転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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月詠

 

 世界経済新聞社。世界中のほとんどの地域に新聞を配布し、情報を伝達する新聞社だ。表社会だけではなく、裏社会にもかなりの情報力を持ち、世界政府とも深い関わりのあるまさに世界最大の新聞社で、社長を務めるのは新聞王(ビッグニュース)の異名を持つモルガンズ。トリトリの実の能力者であり、有事の際を考え普段は能力で素顔を隠している。

 そんな彼は今、偉大なる航路(グランドライン)の空を移動する本社でとある大事件に心を躍らせていた。一つは先日アラバスタ王国で起きた王下七武海、クロコダイルによる王国乗っ取り未遂。クロコダイルは表向き七武海としてアラバスタを守っていたが、裏では秘密犯罪組織バロックワークスの社長としてアラバスタ王国を乗っ取る計画を進めていた。しかしそれを海賊“麦わらのルフィ”並びにその一味が阻止した。彼はつい先日ローグタウンにてあの五皇“千両道化のバギー”に命を狙われるも逃げ切ったことでモルガンズは目をつけていたのだが、ここに来て七武海の一角を落とすという大立ち回りを演じた。更に調べによると父親はあの革命軍総司令官ドラゴン、祖父は元海軍の英雄ガープだという。こんな大ニュースをモルガンズが見逃すはずはなかった。

 

「何? 政府から小切手が? この事件を揉み消せだと!?」

 

 しかし世界政府はそれを良しとしなかった。政府が七武海として認めていた海賊が不祥事を起こせば、政府の信用にも関わる。それを海賊が阻止したとすれば尚更だ。ゆえにその場に居合わせた海軍大佐スモーカーがクロコダイルを討伐したことにし、少しでも信用が落ちるのを防ごうとしたのだ。

 

「バカを言うな!! こんなものは送り返せ!! 今は真実が一番おもしれェんだ!!」

 

「しかし社長⋯⋯政府に背くのはさすがにまずいのでは?」

 

「おれは“ジャーナリスト”!! この世界(フロア)を情報というエンターテインメントで盛り上げるのがおれの生き様だ!! 何を載せるのかはおれが決める!!」

 

 モルガンズはそれを突き返した。確かに世経は世界政府と深い関わりがあるが、それはあくまでモルガンズが納得した場合情報操作や隠蔽を行うというだけ。彼が真実を報道したいと思えば政府がなんと言おうと従うことは無い。逆もまた然りだ。そんな横暴を働いても未だ消されていないのは彼や世経の影響力がそれほど高い証明だろう。

 

「社長、ドレスローザで起きた事件についてはどうしますか?」

 

「⋯⋯!! ドフラミンゴ失脚の件か⋯⋯あちらも負けず劣らずの大事件⋯⋯クワハハハ!! 隠蔽なんざさせるか、余すことなく記事にするんだ!!」

 

 政府からの圧力など意に介さず、モルガンズは真実を記事にして全世界に発信した。後々政府に追われることも加味し、すぐに本社を移動させる。そうして全世界に知れ渡った二つの大事件は、世間を震撼させることになった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 王下七武海の失脚。そのニュースは瞬く間に世界に知れ渡り、人々に衝撃を与えた。元々が海賊である彼らを端から信用していない者も一定数いたが、クロコダイルは20年以上も七武海としての職務を全うしてきた男。ゆえに政府や特にアラバスタの民衆からの信頼も厚く、そんな彼が王国乗っ取りを企てていたとは誰も読めなかった。

 

「う〜ん、全然揉み消せてないね〜。さてはモルガンズが頑張っちゃったな 。まァ面白いからいいけど」

 

 新聞を広げながらミズキはそう呟いた。バギー海賊団の本拠地の一室でミズキは新聞を受け取り読んでいる。時期的にそろそろアラバスタの記事が出る頃だと踏んでいたがどうやらビンゴだったようだ。しかも原作のようにルフィの活躍は揉み消されず、堂々と麦わらがクロコダイルを倒したと報じている。更にはどこから漏れたのか血縁関係までしっかりと記事になっていた。

 

「まァガープが革命軍に行ったからそこを隠す必要も無いし⋯⋯うちから逃げたルーキーの起こした事件となればモルガンズが黙ってないか」

 

