麦わらの一味がシャボンディ諸島にて壊滅した日に世に出た新聞の号外は、世界各地を震撼させた。白ひげ海賊団2番隊隊長、火拳のエースの公開処刑の記事だ。
「ママ!! 出たぞ、“火拳”の公開処刑の記事だ!!」
「ハ〜ハハハ!! フェスタの言うことは本当だったんだねェ⋯⋯!! 船の用意をしな、戦争を始めるよ!!」
「はい!! ママ!!」
その情報は海を統べる大海賊達の耳にもすぐに届いた。彼らは記事を読むと笑い、戦争の用意を始める。
「ウォロロロロ!! 行くぞ野郎共!!
『うォォォォォ!!!』
ビッグ・マム、百獣の同盟は記事を確認するとすぐに大規模な船団、そして大勢の戦闘員を集める。最高幹部やそれに準ずる者達も全員集い、その戦力は一国も簡単に滅ぼせる程だ。
「親分!! どこ行くんだ!! ⋯⋯オイラも!!」
「ついてくるな。我はこれよりニューゲートを⋯⋯ロジャーをも超え海賊の王となる。そのために甘さは不要⋯⋯パト、お前はもう用済みだ」
「そんな⋯⋯!! 待ってくれ親分!! 親分!!」
旧世代の怪物達もまた、動き出していた。ロジャーの強さを知る彼らはロジャーを超える為、そしてひとつなぎの大秘宝を手に入れるために戦場へと向かい始める。
「⋯⋯来たか。Dr.インディゴ、準備はどうだ?」
「ええ、S.I.Qの効力は抜群!! これを投与し、凶暴化した動物達は戦場を地獄へと変えることでしょう!! ピロロロロ!!」
「ジハハハハ!! それでいい⋯⋯“月詠”とかいう嬢ちゃんがおれの計画を知ってやがったことは気になるが⋯⋯今は忘れよう。さァ⋯⋯海軍や懐かしき仲間達に御礼参りだ!!」
「ひやホホホ⋯⋯私の様な老いぼれた爺一人、最早死を待つだけの余生かと思っていたが⋯⋯」
「ジジイ、おれ達はいつでも準備は出来てるやいっ!!」
「氷の大陸の底に忘れ去った我が宝、その代わりにロジャーの宝を獲るのもまた一興⋯⋯ひやホホホ」
「待てワールド!! 海軍本部に白ひげ、他の有力海賊も戦場になだれ込んでくる!! この誘いはあまりに危険だ!! 全滅する可能性も⋯⋯!!」
「止めるな腰抜け。おれを陥れやがった世界政府、そして海軍本部に復讐するまたとない機会だ。奴らを皆殺しにして必ず後悔させてやる⋯⋯バロロロロ!!」
「ワールド⋯⋯」
氷漬けにされ、インペルダウンの奥深くに幽閉されていた男。かつて世界の破壊者として恐れられた彼は、自身を陥れた者達への復讐を決意し戦争に参戦する。心配する兄やかつて大事に思っていた仲間達が止めるのも無視して。
「センゴク元帥!! 新世界にて百獣海賊団の動きを探っている監視船からの報告ですが、今のところ全く動く気配はないとのことです」
「ビッグ・マム海賊団も同様です。“火拳”の記事が出てから既に二日。何らかの動きがあると見ていたのですが⋯⋯」
「⋯⋯“宵魔女”がシャボンディ諸島に現れた件以外にバギー海賊団にも動きがない。“赤髪”も同じだが⋯⋯あまりにも落ち着いている。我々としては好都合かもしれんが、奴らがここまで動かないことがあるのか⋯⋯? ⋯⋯いや、とにかくどう判断をするにしても早計であることは間違いない⋯⋯」
