転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

86 / 90
セラフィム

 

 混沌渦巻く戦場と化したマリンフォード。至る所で怪物達による戦いが繰り広げられ、いつ島が沈んでもおかしくない状況だ。そんな中兄を助けるべく戦場を奔走する麦わらのルフィと協力者達。しかし立ち塞がるのは世界でも指折りの実力者、いくら偉大なる航路(グランドライン)で名を上げたルーキーでも突破するのは容易ではない。

 

「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯全員強ェな⋯⋯キリがねェ⋯⋯!!」

 

「そこらで怪物達が戦っておる!! エースさんもいつ処刑されてもおかしくはない⋯⋯!! 辛い戦いだろうが時間はないぞ、ルフィ君!!」

 

「ああ、わかってる!!」

 

 ジンベエが言うようにマリンフォードのあらゆるところで怪物達が壮絶な死闘を繰り広げている。そしてその中でもルフィが特に意識を向ける場所があった。広場の真ん中、バレットを攻撃し戦闘開始の狼煙を上げた二人の皇帝の内、髪の赤い男にルフィは視線を向けた。

 

「ルフィ⋯⋯こんな時に言うことじゃないかもしれないが⋯⋯“赤髪のシャンクス”はお前の命の恩人なんだろ? ⋯⋯会わなくていいのか?」

 

「⋯⋯」

 

 そんな様子のルフィを見かねてサボが走りながら声をかける。シャンクスはルフィにとって恩人であり超えるべき目標。いつかシャンクスを超える立派な海賊になり、麦わら帽子を返すことはルフィが海賊を続ける理由の一つだ。だから会いたい、もちろんその気持ちは大きい。

 しかし──

 

「ルフィの奴、インペルダウンからあんな面子引き連れてくるなんてやるじゃねェか!!」

 

「ああ、あいつはもう立派な海賊だ!!」

 

 その頃、赤髪海賊団は百獣海賊団と交戦しながらも落下してきたルフィ達に意識を向けていた。ガキだと思っていたルフィがいつの間にか大きくなり、こんな戦場に乗り込んできたのだ。嬉しくないはずがない。

 

「⋯⋯お前ら、わかってると思うがルフィに会うのは無しだぞ。少なくとも今はな⋯⋯」

 

「⋯⋯!! ベック⋯⋯!?」

 

 浮かれるヤソップやラッキー・ルウにベックマンが冷静な口調で言った。戦闘中であるという事情を無視すれば、今すぐにでもルフィと言葉を交わしたいのが彼らの本音だ。しかしそれを否定され、何故なのかと説明を求める。

 

「⋯⋯お頭はルフィと会う気は無い。あの人がそういう考えならおれ達もルフィと会うわけにはいかねェだろう?」

 

 タバコの煙を吐きながらベックマンは言った。シャンクスと組んで二十年以上、彼がどういう考えで動いているかは大体わかる。彼はルフィと会う気はないだろう。この場、今の状況においてはまず間違いなく。

 そしてその考えは見事的中していた。

 

 バレットを吹き飛ばしたシャンクスとバギーの神避。口から血を吐き海軍本部の建物にクレーターを作り叩きつけられたバレットを見てバギーは警戒を解かずに武器を構えているが、シャンクスは目線を逸らしてルフィの方を見ていた。

 

「⋯⋯ルフィ」

 

 自らの片腕を犠牲にしてまで救い、亡き恩人の帽子を預けた少年を見据える。正直に言えば、今すぐにでも会いたい気持ちだ。しかしシャンクスはその思いとは裏腹に視線をバレットに戻した。まだ会う訳にはいかない。その理由をシャンクスが口にした時、偶然にもルフィも同じことを呟いていた。

 

『今会ったら⋯⋯約束が違うからな』

 

 立派な海賊になって赤髪海賊団を超えるような海賊団を作り、そして帽子を返す。その約束がある限り、少なくとも今会うことは出来ない。

 

『全員逃げることだけ考えろ!! いまのオレ達じゃあ⋯⋯こいつらには勝てねェ!!』

 

 ルフィはエースの元に走りながら、つい先日のシャボンディ諸島での一件を思い出す。海軍大将や七武海の前に、ルフィは何も出来なかった。レイリーが助けてくれなかったら確実に全滅していただろう。そんな自分にシャンクスに会う資格などない。もっと力をつけ、いつかシャンクスを超える海賊になるまでは。

 

