転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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強くなったね

 

 ──海軍本部、議事の間。

 

 懸賞金額の査定など、話し合いの場を設ける場合に使われる一室。長い部屋にはズラリと海軍将校達が集まり会議を行っていた。

 

「王下七武海とはこの世にたった七人しか存在しない略奪行為を認められた海賊。世界政府に協力することを条件に懸賞金の廃止、他の海賊や非加盟国への海賊行為が許可されます。代わりに必要なのは他の海賊の抑止力になる圧倒的な強さ」

 

 名だたる海兵達の前に出て司会進行をするのは本部少佐のブランニュー。彼は映像電伝虫を使いとある人物達の写真を映し出す。

 

「しかし先日、元王下七武海サー・クロコダイル、同じく元王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴ。この二名が海賊“麦わらのルフィ”並びに“月詠のカレン”に敗れ、秘密裏に行っていた悪事が明るみとなりました。当然彼らは王下七武海の称号を剥奪され、一切の権限を失った後インペルダウンへ投獄。王下七武海は我々海軍本部、そして五皇と共に世界三大勢力と呼ばれ、新世界の均衡を保つには不可欠な存在。本来一枠空くだけでも緊急事態と言えるでしょう」

 

 ブランニューの話を将校達は真剣な眼差しで聞いていた。七武海が2人も空席になるなど前代未聞だ。均衡が崩れれば新世界のバランスは不安定となり、五皇と呼ばれる海賊達の活動が活発になる恐れがある。それは避けなければならない。

 

「空いた席を埋める二人の海賊達。一人はドフラミンゴを討ち取った“月詠のカレン”⋯⋯元懸賞金5億3500万ベリーのまだ幼い少女ではありますがその実力は折り紙付き。七武海としての適性は申し分ないでしょう。そしてもう一人⋯⋯“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチ。元白ひげ海賊団の船員であり、とある手土産を持ち込み我々に実力を見せつけました。元の懸賞金は0ですが、実力を考えれば適性は十分と言えるでしょう」

 

 王下七武海に空いた席を埋める為に世界政府の選んだ二人の海賊。いくら実力があろうと少女と白ひげの船の下っ端という人選に疑問を抱く者は少なくなかった。しかし世界政府の決定である以上覆ることはないだろう。そもそも今は別件でそれどころではなかった。それは黒ひげが王下七武海に加盟する為に持ち寄った手土産についてだ。

 

「少しいいか? 王下七武海の必要性は理解しているが、各国からは今回の事件を受けて七武海制度の撤廃を求める声が多数上がっている。本来政府の味方であるはずの七武海が国取りを企て、実際ドフラミンゴは八年もの間国民を騙しドレスローザを支配していたのだからな。それについて世界政府はどのようにお考えか?」

 

 将校の内の一人、少将の位にいる男がブランニューの話の間に入り疑問を投げかける。それは実際誰もが思っていることだろう。七武海という立場を悪用され、多くの犠牲者を生み出したのだ。特に被害国であるアラバスタやドレスローザからは七武海制度の撤廃を強く求められていた。

 

「⋯⋯確かに私も七武海はあまり好かん」

 

「⋯⋯!! センゴク元帥!!」

 

 それに同意し、神妙な面持ちで頷いたのは元帥である仏のセンゴク。かつてロジャーや白ひげと戦いを繰り広げてきた歴戦の海兵だ。今まで話を聞くばかりだった彼だが、ここに来て口を開いた。

 

「だが世界政府としては今このタイミングで七武海を切るのは得策ではないと判断したのだろう。“黒ひげ”の持ってきた手土産⋯⋯“火拳のエース”公開処刑を終えるまではこちらから戦力を減らすのはリスクが高いのも事実だ」

 

「⋯⋯それは!!」

 

 海軍本部と王下七武海は五皇と同じく三大勢力に位置づけられてはいるが、五皇全てと海軍本部、七武海が同等なのではない。五皇の内のどれか一つと戦うのに海軍本部、七武海の戦力を集結させてやっと同等に渡り合えるのだ。ゆえに七武海が一人欠けるだけで戦力がガタ落ちする。そして五皇の一角、白ひげ海賊団との戦争がまさに今起ころうとしていた。

