カライ・バリ島に1隻の船が到着した。海賊旗を掲げたいかにも海賊船だと言わんばかりの船だが、それはカモフラージュ。政府に乗っている男が誰なのかバレるのを防ぐため、架空の海賊船に偽装していたのだ。何故ならその船に乗ってやって来たのは政府と協定を結んだ七人の海賊達の一角なのだから。
“王下七武海海賊”“
最高級のスーツにピンク色のファー、サングラスという特徴的な見た目をした大男。現ドレスローザ王国の国王でもある彼が、カライ・バリ島を堂々と訪れれば大問題になる。ドフラミンゴはとある事情で政府内に顔が利き、たとえバレたとしてももみ消せるだろう。しかしバレないに越したことはない。
「さて⋯⋯王下七武海がボクらに何の用なのかな?」
「フッフッフ⋯⋯電伝虫でも伝えた通りだ。人造悪魔の実“SMILE”⋯⋯これをあんた達に使ってもらいたい」
カライ・バリ島の中央にある大きなテントの中の一室に案内された彼は、そこで待っていたバギー海賊団の副座長、ミズキと対面する。長々としたソファに腰掛けた彼は、テーブルを挟んで向かい側に座るミズキに対し、早速要件であるプレゼンを始めた。
「これはSADという薬品を使用して作る
「ヘェ凄いじゃん。てことはそっちには優秀な科学者が沢山いるってこと?」
「フッフッフ⋯⋯その通りだ。中でもシーザー・クラウン⋯⋯奴の技術はあのベガパンクにも匹敵する。SMILEだけじゃなく武器や薬物兵器も提供出来るだろう」
ドフラミンゴは自分達と取引をするメリットを少し誇張気味に話す。実際シーザーが科学者としてベガパンクに匹敵しているとは言えない。それはドフラミンゴ自身もわかっているが、あえて大袈裟に話すことで興味を湧かせる手法なのだ。
「で、そのSMILEってのは副作用とかはないの? 誰でも簡単に能力者になれるなんて美味しい話があるとは思えないんだけど」
「ああ⋯⋯もちろんないわけでない。まずSMILEを口にしても必ず能力を得られるわけじゃない。的中率は精々10分の1程度だ。加えてハズレを引いても本来の悪魔の実同様カナズチになる」
「まァそれくらいなら許容範囲内なんじゃない? 他にデメリットが無ければね」
「⋯⋯それともう1つ、ハズレのSMILEを口した者は笑顔以外の表情を失う。どれだけの苦痛を味わおうが、どれだけ憤っていようが笑うことしか出来なくなるんだ」
ミズキに問われドフラミンゴはSMILEのデメリット、副作用について説明する。彼からしても中々キツい副作用であり、たとえ彼が悪魔の実の能力者でなくても口にしたいかと聞かれれば答えはNOだ。
「だが1万人の雑兵のうち千人が能力者の強者となる。このメリットを考えれば多少のリスクは呑み込めるはずだ」
最底辺の下っ端などに価値はない。ドフラミンゴは自身の海賊団であるドンキホーテファミリーの幹部達のことは家族同然に大切に想っているが、末端の雑魚はどうでもよかった。大多数の海賊がそうであろう。ある程度の実力を持つ部下ならともかく、下っ端がリスクを背負おうがどうでもいいと考えているはずだ。しかしミズキの返答は、ドフラミンゴが想定していたものとは真逆だった。
「⋯⋯ハッキリ言ってゴミだね。そんな欠陥品じゃ使い物にならないよ」
「っ⋯⋯!! ⋯⋯何故だ? 確かにデメリットもあるが──」
プレゼンを否定された上にSMILEをゴミ、欠陥品と吐き捨てられたことにドフラミンゴは怒りと驚きの感情を覚えた。しかしそれをすぐに冷静さを取り戻し、ミズキにその理由を問う。
「あのねェ⋯⋯ウチは部下を大切にするの。一々捨て駒にしてたらいつまでも勢力増えないし、それに反乱を生む可能性だってあるでしょ?」