「ルフィ!! ぼんやりしている暇はないぞ!! エースはいつ殺されてもおかしくない!!」

 

「ああ悪い、ヤマ男!!」

 

 それに今はエースを助けることが最優先だ。シャンクスに会いたい気持ちをグッと飲み込み、ルフィはヤマト達と共にエースの元へと急ぐ。

 一方、シャンクスはバギーと共に戦闘態勢を継続していた。

 

「おいシャンクス!! 余所見してんじゃねェぞ!!」

 

「ああ⋯⋯」

 

 バギーの言葉に軽く返したシャンクスは彼の持っていた剣に目をやった。シャンクスの知るバギーは剣など使わなかったはずだ。それなのに先程の神避は彼の物とも遜色ない威力だった。いつの間に鍛錬したのだと疑問に思ったのだ。

 

「バギー、お前いつから剣士になったんだ?」

 

「あ? ⋯⋯別に剣士になった訳じゃねェよ。ミズキの奴が戦いに幅を持たせた方がいいって無理やりにな」

 

「そうか⋯⋯それにしても⋯⋯⋯⋯奇抜な剣だな」

 

 シャンクスの最大限言葉を選んだ言葉にバギーは言葉を詰まらせた。バギーの持つ剣は持ち手のところにバギーの顔を模したデザインが付けられていた。さすがのシャンクスもドン引きしている。

 

「いやァ⋯⋯ウチの部下はおれのこと好きすぎてよ。腕は確かなんだが⋯⋯」

 

 バギーは冷や汗をかきながら部下に剣を作らせた時のことを思い出す。彼の部下には腕のいい武器職人が何人もおり、クオリティについては本物だ。しかし──

 

『キャプテン・バギーの御顔をモチーフにしてみました♡』

 

『えェェェ〜〜〜!!? なんじゃこりゃァァ〜〜!!?』

 

『あはははは♪ 何それ超面白いじゃん!!』

 

『おいコラ!! 笑ってんじゃねェミズキ!!』

 

 バギーのことが好きすぎるあまりにこのようなトラブルがたまにある。だが部下がせっかく作ったものを捨てる訳にもいかず、ミズキも気づいていても爆笑するだけで止めようとしない。そうしてバギーは傍から見れば曲芸道具にも見える剣を使う羽目になったのだ。

 

「それは災難だったな⋯⋯⋯⋯プハッ⋯⋯!」

 

「⋯⋯おいおめェ今笑わなかったか?」

 

「なんのことだ?」

 

 顔と視線を逸らして誤魔化そうとするシャンクス。それをバギーは追求しようとするが、正面に感じた気配で意識をそっちに移した。見聞色の覇気は使えないが、それでも分かるほどの気迫だ。

 

「カハハハハ⋯⋯やるじゃねェか。伊達に海の皇帝なんて呼ばれちゃいねェって訳か」

 

「チッ⋯⋯!! 野郎やっぱあれぐらいじゃくたばらねェか」

 

「⋯⋯」

 

 血を流しダメージはあるだろうが勢いよく現れたバレットを見てバギーは舌打ちをし、シャンクスも眉をひそめた。あれくらいで倒せたとは思っていなかったが、それにしてももう少しダメージがあっても良かったのだが。

 

「お前ら二人とやり合うにはこのままじゃ不十分か⋯⋯いいだろう、おれの力を見せてやる」

 

「⋯⋯何をするつもりだ?」

 

 言うとバレットは腕を地面に叩きつけた。地割れが縦横に起こり、広場の地面が崩壊し何かが地の底から現れた。

 ゴゴゴゴゴ⋯⋯!! 凄まじい爆音と共に現れたそれは巨大な鯨、それも鉄で出来た大型の潜水艦だった。

 

「この船、カタパルト号にはありとあらゆる武器が装備されている!!」

 

「なんだあれは!? 一体どこからあんなものを!!?」

 

 それを見た周りの海兵達は海軍本部の地下から現れた潜水艦に驚愕する。バレットが現れたのも地下からだった。一体いつ、どうやって潜り込んだのか。

 

鎧合体(ユニオン・アルマード)!!!」

 

 バレットの両手が覇気とはまた違う青い光で包まれる。それがカタパルト号を照らすと巨大な潜水艦はまた違う物体へと変化を遂げ始める。

 

「お前らも知っているだろうが⋯⋯おれはガシャガシャの実の合体人間!! あらゆるものを変形させ、合体することが出来る!!」

 