「⋯⋯さすがはミズキお兄様の弟子といったところですか。それにあのガープの孫でドラゴンの息子とは⋯⋯」

 

「改めて考えるとすごい血筋だよね、ボクも人のこと言えないけど」

 

 普段ミズキ以外に関心を示さないルナリアもこの血縁関係にはさすがに驚いたようだ。元々知っていたミズキには今更なのだが、やはり初めて知ると衝撃も大きいのだろう。これだけの血筋、そしてこれまでの所業を考えれば懸賞金も当然上がる。

 

 

麦わらの一味 船長 “麦わらのルフィ” 懸賞金2億5000万ベリー

 

 

麦わらの一味 戦闘員 “海賊狩りのゾロ” 懸賞金8000万ベリー

 

 

 本来この時点での懸賞金はルフィが1億、ゾロが6000万のはずだがルフィに至っては倍以上に跳ね上がっている。事件が公になった以上懸賞金を抑える必要は無いし、七武海を倒したとなればこれくらいが妥当ではあるのかもしれない。血縁やローグタウンの件もあるので特に不思議ではないのだ。

 

「まァこっちはわかるんだけど⋯⋯これはどういう⋯⋯」

 

「⋯⋯お兄様? どうかされましたか⋯⋯?」

 

 それよりミズキが気にしていたのはもう一つの記事。こちらも七武海に関することなのだが、これを見たミズキは首を傾げて何やら考え込んでいる。

 

 ──ドレスローザ王国壊滅。世界政府はドンキホーテ・ドフラミンゴ氏から王下七武海の権利を剥奪か。

 

 時を同じくして新世界のドレスローザ王国。その国王として君臨していたドンキホーテ・ドフラミンゴは部下の能力で国民や海軍、政府の役人をおもちゃに変え支配していたという。当然王下七武海の権利は剥奪、彼やその海賊団の船員はインペルダウン送りになった。そしてミズキが気になっているのはドレスローザの真実を暴き、ドフラミンゴを討伐した海賊の事だった。

 

 

月詠(つきよみ)海賊団 船長 “月詠のカレン” 懸賞金5億3500万ベリー

 

 

「月詠海賊団ですか⋯⋯以前から前半の海で活動していたようですがここに来て頭角を現したようですね」

 

「う〜ん⋯⋯」

 

 ミズキはドフラミンゴを倒したという海賊の手配書をじっと見ていた。フードを被っているためよく見えないが、白髪ロングヘアーの12、3歳くらいの少女だ。確かにどことなく不気味な感じはするが普通の少女に見える。最も見た目など当てにならないのは他ならぬミズキが一番よく知っているが。それよりも重要なのは、ミズキがこの少女を知らないことだ。そう、()()()()のだ。

 この世界の現状を見ても、ミズキの知る原作との違いはいくらでもある。バギー海賊団の台頭は言うまでもなく、ガープが海軍を離脱していることやカイドウとビッグ・マムの同盟などだ。それらの変化は全て、ミズキの存在から始まっている。バギーがミズキと出会い、シャンクスと競い合い五皇と呼ばれるまでになった過程での変化だ。ゆえに元を辿ればミズキに繋がりそれがない変化はありえない。しかしだ、この月詠海賊団なる組織はミズキの記憶には存在しない。少なくともこの時期にドフラミンゴが七武海から降ろされるという事件は無いはずだ。彼女らの存在、そしてドレスローザでの事件、全てがミズキには不可解だった。

 

「お嬢〜!! 大変ですお嬢〜!!」

 

「どうしたの?」

 

「それが⋯⋯“赤髪”が“白ひげ”と接触を⋯⋯!! 同盟相手だからと連絡がありまして⋯⋯!!」

 

「⋯⋯!! そっか、そういえばこのくらいの時期だったっけ」

 

 その報告を聞いてミズキは思い出す。白ひげの船から逃亡した黒ひげとそれを追うエース。まだ彼らをぶつけるべきではないと判断したのだろう。黒ひげから手を引くように頼む為、シャンクスは白ひげの船を訪れたのだ。軽い小競り合いにはなるが、戦争にはならないはずだ。

 

「バギーはなんて?」

 

「それが⋯……放っておけと。我々まで動いて百獣とビッグ・マムの同盟に知られては寝首をかかれかねないので」

 

