転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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監獄崩壊 再び

 

 ──エース公開処刑まで72時間、新世界エッグヘッド。

 

 その島は世界で一番科学の発展した島だ。ベガパンクという世界一の頭脳を持つ男が研究を続けるエッグヘッドではホログラムや土エアコンに島エアコン、機械の動物や巨大ロボなど空想上の存在だと思われていた物が多数存在する。そしてそれらを作り上げたのは世界政府お抱えの天才科学者Dr.ベガパンク、正確にはベガパンク達だった。

 

「まったく⋯⋯五老星及び世界政府の犬共め!! わしらにどれだけ無茶をさせる気じゃ⋯⋯!! パシフィスタもようやく実用段階に漕ぎ着けたところだというのに!!」

 

「おいおいそう言うな(リリス)⋯⋯!! 誰かに聞かれでもしたら大事になるかもしれんぜ!?」

 

 モニターやパネルなどの並ぶ部屋で、悪態をつく美女とそれを宥めるラグビーボールのような頭の形をしたロボ。彼らは二人共ベガパンクであり多忙すぎる彼が作り出した言うなれば分身、ベガパンク(サテライト)だ。本体(ステラ)と記憶を共有しており、全員がその天才的な頭脳を持っているのと同義だ。

 

「⋯⋯二年前だったか⋯⋯バーソロミュー・くまを素体とした人間兵器、パシフィスタを研究中だった我々に大量の研究資金と引き換えに新たな兵器を生み出せと命じてきたのは⋯⋯」

 

「無茶苦茶じゃ!! いくらわしらが天才と言っても限度があるぞ!! 出来てしまったがな!!」

 

「それだけ世界政府は海賊⋯⋯五皇の同盟を危険視しているのだろう。奴らに対抗するために更なる戦力を欲したのだ」

 

 フルフェイスヘルメットを被った男性型の(サテライト)(シャカ)が冷静に世界政府の考えを分析する。五皇同士の同盟という前代未聞の強敵に対抗するため、ベガパンク達に大金を注ぎ込み兵器を作らせたのだと。そしてそれは白ひげ海賊団との戦争を控えた今、無駄ではなかった。

 

「S-ウィッチとS-タイガーはまだ試作段階じゃ⋯⋯!! 白ひげ海賊団の首をどれだけ取ってくるか⋯⋯楽しみじゃな!!」

 

「それだけ大きな戦争なら戦闘データもたくさん取れますね!! パシフィスタ含め千載一遇のインプットチャンスです!!」

 

「やめておけ、戦争だぞ。喜ぶようなものじゃない」

 

 (リリス)(ピタゴラス)が嬉々として戦争でデータが取れると語り、それに対し(シャカ)は戦争だぞとため息交じりに苦言を呈した。

 

「戦争の場にいる中でセラフィムに司令を出せるのは戦桃丸のみか⋯⋯元帥センゴクにも威権チップを渡してはあるが、戦桃丸が何らかの形で意識を失わない限りそれを行使することはないだろう。⋯⋯いや、白ひげ海賊団が相手ならあるいは⋯⋯」

 

 ベガパンク達全員は科学班の隊長である戦桃丸の実力にかなりの信頼を置いているが、それでも伝説の海賊団を相手にすれば万が一も有り得る。セラフィムに命令することが出来るのは優先順に五老星、ベガパンク、戦桃丸、そして最後に威権チップ所有者だ。戦争の場にいるのは戦桃丸のみであるため、彼が倒れれば自動的にセンゴク元帥に命令権が下る。

 

「海軍が敗れるようなことがあれば世界政府⋯⋯ひいては我々の立場も危うい。目的を果たす為にも今はまだ⋯⋯世界政府との関係を続けねばならないからな」

 

 世界政府お抱えの科学者というポジションを失う訳にはいかない。その為には海軍本部に勝利してもらわなければ困ると、セラフィムのデータが映し出されたモニターを見ながら(シャカ)は言うのだった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 

 ──エース公開処刑まで24時間、大監獄インペルダウン。

 

「サボォォォォォ〜〜〜!!? お前⋯⋯今まで⋯⋯!! どごにいだんだよ〜〜〜!!?」

 

「ぶはッッ⋯⋯!! ルフィ、静かにしろって⋯⋯見つかっちまうだろ」

 