 

「我々が“火拳”の処刑を行えば白ひげは必ず動く。だからといって“火拳”を解放することなどできん。たとえインペルダウンに収容したとしても同じだ、白ひげの一味に手を出した時点で白ひげ海賊団との戦争は確定事項⋯⋯今は少しでも戦力が欲しい」

 

 黒ひげが手土産としてエースを持ち込んだ以上、白ひげ海賊団との戦争は確定したようなものだ。白ひげは仲間に手を出す者を絶対に許さない。処刑しようが監獄に収容しようが、必ず大軍を率いて攻めてくる。それを避ける唯一の方法はエースを解放することだが、そんなことをすれば海軍ひいては世界政府の信用に関わる。海軍本部に残された道は一つしかない。

 

「だが海軍と白ひげとの戦争が起これば他の皇帝達が横槍を入れてくる可能性は高い。我々が真に警戒するべきなのはこちらなのかもしれん。ブランニュー、今の奴らの懸賞金額は?」

 

「ええ、それこそがこの会議の本題。今一度白ひげ、そして奴と肩を並べる海の皇帝達の戦力をさらっておきましょう」

 

 そうして映し出されるのは顔を見ただけで歴戦の海兵でも震えあがる程の大物達。新世界の海を総べる五人の海の皇帝達だ。

 

「まずは今我々が最も頭に入れておくべき男。大海賊時代以前からロジャーや“金獅子”、その他数多の海賊達と渡り合い退けてきた伝説の男。部下達を息子と呼び、個人の強さと勢力どちらも兼ね備えたまさに最強の海賊⋯⋯白ひげ海賊団船長、エドワード・ニューゲート!! 50億4600万ベリー!! 

 

「⋯⋯」

 

 海兵達が息を飲み、冷や汗を流す。この男とこれから戦争をすると思うと気が滅入るのも無理がないだろう。海賊王ロジャーと何度も渡り合い、今では海賊王を目指す海賊達の最後の砦になっている。正真正銘世界を滅ぼす力を持っている男なのだ。

 

「次に幼少期巨人族エルバフの村を襲ったと言われる、生まれついてのモンスター!! 血縁以外を信用せず85人の子供達と共に万国(トットランド)というおかしの王国を作ってしまったワンマン女王!! ビッグ・マム海賊団船長、シャーロット・リンリン!! 47億8800万ベリー!! 

 

「⋯⋯!!」

 

「続いてかつてのロックス海賊団ではまだ海賊見習いでありましたが、その後個人の強さのみで凶暴な海賊達の尊敬を集め、海の皇帝と呼ばれるまでに至りました⋯⋯百獣海賊団総督、“百獣のカイドウ”!! 48億1110万ベリー!! 

 

「⋯⋯気が滅入る」

 

「そして皇帝の一角に数えられて8年。ベックマン、ルー、ヤソップ⋯⋯幹部達が個々に名を上げており、高い懸賞金アベレージを誇る最もバランスのいい鉄壁の海賊団⋯⋯赤髪海賊団大頭、“赤髪のシャンクス”!! 46億4890万ベリー!! 

 

「こんな怪物達を相手に戦うのか⋯⋯」

 

「最後になりますが、“赤髪”と同じく元ロジャー海賊団の船員にして兄弟分。今では我々の敵である“英雄ガープ”を引退に追いやった事件を皮切りに頭角を現し、その圧倒的なカリスマにより多くの海賊を率いてついには海賊派遣会社なる組織を作り上げた、まさに伝説を生きる男!! バギー海賊団座長、“千両道化のバギー”!! 46億8900万ベリー!! 

