──新世界、ワノ国鬼ヶ島。
五皇、百獣のカイドウが率いる百獣海賊団。その根城である鬼ヶ島にあるカイドウの城で、とある者達が電伝虫を使って連絡を取り合っていた。一人は百獣のカイドウ本人。彼は普通のサイズの数倍はあるであろう特注の椅子にドカッと座り、目の前に置いた二匹の電伝虫に視線を向けていた。傍らには腹心である火災のキングもいる。
「おい、おれは今気が立ってんだ!! つまらねェ話なら殺すぞ!! ブエナ・フェスタ!!」
持っていた瓢箪に入った酒を一気に飲み干すと、それを床に叩きつけた。どうやら先日取引相手だったドフラミンゴが失墜したこで彼との取引が出来なくなり、それが原因で苛立っているようだ。電伝虫越しとはいえその迫力は尋常ではない。しかし電伝虫の相手は全く臆することなく、カイドウに語りかける。
『つまらねェなんてとんでもねェ⋯⋯おれは全世界を熱狂させる祭りを開催する。それにアンタらを招待したいだけだ』
『ハ〜ハハハ!! 全世界とは大きく出たもんだ。もったいつけてねェで言いな! 一体何を企んでんだい?』
電伝虫の向こう側でニヤリと笑い、ブエナ・フェスタが言う。自身の起こす祭りに参加して欲しいと。それに対しもう一人、もう片方の電伝虫の先にいる老婆が問いかけた。こちらもカイドウと同じ五皇。同盟を結んだ相手でもあるビッグ・マム海賊団船長のビッグ・マムことシャーロット・リンリンだ。
『そうだな⋯⋯時にアンタら、ロジャーに息子がいると言ったら信じるか?』
「⋯⋯! ロジャーに息子だと?」
『いるはずがねェさ。ロジャーの処刑と同時に奴に繋がる全ての人間が極刑になったんだからよ』
フェスタの唐突な発言に流石のカイドウやビッグ・マムも驚いた。だがビッグ・マムはすぐにそれは有り得ないと断言する。当時政府によってロジャーに関わる全ての人間、彼の船を作った船大工や果ては彼の子を身篭っている可能性が少しでもある全ての女性が徹底的に処刑されたのだ。ロジャーの息子などいるはずがない。
『いや、ロジャーの息子は確かに実在する。そして今は白ひげ海賊団で2番隊の隊長をやっている』
「⋯⋯よりよって白ひげのジジイの船か⋯⋯2番隊といやァ確か⋯⋯」
「“火拳のエース”だ、カイドウさん。二年前に話題になった元スペード海賊団船長」
「ああ⋯⋯あの時うちに喧嘩を売りやがったガキか」
カイドウの隣にいるキングが言った。そしてカイドウもエースを覚えていたようだ。鬼ヶ島に乗り込み、大看板ジャックとの戦いを痛み分けで切り抜けた男。大看板と戦える海賊など数える程しかいないので、彼の記憶にも残っていた。
『話の真偽はさておき⋯⋯仮にその“火拳”ってのがロジャーの息子だとしておめェは何をするつもりだい? “最悪の戦争仕掛け人”とまで呼ばれた男がよ』
『“祭り屋”と言ってもらいてェな、ビッグ・マム。⋯⋯元ロックス海賊団のアンタらが手を組むとは夢にも思わなかった。白ひげもそうだったが、アンタらは全員あの事件でロジャーに敗れてんだ。そして奴が海賊王になったことで二度、奴に敗北している』
『ああ!? 誰が敗れたって!! 死にてェならそう言いな、祭り屋風情がよ!!』
「提案ってのは何だ!? とっとと言え!! ぶち殺すぞ!!」