 死に別れたはずの兄、サボとのまさかの再会にルフィは涙と鼻水に塗れた顔で泣き叫ぶ。身体ごと思いっきり抱きつかれたサボは何とか顔を出すと嬉しそうにルフィを見つめる。

 

「悪かった⋯⋯おれはあの時の事故で記憶を失ってたんだ。だけどローグタウンの死刑台の広場でお前の姿を見て思い出した⋯⋯お前が海賊王になるって言ってる姿を見てな。ありがとう、ルフィ」

 

「でもサボ⋯⋯今度はエースが⋯⋯!! このままじゃエースが殺されちまう!!」

 

「ああ、だからおれはここに来たんだ。エースは死なせない!! 絶対に助け出してみせる⋯⋯!! だろ?」

 

「う゛ん……!! う゛ん……!!」

 

 サボの言葉にルフィは強く頷く。サボは生きていた、しかし今度はエースが命の危機に瀕している。二度も義兄弟の死に悲しむのは嫌だとルフィは強く決心する。絶対にエースを助け出すのだと。

 

「ルフィ、おれは今革命軍にいるんだ。お前の親父、ドラゴンさんの指示でガープのジジイと二人でエースの救出と⋯⋯この事件の裏にいる黒幕を炙り出しに来た」

 

「え⋯⋯!? じいちゃんも来てんのか!?」

 

「ああ、ジジイはブエナ・フェスタを⋯⋯今回の騒動の黒幕を追ってるところだ」

 

「ブエナ⋯⋯誰だそれ?」

 

「表向きは“祭り屋”と呼ばれたロジャー時代の大物海賊、だが本性は裏世界と通じて悪行を働く最悪の戦争仕掛け人⋯⋯おれ達はずっと奴を追ってた」

 

 ブエナ・フェスタ、十数年前の海王類による海難事故で死んだと思われていた男だが、革命軍はここ数年で彼の生存、そして企みを明らかにしていった。それは世界を揺るがす恐ろしい計画であり、革命軍の掲げる思想に反するものだった。

 

「だけど今はエースの救出が最優先だ。おれは仲間の能力で何とかここまで潜り込むことが出来た。ルフィ、お前はどうやってここまで来たんだ?」

 

「おれはハンコックに送ってもらったんだ。あいつ世界政府嫌いなのによ、軍艦におれを匿ってくれたんだ」

 

「七武海の“海賊女帝”ボア・ハンコックに!? 大の男嫌いで有名なはずだろ? ここに来ているとは聞いてたが⋯⋯どういう関係なんだ?」

 

「友達だ!!」

 

 あのボア・ハンコックと友達だというルフィにサボは困惑するが、しかしルフィならばあの海賊女帝すら味方につけることが出来るかもしれないと納得する。サボの知るルフィは昔からそういう人物なのだ。

 

「サボ、とにかく急ごう。おれハンコックと騒ぎは起こさねェって約束してんだ! ゆっくりしてたら全部終わっちまう!」

 

「ああ、そうだな。監視の目を潜り抜けて進むにはモタモタしてる時間はない」

 

 インペルダウンの厳重な監視体制を突破するには時間がかかる。ゆえにグズグズしている時間はないとサボも肯定し、先に進むべく周囲の様子を伺う。

 ──その時だ。

 

「侵入者!! 侵入者です!!」

 

「敵は一人!! 正面入口から扉を破り侵入!! バギー海賊団の幹部、“鬼姫”ヤマトです!!」

 

「エースは必ず助け出す!! 道は開けてもらうぞ!!」

 

「え〜〜〜!!? ヤマ男ォォォォォ〜〜〜!!?」

 

 ハンコックとの約束、決して騒ぎを起こすな。それを完全に無視し、ヤマトは堂々と真正面からインペルダウンにカチコミをかけるのだった。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 火拳のエース公開処刑まであと一日。その頃には、各勢力で様々な動きがあった。

 

「バギー座長!! そろそろ出航の時刻ですが緊急事態です!! フリーダ坊ちゃんの件で謹慎中だったヤマト様が⋯⋯インペルダウンを襲撃したと報告が!!」

 

「はァァァ〜〜!!?」

 

