転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

72 / 90
エース

 

「本当に良かったの? 最後にウタと話さなくて」

 

「ああ……私は役目を終えた。親子の再会に水を差す訳にはいかない」

 

 赤髪海賊団がカライ・バリ島を出航してから数時間後、街の中心街で隣を歩くゴードンにミズキが問いかける。彼は少々複雑そうな面持ちだったが、はっきりと自分の役割は終わったと言った。サングラスの奥の瞳は見えないが、僅かに雫がこぼれ落ちたようにも見える。

 

「それでどう? 音楽教室の様子は」

 

「そうだな……皆素晴らしい音楽センスを持っている。この島の子供達は筋がいいようだ。もしかしたら将来、この島はエレジアのように音楽の島と呼ばれているかもしれない」

 

「あはは♪ 五皇のナワバリなんだけどね。でもそうなってたら面白いかも」

 

 たわいのない会話を数分し、ミズキはゴードンと別れた。数年とはいえ共に暮らし育てた娘と別れたのだ、今は一人にしてあげた方がいいだろうと考えたのだ。自分も丸くなったものだなと鼻で笑い、彼はルナリアに任せてある客人の元へと向かっていった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 カライ・バリ島はいくつかのエリアに分かれている。海賊団のアジトや訓練場、そして様々な商店などが並ぶ中心街、見渡す限り畑や田んぼなどの農耕地帯が続く農業エリア、工場や技術者達の研究所がある工業エリア、住民達の住居や孤児院、ゴードンが任せられた音楽教室のある住居エリア、そしてカジノや闘技場、その他娯楽施設が充実した宴楽エリア。

 そして今、宴楽エリアにてルナリアは元ロジャー海賊団副船長〖冥王〗シルバーズ・レイリーを案内していた。既に他のエリアを周り終え、このエリアが最後だった。

 

「ふむ……ここが有名なカライ・バリ島の宴楽エリアか……確かに色々な娯楽施設が揃っているようだ」

 

「ええ、カジノや闘技場の他にもバギー海賊団をモチーフにした遊園地“バギーランド”や水族館、レース場などの施設が一通り揃っています」

 

 バギー海賊団は世界でも有数の権力を持った海賊団、中でも娯楽業は業界内でもダントツ一位だ。海賊派遣業や農業、工業でもかなりの地位を築いているが、娯楽業も並ぶか、それ以上に栄えていた。そのため海賊のナワバリでありながら世界政府加盟国からも多くの観光客が訪れている。

 

「なるほど。そしてあれが……」

 

「はい、あれが世界最大のエンタテインメントシティ……“グラン・テゾーロ”です」

 

 彼らの視線の先、カライ・バリ島からほど近い海に浮かぶのは黄金色に輝く巨大艦船。バギー海賊団から独立したギルド・テゾーロが作り上げたまさに夢の国だ。超一流のホテルや流行の最先端をいくカジノやアミューズメントパーク、劇場やショーステージ。ありとあらゆる娯楽施設が揃った場所であり、元海賊のテゾーロが経営しているのにも関わらず中立地帯に指定されており中では海軍は海賊に手を出すことも出来ない。バギー海賊団との関係性も認知されていながら実質見逃されていることからも影響力の高さが伺える。

 

「ふふ……ギャンブラーとしての血が騒ぐな。私がここに来た理由は聞いているのか?」

 

「……カライ・バリ島やグラン・テゾーロのありとあらゆる施設を無償で利用する代わりにあなたはバギー海賊団に覇気の訓練を施す。そのように契約を交わしたと伺っておりますが……」

 

「わははは!! 契約などと堅苦しいものでもない。部下達を鍛えてやってほしいとミズキ君に頼まれてねェ。元見習いの海賊団だ、別に見返りなど求めるつもりなどないのだが……それでは筋が通らないだろう?」

 

「なるほど……しかしそれなら他のエリアを見て回る必要はなかったのでは?」

 

「ただの興味だよ。シャンクスもだが、あの見習い小僧がここまで大きくなるとは思わなかった……」

 

 レイリーがミズキに頼まれたのはバギー海賊団の強化。元からバギー海賊団に所属していたものやインペルダウンの脱獄囚達、バギー海賊団の戦力はかなり強化されたがそれでも大海賊時代以前から海に君臨している白ひげ海賊団、ビッグ・マム海賊団や百獣海賊団には劣る面があるのは否めない。更に戦力を上げるにはただ頭数を増やすだけでなく、一人一人の質を上げる必要があるというのがミズキが出した結論だった。故にバギーと深い関わりがあり、卓越した覇気使いであるレイリーに頼んだのだ。