 

「ガープ中じょ⋯⋯いや⋯⋯ガープを海軍から追い出した男⋯⋯!!」

 

「本来一人でも厄介極まりない海賊達ではありますが、更に追い討ちをかけるのが白ひげ以外の四人はそれぞれ同盟を結んでいるということ! 我々海軍本部が白ひげとぶつかれば、十中八九そこを狙ってくるでしょう⋯⋯そうなれば我々もタダではすまない⋯⋯!!」

 

「⋯⋯だが奴らとて一枚岩ではない。どちらかの同盟が白ひげの首を狙えば当然もう片方がそれを阻止するだろう。“火拳”の公開処刑は世界政府の決定事項⋯⋯もはや我々にはどうにもできん」

 

「⋯⋯」

 

 これから起こるであろう修羅場を思いそれぞれが身を震わせる。だが今更引き返すことなどできないし、五皇が動くのを黙って見ているつもりは無い。海軍の全戦力を集結させて奴らを迎え撃つ。世界政府がこの戦いに踏み切ったのにはなにか勝算があるからに違いないと信じて。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 ──偉大なる航路(グランドライン)、シャボンディ諸島。

 

 偉大なる航路前半の海の終着点となる島で、島と言われているが実際にはヤルキマンマングローブと呼ばれる巨大な樹木の集合体。この島の向こうには赤い土の大陸(レッドライン)があり、正規の方法で新世界に行くにはその上にある聖地マリージョアを通らなければならない。当然海賊がマリージョアを通行できるはずもなく、彼らが新世界に入るにはこの島特有のシャボンで船をコーティングして海底の楽園、魚人島を経由するしかない。そのためこの島には新世界を目指す海賊達が数多く訪れ、中には億を超える懸賞金を懸けられた者も珍しくない。

 そんな島に今滞在している海賊達の中でも一際注目を集めているのが麦わらの一味。船長、モンキー・D・ルフィの首に懸けられた懸賞金額は4億5000万ベリー。総員僅か9名のルーキー海賊団でありながら億超えの賞金首が半分を占めるまさに出世株と言えるだろう。

 

「え〜〜〜!!? 海賊王の船にィ〜〜〜!!?」

 

「ああ、副船長をやっていた⋯⋯シルバーズ・レイリーだ、よろしくな」

 

 人間屋(ヒューマンショップ)にて天竜人を殴り飛ばすという大事件を起こした麦わらの一味は、同じ億超えの超新星であるユースタス・キッドやトラファルガー・ロー、そして奴隷として売られていた老人と協力してその場を切り抜けた。ナミの村の件で縁のある魚人のハチと共にシャクヤクの経営するバーに戻った彼らはそこで衝撃の話を聞く。

 

「え⋯⋯皆気づいてなかったの?」

 

「その名前めちゃくちゃ知ってる〜〜!!」

 

「色んな本に載ってる〜〜!!」

 

「⋯⋯フリーダは随分と大きくなったな。最初に見た時はわからなかった」

 

「え!? おっさんフリーダのこと知ってるのか!?」

 

「ああ、この子の父親⋯⋯バギーは元々ウチの船で見習いをやってたからな」

 

 シャンクスやバギー、そして双子岬のクロッカスと一味と縁のある人物の名前が次々と話に出てくる。そしてロジャー処刑の真相や彼の最後の言葉など、麦わらの一味は当事者からの話を聞き息を飲む。

 

「あの⋯⋯おっさん!! おれも一個だけ聞きてェんだが!! ひとつなぎの大秘宝⋯⋯ワンピースってのは本当に最後の島に──」

 

「ウソップ〜〜〜〜〜ッ!!!」

 

 ウソップがレイリーに聞こうとしたこと。それを察したルフィが強引に大声でそれを止めた。

 

「宝がどこにあるかなんて聞きたくねェ!! 宝があるかないかだって聞きたくねェ!! 何もわかんねェけどみんなそうやって命懸けで海へ出てんだよ!! ここでおっさんに何か教えて貰うならおれは海賊をやめる!! つまらねェ冒険ならおれはしねェ!!!」

 

「⋯⋯」

 