 最近独断が目立っていたヤマト。フリーダを麦わらの一味に合流させた件で謹慎中だったのだが、何と勝手に船を出し火拳のエースを救出しに行っていたのだ。それにはバギーも驚き、ミズキは呆れて言葉も出なかった。

 

「まったく⋯⋯まァ予想出来ただろうに監視をつけてなかったボクらも悪いか。どの道マリンフォードで合流出来るだろうし。それよりボクらも急ぐよ!! 白ひげも海軍もカイドウもリンリンも、全部ぶっ潰して最後に笑うのはボク達バギー海賊団だ!!」

 

『ウォォォォォ!!!!』

 

 今ヤマトに構っている暇はない。世界の行く先を決めるであろう頂上決戦、その舞台に参戦するためバギー海賊団は大艦隊を組織しマリンフォードへ向かうのだった。

 

「シャンクス!! 早く行かないと⋯⋯!! エースが⋯⋯!! エースが殺されちゃう⋯⋯!!」

 

「落ち着けウタ⋯⋯おれ達だけで乗り込んでも返り討ちにあうだけだ。まずはバギー達と合流して戦力を整える」

 

 赤い土の大陸(レッドライン)にほど近い新世界の海に浮かぶのは赤髪海賊団の船、レッド・フォース号。その甲板で船長であるシャンクスに泣きつくのは彼の娘、ウタだ。エースとは顔馴染みであり友人でもある。友の公開処刑に焦り、早く助けに行こうとシャンクスに懇願する。

 

「ウタ⋯⋯今回の戦いは今までとは違う。おれ達ですらどうなるかわからない。やはりお前は安全なところで⋯⋯」

 

「嫌だ!! 何回も言ってるでしょ!! あたしは赤髪海賊団の音楽家、そしてエースの友達だよ!!」

 

 ウタとて五皇赤髪海賊団に長年在籍し、色々な修羅場を潜り抜けてきた猛者。そこらの敵なら簡単に倒すことが出来るが、しかしこれから赤髪海賊団が参戦しようとしている戦いはレベルが違う。海軍と白ひげ海賊団の戦いなどあまりに危険だ。だがウタも譲らない。エースが殺されるかもしれない、そんな状況にもなって黙って待っているなど出来ない。

 

 そして海軍本部、戦いの鍵を握る七人の曲者達である七武海の通された部屋で彼らに戦闘陣形が伝えられてはいるが、彼らが一丸となって戦うことはまずないだろう。

 

「ゼハハハハ!! 盛り上がってきたぜ⋯⋯!! ここまでは全て計画通りだ!!」

 

「馬鹿笑いをするな⋯⋯海兵共に勘づかれたら我々の計画は全て水の泡だぞ?」

 

「⋯⋯!! ああ、すまねェ⋯⋯だがここまで上手くいくとは思わなかった。後はそれぞれの目的を果たすだけだ⋯⋯!! おれはインペルダウンで囚人共を仲間に引き入れ、最後にはあの悪魔の実の力を奪い取る!! おめェも望みの物を手に入れれば計画は完遂だ!! ゼハハハハ!!」

 

 海軍本部内の一室、黒ひげに与えられた部屋にて彼と同じく七武海のカレンが計画の最後の打ち合わせをしていた。といってもここまで来れば彼らが動くことも無い。後は忍び込ませた他二人の協力者に任せればいい。

 

「インペルダウンではバギー海賊団の“鬼姫”や革命軍のサボ、“麦わらのルフィ”が暴れているそうだ。混乱に乗じればお前の目的も達成しやすいだろう」

 

「ゼハハ!! 何から何まで運が向いてきてやがるぜ!! ……だが万が一“麦わら”達がエースを救出しちまうと計画が狂っちまうなァ」

 

「それは問題ないだろう……先程“火拳のエース”の護送船が出航したらしい。乗っているのは海軍中将五名と元海軍本部大将……“黒腕のゼファー”だ」

 

「……!! ゼハハハハ……白ひげ海賊団がいつ襲撃してくるかわからねェ以上、護送船の警備も万全ってわけか!!」

 

 元海軍本部大将黒腕のゼファー。引退後は教官として海軍本部に残り、元三大将を含む全ての海兵を育てたと言われる男だ。老いた現在もその実力は高く、海賊遊撃隊を組織し部下達と共に海賊を狩っているという。