ため息を吐き、ミズキは呆れ交じりに答えた。彼の言うことはドフラミンゴには理解できないことだが、実際バギー海賊団は他の海賊と比較しても部下の扱いは丁寧だ。相当なヘマをやらかさない限りは特に罰など与えないし、末端の部下でも福利厚生や報酬の面では業界内でトップレベルに高待遇だった。ただしバギーの赤鼻を馬鹿にした(本人の聞き間違いも含む)者はその限りではないが。
「大体、王下七武海の君と取引をする事自体ボクらにとってはリスクが大きいでしょ。どうせ裏でコソコソ根回しするつもりだったんだろうけど、そんな面倒なことしてまで出来損ないの悪魔の実なんて欲しくはないんだよね」
「フッフッフ⋯⋯そうか、それは残念だ。お互いに利益のある取引が出来ると思っていたんだがな」
ドフラミンゴはあくまで冷静さを保ちつつ、部屋から出ていこうと座っていたソファから立ち上がった。交渉が決裂した以上、五皇のナワバリであるこの場所に留まる理由はない。別にバギー海賊団に断られたからといって他にあてがないわけでない。一番話の通じそうな相手を選んだだけだ。
「あ、それと1つ言い忘れてたんだけど⋯⋯ボク天竜人は嫌いなんだよね」
「⋯⋯!!」
その刹那、ミズキが短剣を投げつけドフラミンゴを攻撃した。彼は既のところでそれを回避し、サングラス越しにミズキを睨みつけた。
「どういうつもりだ⋯⋯!?」
「だって君、ウチに断られたら他を当たるつもりだったでしょ? カイドウとかリンリンのところとか。さっきはゴミとか言ったけどさ、みすみす敵に塩を送る行為を見逃すわけないでしょ」
ブーメランのように戻ってきた短剣をキャッチしながら、ミズキは不敵に笑った。ドフラミンゴは冷や汗を流しながらも彼を凝視し続けている。相手は五皇のNo.2、戦えば敗北は間違いない。無論やられるつもりなど毛頭ないのだが、それでも厳しい戦いになるのは否定出来ない。
「⋯⋯フッフッフ、まさか。おれもSMILEの出来の悪さは薄々わかっていた。あんたに言われて確信したよ。もう無駄な取引をするつもりは無い」
「ああそういうのいいから、どっちにしても逃がすつもりないし。言ったでしょ? 天竜人は嫌いだって」
(天竜人だと⋯⋯? こいつ、まさかおれの過去を⋯⋯!?)
ドフラミンゴは元天竜人。愚かな父の行いによりその地位を剥奪はされたものの、今でも彼は下界の人間をゴミ同然に思っている。しかしそれを知るのはごく一部のはず。少なくとも目の前の男がそれを知っているはずはない。
「⋯⋯天竜人? なんのことだかさっぱりだな」
「しらばっくれるならそれでもいいよ。何回も言うけど逃がすつもりないし。大人しく殺されてくれる? どうせ王下七武海ならいずれボクらの敵になる可能性が高いしね」
SMILEや元天竜人であることを差し引いても、一応立場は海軍側であるドフラミンゴを逃がす理由などない。向こうからわざわざ出向いて来ているのは絶好のチャンスだと言えるだろう。
「⋯⋯フッフッフッ⋯⋯⋯⋯フッフッフッフッフッフッ!! どうやら逃がしてくれるつもりはないらしいな⋯⋯!!」
ドフラミンゴは高笑いしながらミズキを見据えた。それが強がりなのか、本心からの笑いなのかは彼にしかわからないだろう。
「それならばおれも⋯⋯出来る限りの抵抗はさせてもらおう!」
「いいね、やれるものならやってみなよ!!」
ドフラミンゴが能力で生み出した糸、そしてミズキの短剣が激突した。互いに覇王色の覇気を持つもの同士、覇気のぶつかり合いで稲妻が周囲を駆け巡る。
──ことはなかった。
「⋯⋯!! これは⋯⋯」