 鉄クズと化した潜水艦はバラバラに分けられバレットの身体の一部として組み込まれていく。ミズキに言わせるならば戦隊モノの巨大ロボの合体。違うとするならばそれが一人の人間によって行われているところだろう。

 

「確かにお前らは強い⋯⋯だが仲間なんてくだらねェ奴らと仲良しこよしをしてる時点で⋯⋯おれの強さには到底届かない!!」

 

「思った以上に力をつけているな⋯⋯バレット」

 

「なんだあのデカさ!? 巨人の比じゃねェぞ!!」

 

 確かにシャンクスやバギーの強さは皇帝と呼ばれて然るべき。だが部下を率いている時点で自分に足りない部分があると認めているようなものだ。バレットにはそんなもの必要ない。己一人の強さでこの世の全てに打ち勝ち、最強となる。

 

「白ひげのジジイも死ぬ。身の程を弁えずおれに挑んだ馬鹿な部下のせいでな。仲間ってのは弱さだ!!」

 

「あの野郎⋯⋯!!」

 

「⋯⋯なるほど、エースを捕らえたのはお前か」

 

 バレットの言葉を聞いて悔しさから歯噛みするエース。そしてその言葉から冷静に考察するシャンクス。黒ひげがエースを倒したというのもない話ではないと思っていたが、バレットがやったというならば納得がいくし、黒ひげがこの場にいないのもバレットと繋がっているからという理由で理解出来る。

 

「“赤髪”⋯⋯!! お前がその左腕を失ったのもあそこにいる“麦わら”のためらしいな。他人への情なんてもんがあるから隙が生まれるんだ!! “宵魔女”もそうだ⋯⋯赤っ鼻、あいつはお前に忠誠を誓ったせいでビッグ・マムに殺される!! 強者には仲間も部下も、何もいらねェ!!」

 

 その言葉を言い終わると同時に、バレットはカタパルト号と完全に同化した。そうして生まれた鉄の巨人は腕全体に強力な覇気を纏わせ、大地を割る程の拳を二人に振りかざす。

 

「ぐッ⋯⋯!!」

 

「なんつーパワーだ!!」

 

「カハハハハ!! お前らを殺した後は仲間も傘下のクズ共も全員皆殺しにしてやる!!」

 

 それを剣で受け止める二人だが、何せ体積量が違いすぎる故に吹き飛ばされてしまった。しかし大したダメージはない。二人はそれぞれ離れた場所に着地すると剣に覇王色の覇気を纏わせた。

 

「バレット⋯⋯昔から考え方は変わっちゃいないようだな。別にそれを否定しやしないが⋯⋯おれの仲間に手を出すって言うなら容赦は出来ないぞ!!」

 

「ミズキがおれ様に忠誠を誓ってるだァ? そんな単純な関係だったらハデに苦労なんざしてねェんだよバカが!!」

 

 二人は同時にバレットに飛びかかる。迎撃しようとバギーに拳を向けたバレットだが、バラバラの実の能力によって回避した彼は背後に回り斬撃を繰り出す。しかしバレットの高度な武装色と覇王色の前にはかすり傷をつけるだけで精一杯だ。

 

「チッ⋯⋯!!」

 

「そんなもんか赤っ鼻!!」

 

「いや、いい囮だ⋯⋯!!」

 

「⋯⋯!!?」

 

 しかしバギーに気を取られたバレットの隙を突いてシャンクスが覇王色の覇気を纏わせた斬撃を放つ。それは巨人と化したバレットの身体の一部を破壊し、中にいる彼にも血反吐を吐かせた。

 

「ぐォォ⋯⋯!!」

 

「シャンクスてめェ!! おれ様を囮にしやがったな!?」

 

 バギーは囮に使われたことが不満ではあるが、それ程の相手だというのは理解しているので文句を言うだけで留め、掴みかかったりはしない。そしてシャンクスは依然武器を構え、バレットの攻撃にいつでも対応出来るようにしていた。

 

「いいぞお前ら⋯⋯だがまだ足りねェ!! 鍛えあげられた本物の強さってのを見せてやる!!」

 

 だがこれでも有効打にはならない。二人は再び気を引き締め、かつて同じ船で過ごした男との決戦に身を投じた。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

「大丈夫か? ルフィ⋯⋯」

 

「平気だ!! ⋯⋯ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」

 