 その見返りとして、レイリーはカライ・バリ島やグラン・テゾーロでありとあらゆる施設を自由に利用することが出来る。バギーとしては別にそんな取引などなくともレイリーに金を払わせる訳にはいかないと言ったのだが、それでは気持ちが悪いとレイリーから提案したのだ。

 

「あの猫や目玉のような不思議な生き物はミズキ君の能力によるものか……あれだけの数を操るとは中々のものだ」

 

「黒猫や使い魔達が見た光景は常に中心街の本部へと送られ、映像電伝虫を介して監視していて、もし海賊が暴れだしてもすぐに部隊を送り鎮圧します。尤も半端な実力ではその必要すらなく使い魔達にやられてしまいますが」

 

「ふむ……科学力の方も優れている様子だ……確かにバギーは我々の船にいた頃から物いじりが得意だったな」

 

「…………」

 

 意外かもしれないが、あれでバギーは中々の技術力を持っている。まだルーキーの頃には既にバギー玉を開発していたし、その後も研究者達の発明品に意見を言ったりしているのだ。その事でネオンとよく言い争いをしているが、恒例行事のようなものだ。

 

「失礼ですが……なぜ案内役に私を? バギー座長と旧縁ならばお二人で回られた方が……」

 

「単純な話さ、私は若い娘さんが大好きでねェ。特に君のようなべっぴんさんならば大歓迎だ」

 

 話が一区切りしたところで、ルナリアがレイリーに気になっていたことを訊ねる。レイリーの案内役を誰にしようかと話していた時、彼は真っ先にルナリアを指名した。元見習いで縁のあるバギーや彼をこの島に誘ったミズキの方が良かったのではないかとルナリアは疑問に思ったのだ。その質問にレイリーは笑って答えるが、ルナリアは煮え切らない様子だった。若い娘というだけならば、バギー海賊団には数え切れないほど存在する。

 

「……ああいや、すまないね。若い娘が好きというのは本当だ。ただ……」

 

 レイリーはそこまで言ったところで言葉を濁した。だがルナリアは彼の言いたいことを理解する。そして単刀直入に質問を重ねた。

 

「では……ジョイボーイという名前に心当たりは?」

 

「……!!」

 

「元ロジャー海賊団のあなたならば、私の知り得ないことをご存知かと思いまして」

 

 ルナリアの質問にレイリーは少し驚き、そして思考した。何まで話せばいいのか、何を話していいのかと。

 

「……確かに私は……我々は歴史の全てを知った。君の知りたいことも知っているだろう」

 

 ロジャー海賊団は最果ての島ラフテルへと到達し、隠された歴史の全てを知った。ルナーリア族の出自を持つルナリアですら知り得ない情報ですら知っているだろう。

 

「だがな……バギーは何も知らない。あいつの許可無しに私が勝手に話す訳にはいかないだろう……急ぐ必要も無い。君達は君達のペースで真実にたどり着けばいい」

 

「そうですか……では、最後に一つだけよろしいでしょうか?」

 

 少なくともトップであるバギー自身が聞いてこない限り、レイリーに答えるつもりは無い。それを知ったルナリアは最後にレイリーに語りかける。

 

「私はミズキお兄様こそが……ジョイボーイだと思っています。今はバギー海賊団に所属している身ですが、やはり世界を変えてくれるのはバギー座長ではなく……ミズキお兄様だと……」

 

「そうか……それもまた、私には答えかねる。君は自分の信じる道を進むといい。老いぼれの意見などあてにはならんよ」

 

 レイリーはまたもまともに答えることはせず、ルナリアに背を向けて立ち去ろうとする。元々案内もここまで、これ以上引き止めても何も聞けないと考えたルナリアは最後に挨拶をし、レイリーと別れようとした。

 

「おまたせ、こっちは終わったかな?」

 

「……!! お兄様!!」

 

「おお、ミズキ君。ちょうどルナリア君に全ての施設を紹介してもらったところだよ」

 

 ちょうどいいところにミズキがやってきた。後はミズキに引き継ぎ、自分はもうお役御免だろうと別の仕事に戻ろうとする。

 

「それでは私はこれで……ミズキお兄様、後はお願いします」

 

「ありがとう。ああは言ったが……君が一番の好みだったので選んだのは事実だ」

 