挑発とも取れる発言に電伝虫越しのビッグ・マムの威圧感が増した。カイドウも眉間に青筋を立て、豪快に酒を飲み干し強い言葉でフェスタを威圧する。だがフェスタはそれでもなお冷静に話を続けた。
『……ロジャーに負けたのはおれも同じさ。あの時の奴の発言で大海賊時代が始まり、おれは祭り屋として完全に敗北した。だが奴の作った新時代はつまらねェ⋯⋯!! 海賊の頂点を決めるのが宝探し? 間怠っこしいんだよ⋯⋯!!』
フェスタはテーブルに拳を叩きつけ叫ぶ。ロジャーに負けた悔しさ、憎しみ、怒り、それら全てを払拭するかのごとく、新世界の怪物達に伝える為に。
『なんの因果かおれの手には今、ロジャーの残した宝への道標がある!! こいつを手に入れた者、それこそが海賊王だ!!』
「⋯⋯!? おい、道標だと!? てめェ、何を持ってやがる!!」
『新世界の怪物共!! 殺し合い、奪い合え!! おれの祭りで勝ち残った者に送られるのは⋯⋯
『⋯⋯!!』
「なんだと⋯⋯!?」
「そんなものが⋯⋯」
そしてフェスタは彼の持っているとある宝の詳細、そして計画の全貌を話した。カイドウやビッグ・マムにとってもその宝の存在は初耳だった。そしてフェスタの計画を知り邪悪な笑みを浮かべる。
『ハ〜ハハハ!! 確かにそれが実現すれば誕生するねェ⋯⋯新たな海賊王が。だが、今はまだおめェの話を全部信じることは出来ねェだろ?』
『ああ、近い内に記事が出るはずだ。それを見てから動いてもらって構わねェ⋯⋯こっちにも準備があるからな』
「ウォロロロロ!! 面白れェ!! それが真実なら乗ってやる、ブエナ・フェスタ!!」
ブエナ・フェスタの目論見通り、百獣海賊団並びにビッグ・マム海賊団は彼の開催する世界を熱狂させる祭りへの参加を決めた。だが彼らでも氷山の一角に過ぎない。フェスタが祭りへの参加を要請している、もしくはこれからする予定の海賊団は他にもある。それらが全て参加し、祭りが成功しようものなら大海賊時代すら生温い熱狂を生み出すことが出来る。その未来を思い描き、フェスタは高笑いするのだった。
♦♦♦♦♦
海賊王を夢見る海賊達を阻む試練であり、新世界の海賊達からは楽園と呼ばれるその海。そこに今、過去に類を見ない程に有望なルーキー達が集結していた。彼らはそれぞれが大事件を引き起こし、連日新聞の一面を飾った。近い将来新世界を目指し、彼らは中継地点であるシャボンディ諸島に集まることになる。その時、彼らは11人の超新星と呼ばれることになる。
「お、おい⋯⋯この方はかのバギー海賊団クラスA傭兵だぞ!!」
「ほう⋯⋯噂の五皇の海賊団がどれほどの実力か⋯⋯試させてもらおうか」
「な⋯⋯!? こいつ急に身体がデカく⋯⋯!!?」
「
「ぎゃあああ〜〜〜!!?」
ある者は海の皇帝、五皇のナワバリにも果敢に挑み戦果を挙げる。新世界において生き残るためには五皇に屈するかそれとも逆らい続けるかの二択しかないが、誰かに従う気などサラサラない彼は抗い続ける。たとえ前半の海でもそれは変わらない。
「や、やめてくれ⋯⋯!! おれ達は故郷に帰るんだ!!」
「ハッッ!! プライドの一つもねェなら海に出るんじゃねェよ!! ここは怖気付いた奴から脱落する海だぜ!!」
「やめ⋯⋯!?」