 

「まァしかし“麦わらのルフィ”⋯⋯改めて考えても数奇な運命を辿る男だ」

 

「まったくだ!! アラバスタにエニエスロビー、シャボンディ諸島での天竜人暴行事件に今度はインペルダウンか⋯⋯!! おれァああいう馬鹿な男は嫌いじゃねェ!!」

 

 カレンの言葉に黒ひげが同意する。しかし二人が考えていることは少し違った。黒ひげは単純にここまでのルフィの所業を鑑みての発言。だがカレンはここから先の未来、恐らくルフィが戦争に参戦してくるところまでを考えての言葉だった。

 

 ──そしてインペルダウンではそのルフィが暴れ回り、バギー海賊団の事件以来の大騒動に発展していた。

 

「奴らを捕らえろ!! 海楼石の錠を忘れるな!!」

 

「ヤマ男!! お前騒ぎは起こすなってハンコックに言われたのを忘れたのか!!」

 

「だって前に僕らが来た時はこうやって正面から突破したんだ!!」

 

「こうなったらしょうがねェ⋯⋯!! エースのところまで突っ走るぞ!!」

 

「ん〜がっはっはっは!! いつでもどこでも強行突破!! それがオカマ(ウェイ)なのよう!!」

 

 LEVEL3にて元バロックワークスのエージェント、Mr.2ボン・クレーを解放しルフィ達はインペルダウン内を爆走する。ヤマトの正面突破に巻き込まれてルフィやサボの存在もバレてしまい、もはや見つからず進むことなど不可能だった。

 

「⋯⋯!! おい、なんだあのでけェ動物!!」

 

「あれは獄卒獣よ麦ちゃん!! 人をゴミのように扱う血も涙もない化け物よう!!」

 

「獄卒獣が来てくれたぞ、ミノタウロスだ〜〜!! それにあれは!!」

 

「さァ行くのよ!! ん〜〜〜♡監獄内を悲鳴で飾りなさい!!」

 

「サディちゃんだ〜〜!!」

 

 獄卒長サディちゃん、そして覚醒した能力者である獄卒獣の登場を看守達は希望に満ちた声で喜ぶ。それを見たルフィ達はそれぞれが警戒心を抱き、これまでの有象無象とは違うと心持ちを改める。

 

「あいつ⋯⋯あの時僕達がぶっ飛ばしたはずなのにまだ生きてたのか!?」

 

「止まってる暇はないな⋯⋯!! 行けるか、ルフィ!!」

 

「おう!! ギア3(サード)⋯⋯ゴムゴムの〜〜!!! 

 

竜爪拳(りゅうそうけん)⋯⋯(りゅう)の⋯⋯!!」

 

 迫り来るミノタウロスにサボは竜に見立てた爪に覇気を纏わせ、ルフィはゴムゴムの能力を応用し空気で拳を巨人族並みのサイズに巨大化させる。そして息を合わせ、それらでミノタウロスを攻撃した。

 

巨人の銃(ギガント・ピストル)!!!」

 

鉤爪(かぎづめ)!!!」

 

『えええええ〜〜〜〜!!?』

 

「きゃああああああ!!」

 

 ルフィとサボの攻撃で一撃KOされるミノタウロス。それに驚く看守達とサディちゃんを尻目に、彼らは先へと進む。しかしそれを黙って見ている訳にはいかない。サディちゃんを中心に、何とかルフィ達を食い止めようとする。

 

 ──一方その頃、インペルダウンの正面入口。

 

「ゼファー先生、インペルダウンに到着しました。中はかなりの状況だそうですが」

 

「ああ⋯⋯アイン、ビンズお前達はここで待て」

 

『はっっ!!』

 

 元海賊本部大将、黒腕のゼファー。彼が部下を引き連れ火拳のエースを海軍本部へ護送するためにインペルダウンへ現れた。しかし今インペルダウンの中はパニック状態だ。革命軍のサボや海賊の鬼姫、麦わらが暴れている。それらを無視して護送任務のみを果たすという選択肢はゼファーにはなかった。インペルダウン内部のリフトで侵入者の暴れるエリアまで急行する。そしてその頃リフトを降りた先、最下層のLEVEL6では最悪の囚人達が色めきたっていた。