「うん、ボクもその判断で正しいと思う。様子を見ながら特にカイドウの動きを警戒しておいて。もしもの時はボクらで止めるよ」

 

「しょ、承知しました!!」

 

 カイドウやビッグ・マムはああ見えて中々頭が切れる。赤髪海賊団と白ひげ海賊団の全面戦争になるならまだしも、少し接触を図ったくらいでは動いてこないだろう。しかし可能性は0とは言いきれない。こちらも準備をし、もしもの時に迅速に対応出来るようにしておくべきだ。

 

「この先の海は荒れるよ……ボクらも油断は出来ない」

 

「⋯⋯ええ」

 

 赤髪と白ひげの接触、それはこれから起こる大事件の予兆に過ぎない。海軍本部VS白ひげ海賊団。後に頂上戦争と呼ばれる戦いはもう間近に迫っているとミズキは実感した。しかしミズキすらも把握出来ていなかった。戦いは彼の予想の範疇を大きく超え、時代を揺るがす一大事件に変貌することを。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 ──偉大なる航路(グランドライン)、ジャヤという島。

 

 この島の西にモックタウンという町がある。昔から海賊が闊歩する夢を見ない無法者達の島である。人々は傷つけ合い、歌い、殺し合うまさに無法地帯。

 

「なんて弱い奴だ。ちゃんと身体を鍛えてるのか!! ウィッハハハハハァ!!!」

 

「おいおいアンタ!! えれェ奴に手を出したな、そいつは“処刑人ロシオ”の一味だ!!」

 

 そこにいる海賊達は一癖も二癖もある者達ばかり。町で喧嘩が始まるのは当たり前、平和という言葉の対義語とも言える場所だ。

 

「お前今⋯⋯イカサマしやがったな?」

 

「ぎゃ〜〜ッッ!!? てめェ⋯⋯何しやがる!?」

 

 懸賞金4000万を超える海賊でも、更なる強者の前ではこの町では弱者になりうる。そんな危険な町に、麦わら帽子を被ったドクロを掲げた船が到着した。

 

「ワタクシはこの町では決してケンカしないと誓います」

 

「よし、ホントよ二人共」

 

『あー』

 

「何よその気の抜けた返事は!!?」

 

 空島へ行くための情報を手に入れる為、麦わらの一味はこのモックタウンを訪れていた。暴れればこの町にいられなくなるので、ナミはルフィとゾロに絶対に喧嘩はしないようにときつく言い聞かせる。しかし誓いますと言ったルフィは棒読みで心がこもっていないし、二人共返事が適当だ。

 

「フリーダも、危ないから無闇矢鱈に歩き回らないこと! いいわね?」

 

「は〜い!!」

 

 ナミに言われたフリーダは手を上げて元気に返事をする。彼にとっては全てが冒険だ。ゆえに島に着けば一番にルフィと共に探検をする。今回も例に漏れず、ウキウキしている。

 

「あー⋯⋯ああ⋯⋯ゲフッッ」

 

「あ、落馬した」

 

「ああ、落馬したな」

 

 一行の目の前で男が乗っていた馬から落ちてしまった。病弱なのか口から血を吐いていて、今にも死にそうな程に弱々しい。

 

「よし⋯⋯お前ら⋯⋯おれを立たせてくれ」

 

「いや自分で立つ気ねェだろお前」

 

 文句を言いつつも、ルフィとゾロは男を持ち上げ馬に乗せてやる。乗れたのはいいが、彼は馬の上で座ることも出来ずに寝転がった状態で馬の上に乗っていた。そしてどこから取り出したのか、籠に入ったりんごをルフィ達に差し出してきた。

 

「お礼と言っちゃなんだが⋯⋯おひとつどうだい?」

 

「怪しすぎだ。要らねェからさっさと行け」

 

「お、りんごじゃん。いただきます」

 

「わ〜い、りんご大好き!!」

 

「オイオイ食うな食うな!!」

 

 あまりに怪しいのでゾロは当然それを断るが、ルフィとフリーダは喜んでりんごを手に取り口にした。二人の警戒心の無さにゾロがツッコミを入れた。その時だ──

 

「うわあああ〜ッッ!!?」

 

「何だ!? 何があった!?」

 