元帥、センゴクの執務室にて部下が彼に報告する。新世界に派遣された大規模な監視船団は海に君臨する大海賊達の動きを監視していたのだが、今のところ何の動きもないそうだ。それ自体は海軍にとって願ってもない状況ではあるが、何も動きがないのは不気味でもある。しかしまだ半日、皇帝と呼ばれる海賊達はもちろん思慮深さも持ち合わせている。簡単にはしっぽを見せない、油断は禁物だ。
「白ひげの方はどうだ? 新世界に散らばる傘下を集めるのには時間がかかるはず⋯⋯何か掴めたか?」
「いえそれが⋯⋯不可解なことに白ひげ海賊団も動きなしと⋯⋯。少しでも動きがあれば報告するように指令はされているはずなのですが⋯⋯」
「何⋯⋯? 白ひげの戦力は傘下を合わせれば五万人を超える⋯⋯それら全てが全く動いていないのか?」
「はい⋯⋯新世界は過去に例を見ないほどの落ち着きで⋯⋯“火拳”の公開処刑などまるで認知されていないとしか」
「一体どうなっている⋯⋯? 部下に手を出されて白ひげが黙っているはずがない。他の海賊共はともかく、奴が動かないはずが⋯⋯」
思ってもみなかった事態、他の五皇だけではなく白ひげまでもが何の動きも見せていないという。部下達を息子として愛し、少しでも手を出せば鬼の如き強さで報復をするような男がだ。その性格をよく知っているセンゴクは怪訝そうな顔つきで考え込む。白ひげが動かないはずはない。監視船の船員が嘘をついているか、監視の目を掻い潜る程の緻密な裏工作を行っているとしか思えないがどちらも可能性は薄いだろう。
「センゴク元帥!! 緊急事態です!! 白ひげ海賊団の動向を監視していた監視船全二十三隻⋯⋯!! 全て撃沈されました⋯⋯!!」
「⋯⋯!!? どういうことだ!!? 白ひげ海賊団に動きはないのではなかったのか!?」
「そ⋯⋯それが⋯⋯監視船が沈む前に船員が残した最後の電伝虫の言葉は『津波が襲ってくる』⋯⋯だったと。恐らく白ひげのグラグラの実の能力によるものかと思われますが⋯⋯不可解なことに船員達は誰に襲撃を受けているかと聞かれても異常はないとしか答えなかったそうです」
「何がどうなっている⋯⋯!!? これでは白ひげ海賊団の動向が一切掴めん⋯⋯!! 動き始めたのは間違いないだろうがいつどのタイミングで狙ってくるのかもわからんな⋯⋯!! エースを収容している内はインペルダウンでの決戦も有りうる!! 皆にもそう伝えておけ!!」
「はっ!! 他の監視船は如何なさいましょう?」
「引き続き監視を続けさせろ!! どんな些細な変化でも逐一報告させるんだ!!」
頭を抱えながら半ば怒号にも近い声で部下に指示を出す。エースの公開処刑まで一週間もない、少しの油断も許されない状況だ。想定外の事態になろうと引き返すことは今更できやしない。全て迎え撃つ覚悟は出来ているセンゴクは拳を握りしめた。しかし事態は彼の思う最悪よりも更に加速し、世界政府発足史上最大の事件へと発展していくことになる。
♦♦♦♦♦
世界政府の三つの機関を繋ぐ海軍専用の海流、通称タライ海流の海上を進む一隻の軍艦。海軍本部中将、モモンガ率いる海兵の一団が乗る軍艦だ。彼らの任務は王下七武海、海賊女帝ボア・ハンコックを公開処刑の行われる海軍本部へと連れてくること。白ひげ海賊団が公開処刑を阻止すべく襲撃してくるのを迎え撃つために、海軍の持つ全ての戦力を集結させるのだ。