ある者は己の思うがまま、一般人も海賊も関係なく暴れ回る。ゆえに懸賞金も上がり、海軍からも危険人物として警戒されることになるが、彼には関係ない事だった。自分が海賊の王になると信じて疑わず、また仲間達もうちの船長こそが海賊王に相応しいと考えている。
「⋯⋯!! ドフラミンゴが!?」
「キャプテン、どうしたの?」
「⋯⋯⋯⋯」
そして海賊王を目指す以外の目的を持っている者もいる。亡き恩人の無念を晴らす為に動いていた彼は、恩人の仇がインペルダウンに投獄されたことを知り複雑な思いを抱く。
そんなルーキー達の中でも、一際異彩を放っている海賊がいた。
「正気か貴様らァ!! 全世界を敵に回して生きてられると思うなよォ!!」
「望むところだァ──っ!!!」
仲間一人を救う為、世界政府の直轄であるエニエスロビーに殴り込みをかけた海賊団。彼らはそこで闇の諜報機関、CP9と衝突し彼らを撃破していった。
「ゴムゴムの
船長、麦わらのルフィは遂に歴代一の天才とまで呼ばれたロブ・ルッチを撃破した。だが島一つ消し飛ばす政府の大艦隊による砲撃、バスターコールが満身創痍の彼らを襲った。
「ガト〜〜
「うわァァァ〜〜!!?」
地上では本部大佐クラスが複数人で麦わらの一味を追い詰めていた。そして軍艦の上では少年が一人飛び回り時間稼ぎに徹している。その能力を見て、バスターコールの指揮をしているモモンガ中将がなにかに勘づいて顔を青くした。
「あれは⋯⋯“宵魔女”と同じ⋯⋯!!?」
バギー海賊団副座長の宵魔女ミズキと、目の前で軍艦にいる海兵を相手に戦っている少年の能力が似ていることに気づき、冷や汗を流す。そして早急に対処すべきと判断したモモンガは月歩と剃を駆使して暴れ回る少年、フリーダに接近し斬撃を繰り出す。
「⋯⋯!!」
単純な実力ではモモンガの方が上、フリーダは呆気なく斬撃をくらい身体が真っ二つに切れてしまった。海賊とはいえまだ幼い少年を手にかけるのはモモンガとしては良い気分ではないが、バスターコールが発令された以上島にいるものの死は避けられない。ならばせめて楽に死なせてやろうと容赦なくフリーダを斬ったのだが⋯⋯
「な!?」
「あ〜びっくりした!!」
なんと真っ二つになったはずのフリーダの上半身と下半身がくっつき、何事もなかったかのように動き始めた。モモンガはそれを見てすぐにとある悪魔の実の能力を思い出した。五皇、千両道化のバギーのバラバラの能力だ。しかし同じ能力はこの世に二つ存在しない。ゆえにフリーダの能力がバラバラの実であるはずはないのだ。
「みんな!! 海へ飛べ〜〜!!!」
「⋯⋯!!」
「あれは⋯⋯メリー号!!?」
軍艦の大軍の間を縫うようにして現れたのは麦わらの一味の海賊船、ゴーイング・メリー号。しかしメリー号はウォーターセブンにて次の島に行き着くことすら困難だと診断されたいわば死んだ船。そもそも誰が乗ってここまで来たのかなど様々な疑問があるが、今はそんなことを言っている場合ではない。麦わらの一味とその協力者達は一目散にメリー号に乗り込んだ。
「正義の門がいつの間にか閉じていきます!!」
「根性だけで逃げ切れる敵じゃねェだろ?」
サンジの頭脳プレーもあり、メリー号は軍艦の間をぐんぐん進んでいく。渦に巻き込まれた軍艦は進路を保つことすらままならず、自滅していった。
「申し訳ありません⋯⋯すぐに追っ手を⋯⋯!!」
「いや、もういい。この艦隊と島を見れば一目瞭然。この一件は⋯⋯我々の完敗だ」