 

「白ひげを殺せェ!!!」

 

「あの野郎が死ぬって!!? ヒャッホ〜〜!! そりゃいい最高だ!!」

 

「おれを出せ!! あいつの首を取るのはおれだァ!!」

 

「黙れ貴様らァ!!」

 

 白ひげに恨みを持つ者達もそうでない者達も一様に白ひげを殺せと騒ぎ出す。奴が死んで次に海に君臨するのはおれだと。それを聞いて激高するのはエースと同じ牢に入れられている王下七武海、海侠のジンベエ。彼は大恩ある白ひげの為に今回の戦争に反対し大暴れしたことでここに入れられた。そんな彼にとって、囚人達のバカ騒ぎは酷く不愉快なものだ。

 

「ジンベエ⋯⋯“火拳”⋯⋯よォく覚えておけ⋯⋯!! 白ひげやロジャーに勝てなかっただけで涙をのんだ銀メダリスト達は⋯⋯この海にゃァごまんといるんだぜ⋯⋯クハハハハ!!」

 

「フッフッフッフッフ!! 退屈させてくれねェじゃねェか世の中はよ!! シャバに未練が湧いてきちまう!! フッフッフ!!」

 

「⋯⋯口の減らねェ奴らだな」

 

 元七武海達の言葉を聞きながらも、エースは別のことに頭を奪われていた。先程面会に来た七武海、ボア・ハンコックの言葉、弟が⋯⋯ルフィがここに来ていると。

 

「来るな⋯⋯ルフィ⋯⋯!!」

 

 弟が自分のせいで犠牲になるかもしれない。その不安が頭をよぎり、エースは歯を食いしばる。自分が死ぬのはまだ許容出来る、元々自分の身勝手な行動が招いた事態なのだから。だが自分を助けるためにルフィが死んでしまうのは到底受け入れられず、彼は床に頭をうちつけた。しかしそんな彼の心配を知らぬルフィは、インペルダウンLEVEL4へとたどり着いていた。

 

「クソォ⋯⋯サボ達とはぐれちまった。あの牛みてェな化け物に仲間がいたのか」

 

「獄卒獣は麦ちゃん達がぶっ飛ばしたミノタウロスを含めて四体いるのよう。それにしてもここ暑いわねェ⋯⋯メイクが溶けちゃうわァ」

 

 獄卒獣三体の襲撃を受けたルフィ達はそれらを打ち倒しはしたものの、バラバラにはぐれてしまった。そのことを口にしながらルフィはボン・クレーと共に血が煮えたぎる釜の上の通路を歩いている。ここより下に行けばLEVEL5、そしてエースのいるLEVEL6だ。

 

「ここから先へは行かせんぞ!! 海賊共⋯⋯!!」

 

「⋯⋯!! 誰だお前⋯⋯!!」

 

 ルフィ達の目の前に現れたのはサングラスをかけた大男。右腕に巨大な兵器を取り付けられたその男はルフィ達を視認するなり右腕を振りかぶり襲いかかってきた。それを回避しながらもボン・クレーは男の正体に気づいたらしく目を見開いて驚く。

 

「まさか⋯⋯麦ちゃん、そいつは“黒腕のゼファー”!! 元海軍本部大将よう!!」

 

「大将⋯⋯!!」

 

 つい先日大将黄猿によって手痛い思い出を植え付けられているルフィは苦い顔をする。仲間を助けられなかったトラウマを呼び起こされるも、強い精神力で無理やりそれを振り切り、身体中の血を加速させる。

 

「ギア⋯⋯2(セカンド)!!!」

 

「ダメよ麦ちゃん!! 勝てる見込みがない!! ここは逃げるのよーう!!」

 

「このフロアはすでに看守達によって包囲されている。貴様らに逃げ場などない」

 

「そんな⋯⋯!!?」

 

「元大将だからなんだ⋯⋯!! エースは必ず助ける!! 会えもせず死ぬなんてごめんだ!!」

 

 強い意志を持ってゼファーに挑みかかる。負けるつもりなどない、元大将だろうがなんだろうが必ず倒してエースの元へとたどり着いてみせる。海賊麦わらVS元海軍大将ゼファー。その戦いの幕が開けた頃、LEVEL4からLEVEL5に続く階段前にてもう一つの戦いが始まろうとしていた。