「……あの“冥王”レイリーにそう言っていただけるなら光栄です」

 

 軽くお辞儀をして、ルナリアはその場から立ち去った。その場に残ったのはレイリーとミズキのみ。レイリーがミズキに目をやると、彼はいつも背中に背負っている短剣とは別にオーソドックスなタイプの剣を持っていた。それを不思議に思ったレイリーにミズキは剣を投げ渡した。

 

「……!!」

 

「さすがだね!!」

 

 レイリーが剣をキャッチした瞬間、ミズキは短剣を抜きレイリーに斬りかかった。しかし彼はそれを平然と受止め、弾き返してみせる。

 

「やっぱり海賊王の船の副船長って肩書きは伊達じゃないね」

 

「勘弁してくれないか? 私も歳を取った……“ビッグ・マム”と互角にやり合う君には勝てやせんよ」

 

「よく言うよ、今でも全然戦えるくせに」

 

 ミズキが短剣をしまい、レイリーも力を抜いた。殺意が全くないのは見聞色の覇気で容易に察知できる。ミズキが斬りかかってきたのはあくまで挨拶代わり、海賊同士の礼儀のようなものだ。レイリーは海賊を引退した身だが、それは変わらないだろう。

 

「じゃあ一週間位は自由に楽しんでよ。その間に部下を集めておくから」

 

「了解した。私に言わせれば君もバギーも覇気の使い方に関してはお粗末な部分が目立つ、教えがいがありそうだ」

 

「……へェ……言ってくれるね」

 

 レイリーのやや挑発するような口調に、ミズキが笑いながらも声のトーンを低めに答える。ミズキもバギーも覇気の使い方は自己流、誰かに教えてもらった経験など一度もない。故にレイリーにとってはお粗末に見えるのだろう。もっとも、それでもカイドウやビッグ・マムと張り合えるのは大したものだろうが。

 

「お嬢〜〜!! お嬢〜〜!!」

 

 そんな中、ミズキを呼び部下が数名走ってきた。どうやらかなり慌てているらしく、全員が肩で息をしている。

 

「申し上げます!! ……港に王下七武海が……“海峡のジンベエ”が現れました……!!」

 

「……!! 海上を監視させてる子達から報告はなかったの?」

 

「そ、それが……海中を泳いで来たようで。かなりの深海を移動していたらしく、発見出来なかったのかと……」

 

 カライ・バリ島の周辺、半径にして3kmの範囲内はミズキの能力で生み出された使い魔達が監視している。海賊船や世界政府の船がひとたび範囲内に入れば、カライ・バリ島内に連絡が行き瞬く間に撃墜される。だが部下が口にした名は魚人の名、それも王下七武海の一角であるジンベエだ。ある程度の深さの海中なら発見できるが、海底を進んで来たのなら監視の目をかいくぐれても不思議ではない。

 

「でもジンベエか〜〜。暴れる気なんてないだろうし……てことはやっぱりあの件かな……」

 

「……あの件?」

 

「OKわかった。ボクが行くから君達は休んできな」

 

「は、はい!!」

 

 王下七武海の中でも、ジンベエは比較的温厚な人柄で有名だ。怒らせ、暴れられれば脅威になり得るがそうそうそんなことにはならないだろう。それにジンベエとミズキはとある事件で関わりがある。自分が行けば問題はないだろうと、部下を下がらせミズキはレイリーの方に振り向いた。

 

「そういうことだからしばらく楽しんでて。部下に言えば大抵の物は揃うようにしてあるから」

 

「ああ、そうさせてもらう」

 

 そうしてレイリーに声を掛け、ミズキはジンベエが待っている港の方へと飛んで行った。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 ──それから数年後。

 

 “火拳のエース”王下七武海への勧誘を拒否!! 

 

 その記事は世間を賑わせ、新たな大物ルーキーの登場に人々はそれぞれ反応を示した。一般市民はまた海賊の脅威が増えるのかと頭を悩ませ、世界政府は政府の顔に泥を塗ったスペード海賊団船長〖火拳のエース〗に高額な懸賞金を懸け、そして海賊達は彼を討ち取って名を上げようとする。だが海賊達の中でも皇帝と呼ばれる者達はそんな話題で表情を変えることはしない。威勢のいいガキが現れた、その程度の認識だろう。

 

「スペード海賊団……? 噂のルーキーが……おれに挨拶?」

 