「このケンカ⋯⋯おれ達の勝ちだァ!!!」
バスターコールによりエニエスロビーは崩壊。麦わらの一味とその協力者達は無事に誰一人欠けることなく戦場を抜け出した。そんな大事件を起こした彼らを世界政府が放っておくはずもなく、すぐに新たな手配書と懸賞金額が公表された。
麦わらの一味 船長 “麦わらのルフィ” 懸賞金4億5000万ベリー
麦わらの一味 戦闘員 “海賊狩りのゾロ” 懸賞金2億2000万ベリー
麦わらの一味 コック “黒足のサンジ” 懸賞金1億1700万ベリー
麦わらの一味 考古学者 “悪魔の子”ニコ・ロビン 懸賞金1億3000万ベリー
麦わらの一味 戦闘員 “
麦わらの一味 船大工 “鉄人”フランキー 懸賞金6400万ベリー
麦わらの一味 狙撃手 “狙撃の王様”そげキング 懸賞金4500万ベリー
麦わらの一味 航海士 “泥棒猫”ナミ 懸賞金2600万ベリー
麦わらの一味 船医 “わたあめ大好きチョッパー” (ペット)懸賞金50ベリー
僅か9名の少数一味にして全員が賞金首、半分が億超えという異例中の異例。船長はあのドラゴンの息子でガープの孫、他の船員にも曲者が揃っている。そして政府が新たに突き止めた事実としてあの五皇、千両道化のバギーの息子が乗っているという。麦わらの一味は過去にバギー海賊団と一悶着あったためにどういった経緯があるのかは明らかになっていないが、どこかで繋がりがあるとすれば政府も予想していない脅威となり得るだろう。
ここまででも十分大事件であるが、麦わらの引き起こす事件はこれで終わりではない。シャボンディ諸島から続く歴史的大立ち回りの数々、それらの引き金となる事件が同時期、偉大なる航路で起こることになる。
♦♦♦♦♦
──エニエスロビーの一件より数日後、偉大なる航路バナロ島。
「ようやく見つけたぜ、ティーチ」
「おお⋯⋯エース隊長、待ちくたびれたぜ!!」
偉大なる航路にあるバナロ島という島。その一角にある町にて二人の男が再会していた。しかしそれは決していいものでは無い。なぜなら片方のティーチという男はつい先日白ひげの船で仲間殺しを行い逃げ出した大罪人だからだ。
「待ちくたびれた? まるでおれを待ってたみてェな言い方だな」
「ああそうさ、おめェを待ってたんだエース隊長」
「よせ、今更隊長なんてよ。それは人を敬える人間の使う言葉だ」
エースは未だ自身を隊長と呼ぶティーチに内心嫌悪感を抱き、しかしそれを表情には出さず淡々と告げる。ティーチは悪びれる様子もなくエースを見ているが、周囲にいる彼の仲間達は既に警戒態勢をとっていた。
「ほう⋯⋯あなたがかの有名な“火拳のエース”ですか」
「ああよろしくな。⋯⋯お前ももう立派に船長やってんだろ? 黒ひげ海賊団マーシャル・D・ティーチ船長」
「ゼハハハハ!! まァそういうことだ!! どうだエース、おれ達の仲間に入らねェか? おれの成り上がる計画は用意してあるが⋯⋯おめェが入ってくれるなら計画を変更しても構わねェ!!」
「なんだそりゃ、さっきから変な言い方しやがって。それじゃまるでおれが最初からお前の計画とやらに含まれてるように聞こえるぜ?」
