転生男の娘は道化の海賊を王にする   作:マルメロ

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相棒盃

 

 空から降ってくる究極バレットの街よりも遥かに大きい拳。マリンフォードの広場だけではなく、氷の大地をも破壊する強力な一撃で多くの海賊、海兵が叩き潰された。

 

 

「が⋯⋯ァァ⋯⋯!!?」

 

「ふ⋯⋯負傷者を⋯⋯」

 

 

 特に広場にいた者達の被害は尋常ではなく、一部の実力者以外は殆ど全滅状態だ。拳をまともに受けた者はぐちゃぐちゃに潰れ、原型すら留めていない。衝撃で吹き飛ばされた者も数多く命を落としている。そんな惨状ならば、当然解放されたエースやその周りにいたルフィ達も例外ではない。吹き飛ばされ、かなりのダメージを負っているのを想像するのは難しくないだろう。

 

 

「おい、大丈夫かお前ら!!」

 

「ああ⋯⋯何とかな」

 

 

 しかし彼らは生き残っていた。周囲におびただしい数の死体が転がる中、サボは義兄弟達に声をかける。エースの返答に続き、ルフィやウタ、ボン・クレーも立ち上がった。それに安堵するサボだったがすぐに気づき、違和感を覚えた。あれだけの攻撃を正面から受けて、全員が無傷なことに。

 

 

「グ⋯⋯ッッ⋯⋯!!」

 

「⋯⋯ジジイ!!」

 

「じいちゃん!!」

 

 

 その理由はすぐにわかった。彼らの視線の先にはカイドウと戦っていたはずのガープが血濡れになり、フラフラと立っていた。ルフィ達を庇ってバレットの一撃をまともに受けたのだろう、いくら彼でもダメージは避けられなかったようだ。

 

 

「おいジジイ⋯⋯何でおれ達を⋯⋯!!」

 

「わしはお前らのじいちゃんじゃ⋯⋯祖父が孫を守るのは当然じゃろう⋯⋯!!」

 

「じいちゃん⋯⋯!!」

 

 

 まだ倒れる程ではないようだが、それでも立っているだけでも辛そうだ。血を吐き、骨も何本も折れているに違いない。

 

 

「サボ⋯⋯エースとルフィを連れて逃げろ。近くでカラス達の船が待っているはずじゃ⋯⋯!! イワンコフと合流して⋯⋯ぐッッ⋯⋯!!」

 

「⋯⋯ジジイはどうするんだ?」

 

「わしゃァクザンを見捨てて逃げる訳にゃいかん。早く戻らなければ⋯⋯!!」

 

 

 止めるサボの制止を振り切り、身体を動かしカイドウと戦うクザンの元へと戻ろうとする。しかしこんなボロボロの状態でカイドウと戦うのが難しいことなど誰でもわかる。

 

 

「やめろ!! そんなボロボロの状態で何ができるんだよ!!」

 

 

 フラフラと歩みを進めるガープに肩を貸し、サボは戦局を見渡した。先程のバレットの一撃で、特に海軍は甚大な被害を受けたようだ。広場にいた少将以下はほとんど全滅、中将にも死者が出始めている。一方海賊側も殺し合いにより数を減らしている。しかしカイドウやビッグ・マム、ワールドらは未だ健在だ。クザンやミズキが足止めをしているもののいつまで持つかはわからない。白ひげ海賊団はエースが解放されたことにより、撤退の準備を進めているようだ。赤髪と千両道化の同盟もこの状況でどう動くかはわからない。

 

 

「バギー座長ォォ!!?」

 

「嘘だろ……おれ達のキャプテン・バギーが!?」

 

 

 バレットの島を砕く一撃で地面の奥底まで叩きつけられたバギー。まさか自分達の敬愛するキャプテンが負けると思ってもみなかったバギー海賊団にとってこれ程動揺させる出来事もない。誰もが戦いの手を止め、バギーの敗北に驚き彼の安否を案ずる声を上げる。

 

 

「おいおい、もうくたばったのか? 案外根性がないな……ペロリン」

 

「バギー座長……!」

 

 

 ビッグ・マムの長男、ペロスペローがバギーの敗北を嘲笑う。そして彼と戦っていたカバジは動揺し剣技を繰り出していた手を止めた。その隙を、ペロスペローが見逃すはずもない。

 

 

「ククク……油断大敵だ」

 

「しまった……!!」

 

 

 両手を飴でがっちり固められ、動かすことも出来ない。完全に身動きが取れないカバジに、ペロスペローは容赦なく飴で作り上げた弓を向けてくる。

 

 

「安心しろ、お仲間もすぐに同じ場所に来るだろうさ……ペロリン♪」

 

 

 そしてまた別の場所でも、バレットの攻撃とバギーの敗北による影響が出ていた。特にバギーに信頼を寄せているはずの副座長ミズキ、彼はバギーがバレットの拳に叩きのめされたのを見て目を見開いていた。