「ルフィ⋯⋯余程兄のことが心配なんじゃな⋯⋯そなたの胸の内を思うとわらわ⋯⋯心臓が張り裂けそうじゃ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
船内の一室、ハンコックに与えられたプライベートルームの窓から海を見つめるのは麦わら帽子を被った少年。先日シャボンディ諸島で壊滅したはずの麦わらの一味の船長、モンキー・D・ルフィだ。バーソロミュー・くまによって女人国、女ヶ島に飛ばされたルフィは紆余曲折ありハンコックの協力を得て兄エースを助けるべくインペルダウンへと向かっていた。
「モモンガ中将、本部より連絡が!! “火拳のエース”の海軍本部ヘの護送時刻を早めるとのことで⋯⋯!!」
「なに? 公開処刑当日までインペルダウンに投獄しておくのではなかったのか?」
「ええ⋯⋯しかし白ひげ海賊団の動向が全く掴めない以上戦力の整っているマリンフォードへ速やかに護送する方が得策だとセンゴク元帥が⋯⋯」
「⋯⋯確かに大将や七武海の揃っている本部の方が守備は強固か。では我々も急がんとな、全速力でインペルダウンを目指すぞ!」
「はっっ!!」
招集に応じたハンコックの望みは火拳のエースを処刑前に一目見ること。男嫌いで通っている彼女がまさか麦わらのルフィを匿っているなど夢にも思わぬ政府はそれを承諾。条件を呑むためにインペルダウンへと向かっている。
「⋯⋯ん? あれは?」
「どうした?」
「いえ⋯⋯海中で何か動いたような。魚でしょうか?」
海に異変を感じた海兵が望遠鏡を覗き込む。しかし何も変わった物は見当たらず気のせいかと目を離した、その時だった。
「軍艦は明け渡してもらう!!」
「え? ⋯⋯ぎゃあああ〜〜!!?」
「な!?」
突如海から飛び出してきた一つの人影。それが軍艦の甲板に着地した瞬間、モモンガを除いた海兵は泡を吹き倒れてしまった。
「覇王色の覇気!!? 貴様は⋯⋯!!」
「エースは死なせない!!」
倒れた兵士達と周りに走る覇気を感じ取りモモンガは得物に手をかける。白髪に薄緑のグラデーションという独特の髪をした女が彼を睨みつけた。その顔を見てモモンガは顔を青くして冷汗を流す。五皇カイドウの娘にして同じくバギー海賊団の最高幹部、思わぬ大物の出現にモモンガは焦燥に駆られた。
「⋯⋯なんじゃ? 外が騒がしいな⋯⋯ルフィ、わらわは様子を見て参る。部屋の外に決して出てきてはならぬぞ」
「ああ、わかった」
外の異変に気づいたハンコックがルフィにひと声掛けた後部屋から出てきた。彼女の目に映ったのは金棒で殴られ倒れるモモンガの姿、そして彼女の存在に気づき驚く女の姿だった。
「⋯⋯何者じゃそなた⋯⋯只者では無いな」
「“海賊女帝”ボア・ハンコック!? なんで七武海が⋯⋯!!」
女はハンコックを見ると目を丸くしたが、すぐに金棒を握る手に力を込める。ハンコックも明らかな敵意を感じ取り脚に覇気を纏わせた。そして二人同時に攻撃を仕掛ける。
「
「
金棒と脚技が激突し、覇王色の衝突が起こる。お互いに相手が自分と同じく覇王色の覇気の使い手だということに驚き、一度距離を取り体勢を立て直す。
「ぐッッ⋯⋯!! こんなところでモタモタしてる暇はないのに⋯⋯!!」
(⋯⋯こやつ⋯⋯もしやバギー海賊団の⋯⋯!!)