「わ、悪かった!! そうだ、おれは宝について知ったら死んでしまう病だった!! おいおっさん、何も言うんじゃねェぞ!!」

 

 それを聞いて慌ててウソップは訂正する。彼とてルフィの冒険の邪魔をしたい訳ではない。興味はあるが、ルフィがそう言うなら聞くつもりは無いのだ。ルフィの言葉を聞いたレイリーは何やら嬉しそうに口元を緩ませた。

 

「あはは♪ いいね、ルフィのそういうとこ好きだよ」

 

「⋯⋯ん?」

 

「え?」

 

 その時、バーの片隅から声が聞こえていた。さっきまで誰もいなかったカウンターの端の席。そこにいつの間にか座ってドリンクを飲んでいた女性がルフィ達の方を向き、頬杖をついて微笑んだ。気づかないうちにそこにいたその女に一味は驚くが、その中でも特に反応を示したのが二人。

 

「やっほ、久しぶり〜〜」

 

「え⋯⋯!? み、ミズキ〜〜〜〜!!?」

 

「ママ上⋯⋯!!?」

 

『ママ上!!?』

 

 

バギー海賊団副座長 “宵魔女ミズキ” 懸賞金37億1270万ベリー

 

 

「ママ上って⋯⋯この人がフリーダのお母さん!?」

 

「うォォォ〜〜!! なんという可愛いらしい御方〜〜♡」

 

「アホか! 前に男だって言ってたろうがメロリンコック!」

 

「いやだが確かに⋯⋯とても男とは思えねェな⋯⋯!!」

 

 東の海(イーストブルー)でフリーダが麦わらの一味に加入した時からのメンバーは彼の話でミズキが男だと理解はしていたが、それでもとても目の前の人物が男だとは思えない。宵魔女といえば世界一の美少年だと偉大なる航路では有名な話だが、ここ数年で更に成長してまだ少しの幼さは残るがそれでも可愛らしい女性の見た目になっていた。あのボア・ハンコックと人気を二分する程だ。

 

「おいルフィ、おめェが顔色悪くするなんて珍しいな。あいつと何かあんのか?」

 

「い、いや⋯⋯なんでもねェ!!」

 

 フランキーの問いかけに答えるルフィだが、確かに少し顔が青いし若干だが震えている。ルフィがこんな反応をするのは相当珍しい。

 

「ヨホホホホ⋯⋯これはこれは麗しのお嬢さん。お近付きになれて光栄です⋯⋯パンツ、見せてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「いいよ〜〜減るもんじゃないしね」

 

「やめてよママ上!! ブルックも人の親に何聞いてるの!?」

 

 ブルックがいつものお決まりのセクハラをミズキに行う。ミズキは冗談っぽく穿いていたスカートをめくる仕草をするがそれをフリーダが止めた。いくらなんでも自分の親のそんな行動は見たくない。無論ミズキが本気でないのはわかっているが、それでも止めずにはいられなかった。

 

「⋯⋯ミズキといえばあの五皇の一人、“千両道化のバギー”の腹心。話には聞いていたけど本当にフリーダの親御さんなのね」

 

「え!? あいつそんなにすげェのか!?」

 

 考古学者のニコ・ロビンが冷静にミズキを観察し、船医のチョッパーが彼女の口にした肩書きに驚く。

 

「ママ上⋯⋯何しに来たの?」

 

「⋯⋯もちろんフリーダを連れ戻しに来たのと⋯⋯ウチの顔に泥を塗った麦わらの一味を始末しに⋯⋯かな?」

 

「⋯⋯!!」

 

 張り詰めた表情で問いかけたフリーダにミズキはあくまで笑みを浮かべながら答えた。軽い口調で言ったミズキだが何とも言えない、得体の知れない殺気を醸し出しれているのを麦わらの一味全員が感じ取った。ゾロやロビンはいつ襲ってきてもいいようにとそれぞれ警戒しつつ構えていた。

 

「⋯⋯ママ上、僕は戻るつもりは──」

 