 隣を並走するルフィに声をかけるサボ。本人は大丈夫だと言うが、息は乱れ身体中がボロボロになっている。インペルダウンからここまで戦い通し、更にここはサボやヤマトでも生き残れるかわからない過酷な戦場だ。ちっぽけなルーキー一人、いつ吹いて飛ばされてもおかしくない。

 

「海軍は海賊達の相手で手一杯のようね。その分処刑台の守りは薄くなってる⋯⋯今がチャンスよ、麦わらボーイ!!」

 

「だが白ひげのオヤジさん達も狙われて動けんようじゃ⋯⋯!! わしらで何とかエースさんを救出しなければ⋯⋯!!」

 

 エース救出の為にやってきた白ひげ海賊団だが、途中から乗り込んできた海賊達によって足止めをくらっていた。当然海軍の相手もしなければならない。五皇の一角とはいえ容易にそれらを突破することは出来ないだろう。

 

「うわァァ〜〜!!?」

 

「コイツら!? まさか!?」

 

「そこをどけい!! ヒヨっ子共めが!!」

 

「⋯⋯!!?」

 

 その時、一行に向かって突進してくる老人の姿をルフィは見た。老いてはいるが身体はルフィの倍以上の大きさ。数百万人に一人の覇王色の覇気で周りの海兵や海賊を蹴散らしてやってくる老人の名を、どうやらルフィ以外の全員が知っていたようだ。

 

「“ 頭領(ドン)チンジャオ”か!?」

 

「かつてあのガープと渡り合ったっていう伝説の海賊じゃない!! あちしらになんの用よう!?」

 

「待て逃がさんぞ!! “麦わらのルフィ”!!」

 

「おれェェ!? 誰だおっさん!? お前なんて知らねェぞ!!」

 

「言い訳無用!! くたばれガープの孫!!」

 

 武装色の覇気を纏わせた頭突きをルフィの立つ地面目掛けて繰り出すのは花ノ国のチンジャオ。知らぬ者の方が少ないであろう西の海(ウエストブルー)のギャングだ。彼の頭突きを既のところでかわしたルフィ達は、元いた場所に出来たクレーターを見てその威力の強力さを知った。

 

「流石ガープの孫、身のこなしだけは中々だ」

 

「何だおっさん!? いきなり攻撃してきやがって!!」

 

「ひやホホホ⋯⋯お主の祖父、ガープには昔殺されかけてな。孫の代まで恨むと決めているのだ」

 

「だったらじいちゃん狙えよ!! そこにいるだろ!!」

 

 理不尽な言いがかりをつけられ、ルフィは青キジと共にカイドウと戦うガープの方を指さした。祖父が憎いのなら自分ではなく祖父を狙えという至極真っ当な訴えだ。

 

「無論奴には積年の恨みを晴らさせてもらうが⋯⋯まずは孫である己の首を取って見せしめにするのだ!! 自分の行いのせいで孫が殺されたと思い知らせる為にな!!」

 

「ふざけんな!! おれはエースを助けなきゃいけないんだ!!」

 

 睨み合う両者。ルフィは拳を構え強気な態度をとっているが、チンジャオの強さは十分見抜いており冷や汗を流す。周囲にいるジンベエやサボ、ヤマトにボンクレーもいつ襲いかかってきてもいいように構えている。

 

「ジジイ⋯⋯!! “麦わら”はともかくあの面子を一人で相手するのは無茶やい!!」

 

 後ろからは八宝水軍のサイやブーがチンジャオを追いかけてくる。いくら彼でも七武海や五皇幹部をまとめて相手にするのは無茶だ。故に祖父に加勢しようと武器を持ち勇ましく吠えるが、横から突如現れた鋭い牙に削られてしまった。

 

「⋯⋯てめェ⋯⋯!!?」

 

「どけ雑魚共!! 麦わらに用があるのはおれだァ!!」

 

 乱入してきたのはマスクを被った巨大な化け猫。周囲にも似たような被り物をした男女の集団がおり、巨大な猫を囲っていた。

 

「百獣海賊団のフーズ・フー!! てめェよくもウチの兄貴を!!」

 

「ハハハ⋯⋯確か八宝水軍のブーだったか? 敵討ちなら後にしろ。今おれは忙しいんだ」

 

 五皇百獣海賊団の幹部、飛び六胞の一角であるフーズ・フー。彼の攻撃を受けうずくまる兄に手を貸しながらもブーが彼を睨みつけるが、フーズ・フーはそれを軽く流した。そしてこの場に来た目的の男に目を移した。

 