ドフラミンゴの糸はあっさりとミズキの短剣に打ち砕かれてしまった。ミズキは悪魔の実の覚醒の力を使っておらず、半ば遊び半分でドフラミンゴを攻撃した。ミズキが本気ならばいざ知らず、加減した状態ならある程度拮抗すると思われたのだが。
「⋯⋯なるほどね。流石に何も手を打たないほど馬鹿じゃなかったか」
ミズキの攻撃をくらったドフラミンゴはその身体を糸に変えてしまった。能力で自らの分身を生み出し、それをカライ・バリ島に送り込んでいたのだ。本人もある程度近くにはいたのだろうが、この分では逃げ出した後だろう。部下の1人も連れていなかったことから予想していたことではあったが。
「お嬢!! 手筈通りドンキホーテファミリーの船は制圧しましたが、名のある首は1人も乗っていませんでした!!」
「まァそうだろうね。船は適当に処分して、乗ってた船員は牢屋に入れといて」
「へい!」
報告に走ってきた部下に指示を出す。どうやらドフラミンゴは船を使わず、自身の能力で逃げ帰ったようだ。糸で雲を掴むことで、彼は空中での移動を可能とする。ここが新世界だろうと彼程の実力があれば無事帰り着くことが出来るだろう。
「そういえば⋯⋯ジンベエ親分が港に⋯⋯」
「あ、今日だっけ? ドフラミンゴと鉢合わせなくて良かった。ちょうど暇になったし、通していいよ」
「了解です! すぐにお連れします!」
程なくして、1人の大男がミズキの前に姿を現した。魚人族の中でも一際身体が大きく、そして腕っ節も強い。それもそうだろう、彼もドフラミンゴと同じ王下七武海の1人なのだから。
「やっほジンベエ! 久しぶりだね!」
「ええ⋯⋯そっちはお変わりないようで」
“王下七武海海賊”“
ジンベエは王下七武海でありながら、度々カライ・バリ島に出入りしていた。傘下という訳では無いが、過去にミズキがジンベエの兄貴分であるフィッシャー・タイガーを助けたことで繋がりがあるのだ。それに恩義を感じているジンベエは、今もこうしてミズキやバギーに挨拶に来ている。
「フリーダも会いたがってたよ。後で適当に相手してあげて」
「もちろんじゃ。わしが言うのもなんだが魚人に怯えない子供は珍しい。流石はミズキさんとキャプテン・バギーの子供じゃ」
「あはは♪ そりゃそうでしょ。この島では魚人や人魚は珍しくもなんともないし。そもそもフリーダはそんなの気にしないしね。この前なんて、宇宙人を捕まえるんだ! とか言って飛んでいって慌ててバギーが追いかけたんだから」
「ワッハッハ! そうか、わんぱく具合は相変わらずじゃな!」
カライ・バリ島には魚人や人魚だけでなく手長族や足長族、小人族に巨人族とあらゆる種族が暮らしている。バギー海賊団は種族関係なく入りたいものは拒まないスタンスなので、自然とそうなったのだ。当然そこで生まれ育ったフリーダは魚人を見てもなんとも思わない。
「ジンベエ親分! 来てたの!?」
「おお、フリーダ! 元気そうでなによりだ!」
部屋に勢いよく入ってきたのは青髪のロングヘアにピンク色のグラデーションが入った独特な髪をした子供。ミズキとバギーの息子、フリーダだ。一件少女にも見える少年は、嬉しそうにジンベエに抱きついた。
「親分、僕この前宇宙に行こうとしたんだよ! 途中でパパ上に止められちゃったけど⋯⋯」
「そうか、そりゃあ大冒険じゃな!」
ジンベエが何度かこの島を訪れる内に、フリーダは随分ジンベエに懐いていた。ジンベエもそもそも面倒見がいい方だし、恩人であるミズキの子供となれば可愛がるのは当然だった。
「そういえばミズキさん。この島に来る途中の無人島で強い気配を複数感じたんじゃがあれは⋯⋯」