「待てよミズキ!! フリーダはおれの仲間になったんだ!! それに⋯⋯おれの仲間に手を出すならぶっ飛ばす!!」

 

「⋯⋯へェ」

 

 ルフィがミズキの前に立ち、堂々と言って見せた。実際この場で戦えばルフィに勝ち目はない、麦わらの一味総出でかかっても結果は同じだ。それはルフィも薄々わかっているが、それでもフリーダや仲間達を庇う行動をするのは船長としての意地ゆえだろう。

 

「昔みたいにボロボロにされてもいいんだ?」

 

「⋯⋯ッッ!! 昔は関係ねェ!! おれの仲間に手ェだすな!!」

 

 ミズキの言葉に押され、後ずさる。鍛える為とはいえ、ミズキの特訓はややスパルタが過ぎた。それを思い出しルフィは嫌な汗を流した。無論その特訓のおかげでルフィは七武海二人と司法の島を落とすというルーキーとしては異例の結果を残してはいるが。

 

「⋯⋯あはは♪ 冗談だよ! フリーダを連れ戻すつもりはないし、別にここでルフィ達と戦うつもりもない。今日はレイリーに用があって来たんだ。そこにたまたまルフィ達がいただけ」

 

「⋯⋯え?」

 

 ミズキはルフィの言葉を聞くと殺意を解き、手を口元に当てながら笑った。その変わりように麦わらの一味は呆気に取られ、言葉を失っている。

 

「ボクとしてはフリーダが外の世界を知るのはいい事だと思ってるし、ルフィになら任せていいとも思ってる。バギーは反対してるけどね。まァ今はまだ強引に連れ戻すことはしないと思うよ。フリーダの手配書引き伸ばして自分の部屋に飾ってるし、なんだかんだ嬉しいんでしょ」

 

「おめェんとこのボスはウチの船長の首を狙ってたんじゃねェのか? まさかそれもチャラにしてくれるなんて都合のいいことを言うつもりじゃねェだろうな」

 

「あ〜⋯⋯まァ確かにウチの幹部を潰してくれた落とし前はつけなきゃだけど⋯⋯フリーダがお世話になったみたいだし今回は見逃すよ。誘拐ならともかく、こっちから押しかけたみたいだからね。だけど次会った時は容赦しない、新世界で君達を叩き潰してあげる」

 

 フリーダの件以外にも麦わらの一味とバギー海賊団にはオレンジの町とローグタウンにて因縁がある。特にローグタウンでは船長のルフィが殺されかけているのだ。ゆえにゾロは警戒を解かず、探るようにミズキに聞いた。しかしミズキとしてはフリーダが麦わらの一味に押しかけ世話になっている時点で見逃していい案件だった。どの道ルフィが海賊王を目指すのなら新世界で必ずぶつかることになるのだから結果は同じだ。

 

「海賊王になるのはおれだからな、ミズキ!!」

 

「あはは♪ じゃあせいぜい頑張ってよ。期待してるからさ」

 

「ありがとうママ上⋯⋯だけどパパ上の部屋の僕の写真は処分しておいて」

 

「ああうん、一応言ってみるけど⋯⋯」

 

 期待はしないでねとは最後まで口にしなかった。恐らく言ってもダメだろうと想像は容易いからだ。苦笑いしながら頬を触っているミズキは、ふと微笑みとフリーダの頭に手を置いた。

 

「強くなったみたいじゃん。さっすがボクの子供だね」

 

「やめてよ⋯⋯皆の前で。それにもう子供じゃないから」

 

「あはは♪ そうだね、ごめんごめん」

 

 撫でられたフリーダは照れくさそうに顔を赤くするが口元は緩んでいた。やはり離れても息子は息子、親は親なのだ。心配にもなるし、成長しているのがわかれば嬉しくもなる。

 

「そういえばミズキ君、私に何か用があるのではなかったのかね?」

 

「ああそうだ、すっかり忘れてた。でもレイリーもコーティング作業で忙しいでしょ? 船に行く途中で話すよ」

 

