記憶を思い出しながら、彼らはテントの中の一角にあるライブフロアへと足を踏み入れた。そこには多くの観客がおり、皆ステージで歌う歌姫の歌に熱中していた。

 

「ヨホホホ〜〜♪ ヨ〜ホホ〜ホ〜〜♪」

 

「うォォォォォォォォ〜〜!! ウタ〜〜!!」

 

『UTA!!! UTA!!!』

 

 歌姫はまだ小さな子供だった。しかしそんなことは気にならないほどの歌唱で観客達を虜にする。そんな彼女の姿に赤髪海賊団は目に涙を浮かべて、娘の成長を喜んだ。

 そんな中歌姫はなにかに気づいたのか歌うのをやめ、ステージから見えるフロアの後方へと視線を移した。

 

「……シャンクス」

 

「……? どうしたんだ?」

 

「……!! おい、あれ見ろ!! “赤髪のシャンクス”だ!!」

 

「キャプテン・バギーの兄弟分!!? なんでここに……?」

 

「…………」

 

 観客達もシャンクスの存在に気づき、自然と彼らの前から退き道を開けた。観客達の間を抜けながらシャンクスがゆっくりとステージへと歩いていく。ベック・マンや幹部達は黙ってその場で彼の後ろ姿を見送った。ここからは親子の時間だと。

 

「ウタ……大きくなったな。ずっと……会いたいと思っていた」

 

「シャンクス……あたしは会いたくなかったよ」

 

 ステージに登り、シャンクスがウタに声をかける。何を言っていいかわからず、躊躇ったもののシャンクスははっきりと自分の意思を言葉に乗せる。しかしウタはそんな彼の言葉を突き放すような発言をした。それを聞いたシャンクスは表情を暗くする。

 

「だけど……会いたかった」

 

「……!!!」

 

 ウタがシャンクスに駆け寄り、彼の足に顔をうずめる。ズボンの布を掴み離そうとしなかった。そしてシャンクスの足になにか冷たい液体の感触が伝わってきた。それはウタが流した、大粒の涙だった。

 

「馬鹿!! なんで……なんで置いていったの……!!?」

 

「……すまなかった。あの時は……ああするしかなった。許してくれ」

 

 泣きじゃくる娘を抱きしめて頭を撫でる。震える彼女の手を握り、落ち着かせる。

 

「ごめんなさい……あたし、シャンクス達をずっと恨んで……」

 

「いいや、お前は悪くない。お前に本当のことを言えなかったおれの責任だ。それに……お前の歌の才能をフダツキのおれ達が囲っちまう訳にはいかないと思った。だから──」

 

「あたしは赤髪海賊団の音楽家だよ!!! どんなに歌が上手くなったって……シャンクス達が隣にいないと意味がないの!!!」

 

「……!!!」

 

 曇り無き目でシャンクスを見つめる。世界一の歌い手になれなくてもいい、赤髪海賊団の音楽家としてシャンクス達の隣で歌い続けることがウタの幸せだった。それを真っ直ぐにシャンクスに伝える。

 

「そうだな……お前はおれ達の音楽家、そしておれの娘だ。これからもおれ達の音楽家として……歌ってくれるか?」

 

「……うん!!!」

 

 今度こそ、絶対に離れない。何があってもずっと一緒にいるんだと固く誓いを結んだ。その様子に赤髪海賊団の幹部達は涙を流し喜び、ベックマンでさえ瞳から一筋の涙を零した。

 

「良かったなァウタちゃん……!!」

 

「いなくなっちまうの寂しいぞ〜〜!!」

 

 そして観客達も、そのほとんどが海賊のはずだが感動的な親子の再会を見せられ涙を流した。この半年でウタはすっかりカライ・バリ島で一番の人気者になっていた。シャンクスは娘の人気っぷりを誇らしく思い、口元を緩ませた。

 

「みんな……!!」

 

「同盟を結んでるんだ、また来れるさ……何も今生の別れって訳じゃない」

 

 その後ウタはバギー海賊団の前で最後に思う存分歌い、そうして赤髪海賊団と共にバギー達の待つ部屋へと向かっていった。シャンクスは自分達がバギーと話してる間に歌っていてもいいんだぞと言ったが、ウタはこれまでの空白の時間を埋めるようにシャンクス達と一緒に行くことを選んだ。

 

「ウタ……ルフィは元気だったか?」

 

「うん、相変わらず生意気だった」

 

「……そうか」

 