「その通りだエース。おれ達はここでお前をぶちのめして政府への手土産にするつもりだった⋯⋯だがおめェが仲間に入るなら話は別だ。そうだな⋯⋯例えばこの先のウォーターセブンにいる“麦わらのルフィ”!! 奴なら政府への手土産にうってつけだ」
「なんだと? つくづく野放しには出来ねェな⋯⋯そいつはおれの弟だ!! それに当然お前の仲間になんざならねェし、みすみす土産にされる気もねェ⋯⋯」
エースが言い終わるのを待たず、黒ひげ海賊団の狙撃手オーガーがエース目掛けて発砲した。しかし
「⋯⋯へへ、行儀の悪いのがいるな」
「ウィ〜〜ハ〜〜〜!!!」
「⋯⋯!!」
今度は操舵手、バージェスが怪力で建物を持ち上げエースに投げつける。だがこれも当然通用しない。エースは巨大な火柱を発生させると木造の建物を丸ごと消し炭にした。
「
「どわッッッ!!」
「くそ!! オーガー、バージェス、勝手に手を出すんじゃねェ!! おめェらじゃまだあの男にゃ敵わねェ!! 引っ込んでろ!!」
燃えカスとなった建物を振り払いながらティーチはオーガーとバージェスを怒鳴りつける。自分ならエースに勝てるが、お前達ではまだ無理だと。
「
「ぐォォ⋯⋯!! ちくしょう⋯⋯熱いし痛ェ⋯⋯!!」
一味まとめてエースの攻撃をくらい、熱さと痛みで地面を転がった。やはり白ひげ海賊団2番隊隊長の実力は並ではなく、当たれば海軍大将にすらダメージを与える程の一撃だ。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯わかってるぜエース⋯⋯おれを殺したいんだろ!? そりゃそうだ⋯⋯仲間殺しは大罪!! サッチはおれがぶち殺したが⋯⋯仕方なかった!! あいつがおれの意中の悪魔の実を手にしやがったからよ!!」
「⋯⋯それでサッチを殺して奪ったのか?」
「まァハズミさ⋯⋯この能力はおれを選んだんだよエース!! ゼハハハハ!! エース、お前の体は火だろ!! おれァ⋯⋯闇だ!! ゼハハハハ!!」
高笑いと共にティーチの身体から黒い炎のようなものが吹き出してきた。それは柱のように天に昇っていく。
「闇?」
「そうさエース。悪魔の実の歴史上、最も凶悪とされてるのがこの能力。自然系ヤミヤミの実、おれァ闇人間になったんだ!!」
そう宣言したティーチがエースに向かって手をかざす。すると彼の手を中心に黒い渦のようなものが発生し、エースの身体をまるでブラックホールの如く引き寄せ始めた。
「
「⋯⋯!!!」
身動きの取れないエースはティーチに身体を触れられ、そして違和感に気づいた。それを証明するかのようにティーチはあえて覇気を使わず、素のままの拳でエースを殴りつけた。
「ガフッッ!!」
「ゼハハハハ!! どうだ、覇気も無しに殴られたのは随分久しぶりなんじゃねェか? おれの闇が引きずり込むのは悪魔の力!! おれが触れれば能力者はその間いかなる能力も使えなくなる!!」
「ッッ⋯⋯!! ち、面倒な能力手に入れやがって⋯⋯」
口に溜まった血反吐を吐きながらエースは舌打ちする。単に物理攻撃だけなら、エースが自然系だろうと武装色の覇気使いなら実体を捉えて攻撃してくる。だがヤミヤミの力は実体を捉えるどころか能力自体を使えなくしてしまう。能力者にとってこれは致命的だろう。
「⋯⋯要は捕まらなきゃいいんだろ? ⋯⋯!!」
「闇の引力からは逃れられねェと証明したはずだ!!