 

「そこまでだ侵入者共!! ここから先は何人たりとも通す訳にはいかん!!」

 

「ハンニャバル署長ォォ〜〜!!」

 

「お前は⋯⋯!!」

 

「気をつけろヤマ男!! 奴の能力は⋯⋯!!」

 

 サボとヤマトの進行に為す術もなかった看守達は、インペルダウンで一番の強者の登場に歓喜と安堵の声でその名を呼ぶ。八年前のバギー海賊団による襲撃事件。その際に懸命に戦い、命を落としたマゼラン前署長に代わって署長に就任したのがハンニャバルだ。当然凶悪な囚人を閉じ込めておく監獄の署長なだけあって実力は相当なものだが、最も厄介なのは彼がマゼランから受け継いだ能力だった。それを警戒するようにサボはヤマトに警告する。

 

毒竜(ヒドラ)!!!」

 

「これは⋯⋯マゼランの能力か!!?」

 

 サボとヤマトは左右に飛びハンニャバルが生み出した毒の竜の攻撃を回避する。超人系(パラミシア)ドクドクの実。今は亡きマゼランから受け継いだ能力を使用し、ハンニャバルは二人の侵入者を追い詰める。

 

「ちッ……!! 触れねェってのは厄介だな!!」

 

「ああ……だけどここでモタモタしてる暇はない。ルフィ達の方も心配だし、一刻も早くこいつを倒さないと!!」

 

 近接戦闘を得意とする二人にとって全身が毒で覆われ触れない敵というのは厄介極まりない。覇気を纏っての攻撃や金棒から衝撃波を放つことで二人はハンニャバルに対抗する。

 そしてその二つの戦いを映像電伝虫で監視している者達がいた。

 

「まずいわね……元大将と戦って無事でいられるはずがなっシブル……!! イナズマ!! 麦わらボーイを救出に向かうわよ!!」

 

「はい……!!」

 

 インペルダウンの誰も知らない秘密のエリアLEVEL5.5番地にて革命軍の幹部、オカマ王エンポリオ・イワンコフは部下であるイナズマに指示を出す。インペルダウンに捕まりつつもこの秘密のフロアで生き延びていた彼はここで囚人達の楽園を築き、平和な時を過ごしていた。しかし同胞の息子の危機を見て彼を助けることを、つまり今が脱獄の時だとインペルダウンを脱出することを決意する。

 

「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」

 

「麦ちゃん⋯⋯」

 

 麦わらのルフィVS黒腕のゼファー。その戦いは終始ゼファーが優勢、力の差は圧倒的でありルフィの攻撃はゼファーの研ぎ澄まされた武装色の覇気の前に通じず、海楼石で作られたスマッシャーによる攻撃はルフィの体力を削り続ける。

 

「何故そこまでして立ち上がる? 大人しく捕まれば苦痛を味わわずに済むものを」

 

「うるせェ⋯⋯!! ハァ⋯⋯ゲホッッ⋯⋯!! おれはエースのところに行かなきゃならねェんだ⋯⋯!!」

 

「海賊のクズが⋯⋯お前らに兄弟の行く末を憂う資格などない。海賊によって親や兄弟、妻や子を失った者達がこの海にどれだけいるか⋯⋯!!」

 

「関係ねェ⋯⋯!! おれはエースが大事なだけだ⋯⋯!! ゴムゴムのォォ⋯⋯!!」

 

 彼らの主張は相反するものであり、世間的に見ればゼファーの方が正しいのだろう。しかしそんなことはルフィには関係ない。海賊が一般的に悪であることを自覚し、しかしそれでも自由に生きたいと海に出たのがルフィだ。自分の意志を貫くため、全身全霊の一撃をゼファーにくらわせようとする。

 

巨人のJET砲弾(ギガントジェットシェル)!!!」

 

「⋯⋯!!」

 

 ギア2とギア3を併用しスピードとパワーを合わせた技を放つ。ただでさえ消耗の激しいギアを併用したことで身体への負担は半端ではないが、そんなことを考慮している余裕などルフィになかった。さすがのゼファーもこれを受ければひとたまりもないと思われたが、しかし彼は僅かに怯みはしたものの倒れることは無かった。