「強い気配? ⋯⋯ああ、あれはね──」
♦♦♦♦♦
──カライ・バリ島付近の無人島
「どうしたエース、もう終わりか?」
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯まだだ!」
地面に崩れるエースは、レイリーの言葉に答え立ち上がろうとする。レイリーからの提案を受けたエースは、この無人島で稽古をつけてもらっていた。今の実力では新世界で生き残ることなど出来ない。それを痛感した彼は仲間達の後押しもありここで力をつける決意をしたのだ。
「付け焼き刃とはいえ、君は覇気の基礎は出来ている。後は練度を高め、より上手く扱えるようにするだけだ」
エースは新世界を渡ってきただけはあり、それなりの実力は身につけている。レイリーの下で修行を重ねれば、すぐにレベルアップ出来るだろう。
「半年だ。その間に私は出来る限りのことを君に教えるつもりだ」
「ああ、よろしく頼む」
エースはレイリーに頭を下げ、改めて教えを乞うことを頼んだ。フーシャ村のマキノに習った礼儀作法は、やや曲解した形ではあるがエースに礼儀正しさを身につけさせてくれた。
「覚悟!! レイリー!!」
「む!? ヤマトか⋯⋯いい攻撃だが、それでは私には届かない」
その時、どこからか飛んできたヤマトがレイリー目掛けて金棒を振った。だがこれを予見していた彼はあっさりと受け止め、逆に受け流した。
「クソ⋯⋯まだダメか!?」
「もっと見聞色の覇気を鍛えるんだな。私に攻撃を当てるなら、未来を見れるくらいにはなってもらわないと困る」
「サラッと言うな⋯⋯それが出来れば苦労しない」
未来を見るレベルの見聞色の覇気を習得するのは容易ではない。バギー海賊団で使えるのはミズキだけ、他の海賊団でも2人いれば多い方だろう。それだけ難しい技術なのだ。
「世界の強者の中には⋯⋯武装色のように覇王色の覇気を纏わせる者もいる。ヤマトがやっているようにな。半年の修行でそこまで到達出来るかは君次第だぞ」
「ああ⋯⋯やってやるさ!」
仲間達を守るため、自身の野望を叶えるため、そして兄弟達のためにもエースはここで強くなる覚悟を決め、辛い修行に身を投じるのだった。
♦♦♦♦♦
──それから数年後、
一隻の小舟が、海の上を航海していた。いや、正確には“海の上をさまよっている”だ。何故ならその小舟に乗る男は航海術を持っていないどころか食料や水、コンパスや海図など航海に必要なものを何一つ積んでいなかった。完全に身一つで海に出たのだ。普通であれば10日と持たずに死ぬだろう。しかし天は彼を生かす、そういう運命なのだ。
モンキー・D・ルフィ、夢は大きく海賊王。人知れず出航した彼を待ち受けていたのは大渦だった。
「いやー迂闊だった。まさかこんな大渦にのまれるとは」
のまれてしまったものはしょうがないと軽く流すが、客観的に見て大ピンチである。
「困った、泳げないんだよなーおれ⋯⋯⋯⋯あ、そもそも泳げても意味ねェかこんな大渦」
彼はゴムゴムの実を食べたゴム人間。他の能力者の例に漏れず泳げないのだが、泳げたところで大渦にのまれては助かるはずもない。
「あ、やべ。わ〜〜!!?」
そしてついに小舟ごと大渦の中に消えていった。航海術を持たない男が一人で海に出ればこうなるのは既定路線だろう。しかしここから彼は生き延びる。そして近い将来、全世界に名を轟かせる大海賊となるのだ。そんな彼の船旅が今、幕を開けた。
てことで原作に突入です。色々変わってるところがあるので原作と大きく変わるところだけ描写しようと思います。他はダイジェストか全カットでいきます。