 麦わらの一味とのやり取りで忘れていたが、ミズキは元々レイリーに用があったのだ。それもありミズキはレイリーと共に麦わらの一味の船、サウザント・サニー号へ。麦わらの一味は追手から身を隠すためにレイリーのビブルカードを受け取り店を出た。ミズキはしばらく歩き誰にも聞かれない場所まで来たと判断すると、ようやく要件を切り出した。

 

「白ひげ海賊団と海軍本部が戦争をする⋯⋯そう言ったら信じる?」

 

「⋯⋯!!」

 

 ミズキにしては珍しい、真面目な雰囲気にレイリーも冗談や方弁ではないと感じ取る。白ひげ海賊団と海軍本部の戦争、にわかには信じ難い事だが有り得ない話ではない。

 

「⋯⋯無駄な争いを避ける白ひげが海軍とぶつかるとなれば⋯⋯仲間に手を出されたか。先日七武海入りした確か⋯⋯“黒ひげ”だったか⋯⋯彼と何か関係が?」

 

「その“黒ひげ”が実力を示す為に持ってきた手土産が2番隊隊長“火拳のエース”だったってわけ。で、海軍はエースの公開処刑をやろうとしてる」

 

「エースが⋯⋯!! ⋯⋯そうか、海軍も白ひげとの争いは避けたいはずだが⋯⋯それならば全面戦争になろうが処刑に踏み切るのも頷ける」

 

 エースは海賊王ロジャーの息子。それを知るのはほんのひと握りのはずだが政府上層部なら知っている者もいるだろう。そしてロジャーの息子を処刑するためなら白ひげと全面戦争になろうが構わないという考えに至ってもおかしくはない。この大海賊時代の始まりであるロジャーの息子を殺すことで、爆発的に増えた海賊達の心をへし折るつもりなのだ。

 

「それでここからが本題なんだけど──」

 

「待ちたまえ。⋯⋯この気配は海軍か⋯⋯厄介な者に目をつけられた⋯⋯今の彼らでは厳しいかもしれんな」

 

「大将に七武海、それにこれは噂のパシフィスタかな?」

 

 ミズキが本題に入ろうとした時、レイリーが見聞色の覇気でなにかの気配を感じ取り立ち止まる。当然ミズキも気づいており、細かく探るとどうやら戦闘中のようだ。並大抵の強さではない、レイリーやミズキでも手こずる可能性のある相手だ。今の麦わらの一味ではあまりにも荷が重い。

 

「すまんなミズキ君、話は後で聞こう。私はルフィ君達の援護に向かう」

 

「OK、こっちも大将までいるんじゃ落ち着いて話も出来ないしね」

 

 そうしてレイリーは一瞬のうちに姿を消した。暇つぶしにミズキも加勢しようかと迷ったが、一応麦わらの一味とは敵対関係のためここはレイリーに任せることにした。そもそもここで麦わらの一味が潰されるのは正しい流れ、死ぬことはないだろうし彼らの成長にも繋がるはずだ。

 

「⋯⋯!! ⋯⋯この気配⋯⋯まだお客さんが残ってるみたいだね」

 

 そこでミズキはもう一つ大きな気配を感じた。それは本来この場にいないはずの人物であり、そしてミズキが今最も警戒している相手でもあった。戦争の前に気がかりなことは排除しておきたい、そう考えたミズキは空を飛びその人物の元へと向かって行った。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

「⋯⋯さてさて、今回は見物だけのつもりだったが⋯⋯ここで彼らを殺せばどうなるか⋯⋯実に興味深いな」

 

 麦わらの一味と彼らに加勢するレイリーが海軍大将黄猿、及びパシフィスタや戦桃丸と戦っているのを見ている人物がいた。少し離れた場所にあるヤルキマン・マングローブの枝に腰かけ見下すのはフードを被った白髪の少女。王下七武海、月詠のカレンだった。

 