 移動中、シャンクスがルフィのことをウタに問いかけた。その話題にウタは半年前にこのカライ・バリ島でルフィと別れた時のことを回想する。ミズキがルフィとエースを連れて島を出る前に、最後の会話を交わしたのだ。

 

『ルフィ、これ返す。……ありがとね、守ってくれて』

 

 エレジアで魔王を呼び出す前にルフィがウタに被せた麦わら帽子。シャンクスからルフィが預かっていた大切な帽子をウタはルフィに返した。

 

『言っただろ、おれのパンチはピストルみたいに強いって!!』

 

『あんたは膨らんでただけでしょ……』

 

 以前のように憎まれ口をたたきながらも、ウタはルフィに感謝の言葉を伝えた。そして二人は別れ際に新たな誓いを立てた。

 

『ウタ、今度会った時にどっちが立派な海賊になってるか勝負だ!!』

 

『いいけど……あたしの方が先に海に出てるから勝つのはあたしだよ』

 

『そんなことねェ!! おれはシャンクス達を超えるって約束したんだ!!』

 

『出た、負け惜しみィ!!』

 

 ウタからルフィとの会話を聞いたシャンクスは二人を自分自身に重ねる。どっちが立派な海賊になるか勝負……かつて自分もバギーと同じことを競ったものだと。そんな会話に花を咲かせているうちに、シャンクス達はバギーの待つ大きな会議室のような部屋に到着した。中にはバギーやミズキ、その他バギー海賊団の幹部達が揃っていた。

 

「遅せェぞシャンクス!! どこで油売ってやがった!!」

 

「バギーすまなかったな、おれ達親子のことで世話をかけた」

 

「んなことどうでもいいんだよ!! おれ様を待たせるたァハデにいいご身分だなァ!!」

 

 

“五皇”バギー海賊団座長“千両道化のバギー”懸賞金39億8900万ベリー

 

 

 シャンクスがやってきたことを確認したバギーが能力で身体をバラバラにさせてキレ散らかした。しかし当のシャンクスはそれを軽く流し、案内された席へと着席する。全員が着席し、準備が整ったのを確認したバギー海賊団幹部のギオンが司会となり話し合いを始めようとする。

 

「それじゃあ揃ったようだし始めよう……まずはこの同盟の明確な敵を再確認しておこうか」

 

 ギオンが手配書を二枚、映像電伝虫を介して全員に見えるように壁に映した。海軍が会議などでよく用いる方法で、元海兵のギオンも当然知っていた。映された手配書を見て、全員が顔に緊張感を漂わせる。彼らと同じく海の皇帝の一角、そして今まさに世界最強の戦力と言えるであろう海賊団のボス。

 

 

“五皇”ビッグ・マム海賊団船長シャーロット・リンリン懸賞金43億8800万ベリー

 

 

“五皇”百獣海賊団総督“百獣のカイドウ”懸賞金46億1110万ベリー

 

 赤髪、千両道化同盟の明確な敵であり彼らが組むことになった要因の海賊同盟。元ロックス海賊団という共通点を持つ彼らの同盟は世界を震わせ、各勢力も対応に追われていた。今のところ目立った動きはないがいつ大暴れを始めてもおかしくないと、彼らの凶暴性を知る者は確信していた。

 

「彼らに対抗することがあたし達が同盟を組むことになった大きな要因……偵察船の報告によれば今のところ大きな動きは見られないけれど油断は禁物だね」

 

「ああ……直接ぶつかり合うことになれば不利なのはおれ達だ。今はまだ、慎重に様子を見るのが賢明だろう」

 

 ギオンの発言に赤髪海賊団随一の頭脳を持つベックマンが答えた。無論、彼らとて相手が誰であろうと負けるつもりは無い。しかしビッグ・マム、カイドウの同盟と全面戦争になればかなりの痛手になるのは間違いない。実際、バギー海賊団が百獣海賊団とぶつかった際には数時間の戦闘でかなりの被害を蒙っていた。

 

「引き続き両海賊団の監視はあたし達が担当する手筈になってる。赤髪海賊団には海軍や白ひげ海賊団、その他の勢力の警戒をお願いできるかい?」

 

「承知した。それでいいな、お頭」

 

「ああ、異論はない」

 

 ベックマンの問いにシャンクスも同意し、意見を擦り合わせる。もちろんそれだけで議題は尽きない。世界の情勢や各勢力の状況、その他話し合うべきことは山のようにある。会議が始まり一時間以上が経とうとした時、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

「キャ……キャプテン・バギー!! 大変です!!」

 