 

「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯クソォ⋯⋯!!」

 

「スマッシュ⋯⋯バスター!!!」

 

「⋯⋯!!」

 

 スマッシャーにより引き起こされた爆発がルフィの身体を燃やし尽くし、意識を刈り取る。倒されたルフィにゼファーが近づきトドメを刺そうとし、それをボン・クレーが決死の覚悟で止めようとしたその時、ゼファーの身に謎の攻撃が襲いかかった。

 

DEATH(デス) WINK(ウィンク)!!!」

 

「何⋯⋯!?」

 

 爆風が巻き起こりルフィの身体を包み込む。ゼファーにダメージはなかったが、爆風が晴れた頃にはルフィとボン・クレーの姿はどこにもなかった。

 そうしてイワンコフとイナズマに命を救われたルフィはLEVEL5.5番地、ニューカマーランドにて治療を受けていた。ハンニャバルと戦っていたサボとヤマトも戦闘の隙にイナズマに誘導されて一旦ニューカマーランドに身を隠している。

 

「状況は良くねェよな⋯⋯ルフィが治るのを待ってたらエースは連行されちまう」

 

「ええ⋯⋯だけど今はゼファーとハンニャバル含むインペルダウンの全戦力がLEVEL6前の階段の守りを固めているわ⋯⋯闇雲に突っ込んでもエースボーイの元へはたどり着けナッシブル」

 

 ルフィは相当な痛手を受けておりイワンコフの能力を使用しても完治には半日はかかる。それを待っていてはエースは海軍本部に連行されてしまうが、しかし今エースの元へ向かっても彼の元にたどり着くのは難しいだろう。しかし数時間後、エースの公開処刑まで20時間を切った頃にルフィは目を覚ました。

 

「治った〜〜〜!!!」

 

「なんと⋯⋯呆れた生命力だわ」

 

「ありがとうイワちゃん!! おれを助けてくれたんだろ!!」

 

「礼ならボンボーイに言うんだね。ヴァナタを助けて欲しいと土下座してまで懇願してきた」

 

「そうなのか⋯⋯ありがとうボンちゃん!!」

 

「いいってことよーう!! あちしは友達として当然のことをしたまでよう!!」

 

 目を覚ましたルフィはすぐにエースを助けに行こうとする。それを止めようとするイワンコフだったが、部下からエースが連行されようとしているという情報を聞き考えを改める。

 

「ヴァターシは革命軍の幹部。つまりヴァナタの父や兄とは同胞というわけ!! 勝手ながらヴァナタを手助けする義理がある!! サボ、ヤマトボーイ、ボンボーイ、イナズマ!! 準備は出来てるわね!!」

 

 五人はエースが連行される前に救出すべく急いでLEVEL6へと降りる。しかし時すでに遅く、エースはリフトで正面入口へと運ばれていた。更に階段への通路が閉ざされ、睡眠ガスにより一網打尽にされかける。イナズマの機転で何とか眠らされるのは避けたものの、依然としてLEVEL6に閉じ込められたままだ。

 

「ここを抜けたきゃおれを解放しろ。おれならここの天井に穴を開けられる。どうだ“麦わら”⋯⋯クハハハハ」

 

「おいおい抜け駆けしてんじゃねェよワニ野郎⋯⋯お前が噂の大問題ルーキー“麦わらのルフィ”か⋯⋯フッフッフッフッフ!! おれをここから出せば手を貸してやるぜ?」

 

「後生の頼みだ!! わしも連れて行ってくれ!! 必ず役に立つ!!」

 

 クロコダイル、ドフラミンゴ、ジンベエ。新旧合わせた七武海の三人の内、イワンコフが弱みを握っているクロコダイルとルフィが信じたジンベエを解放してLEVEL6を脱出する。

 

「行くよおれ⋯⋯海軍本部へ!!」

 

 エースはすでに軍艦で海軍本部へと連行されている。助け出す可能性があるのならば海軍本部へ乗り込むしかない。大将や中将、七武海の恐ろしさは重々理解しているが、それでもルフィに諦めるという選択肢はなかった。

 ──エース公開処刑まで残り18時間⋯⋯!! 

 

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