「それが⋯⋯さっき妙な男からリンゴを受け取った奴らがそれを食って⋯⋯五人爆発した!!!」

 

 近くの建物が突如爆発した。その付近にいた者達によるとりんごを受け取りそれを口にした者達が揃って爆発したらしい。それを聞いたナミは顔を青ざめさせてルフィとフリーダに詰め寄る。

 

「二人共!! 早く!! リンゴ吐き出して!!」

 

「てめェ⋯⋯どういうつもりだァ!!!」

 

 ゾロが怒りを剥き出しにして剣を抜き、戦闘態勢に入った。男が妙なことをすればすぐに斬る。そう覚悟を決めたが、彼はニヤリと笑いルフィとフリーダの方を見た。

 

「⋯⋯アハハ⋯⋯ゴホ⋯⋯いやあ大丈夫だ。ハズレを引いたんなら一口目であの世へ行ってたさ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯セーフだそいつは。お前ら⋯⋯運がいいな」

 

 そう言って男は去って行った。あまりの出来事に呆然としていたナミだが、段々我に返ると怒りが込み上げてきたのか危うく死にかけたルフィやフリーダ以上に怒りを顕にした。

 

「なんなのよこの町は!!!」

 

「まァ生きてんだしいいじゃねェか」

 

「アンタ殺されかけたのよ!! 少しは怒りなさいよ!!」

 

「ぎゃああああ〜〜ッッ!!」

 

「⋯⋯!! 今度は何!?」

 

 能天気に笑うルフィにナミがチョップを入れた時、今度は目の前の建物が崩れ男が吹き飛んできた。次から次に起こるハプニングにナミは頭を抱える。

 

「クソッッ⋯⋯!! よくも⋯⋯殺してやる!!」

 

「⋯⋯殺す? あっはは! 君のような虎の威を借りることしか出来ない臆病で情けない貧弱な狐が? 面白い冗談だ!」

 

 吹き飛んできた金髪の大男。全身血だらけでボロボロになりながらも彼が睨む先には、フリーダと同年代くらいの少女がいた。彼女はフードの中から不気味な笑みを浮かべ、男の目の前に歩いてくる。

 

「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯てめェ⋯⋯知ってるぞ!! よくも⋯⋯ドフラミンゴを⋯⋯!!」

 

「何⋯⋯? あれ、あの子がやったの?」

 

「⋯⋯ベラミー!! ⋯⋯大丈夫か!!?」

 

 大男の仲間らしき男達が、ベラミーと彼の名を呼び走ってきた。懸賞金5500万ベリー“ハイエナのベラミー”。先程“処刑人ロシオ”を惨殺した北の海(ノースブルー)出身のルーキーだ。ここらの海では敵なしだった彼だが、今は見るも無惨な姿で少女相手にひれ伏している。

 

「ああ! そこ危ないよ、君達!」

 

「な⋯⋯!? ぎゃあ!!?」

 

「⋯⋯!!? お前らァァ!!」

 

 突如、ベラミーの元に駆けつけようとした仲間達の足元が発光。爆発を起こし彼らを肉片へと変えた。その中にはベラミー海賊団のNo.2、3800万の懸賞金を懸けられた“ビッグ・ナイフサーキース”もいたが、他の仲間と同様簡単にバラバラにされてしまった。

 

「ふふ⋯⋯言うのが遅かったかな? そこは“天使の領域”だ。足を踏み入れれば人間は生きていられない」

 

「あ⋯⋯あいつ⋯⋯!!? “月詠のカレン”だ!! 王下七武海ドフラミンゴを討ち取ったイカれたルーキー!!」

 

「な!? あんなガキがか!?」

 

 顔に付着した返り血を全く気にせず、カレンは猟奇的な笑みを浮かべる。無惨な光景にナミは口に手を当て絶句し、ルフィやゾロ、フリーダも不快な物を見たように顔を顰めた。

 

「ゲボッッ⋯⋯ハァ⋯⋯!! ⋯⋯スプリング跳人(ホッパー)!!! 