「ふふ⋯⋯“冥王”は黄猿相手に手一杯。“暴君くま”が麦わらの一味を飛ばそうとするだろうがそれを阻止して一人一人丁寧に⋯⋯あっはは!! ゾクゾクしてくるなァ!!」

 

 カレンは自分が麦わらの一味を一人ずつ丁寧に惨殺する様を想像して頬を赤らめる。フードの中に見える狂気的な笑みは、とても少女とは思えないほど不気味だ。

 

「全員逃げることだけ考えろ!! 今のおれ達じゃあ⋯⋯こいつらには勝てねェ!!」

 

「おっと、ゆっくり考えてる時間はなさそうだ。さて⋯⋯麦わらの一味はどんな足掻きを見せてくれるのかな?」

 

 相手の強さを見て今の自分達で敵わないと悟ったルフィが全員に逃げるように指示をする。それを見て時間がないと理解したカレンはどこからか大きな鎌を出現させ、マングローブの枝を蹴りルフィ達の元へと向かおうとする。しかしその刹那、目の前に突然一つの影が現れ彼女の行く手を阻んだ。

 

「⋯⋯これはこれは、君が出てくるとは予想出来なかったよ。五皇、バギー海賊団⋯⋯“宵魔女”ミズキ」

 

 カレンは地面に着地すると、同じく目の前に降り立った人物を見据える。五皇の一角、バギー海賊団のNo.2。七武海の一人に数えられるカレンでも油断出来ぬ強敵だ。

 

「七武海の⋯⋯“月詠のカレン”だったっけ⋯⋯? 悪いけどあの一味にはウチの息子もいるから、手は出させないよ」

 

「それなら最初から助けに入らず傍観者に徹していたのは何故だ? あの場に“冥王”が助太刀に入っても麦わらの一味に勝算がないことくらいわかっているはずだ。まるで私が乱入しなければ彼らが助かるとわかっているかのような行動だな」

 

「そっちこそ、裏でコソコソ計画しちゃってさ。まるで未来でも見えてるみたいだね」

 

 両者の間で緊張感が走る。今は言葉を交わしお互い探りあっているが、今にも激突してもおかしくはない。

 

「⋯⋯そうか、情報管理には気をつけていたつもりだが気づかれていたか。だが政府に漏れていないところを見るにまだ“赤髪”には伝えていないのか?」

 

「こっちにも色々あるからね。それよりも腹の探り合いはやめにしない?」

 

 そこでカレンとミズキはお互いに確信する。相手が自分と同じくこの世界とは別の場所から来た存在だということに。

 

「あっはは!! そうか、やっぱり君も私と同じか。私の知っている世界とこの世界の最も大きな差異は“千両道化”の台頭だった。だから奴に近しい君もそうだろうとは思っていたが⋯⋯当たりだったわけだ」

 

「どうでもいいでしょそんなこと。ボクらにとってはもうこっちがリアルなんだからさ」

 

「いいや“宵魔女”⋯⋯私はそうは思わない。例えばここで麦わらの一味を皆殺しにしたらどうなるのかすごく興味がある。誰かの物語を私の手で破壊出来ると考えただけでゾクゾクが止まらないよ!!」

 

「あっそ⋯⋯ボクは興味ないからどうでもいいんだけどね。とにかく、今ここで麦わらの一味を潰そうとするならボクが相手になるから」

 

 覇気を纏い、短剣を構えてミズキが威圧する。半端な実力者なら気を失う程の覇王色の覇気だが、カレンは涼しい顔でミズキを見ている。

 

「やめておこう。今君とやり合って勝てると思う程馬鹿じゃない。お楽しみはこれからなんだ、君も是非参加してくれよ。私達の祭りにね」

 

 そう言い残してカレンは姿を消した。正直ここでやり合っても良かったのだが、戦争が控えているのにやり合うのはリスクが高い。ミズキはハアッとため息を吐き、ルフィ達の気配を探る。フリーダも含め、全員くまに飛ばされたようだ。今からシャッキーのバーに戻れば会えるだろうと考え、ミズキは元いたバーに足を運ぶのだった。

 

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