「おれはお前に用があるんだよ。“麦わらのルフィ”⋯⋯!!」

 

「はァ!? 何だお前!! 知らねェぞお前みたいなデカ猫!!」

 

「だろうな⋯⋯だがお前のそのゴムゴムの実の能力⋯⋯!! そして麦わら帽子⋯⋯!! “赤髪のシャンクス”から受け継いだ物だそうじゃねェか。奴には深い恨みがあってな!!」

 

「化け猫めが、我が孫を手にかけおって!! この小僧に恨みがあるのは私だ!! 引っ込んでいろ若造が!!」

 

「どっちもおれの知ったこっちゃねェやつだろ!! いい加減にしろお前ら!!」

 

 横から獲物を奪わんとするフーズ・フーに怒鳴るチンジャオ。そして理不尽すぎる因縁をつけられ反論するルフィ。三者は数秒睨み合ったが、すぐにその均衡は崩れ去った。

 

「死ね麦わらァ!! (ソル)!!! 

 

「この技⋯⋯!! 能力もだけどCP9のハトの奴みたいだな!!」

 

「ハハハ!! ロブ・ルッチのことか!! そりゃそうだ、おれも元は奴と同じCP9所属だったんだよ!! だがたった一度のミスでおれは立場を追われ投獄された!! 奴が築き上げたキャリアは本来おれのものだ!!」

 

 高速で動き、ルフィの視界から消えたフーズ・フー。それを見てルフィはかつて戦った政府の諜報機関、CP9を思い出した。特にルフィと戦ったロブ・ルッチはフーズ・フーと同じネコ科の能力者であり、戦い方も似ている。

 

牙銃(ガガン)!!!」

 

「⋯⋯!!」

 

「危ない、ルフィ!!」

 

 フーズ・フーがルフィに向けて飛ばした牙の斬撃をヤマトが金棒で弾いた。弾かれた斬撃は他で戦っていた海兵に直撃し、その肉体を抉り尽くす。当たっていればルフィといえど一溜りもないだろう。

 

「危ねェ⋯⋯!! ありがとう、ヤマ男!!」

 

「いいんだ。それよりルフィは先に!!」

 

 フーズ・フーの行く手を遮り、ヤマトはルフィに先に行くように促した。見聞色の覇気の使い手である彼女はルフィがフーズ・フーに勝つのは不可能だと理解していた。それを口にすることは無いが、ルフィを生かすためにも因縁深い父の部下と対峙する。

 

「直接会うのは初めてだなヤマト坊ちゃん。聞いてるぜ、随分手のかかるバカ息子だってな。お前をひっ捕らえりゃいい手柄になりそうだ」

 

「あの男との縁はとっくの昔に切れてる!! 僕はバギー海賊団のヤマト、そして光月おでんだ!!」

 

「ハハハ!! 噂通りのイカレようだな!!」

 

 フーズ・フーの牙とヤマトの金棒が激突する。百獣海賊団関連で互いに認識はしていたが、ここに来ての正面衝突だ。そしてヤマトの協力により先に進んだルフィの前には、やはりあの男が立ち塞がった。

 

「待て!! 行かさんぞガープの孫ォ!!」

 

「しつけェなおっさん!! なんでじいちゃんもシャンクスもここにいるのにおれを狙うんだよお前ら!!」

 

「己の身の程を知るというのも経験なのだ小僧!! あの猫男は“赤髪のシャンクス”には勝てぬということを理解しているのだろう。復讐というのは何も本人を狙うばかりではない。愛する者の首を目の前に突き出すのもまた心に深い傷を与えるのだ!!」

 

 チンジャオの言葉は長年ギャングとして活動した経験則に基づくもの。認めたくはないが今の老いぼれた自分とガープでは昔よりも実力に開きがあるだろう。故にルフィを狙うのだが、そんな自分が情けないことなどとうに気づいている。

 

「ルフィ君!! わしも加勢しよう!! 手ごわい相手じゃがこんなところで立ち止まってはおれん!!」

 

「おう!!」

 

 しかしルフィ達にも止まっていられぬ理由がある。たとえ目の前の伝説の海賊がどれだけ強かろうが、尻込みしている時間などないのだ。

 

無錐龍無錐釘(むきりゅうむきりくぎ)ィ!!!」

 

魚人空手奥義(ぎょじんからておうぎ)⋯⋯無頼貫(ぶらいかん)!!!」

 

「ゴムゴムの〜〜 巨人の銃(ギガント・ピストル)!!!」

 

 チンジャオの頭突き、それに対抗してルフィとジンベエの拳が激突する。その衝撃は周囲の地面を歪ませ、覇王色の覇気で弱い者は意識を失い倒れていく。拮抗すると思われた対決、それは意外な形で幕を閉じた。

 

べコン!!! 