 

 ベラミーは力を振り絞り、バネバネの実の能力で足をバネに変え周囲の建物や地面を利用し跳ね回ることで急激に加速していく。それは一般人では到底視認出来ない速度であり、その速度を利用してカレンを攻撃しようとする。

 

「あっはは! その度胸だけは認めてあげよう。⋯⋯だけどね」

 

「⋯⋯!? ⋯⋯ぐァァァ!!?」

 

 ベラミーがカレンに殴りかかろうとした瞬間、彼を爆撃が襲った。先程サーキース達を葬ったものと同じだ。それを受けたベラミーは吹き飛び、倒壊した建物の瓦礫の中に落下した。

 

「どうやっても勝てない敵もいるんだよ。敵討ちならせめて、相応の実力をつけてから来るべきだったね」

 

「⋯⋯ちぐじょう⋯⋯!! ⋯⋯ちくしょォォ⋯⋯!!!」

 

 涙を流し、顔を歪ませて悔しがるベラミーをカレンは心底楽しそうに見下していた。まるでそれが快感であるかのように、ベラミーを蹴り飛ばす。散々ボロボロにされたので、彼の服は破け胸元に入っているドンキホーテ海賊団のシンボルのタトゥーがあらわになった。カレンはそれを踏みつけ更に笑みを浮かべる。

 

「あんなつまらない男の為にご苦労様だね。せめてもの情けにこのマークと一緒に葬ってあげるよ」

 

「ぐ⋯⋯ァァァ!!?」

 

 踏みつける力を強め、タトゥーごとベラミーの心臓を踏み潰そうとする。彼は苦しそうに喘ぐばかりでもはや抵抗する力も残っていない。

 

「⋯⋯なんのつもりかな?」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 その時だ、ルフィがカレンの肩を掴み彼女を制止した。それに一瞬驚いたものの、カレンはベラミーから足をどけてルフィの方を見た。睨みつけたのでは無く、あくまで不気味な笑みは崩さずに。

 

「君はこの男の知り合いか? それともドフラミンゴの?」

 

「いや⋯⋯こいつが誰なのか知らねェし、このシンボルが誰のかもわからねェ」

 

 ルフィは麦わら帽子に手を置き、普段とは違う落ち着いた口調で言った。目の前の男とはなんの縁もなく、踏みつけられたシンボルが誰のものかも全く知らない。しかし自分の目の前で誰かのシンボルが踏みつけにされるのはいい気分ではないのだ。

 

「ちょっとルフィ!! トラブルは起こさないって約束したでしょ!! しかもこんな小さい女の子相手に⋯⋯!」

 

「ルフィ⋯⋯? ⋯⋯⋯!? あいつもしかして、“麦わらのルフィ”じゃねェか!?」

 

「そうだ、手配書と同じ顔!! クロコダイルを倒したルーキーだ!!」

 

 ルフィがクロコダイルを倒した男だと知るや否や、周囲を囲んでいた野次馬からどよめきの声が上がる。だがそんなことを彼らは気にもとめない。傍らにいたゾロも刀に手をかけ、いつでも戦闘を始められるように構えていた。

 

「ちょっと二人共⋯⋯!! ⋯⋯⋯⋯ねェ、私達空島に行きたいの!! 誰か知ってる人はいない!?」

 

「空島⋯⋯?」

 

「何言ってんだあの女⋯⋯」

 

 このままでは情報収集どころではないと思ったナミは、この場にいた者達に空島への行き方を尋ねた。だがそれに答えるものはおらず、皆顔を合わせ疑問符を浮かべるだけだった。

 

「⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯ハハッハハ⋯⋯!! 空島だと? ⋯⋯お前本気でそんなもんがあると思ってんのか⋯⋯? ⋯⋯ゲホッ!! ⋯⋯笑えてくるぜ」

 

「⋯⋯ッッ!! 何よアンタ!! 助けてもらったくせに偉そうに!!」

 

「助けたのはルフィだけどね」

 

 息を乱しながらもナミの言葉を笑い飛ばすベラミー。そんな彼をナミが怒りを込めて怒鳴るが、実際に助けたのはナミではなくルフィなのでフリーダに冷静にツッコまれた。

 

「⋯⋯この島じゃあ空島なんて口にしただけで笑いもんだ⋯⋯ゲホッッ!! ⋯⋯おめェんとこの船長が怖ェから皆黙ってんだよ⋯⋯⋯ホントはこう言いたいのさ⋯⋯空島になんて行けるはずねェ⋯⋯ってな」