「どうした!? ハデに慌てやがって、敵襲か!?」

 

「いえ……お嬢が戻られました……ですが……」

 

「やっほ!! ただいま!!」

 

 酷く取り乱しながら部屋に入ってきたバギー海賊団の部下、その後ろからミズキがひょこっと顔を出した。エースとルフィをダダンの元へ送っていたはずだが、どうやら帰ってきていたようだ。

 

「ミズキお兄様、戻られたのですか?」

 

「まァね、本当はシャンクス達が来る前に帰りたかったんだけど寄り道してたら遅くなっちゃってさ」

 

「悪いなミズキ、エレジアの件では迷惑をかけた」

 

 ルナリアがミズキの帰還を喜び、シャンクスは彼の顔を見ると謝罪と感謝の念を含んだ言葉をかける。その間も、部屋に入ってきた部下は冷や汗を流して動揺していた。そのことを怪訝に思ったバギーは、再び彼に問いかける。

 

「おい、それでてめェは何を慌ててやがんだ?」

 

「はッッ!! それが……お嬢と一緒にとんでもない男が──」

 

「すまない、失礼する」

 

 ミズキの後ろから部屋に入ってきた老人。白髪に髭を蓄え、サンダルなどラフな格好をした男だ。だがそんな格好をしているにも関わらず、彼を見た者は誰もが目を見開き驚愕する。それもそのはず、彼は世界規模でも知らない方がおかしい程の大物。

 

「れ……レイリーさん!!!?」

 

「“冥王レイリー”……!! 本物か!?」

 

 元ロジャー海賊団副船長〖冥王〗シルバーズ・レイリー。かつて海賊王ロジャーの右腕としてこの海を生き抜き、バギーやシャンクスにとっては親代わりとも言える人物だ。思わぬ大物の登場に、冷徹なシリュウでさえ額から汗を流す。

 

「随分活躍しているようだな、バギー。シャンクスはシャボンディで会った時以来か……」

 

「レイリーさん、どうしてここに?」

 

「ミズキ君にあることを頼まれてな」

 

「あること?」

 

「あはは♪ それはね──」

 

 シャンクスの質問に、レイリーは含みを持たせた言葉で答える。その横でミズキが自慢げな顔で胸を張っていた。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

「行かないで〜〜!! ウタ姉〜〜!!」

 

「もう、男なんだからメソメソ泣かないの!!」

 

 要件を終え、赤髪海賊団はカライ・バリ島から出航間近だった。半年間でウタによく懐いていたフリーダは別れを嫌がり、べそをかきながらウタにしがみついている。

 

「色々世話をかけたなバギー。子供達も仲良くやってたみたいで何よりだ」

 

「けッッ!! てめェの生意気なガキの世話なんてもう二度とゴメンだ」

 

 全員が船に乗り込み、シャンクスがバギーに言葉をかけた。これから同盟として共に戦う仲だ、子供達も良好な関係を築いていたようで良かったと笑みを浮かべる。

 

「ほ〜らフリーダ、ウタはもう行っちまうからパパと遊ぼうな」

 

「嫌、飽きた!!」

 

「あき……た…………!!?」

 

 泣き止まないフリーダをバギーが宥めるようにウタから離そうとするが、息子に拒絶され深く落ち込んでしまった。意外ではあるがバギーは結構子煩悩なのだ。

 

「別に一生の別れじゃないんだよ? 会おうと思えばいつでも会えるから」

 

「……本当に?」

 

「ああ、またウタを連れて遊びに来るさ」

 

 見かねたミズキがそう言うと、シャンクスも同意する。いつでもというのは些か大袈裟だが、そう何年も会えないということはないだろう。

 

「次あった時はもっとすごい歌を聞かせてあげる。それまで楽しみにしてなさい」

 

「……うん、わかった」

 

 ようやく納得し、フリーダはウタから離れた。そして手を振りながら船に乗り込んでいくウタを見送る。目に涙こそ残っているが、笑顔で別れることが出来たようだ。

 

「おれ達はそろそろ行く、レイリーさんにもよろしく伝えておいてくれ」

 

 バギーはとても話を聞けるような状況ではないと思い、最後にシャンクスがミズキに声をかける。そうして彼も船へと乗り込み、赤髪海賊団はカライ・バリ島を出航して行った。

 

「さて、こっちも色々やることがあるし……忙しいね」

 

 彼らを見送ったミズキは、フリーダと未だ項垂れているバギーを強引に引っ張りながら島の中心街へと向かうのだった。

 

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