 

 

「ハ〜ハハハ!! おれ相手によそ見してる余裕があんのかい!?」

 

「……!?」

 

 一瞬の隙を逃さないビッグ・マム。彼女の斬撃をミズキは間一髪で回避した。しかし海賊団のトップが敗北した事実は部下達、そしてミズキに動揺を与えるのは間違いない。

 

 

「赤っ鼻が死んでショックかい? ハハハ……案外脆いもんだねェ」

 

「……バギーが死んだ? 冗談言わないでよ、バギーの悪運の強さはボクが一番知ってんるだから……!」

 

「ほォ……随分な信頼……いや、忠誠心ってやつか。ご立派なモンだねぇ!」

 

 

 ビッグ・マムの武器、ナポレオンが再びミズキに襲いかかる。しかし彼はそれを避けることはせず、正面から受け止めて見せた。武装色の覇気を纏っているとはいえビッグ・マムの全力の一撃、少なくないダメージがミズキを襲うが血反吐を吐きながらもそれを耐えたのだ。

 

 

「わかったような口利くなよクソババア。ボクとバギーの間に忠誠心なんてある訳ないでしょ」

 

「……!? そうかい、まァお前らの関係なんてどうでもいいさ。どのみちここで死ぬんだからねェ!」

 

 

 ミズキとビッグ・マムの戦いがより一層激しさを増した。バギーは生きている、死ぬはずがない。そう信じて疑わないミズキは今自分がするべきことを再認識した。ビッグ・マムを放置すれば必ずバレットの持つラフテルへの永久指針(エターナル・ポーズ)を奪いに行くだろう。バギーの戦いの邪魔をさせない、それが今やるべき事だと。

 

 

「野郎共今がチャンスだ!! バギー海賊団をぶっ潰せ!! ムハハハハ!!」

 

「了解ですクイーン様!」

 

「悲しんでる暇はねぇぞお前ら!」

 

 

 バギー・赤髪の海賊同盟と百獣・ビッグ・マムの同盟はほとんど互角だったが、バギー海賊団の動揺が均衡を破る材料となる。いち早くそれを判断した疫災のクイーンが部下と共にバギー海賊団へと進行を開始した。

 

 

「チッ……! あの野郎、負けやがって」

 

「とにかく今は凌ぐしかないね……!」

 

 

 ビッグ・マム海賊団の将星クラッカーと戦っているシリュウ、そして同じく将星スムージーと戦っているギオン。二人の大幹部が止められている現状に、更に百獣海賊団のクイーンが追い打ちをかけてくる。バギーの敗北が部下達の動きを鈍らせている、戦況は悪いと言わざるを得ないだろう。

 

 

「バギー……!」

 

「死んだか“千両道化”……! そりゃあいい、カイドウさんの邪魔者が一人減ったんだからなァ!」

 

 

 そしてフーズ・フーの足止めをしていたヤマトもバギーの敗北に動揺していた。長年共に海賊として活動したのだ、情はあるし心配もする

 

 

「ああ……力を温存してる場合じゃなさそうだ」

 

「あ?」

 

雷鳴八卦(らいめいはっけ)!!!」

 

「……!! ガバァッッ!!」

 

 

 一瞬だった。ヤマトの金棒がフーズ・フーを捉え、一撃で彼を葬ってしまった。今や五皇の大幹部であるヤマト、同じく幹部とはいえ大看板の下に位置するフーズ・フー程度では勝てる相手ではなかったのだ。

 

 

「……どうする、バギーの安否も気になるしエース達の方も……。……!!?」

 

 

 ヤマトがこれからの動きを考えていた時、奇妙な地響きが彼女の立っている地面を襲った。いや、そこだけではない。マリンフォード全体が大きな揺れに襲われているのだ。

 

 

「……!!? 何だこの揺れは!?」

 

「まさか……また白ひげの津波!!」

 

 

 再び白ひげの地震、そしてそれに起因する津波を疑う海兵達。しかしこの揺れは白ひげが起こしたものではなかった。海賊も海兵も一様に周囲を見渡すと、ある異変に気づいた。水平線が沈んでいる……いや、マリンフォードの島が浮かんでいるのだ。

 

 

「……! 島が浮かんで……どうなってる!?」

 

「誰の能力だ!?」

 

「……やはり何か企んでいやがったか」

 

 

 混乱する戦場、その中で白ひげは冷静に島を浮かべている男を睨みつける。島丸ごと中に浮かすなどという離れ業、可能なのは一人しかいない。

 

 

「ジハハハハ!! さァ、第2ラウンドといこうじゃねぇか!」

 

 

 空を飛び、高笑いする金獅子のシキ。何を企んでいるかはわからないが、自由にさせてはならないのは確かだ。

 

 

「させんぞ! 金獅子!」

 

「おっと……! 随分な慌てようじゃねェかセンゴク」

 