「
「⋯⋯!! ぐああああ!! 熱ちち!! 炎の槍か!?」
ティーチが再びエースを引き寄せようとする直前、未来視の見聞色の覇気でそれを察知したエースは後退し距離を取った。そして両手から炎で作った槍を投げつけティーチの腹に突き刺した。思わぬ反撃と熱さに彼は苦悶の表情を浮かべる。
「⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯くそ!! 流石の見聞色の覇気だ⋯⋯!! ゼハハハハ!! やはりここで潰すには惜しいな⋯⋯その力!! エース、おれ達の仲間になれ!!」
「ハッ⋯⋯そういうのは勝ってる人間が言うもんだぜ。今のお前じゃ負け惜しみにもならねェ」
「いやァ⋯⋯勝ちさエース隊長⋯⋯おれ達のな。もう我慢出来ねェらしい」
「⋯⋯? 何を言って⋯⋯⋯⋯!!?」
ティーチの意味深な発言に首を傾げたその時、エースの立っている場所付近の建物が何者かによって破壊された。それに驚いたエースだったが、次の瞬間に重い打撃を受けて派手に吹き飛ばされた。咄嗟に覇気でガードし、何とか体勢を立て直し自分を殴りつけた何者かを睨みつける。
「カハハハハ⋯⋯!! 今のを防ぐか⋯⋯やるじゃねェかロジャーの息子!!」
「⋯⋯!! お前は!!?」
その男を視認したエースは目を見開く。世の情勢にはそこまで詳しくないエースだが、目の前の男のことはそんな彼でも知っていた。バギー海賊団によるインペルダウン襲撃事件、その混乱に乗じて脱獄した元ロジャー海賊団船員。ガルツバーグの惨劇を引き起こした張本人、後に鬼の跡目と呼ばれ恐れられた浅黒い肌の大男が、エースの前に立ち塞がった。
「おい黒ひげ、こいつの身柄は計画に不可欠だ。勝手なことをすればお前から消すぞ」
「ゼハハハハ!! ああ悪ィ⋯⋯おれァもう手は出さねェからよ」
「計画だと?」
バレットの発した言葉にエースは眉をひそめる。ティーチとバレットはどうやら手を組んでいるように思えるがそんなことは想定外だ。そもそもティーチだけを追っていたエースにはバレットの乱入自体考慮のしようがない。
「さァロジャーの息子。かかってこい、お前の力をおれに見せてみろ」
「てめェ、どこでそれを⋯⋯」
エースは自身がロジャーの息子であるということをごく僅かな信頼出来る人間にしか話していない。ゆえにバレットが何故その事実を知っているのかと疑問を抱いた。
「どうした⋯⋯ビビって動けねェか?」
「⋯⋯ッッ、後悔すんじゃねェぞ!!」
バレットに挑発され、エースは怒りを込めて拳を炎に変えてバレットを殴りつける。それにバレットは武装色の覇気を込めた拳で対抗する。ぶつかりあった拳のパワーは互角、どちらにも傾くことはなく拮抗していた。
「カハハ!! こんなもんか“火拳”!!」
「ぐゥゥ⋯⋯!!」
しかしバレットは全力ではなかった。エースの拳を押し返す力を更に上げ、彼の身体ごと覇気を纏った黒い拳で地面に押し潰す。このままではマズいと悟ったエースは一度後退し体勢を立て直し、両方の人差し指を十字にクロスさせる。
「
「⋯⋯!!」
エースの指から放たれた炎をまともにくらい、流石のバレットも熱さに顔を歪めた。しかしダメージはない、すぐに炎を振り払うとエースに向かって突撃して拳を振るう。
「⋯⋯あ?」
武装色の覇気を纏わせた拳、自然系の実体を捉えることが出来るはずの攻撃が何故かエースの身体をすり抜けた。その理由にバレットはすぐに勘づき、乾いた声で笑う。
「見聞色の覇気はいっちょ前みてェだな。カハハハハ⋯⋯だが武装色の方はおれにダメージを通すには足りねェぞ」
「⋯⋯どうかな?」
「⋯⋯?」
攻撃が通じていないというのに、エースは笑みを浮かべた。それを怪訝に思ったバレットがふと頭上を見ると、彼の頭上数メートルのところに炎で出来た雲のような物が形成されていた。