その強さを見てハンコックは目の前の女の正体を理解した。かつて自分が奴隷の身であった際にマリージョアから解放してくれた大恩人、ミズキが所属するバギー海賊団の最高幹部だ。外海では名の通った大物海賊。七武海という立場上、ハンコックも当然知っている。
バギー海賊団クラスSS傭兵 “鬼姫”ヤマト 懸賞金12億1110万ベリー
五皇、バギー海賊団の最高幹部。政府の選んだ七武海の一角として高い実力を持つハンコックでも容易に倒すことなど到底出来ない厄介な敵だ。しかしここで軍艦を奪われればルフィをインペルダウンに送り届けるという目的が叶わなくなる。愛しい人の為、ハンコックは脚に纏わせた覇気を更に強くする。
「邪魔をするな!! 僕はエースを助けなきゃいけないんだ!!」
対するヤマトも金棒を振り、ハンコックを威圧する。彼女の口から出たエースという名前にハンコックは眉をひそめる。ルフィの兄であり、助けるべき相手の名だ。何故ヤマトがその名を口にするのかはわからない。
「エース!? お前、エースって言ったか!?」
「ルフィ!! 出てきてはダメじゃ!!」
「⋯⋯!! 麦わらの⋯⋯ルフィか⋯⋯?」
その時、扉を勢いよく開けてルフィが出てきた。部屋の中からハンコックとヤマトのやり取りを聞いていたのだろう。ハンコックが慌ててルフィに戻るよう促すが、それよりも先にヤマトが彼に詰め寄った。
「何故君がここに!? まさか⋯⋯捕まったのか!?」
「捕まってねェよ! それより、お前さっきエースを助けるって言ってたよな!! エースを知ってんのか!?」
「ああ、僕はヤマト!! エースの友達で光月おでんだ!!」
「⋯⋯は?」
「君の話はエースやミズキから聞いてる!! 君ならエースを助けに来ると思ってたけど⋯⋯なんで七武海のボア・ハンコックと一緒に?」
「くまみたいな七武海の奴に女ヶ島ってとこに飛ばされて⋯⋯それで色々あってインペルダウンにまで送ってもらってんだ」
「七武海のくま⋯⋯バーソロミュー・くまのことか? よくわからないけど、そういうことなら僕にも協力させてくれ!! 僕もエースを助けるためにインペルダウンに向かってたんだ!!」
ルフィの目的を聞き、自分も連れて行って欲しいとヤマトは懇願する。ルフィとしてもその願いはありがたいものだが、そこでハンコックが口を挟んだ。
「ルフィ⋯⋯こやつは五皇、バギー海賊団の幹部じゃ。確かに味方につけば大きな戦力にはなるかもしれぬが、信用してよいのか?」
「⋯⋯⋯⋯」
ハンコックの懸念は尤もだ。エースの友達と言うが、それが本当かどうかはわからないし悪名高いバギー海賊団の幹部を簡単に信用してよいものか。それを聞いたルフィはじっとヤマトの顔を見て、そして口を開いた。
「⋯⋯エースを助けたいんだな?」
「ああ!! 僕にとってエースはかけがえのない⋯⋯大切な友達だ!!」
「⋯⋯わかった!! 一緒にエースを助けるぞ、ヤマ男!!」
「ありがとう⋯⋯!! 恩に着るよ、ルフィ!!」
ルフィの回答にヤマトは安堵し、握手を求める。ハンコックはまだ多少ヤマトを疑っているようだが、ルフィが決めたことならば何も言うまいとそれを飲み込んだ。
「わらわ達はこのまま軍艦でインペルダウンへと向かうが⋯⋯そなたはどうするのじゃ? 部屋に匿うことぐらいは出来るが⋯⋯さすがに二人共インペルダウン内部まで潜入させるのは不可能じゃ」
「いや、船内に匿ってくれるだけで助かるよ。インペルダウンに着いたら隙を見て抜け出して潜入する。あそこには行ったことがあるしね」
「え〜〜!? お前インペルダウンに捕まってたのか!?」
「え!? ああ⋯⋯そうじゃなくて、バギー海賊団がインペルダウンを襲撃したことがあるんだ。話すと長くなるけどね」