 

 なんと嫌な音がしたと思うとチンジャオの凹んでいた頭がルフィとジンベエの拳によって逆に元の形に戻ってしまったのだ。意識を失ったチンジャオは地面に倒れるが、戻った頭が地面を割り中へと彼は沈んでいった。

 

『ジジイ〜〜〜〜!!?』

 

 サイとブーはもちろん、その部下達も目玉を飛び出させて驚く。そして彼を救出しようと一目散に彼が落ちていった亀裂へと飛び降りて行った。

 

「へへ、いらねェ心配だったか」

 

 ルフィに何かあった時の為にいつでも動けるように備えていたサボだが、どうやらその心配は無用だったようだ。武器としている鉄パイプをしまい、サボはルフィやジンベエと共にエースの元へと急ぐ。

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 

 

 海軍本部、そして世界政府にとって今回の事件は想定外だ。白ひげ海賊団との戦争の場に他の海賊、特にカイドウやビッグ・マムが乗り込んでくる可能性があることくらい承知の上。故に厳重な監視体制をとり、いくつもの監視船を派遣した。しかし現実はこのザマだ。もはや四の五の言っている場合ではなかった、世界政府の持てる全ての戦力を使って海賊達を止め、本来の目的であるエース処刑を敢行するのだ。

 

「聞いていると思うがマリンフォードはまさに死地だ。仮に五皇の誰かがラフテルへの永久指針(エターナルポース)を手に入れることがあれば我々の立場すら危うい。理解してくれるかね?」

 

「⋯⋯それを阻止するために我々にゴミ共の掃除を依頼するのだろう? 五老星ともあろう者がいつになく必死だな」

 

 世界政府の最高権力者、五老星のいる権力の間にて彼らの指令を受ける一人の男。かつてゴッドバレーで活躍した神の騎士団のトップ、フィガーランド・ガーリング聖。その実力、立場共に公には知られていない天竜人の懐刀だ。

 

「出し惜しみをしている場合ではないな⋯⋯セラフィムの投入は予定通りとはいえ、世間の目に晒すのは些か早すぎたか」

 

「だが何も手を打たなければ次の海賊王が誕生してしまうやもしれん⋯⋯!! それだけは何としても避けなければ⋯⋯!!」

 

「ああ⋯⋯もはや海賊同士潰し合ってくれるだろうなどと甘い考えは捨てるべきだ⋯⋯ここから先は、我々ですら予想もできん」

 

 世界政府としては海賊達で戦い共倒れになってくれるのが理想的なのだがそんなものは理想論だ。現実的でないことを願っている暇などない。彼らが重苦しい空気で話し合いを続けている中、戦場はまた変化を見せていた。

 

「お、おい何だあれ!?」

 

「七武海のくま⋯⋯!? なんで同じ人間がたくさんいるんだよ!?」

 

「それにあれは⋯⋯子供⋯⋯!!?」

 

「ありゃあ⋯⋯まさか!?」

 

 氷漬けの大地の上で戦う海賊達の間にどよめきが広がる。その理由は二つあり、一つは後方から現れた大量のパシフィスタに対する驚きだ。バーソロミュー・くまの姿をした人間が大量にいる、姿形はまるっきりそのままだ。そしてその強さも、本人には及ばないものの強力だ。五皇の海賊団でも下っ端では束になっても敵わない。

 ──そしてもう一つの理由は。

 

「⋯⋯あ、れは!?」

 

「お〜あれが噂のセラフィムかい。しかし海賊を元に作るなんて悪趣味だね〜」

 

「⋯⋯!! どういうこと!?」

 

 黄猿と激闘を繰り広げていたルナリア。彼女は現れた二人の子供を見て目を丸くした。何故なら彼らの見た目は褐色肌に白髪、黒い翼にそして背中に燃え盛る炎。明らかにルナーリア族の特徴だ。そして何より片方の子供は、他ならぬミズキにそっくりだったのだ。

 

「PX⋯⋯あれもミズキお兄様が言っていたパシフィスタ⋯⋯ということですか」

 