「いや、そういう意味じゃねェんだ!! 弟が命の恩人だってアンタの話ばかりするもんだから一度あって礼をと」

 

 

スペード海賊団船長“火拳のエース” 懸賞金5億ベリー

 

 

 〖五皇〗赤髪海賊団が根城にしている冬島にエース率いるスペード海賊団が訪れていた。船長シャンクスの前に現れ挨拶をしに来たというエースに敵意を向けるシャンクスだったが、ルフィの名を彼が出すと途端に笑顔になりエースを宴の席へと招いた。

 

「お前がエースか!! エレジアでウタが世話になったってルフィの兄貴だな!!」

 

「ああいや……おれァ何もできちゃいなかったが……」

 

「ウタ!! ちょっとこっちに来い!!」

 

「なァにシャンクス……?」

 

 シャンクス達が宴会を開いていた洞窟の奥から一人の女性が現れた。顔を青くし、何やら頭を押さえているがその顔にエースは見覚えがある。それは向こうも同じだ。

 

「ん……? ……もしかしてエース?」

 

 

赤髪海賊団音楽家“歌姫ウタ” 懸賞金3億1000万ベリー

 

 

「ウタじゃねェか!! 久しぶりだな!!」

 

「エース!! ……ウッ……ちょっとごめん」

 

 エースに気づき特徴的な髪を立ち上げ喜ぶウタだったが、どうやら二日酔いのようでその場にうずくまってしまった。

 

「おいルウ、ヤソップ!! だから飲ませすぎるなって言っただろうが!!」

 

「いや……ウタが酒を飲めるようになったのが嬉しくてよ……楽しそうだったし」

 

 船医のホンゴウがウタに酒を飲ませた元凶であるラッキー・ルウとヤソップに厳しくお叱りの言葉を投げる。さすがに反省したのかルウが申し訳なさそうにするが、隣に立っていたヤソップは酒の入ったジョッキを掲げてそれを否定した。

 

「なァに言ってんだ!! 海賊たる者一度はぶっ潰れるまで飲むもんだ!! そうだろお頭ァ!!?」

 

「まァ……確かにそうかもな」

 

 ヤソップの問いかけに対し、背中越しにシャンクスが答えた。そして僅かに首を曲げヤソップを睨みつけると、静かながらに語気は強く彼を威圧した。

 

「だがな……娘は違うぞ……ヤソップ……!!」

 

「うぐ……!! す、すまねェお頭、ウタ、調子に乗りすぎた……悪酔いしちまったみたいでよ……へへ」

 

 数百万人に一人が持つ覇王色の覇気を撒き散らし、ヤソップを威圧する。それを直に受けたヤソップは気絶することこそなかれ全身を震わせ、慌ててシャンクスとウタに謝罪した。

 

「まったく……ほらウタ、まずは水を飲め。ゆっくりな」

 

「ありがとホンゴウさん……」

 

 コップに入った水を手渡され、ウタはそれを口にする。そんな様子を副船長であるベックマンが呆れながら見ていた。ウタが戻ってきてからというもの、シャンクスはやや過保護な面があった。少なくとも今回の件はヤソップが悪いのだが。

 そしてその場を見ていたエースはシャンクスの覇気の強さに息を飲んでいた。覇王色の覇気はエースも持っている。だが彼の覇王色は最近ようやくコントロール出来るようになってきた程度、シャンクスの覇気とは天と地ほどの差があった。

 

「悪いなエース、まァゆっくりしていってくれ」

 

「どうも、それじゃあお言葉に甘えて」

 

 ルフィの恩人だ。シャンクスと戦う気などサラサラないが、これから彼と同等と言われる海の皇帝達と戦うことになる。無論負けるつもりはないが、一筋縄では行きそうにないなとエースは覚悟を固めるのだった。

 だが心の中で相手の実力に驚いているのは、彼だけではなかった。

 

(ルフィの兄貴か。まだまだ若いがこの覇気……ミズキの弟子だと思えば納得だが。それにこいつはロジャー船長の……)

 

 シャンクスもまた、ルーキーにしては飛び抜けているエースの実力に驚いていた。こうして対面するだけでは実力の全てを理解出来る訳では無いが、五皇の最高幹部クラスの力はあるかもしれない。だがそれもあのミズキの弟子、そしてウタから聞いていた事実、ロジャーの息子だと思えば納得だ。

 だが今はあくまで宴の席、これ以上考え込むべきではないと思いシャンクスは思考をやめて酒を口に運ぶのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。