バギー海賊団は以前インペルダウンを襲撃し、囚人達を多数脱獄させたことがある。当然ヤマトもその作戦に参加していたため、監獄内部にも精通しているし潜入も容易なのだろうとハンコックは思うが、対してルフィはそんな事件知らなかったと驚いている。
「⋯⋯ぐッ⋯⋯!!」
「⋯⋯!! 話は後じゃ。二人共、早く部屋の中へ」
その時、ヤマトに倒されていたモモンガが頭を抱え起き上がろうとしていた。ダメージは深く、意識も朦朧としているようだが五皇幹部の攻撃を受けて生きているのはさすが海軍本部中将と言うべきか。ハンコックはすぐにルフィとヤマトに自室の中に隠れるように促した。
「呆れたものじゃな⋯⋯海軍本部の精鋭ともあろう者達がおなご一人相手に全滅とは」
「め⋯⋯面目ない。それより“鬼姫”は⋯⋯奴はどこに?」
「ふん、わらわにも手を上げようとする愚か者だったのでな⋯⋯石にしてやろうと思うたがすんでのところで逃げおったわ」
起き上がったモモンガにハンコックが見下したような口調で告げる。反論の余地もないモモンガはバツの悪そうに謝意を示した。
「それよりも早うそこで寝ている者達を叩き起して船を進めるんじゃな。時間がないのであろう?」
覇王色の覇気で気絶した海兵達を起こし、軍艦は再びインペルダウンへと進路をとる。強力な助っ人、ヤマトを仲間に加えたルフィはより一層エース奪還のために気合いを入れるのだった。
♦♦♦♦♦
──新世界、カライ・バリ島。
五皇バギー海賊団の本拠地である島にあるテントの中に、海賊団の幹部達が集結していた。
「⋯⋯海軍はイカレちまったのか? 白ひげのとこの船員に手を出せばどうなるか、わからねェ訳あるまいに」
「それだけ“火拳のエース”公開処刑に価値があるってこった。ここで白ひげ海賊団を潰せれば海軍の株も上がる」
バギー海賊団クラスS傭兵 “大道曲芸のカバジ” 懸賞金4億3000万ベリー
バギー海賊団クラスS傭兵 “猛獣使い”モージ 懸賞金4億2200万ベリー
バギー海賊団内でも実力者であるカバジとモージ、クラスSの傭兵は海賊団内でも数える程しかいない。だがそんな彼らでもこの場では身を低くしている。何故ならここに集められた幹部には最高幹部、クラスSSの称号を持つ者がいたからだ。
「ミズキの情報じゃカイドウやビッグ・マムも参戦するんだろ? 面白ェじゃねェか」
バギー海賊団クラスSS傭兵 “雨のシリュウ” 懸賞金11億4000万ベリー
刀の手入れをしながら不敵な笑みを浮かべる剣士。元インペルダウンの看守長であり、今は亡き監獄署長マゼランと互角の実力を持つと言われていたシリュウだ。血を欲する彼には戦場は居心地のいい聖域、白ひげ海賊団と海軍本部の戦争なんて腕が鳴ると豪語していた程だ。
「ムルンフフフ⋯⋯七武海も来るわよね。“海賊女帝”ボア・ハンコックに“月詠のカレン”⋯⋯討ち取って首を持ち帰りたいわ」
バギー海賊団クラスS傭兵 “若月狩り”カタリーナ・デボン 懸賞金7億8600万ベリー
そしてインペルダウンの元LEVEL6の囚人にして史上最悪の女囚と言われる女。カタリーナ・デボンの趣味は討ち取った美女の首を持ち帰りコレクションにすること。彼女の発言にカバジとモージは思わず固唾を飲んだ。
「だ〜から!! どう考えてもウチの意見の方がいいでしょ!!」
「い〜や!! お前の意見はつまらない。僕の方を採用すべきだ」
「ちょ⋯⋯ちょっと二人共⋯⋯落ち着いて」
「⋯⋯うるせェな、ガキ共」
シリュウやデボンのいる場所から少し離れた所で言い争いをしている二人の美女とそれを宥めるこれまた美女。しかし彼らは男性であり、ミズキの選んだ特殊部隊天使の小悪魔の一員だ。
「アンタ達、一体何をそんなに言い争ってるの?」
「デボン!! ウチは山がいいって言ってるのにネオンが海がいいって言い張ってんの!!」
「山なんぞ登っても疲れるだけだろう⋯⋯海で優雅に過ごした方が建設的だ」