 バーソロミュー・くまを元に作られた人間兵器の存在はミズキから聞いていたが、しかしルナーリア族まで再現しているとはルナリアも予想すらしていなかった。そして何より、あの兵器の存在はルナリアの逆鱗に触れた。

 

「⋯⋯我々にとっては⋯⋯最大の侮辱ですね」

 

「海賊に配慮なんていらんでしょうよ。どのみち本物の“宵魔女”もルナーリア族もここで死ぬんだからね〜」

 

 黄猿の攻撃をかわしながらもルナリアは心の内で憎悪の炎を燃え上がらせた。仲間達を皆殺しにした世界政府は憎むべき存在であり、そして今度はその政府に仲間の力を利用されているのだ。しかし今はミズキから黄猿を任されている身。ここで大将一人を放置すればどうなるか、簡単に見当がつく。

 

「こいつ⋯⋯この姿形、まるでお嬢じゃねェか!?」

 

「デケェ⋯⋯!!? 本物の倍以上はあるぞ!?」

 

 ルナリアが黄猿と戦いながらも意識を向けているセラフィムを見たバギー海賊団の部下達は、その姿がミズキとそっくりであることと本物とのサイズの違いに驚いた。

 

「行け、S-ウィッチ!! S-タイガー!! 遠慮はいらねェ、海賊は全員根絶やしにしろ!!」

 

『了解』

 

「ぎゃあァァァ〜〜〜!!!?」

 

 戦桃丸の指令の下、二人のセラフィムが暴れ出した。ミズキにそっくりなS-ウィッチはバギー海賊団やビッグ・マム海賊団の戦っている湾内左側に、そしてもう一体は百獣海賊団や赤髪海賊団のいる湾内右側を中心に攻める。

 

ガト〜〜〜!!! 

 

「⋯⋯!! まさか⋯⋯!!?」

 

死光羅(ショコラ)!!! 

 

「あぢィィ⋯⋯!!」

 

「この能力⋯⋯まじでお嬢じゃねェか!!」

 

 セラフィムが放った光線は本物のミズキのそれと威力は遜色ない。広範囲に渡って爆発した光線は主にバギー海賊団に壊滅的な被害を与えた。

 

「クソ⋯⋯!! こっちも反撃を⋯⋯!!」

 

「だがあのガキ見た目は完全にお嬢だぞ!!」

 

「本物はあそこにいるだろうが!! ありゃあ政府の作りやがった偽物だ!!」

 

 見た目がミズキであるため、彼を尊敬するバギー海賊団の面々はおいそれと攻撃が出来ない。加えてビッグ・マム海賊団との戦闘である程度戦力も削られていた。

 

「馬鹿共が⋯⋯どれだけ見た目を似せようが所詮作りもんだろうがよ」

 

「⋯⋯!! シリュウさん!!」

 

 セラフィムの猛攻を止め、S-ウィッチの攻撃を刀で受け止めたシリュウ。葉巻をふかしながらも、冷静に目の前の偽物の力を見極める。

 

「⋯⋯ミズキの力にルナーリア族の特徴か。仮にアイツらの能力を全て引き出せているとしたら⋯⋯おれに勝ち目はねェな」

 

 ミズキの能力の全て、仮に覚醒の力を引き出してルナーリア族の耐久力があるならばシリュウに勝ち目はない。というかその場合全盛期のロジャーや白ひげでも勝てるか怪しいのだが。

 

 そしてもう一方、S-タイガーは百獣海賊団や赤髪海賊団相手に大暴れをしていた。

 

「ムハハハハ!! ベガパンクの野郎こんなもんを作ってやがったのか!! なァ、キング!!」

 

「⋯⋯黙れ能無し」

 

 ルナーリア族の特徴を持つセラフィムを見て、クイーンはあえてキングに話を振った。彼の推測では、セラフィムの能力の大元はかつてパンクハザードで捕まっていたキングの血統因子だ。つまりキングにとっては自身の力を世界政府に利用された形になる。彼の出自も含め、少なくともいい気分ではないだろう。

 

「おいベック!! あのガキ撃っても刺してもピクリともしねェぞ!! どうする!!?」

 

「慌てんな、おれ達はお頭の戦いを邪魔させなきゃいい。深追いはせずに被害は最小限にとどめろ」

 

 ビームを発射し、暴れるS-タイガー。ルナーリア族の特徴を持つセラフィムを倒すのは不可能に近い。少なくともこの戦場でそこにそこまでの戦力を注ぐ余力はない。故に被害を最小限に抑え、百獣海賊団や海軍、パシフィスタを食い止めるのに専念するのだ。