「
「⋯⋯ぐッ⋯⋯!!」
炎の雲から何発もの炎の弾丸が雨のように降り注いだ。バレットはそれを覇気を纏わせた腕でガードするが、如何せん数が多く全てを防ぎきることは出来ない。一発のダメージは小さいがそれも積もれば大ダメージになる。その前に雲を破壊するべくバレットが飛び上がったその時だ。
「
「ガハッッ⋯⋯!!」
炎で加速しバレットの腹に回し蹴りをくらわせる。武装色の覇気の内部破壊、更に炎を身体の内側で爆発させることで体内にダメージを与えるエースの大技だ。さしものバレットも体内へのダメージに血を吐き、うめき声をあげて吹き飛ばされた。建物をいくつか貫通し、瓦礫の山へと落下する。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」
怒涛の連撃をくらわせたことで息を荒らげ、エースはバレットの行く末を見届ける。これで決着にはならないだろうが、せめてダメージを受けていてくれと。しかしその思いは叶わず、バレットは瓦礫を蹴飛ばしすぐに起き上がった。服が破れ上半身があらわになっているが、大したダメージは受けていないようだ。
「クソッ⋯⋯!! バケモノめ⋯⋯!!」
「思ったよりやるな⋯⋯だがこの程度じゃ物足りないねェぞ。この海を生き残るにはな」
エースの実力をある程度認め、その上で物足りないと吐き捨てる。これから先彼がやろうとしていることは修羅の道であり、世界全体を戦場に変えかねない。その戦場となった海で、エース程度の実力では生き残れないと。
「鍛え上げられた本物の強さってのを見せてやる」
「⋯⋯!! ッッ⋯⋯!!?」
バレットが瞬間移動かと思える程の速さでエースに接近し拳を振るう。未来視で察知し避けようとするエースだったが、未来を見てもなお避けきれずバレットの拳を腹で受けて悶絶する。一瞬意識が飛びかけたがすぐに取り戻し、何とか反撃しようとするがそれよりも先に二撃目が飛んでくる。
「ゲホッッ⋯⋯!! ちくしょう⋯⋯骨がイカレちまう⋯⋯!!」
武装色の覇気でガードしようがバレットの拳は一撃でエースの体力をごっそりと削り取る。武装色だけでは出来ない芸当、彼の拳は触れずとも相手に大ダメージを与える覇王色の覇気を纏った拳だ。武装色と見聞色を高い練度で習得しているエースも、覇王色は未だこの領域に到達していない。
「どうした? これで終わりじゃねェだろう⋯⋯もっとおれを楽しませろ!!」
「⋯⋯ぐッ⋯⋯」
バレットとエースの戦いは激しさを増していく。実力差があるのは誰の目から見ても明らかだが、エースはバレットに食らいつく。二人の戦いは島の地形を変形させ、天候を変化させる程の戦いに発展していった。
♦♦♦♦♦
「どうだ? 首尾よくいってるか?」
「ああ、さっき世界政府から伝書バットが届いた。奴らも三大勢力の均衡に穴を開けたくはないだろうからな。そちらはどうだ?」
「こっちも順調だ⋯⋯ビッグ・マムにカイドウ、“赤の伯爵”パトリック・レッドフィールド⋯⋯“頭領チンジャオ”に“世界の破壊者”バーンディ・ワールド。おれが選び抜いた海賊王候補達⋯⋯交渉は上手くいってる」
偉大なる航路のとある島にある彼らのアジトにて、フェスタとカレンが計画の進行度を報告しあっていた。フェスタはテーブルに並べた手配書に目を移し、その中から三枚を持ちカレンに見せる。
「後はこいつらだ。“赤髪のシャンクス”に“千両道化のバギー”の元ロジャー海賊団同盟⋯⋯まァこっちはいいだろう、交渉に必要な物は揃ってる。問題はこいつだ⋯⋯“金獅子のシキ”。インペルダウンから脱獄した後目立った活動も無く消息不明⋯⋯居場所さえわかればすぐにでも交渉するんだが⋯⋯」