「海なんて行ったら日焼けしちゃうでしょ!!」
「せ、戦争前なんだしそんなことで喧嘩しなくても⋯⋯」
バギー海賊団 天使の小悪魔 “凛粉のサラ” 懸賞金4億3500万ベリー
バギー海賊団 天使の小悪魔 “蒼天のネオン” 懸賞金4億6800万ベリー
バギー海賊団 天使の小悪魔 “戦鎚のアミー” 懸賞金3億ベリー
サラとネオンはどうやら次の休みのバカンスで海に行くか山に行くかで言い争いをしているようだ。これから戦争になるというのにそんなことで喧嘩するなんてとアミーは呆れ交じりに止めようとしている。
「フルーレ!! あんたはどう思う!?」
「別に⋯⋯私はどうでもいい」
バギー海賊団 天使の小悪魔 “終雪のフルーレ” 懸賞金5億3900万ベリー
四人いる天使の小悪魔の内最後の一人、フルーレにサラが声を掛けるが適当な答えであしらわれてしまった。それにぐぬぬと歯ぎしりするサラだったが、その後すぐに意識を別のところに持っていかれる。
「あたしらはそんな無謀に力を貸すことは出来ないよ!! リスクが大きいし、何よりメリットがない!!」
『⋯⋯そうか』
電伝虫で誰かと話をしていて、怒鳴るような声で言い放ったのはギオンだ。何やら揉めているのか、受話器を握る手に力が入っている。
バギー海賊団 クラスSS傭兵 “桃兎”ギオン 懸賞金10億7700万ベリー
「シャンクス、勝手に白ひげと接触したのには目を瞑ったけど⋯⋯さすがに今回は見過ごせない。君達が世界の均衡を保ちたいのは勝手だけど、ボクらと組んでるならこれ以上勝手な真似は許さないよ」
ギオンの付近を飛び、付け加えるように言ったのは球体に目玉が一つとコウモリのような羽の生えた不思議な生物。ミズキが生み出した使い魔であり、この場にいる者達には馴染みの深い生き物だ。外出中のミズキは使い魔を通じて電伝虫の向こう側にいる五皇、赤髪のシャンクスと話していた。
「少し行動が行きすぎちゃいないかい? 確かにカイドウやビッグ・マムが戦争に乗り込んで暴れれば海軍本部や白ひげ海賊団はタダじゃすまない。だけどそれはあたしらにとって好都合なはずだ。敵が敵を潰してくれるんだからね」
「⋯⋯おい、例の話は“赤髪”に伝えてねェのか?」
「ええ⋯⋯ミズキお兄様が赤髪海賊団には黙っておけと」
ギオンの発言に疑問を持ったシリュウが近くにいたルナリアに聞いた。それに対しルナリアは頷き、彼の言葉を肯定した。
バギー海賊団 クラスSS傭兵 “憎炎のルナリア” 懸賞金13億2910万ベリー
褐色肌に白い髪、黒い翼に背中に燃える炎となんとも変わった見た目の美女のルナリア。ルナーリア族という希少な種族の生き残りである彼女は、シャンクスに気づかれぬように使い魔を通じてミズキに問いかけた。
「お兄様、何故赤髪海賊団にはブエナ・フェスタやダグラス・バレットのことを黙っているのですか? 情報は共有しておいた方が我々も動きやすいのかと思うのですが⋯⋯」
「うん、そうなんだけど彼らの企みはボクらにも都合がいいからね。シャンクスに伝えると政府に漏れる可能性がある。最終的に教えはするけど、まだその時じゃない」
「⋯⋯そうですか、わかりました」
赤髪海賊団に伝えると政府に情報が漏れる。その真意はルナリアにはわからないが、ミズキが言うなら恐らくそうなのだろう。そう思えるくらいに、ルナリアはミズキを信用していた。
「シャンクス、ボクらにとってもエースの公開処刑は白ひげ海賊団や海軍本部を潰すチャンスだし、一緒に百獣海賊団やビッグ・マム海賊団も潰せれば言うことは無い。だから協力はするけど、あくまで戦場は海軍本部のあるマリンフォード。それ以前に止めるならこっちにメリットが無さすぎるし、これは譲れないよ」
『⋯⋯わかった。お互いの目的は違えど敵は同じだ。お前達の条件を呑もう』