 

 ベラミーが血反吐を吐きながら弱々しい声で言う。この町は夢を見るのを忘れた町だ。ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)、黄金郷、そんなものはただのまやかし。幻想を追うより目先の利益を追求し、海賊として名を上げた方がいいに決まってる。そんな考えで染まった町なのだ。

 

「おれは空島に行く!! 行けねェとかお前が決めんな!!」

 

「⋯⋯ハハッハハ⋯⋯!! ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯そうか⋯⋯せいぜい頑張れよ⋯⋯」

 

 空島に行くという自身の意志をはっきりと表明するルフィ。そんな彼に悪態をつき、ベラミーは意識を失った。一命は取り留めているようだが、危険な状態だろう。

 

「ふふ⋯⋯さすがはモンキー・D・ルフィだ。君に会えたことを光栄に思うよ」

 

「何だお前、おれのこと知ってるのか?」

 

「ああ、もちろんだとも。君自身が知り得ることよりもより多くの情報を⋯⋯ね」

 

 カレンのその発言の意味をルフィは理解出来なかった。彼女はそんな反応に満足したのか、今度はフリーダの方に歩みを進めた。そして彼の前に立つと、二本の指をフリーダの顎に当てクイッと上にあげた。

 

「少年、君の名前は?」

 

「え? フリーダだけど⋯⋯少年って、君も僕と同い年くらいでしょ?」

 

「フリーダ⋯⋯ふむ、聞いた事のない名だな」

 

 フリーダの質問を見事にスルーし、カレンは指を口元に当て何やら考え込んでいる。そんな様子にフリーダは少しイラッとしたものの、先程ベラミーを倒した実力を見ているので警戒を緩めずカレンを視界に入れていた。

 

「よし決めた。フリーダ、私と一緒に来ないかい? きっと実りある体験が出来ると約束するよ」

 

「⋯⋯え?」

 

 なんの脈絡もない、唐突な提案にフリーダは言葉を失う。それはルフィやゾロ、ナミも同じだ。数秒そんな時間が続いたが、フリーダはすぐにはっきりと答えを出した。考えるまでもないと。

 

「僕は麦わらの一味のフリーダ⋯⋯! だから君とは一緒に行けない」

 

「⋯⋯!! ⋯⋯あっはは! うんうんそうだね、麦わらの一味ならそうでなければ! 無粋な質問をして悪かった」

 

 断られたというのにカレンは上機嫌に頷き満足気だった。元々期待していなかったのかそれとも別の何かがあるのか、それはわからない。これ以上説得しても意味が無いと思ったのか、それとも最初から強いるつもりはなかったのかカレンは背中に純白の翼を出現させ、そのまま飛び去ってしまった。

 

「何あの翼!?」

 

「鳥の能力者か!!」

 

 カレンが翼を生やして飛んで行ったことにナミが驚き、ルフィは鳥の能力者か何かかと当たりを付ける。そんな彼らを脇目に、ゾロが倒れているベラミーを担ぎ歩き出した。

 

「おい、とっととメリー号に戻るぞ。こいつはチョッパーに診てもらおう」

 

「あ、待ってゾロ! 港の場所わかってる?」

 

「当たり前だバカにすんな!!」

 

 極度の方向音痴であるゾロが港に戻れるか心配し、フリーダが慌てて追いかける。案の定港とは反対方向に歩き出しており、ナミはここまでの一連の流れを含めて頭が痛くなってきたのかため息を吐きながら頭を押さえていた。

 

「⋯⋯ゼハハハハ!! 空島はあるぜ、“麦わらのルフィ”!!」

 

「⋯⋯!!」

 

 その場から離れようとしたルフィ達を呼び止めたのは丸い腹をした大男。彼は地面にドカッと座りチェリーパイを貪っていた。

 

「噂通りいい面構えだ! 思ってたより覇気も強ェ! 流石はクロコダイルを倒した男だ! ゼハハハハ!」

 

「何よあんた、私達に何か用?」

 

「いいや、そういう訳じゃねェ⋯⋯。行けるといいな、空島へよ」

 

 男はそれだけ言うとチェリーパイを持って歩いていく。ルフィとゾロは男の言葉を黙って聞いているだけで何も言わなかった。そして無言のままその場を後にする。

 