 

「お前ら、ここは任せるぞ。おれはカイドウさんのところへ────⋯⋯!!?」

 

「行かせねェよ、“火災のキング”」

 

「ベン・ベックマン⋯⋯鬱陶しいな」

 

 百獣海賊団と赤髪海賊団、そこに乱入したセラフィム。その戦闘を見た者はあまりの激しさに顔を青くする。そんな中ジンベエだけはS-タイガーを見て目を見開いて信じられないようなものを見た顔をした。

 

「おいジンベエ⋯⋯!!」

 

「どうしたのよう!? いきなり立ち止まって!?」

 

「⋯⋯まさか!!」

 

 S-タイガーの外見。それは子どもの姿ではあるがジンベエの兄貴分にそっくりだった。タイヨウの海賊団船長、奴隷解放の英雄フィッシャー・タイガー。彼とS-タイガーの見た目は瓜二つ、それらから察せないほどジンベエは馬鹿ではない。

 

「タイの⋯⋯お頭」

 

 見た目は子供だろうとジンベエが間違えるはずもない。確かに亡くなった兄貴分の見た目、そしてPXという文字に今の状況。タイガーはかつて奴隷だったと本人から聞いたが、その時何かされたのか。ともかく、タイガーは死後も世界政府に利用されているのだ。これを許せるはずもない。

 

「あのパシフィスタ⋯⋯まさかフィッシャー・タイガーの!!?」

 

「タイガー? どっかで聞いたような⋯⋯?」

 

 奴隷解放の英雄としてタイガーを知っていたサボはセラフィムの姿に驚き、その名を聞いた気がするとルフィは頭を悩ませていた。つい一週間前にハンコックから聞いていたはずだが。

 

「ルフィ君⋯⋯サボさん⋯⋯オカマ君⋯⋯悪いが先に行っていてくれ」

 

「ジンベエ⋯⋯!!」

 

「お前⋯⋯いや、わかった⋯⋯!! エースはおれ達に任せてくれ⋯⋯!!」

 

 突然立ち止まったジンベエに驚く一同だが、サボは何かを察したのか深く頷きエースは任せろと意気込んだ。ルフィやボンクレーはジンベエの意図を飲み込めてはいないが、サボが言うならばと先に進んだ。

 そして残されたジンベエは氷漬けの海に向けて走り出した。タイガーの名誉を守るために。

 

 そして少し離れた広場の上空、ヘラに乗るビッグ・マムとミズキは互角の戦いを繰り広げていた。

 

「ハ〜ハハハ!! あれは世界政府の新兵器かい!! あっちはお前にそっくりだねェミズキ!! 白い髪に黒い肌、黒い翼に炎!! いいねェ⋯⋯あれが欲しい!!」

 

 セラフィムを見てルナーリア族を長年求めていたビッグ・マムは声高らかに喜んだ。しかしミズキはそれを気にもとめず逆にビッグ・マムの隙を突いて蹴りでの攻撃を加える。それを覇気でガードしたビッグ・マムは薄く笑い、力を上げてミズキを弾き返した。

 

「怒ってんのかい? ハ〜ハハハ!! そういやお前んとこのルナーリアの小娘はマリージョアに捕まってたって? 色々いじられたんだろうねェ」

 

「ちょっとイラついてるだけだよリンリン。別にボクの見た目を真似ることはいいんだどさ⋯⋯大事な部下(ルナリア)のことを馬鹿にされるのは許せないんだよね」

 

 目を鋭くビッグ・マムを睨みつけるミズキ。八つ当たりだと言われればそれまでだが、覇王色の覇気を撒き散らして威圧した。目の前のババアをとっとと殺してあの不愉快な兵器を破壊する、そのために短剣を持つ手にいっそうの力を込める。あのパシフィスタがルナリアの力を使用しているのか、それは確定ではないが可能性は高いだろう。それが不愉快極まりないのだ。

 

「とっととくたばってくれる? 今君に割いてる時間はないんだよ妖怪ババア!!」

 

「ハハハ⋯⋯じゃあおめェ⋯⋯やってみろよ⋯⋯!!」

 

 再び二人のぶつかり合いが始まり、天を割り大気を揺らす。間違いなくこの世でトップクラスの戦いだがそれでもマリンフォード頂上戦争、その激戦のほんの一部でしかなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。