シャンクスはミズキの提示した条件を呑み、電伝虫の通話を切った。互いに考えの違いはあれど、同じ戦場に乗り込むつもりなのは同じだ。であれば手を組み戦うのが得策と言える、そもそも同盟を組んでいるのだから尚更だ。
「⋯⋯そういえば、バギー座長の姿が見えませんが」
「ギャルディーノと船団の編成をしてるそうだ。疼いてきたぜ⋯⋯早く敵を斬りてェ⋯⋯」
後に頂上戦争と呼ばれる戦い。歴史を動かすことになる大事件の発生を、バギー海賊団も読み取っていた。
♦♦♦♦♦
──大監獄インペルダウン、LEVEL1。
ハンコックの手引きによりインペルダウンに潜入することに成功したルフィは、囚人達が収容されているフロアの中で最も危険度の低い者達が収容されているLEVEL1を慎重に進んでいた。
「そこら中から悲鳴が聞こえんな。まァいいや、とにかく進もう」
そこに捕まっている囚人達には日夜想像を絶する拷問が行われている。全員がシャバで悪行を働いた凶悪犯達、同情の余地などないがそれでも悲鳴というのは心地よいものでは無い。
「⋯⋯おいおいお前!! なんで檻の外にいるんだよ!?」
「なんでって⋯⋯おれは外から来たからな。じゃあな」
「待て待て!! 嘘つけこのやろ〜!!」
牢屋の外を走るルフィを見た囚人達は驚き彼に声を掛ける。だがルフィに立ち止まっている時間はない、軽くあしらいその場から離れようとするが囚人達はしつこく引き止める。
「おめェ何者だ⋯⋯看守じゃねェよな」
「そうだ⋯⋯エースがどこにいるか知らねェか?」
「エース? “火拳のエース”か⋯⋯確かに最近入獄したとは聞いたがよ、いるとしたら最下層のLEVEL5だ」
「おれエースを助けてェんだ」
「ダハハ!! 無理無理、あそこは億超えの賞金首がうようよいるフロアだぜ!! とても近づけねェよ!! それより兄ちゃん、ちょっくら看守室で鍵を⋯⋯」
「⋯⋯ウブッッ⋯⋯!!?」
「あ? いなくなっちまった⋯⋯」
突如ルフィは口と身体を押さえられ、物陰に引き込まれた。逃げようとジタバタ暴れるルフィだがもの凄い力で押さえられ身動きが取れない。ルフィを引き込んだ男は指を口に当て、静かにするように言う。
「しッ⋯⋯!! 静かにしろ……ルフィ!!」
「むぐッッ……!! ぶはァ……!!」
解放されたルフィは目の前の男を睨み、警戒する。金髪に黒いハット、左目の傷跡が印象的な男だ。彼はルフィを見つめると微笑み、懐かしそうに口を開いた。
「久しぶりだな、ルフィ」
「久しぶりィ? 誰だお前!?」
「覚えてないか? おれだよ」
ハットを取り顔を見せる男だが、ルフィは思い出せない。しかしどこか懐かしい、そんな不思議な思いになる男だ。
「おれをルフィって呼ぶな! 騒ぎは起こさねェってハンコックと約束してんだ! おれは⋯⋯麦わらのルフィのそっくりさん、ルバルだ!」
「ハハッ、そんな変顔しても弟の顔を忘れるわけないだろ」
先日あったサンジそっくりな男、デュバルのことを思い出し彼の顔を真似て誤魔化そうとするルフィ。しかし金髪の男は微笑むばかりで信じようとしない。そんな彼の言った言葉にルフィは疑問符を浮かべた。
「弟ォ〜〜? あのなァ、おれを弟と呼ぶのは今捕まってるエースと、昔死んだ⋯⋯」
そこでルフィは言葉を詰まらせる。まさかそんなはずはない、彼はあの時死んだはずだと。しかし目の前の男、言われてみると彼と特徴が似ている。そんなルフィの感情を察したのか、男は彼らにしかわからない証拠を付け加える。
「まさか⋯⋯いや、そんなわけねェ!! サボはあの時確かに⋯⋯!!」
「へへ、昔ダダンの酒を盗んで盃を⋯⋯」
「サボォォォォォ〜〜〜〜〜!!!?」
ルフィは目玉を飛び出させ、涙と鼻水を撒き散らしながら男に抱きつく。目の前の男の正体、それはかつて死んだはずのもう一人の義兄弟、サボだった。