「問題ない⋯⋯“金獅子”の居場所なら把握している。私が直接出向いて交渉してこよう」
「そうか、それは助かる。お前さんは若ェのに物知りだな⋯⋯少し知りすぎなくれェだ」
「よせよせ、私達はあくまで目的達成の為に組んだに過ぎない。余計な詮索は破滅を招くぞ?」
「ハハハハ⋯⋯確かにその通りだ、悪かった」
フェスタは軽く笑い、カレンに謝罪する。長年海賊として活動し、裏世界とも通じてきた彼だがカレンにはなんとも言えない不気味さを感じていた。その若さからは考えられない強さ、そしてどこから仕入れたかわからない知識の量。まるで未来でも見ているかのようだ。
「ああそれと⋯⋯“赤髪”と“千両道化”の同盟だが、今回の計画に組み込むのはやめておこう」
「⋯⋯!! ⋯⋯何故だ? 奴らは今や五皇と呼ばれる海の皇帝⋯⋯おれとしては是非とも参加してもらいてェんだが」
「“赤髪”は裏で五老星と繋がっている。下手に情報を与えれば計画が世界政府にバレる恐れがある」
「⋯⋯何? 世界政府最高権力者の五老星か?」
カレンの言葉にフェスタは目を見開いて驚く。五皇の一角と五老星が繋がっているなど大ニュースで済む話ではない。世界政府の信用を一手に失いかねない爆弾とも言える情報であり、それを掴んでいるカレンに対し疑念を抱く。
「お前さんの情報が外れたことは無い。信じはするが⋯⋯」
「心配するな、どの道戦争が始まれば奴らも参戦してくる。例の物は奴らにとっては船長の形見でもあるのだからな」
「⋯⋯わかった、お前さんを信用しよう。今更後には引けねェ。そろそろ黒ひげとバレットが“火拳”を捕らえた頃だろうしな」
時を同じくして、バナロ島でフェスタの予想通りバレットはエースを追い詰めていた。しかしまだ捕獲に成功した訳では無い。血塗れになり地面に膝をついて満身創痍になっているが、エースは目の闘志を絶やさずバレットを睨みつけている。
「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」
「⋯⋯まだ立つか、しぶてェな。だがもう終わりだ」
「ゼハハハハ!! おめェはよく戦ったぜエース!! “鬼の跡目”と呼ばれた男を相手によォ!!」
バレットは身体の数箇所に火傷を負っており、全くの無傷という訳では無い。だがエースと比べれば遥かに軽傷であり、それが二人の実力差を示している。
「軽い準備運動にはなった。お前の次は海軍大将に七武海、そして五皇共だ。まずは“宵魔女”⋯⋯おれに屈辱を与えたあいつを殺す⋯⋯!!」
「ゼェ⋯⋯ゲホッ⋯⋯!! ⋯⋯ミズキを? ⋯⋯ハハ⋯⋯てめェ程度じゃあいつは殺せねェよ」
「あ? なんだてめェ⋯⋯まだ喋る力が残ってたのか」
エースは最後の力を振り絞り、立ち上がる。力はほとんど残っていないが、それでも諦める訳にはいかない。バレットを倒し、黒ひげを倒して殺されたサッチの無念を晴らし、そして尊敬する白ひげを海賊王にするために。
「
「⋯⋯カハハハハ!! いいぞ、それでこそロジャーの息子だ!!」
これまでで最大級の炎の塊。エースの技の中でも最大最強の一撃をもってバレットを倒さんとする。それを見てバレットは笑い、拳に覇気を込めて迎え撃つ。
「
「⋯⋯おれは白ひげを王にする」
エースの技とバレットの技、その二つの激突で大爆発が起こり、島を歪ませる。偉大なる航路、バナロ島の決闘。彼らの争いは後に起こるあの極めて大きな事件の引き金として語られることになる。
麦わらの一味の懸賞金は原作と比べて大幅アップ(一部を除く)。エースはレイリーとの修行で未来視と弾く武装色を体得、バレット相手にやり合うけどバレットはミズキに負けてから鍛えまくって覇王色纏いを習得してるのでさすがに不利。黒ひげ海賊団だけなら倒せたかもしれないけど。