「ねェ、あいつ空島について何か知ってたのかも⋯⋯」

 

「さァな、それにあいつじゃねェ⋯⋯」

 

「⋯⋯? どういうこと?」

 

()()()()だ。⋯⋯多分な」

 

 ルフィがナミの発言を否定し、ゾロが付け加える。しかしナミには二人の言っていることがわからず、疑問が強まるばかりだった。フリーダもなにか引っかかるようだが、明確な答えは出せていなかった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 ──その日の夜、ジャヤの外れにある廃屋。

 

「まったく⋯⋯上手くやりやがったよロジャーの奴は。今の時代海賊は掃いて捨てるほど溢れてやがる。奴の遺した⋯⋯大秘宝(ワンピース)を求めてな⋯⋯」

 

 男は葉巻をくゆらせる。もじゃもじゃ頭が特徴的な老人と言って差し支えない年齢の男だった。かつて祭り屋と呼ばれた大物海賊、ブエナ・フェスタ。彼は宿敵であるロジャーを思い出し、不意に苛立ち手近にあった紙をぐしゃぐしゃに丸めた。

 

「だが⋯⋯お前達の話に乗ればこのつまらねェ時代を終わらせ⋯⋯新たな熱狂を生み出せる。⋯⋯そうだな?」

 

「ゼハハハハ⋯⋯その通りだ。“祭り屋”⋯⋯いや、“最悪の戦争仕掛け人”ブエナ・フェスタ」

 

 その部屋は明かりがロウソク一本しかなく、薄暗かった。フェスタの葉巻が目の前に座る二人を映し出す。一人は四番隊隊長サッチを殺し白ひげ海賊団から逃亡した男、マーシャル・D・ティーチ。そしてもう一人は先日ドレスローザにてドフラミンゴを討ち取り名を上げた少女、“月詠のカレン”だ。

 

「確かに⋯⋯お前らの提案が上手くいけば世界中を熱狂の渦に巻き込むことが出来る。話も筋は通ってる⋯⋯が、上手くいく保証はあるのか?」

 

「⋯⋯彼が海軍に引き渡されれば⋯⋯白ひげは必ず動き出す。そうなれば全面戦争は免れない。彼がロジャーの息子である以上、海軍は公開処刑を敢行するだろう。海賊ならば尚更だ。私達はそれに便乗すればいい。冷やかしでないと君に証明する為にわざわざドフラミンゴを討ち取ったんだ。ここまで来て断るとは言わせないよ」

 

「グハハハハ!! 疑ってるわけではねェさ。確かに⋯⋯十分すぎるネタだ」

 

 カレンの言葉を聞き、フェスタは笑う。確かに残り少ない余生を捧げるには十分すぎる話だと。そして隣に座っている客人に視線を向け、意見を求めた。

 

「だ⋯⋯そうだ。おれは乗るが⋯⋯アンタはどうする?」

 

「マーシャル・D・ティーチ⋯⋯だったか? ロジャーの息子はおれが仕留める。手柄はくれてやるが⋯⋯邪魔はするな」

 

「⋯⋯ゼハハハハ!! ああ構わねェ⋯⋯アンタに協力してもらえるなら安いもんだ。かつて“鬼の跡目”と呼ばれた男にな!!」

 

 元ロジャー海賊団、ガルツバーグの惨劇を引き起こしたLEVEL6最悪の脱獄囚ダグラス・バレット。彼もまた、この会合に参加していた。自身の求める世界最強の座、それを手に入れるために。

 

「決まりだな⋯⋯“火拳”の居場所はわかってるのか?」

 

「問題ない、こちらから出向かずとも向こうから来てくれる。誰かさんが逆鱗に触れたからな」

 

「よし、なら始めようか。全世界を巻き込んだ⋯⋯世界一の祭りを!!」

 

 大海賊時代を終わらせ、新たなる熱狂の新時代を生み出すため。あるいはロジャーを超え、世界最強の座を掴むため。それぞれの野望を内に秘め、世界の均衡を破壊する一大計画が発動された。

 




世界一自由な男ことモルガンズ、アラバスタの件を全て記事にする。ガープの孫でドラゴンの息子、バギーから逃げ切ったルーキーをほっとくわけないからね。世界政府君はとっとと打首にしてどうぞ。
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