 

 金獅子の企みを防ごうと大仏の姿に変身し、攻撃を仕掛けるセンゴク。多数の乱入者が現れ、更にエースが解放され、公開処刑という当初の目的が破綻した今元帥だからと後方に立っている場合ではない。大将を筆頭に部下達は海賊の相手で手一杯。出し惜しみなどしている場合ではないのだ。

 

 

「何を企んでいるは知らんが、このマリンフォードで再び貴様を叩きのめしてくれる!」

 

「ジハハハハ! あの時は世話になったな! 借りはきっちり返させてもらうぜ!」

 

 

 既に島は上空何十mというところまで上昇していた。逃げるには海へ飛び込むしかない。エース解放という目的を果たした白ひげ海賊団は特に撤退の準備を始めていた。しかしそれを許さない男がいた。

 

 

 

「これからが本番だ、誰一人として逃がさんぞ」

 

「……! 瓦礫が壁のように!?」

 

 

 シャンクスと戦闘を繰り広げていたバレット。彼の覚醒した能力により破壊された街の瓦礫、軍艦の残骸、そして大地までもがマリンフォードの島を囲う壁となってしまった。これでは逃げようにも脱出するためのルートがない。

 

 

「金獅子と組んでいたのか……バレット!」

 

「カハハハハ! この一瞬だけ利害が一致した、それだけの事だ! 貴様もそろそろくたばれ、赤髪!」

 

 

 シャンクスの剣とバレットの巨大な拳が激突する。もう何度目かもわからない覇王色のぶつかり合い、既に彼らの周囲は更地となっている。それだけ激しい戦いなのだ。

 

 

「思っていたより事態は深刻じゃ……! せめてルフィだけでもここから逃がさねば……!」

 

 

 そう言って戦場をひた走るのは七武海のボア・ハンコック。本来世界政府側の人間である彼女だが、海賊も海兵も関係なしに蹴り飛ばしながら進んでいた。全ては想い人を救うために。

 

 

「ボア・ハンコック! てめェ海兵にまで手ェ出しやがって、なんのつもりだ!」

 

「黙れ! わらわは必ず“麦わらのルフィ”とその兄を捕らえねばならぬのじゃ!」

 

「っ……! これだから七武海は信用ならねェ……!」

 

 

 そんな彼女の蛮行に憤り、進路を塞いだのは本部准将のスモーカー。アラバスタでのクロコダイルの暗躍をまじかに見た彼にとって七武海の勝手な行動は到底許せるものではなかったのだ。

 

 

「道を開けよ無礼者! わらわの邪魔をするならばそなたも石にして蹴り殺してくれる!」

 

「そんな勝手な意見が通ると思ってるのか……!」

 

 

 今にも戦いが始まりそうな険悪な雰囲気、だがその空気は一瞬で一変することになった。スモーカーが身体を煙に変えハンコックに向かっていこうとしたその時──

 

 

「楽しそうだね……私も混ぜてくれよ!」

 

「な……!?」

 

「……!! ガッッ……!!」

 

 

 空から降ってきたひとつの影、スモーカーの前に立ったその少女は巨大な鎌でスモーカーの胸を貫いてしまった。刃を引き抜かれるとスモーカーは大量の血を吐きその場に倒れた。

 

 

「スモーカー准将……!!」

 

「あいつは……七武海の!?」

 

 

 スモーカーをあっさり殺してしまった黒いフードを被った白髪の少女。どこか不気味な雰囲気を放つ彼女はハンコックを見ると口元を緩ませた。

 

 

「“麦わらのルフィ”をここから逃がすつもりだね? ……そうはさせないよ、ボア・ハンコック」

 

「……!? そなたは確か“月詠のカレン”じゃな。何を勘違いしているかは知らぬが、全くの見当違いじゃ」

 

「まァ……そう言うしかないだろうね。だけどここからが祭りの本番なんだ、ぜひ彼にも参加して欲しい。そもそも一人も逃がすつもりもないしね」

 

「……!? 妙な口ぶりじゃな、そなたまさか」

 

「しっ……まだ黙っていてくれよ、楽しいのはここからなんだからね」

 

 

 人差し指を口に当て、そう忠告するカレン。彼女の発言から、今回の騒動に彼女が関わっているのは想像できる。そこも気になるが、今はルフィを逃がすのが最優先だ。故にハンコックは足を覇気を込めカレンに蹴りかかろうとした。

 

 

「……!? この揺れは……」

 

「あは♪ 始まったようだね」

 

 

 マリンフォード全体が激しく揺れている。シキの能力により浮かび上がった島は既に自力での脱出は困難な程の高度に到達していた。何とか阻止しようと主に海兵達は動いているが、他の海賊の相手で手一杯な上シキが空を飛び回っていることで狙いにくい。故に彼を止めることが出来ずにいた。

 

 

「……なんじゃ、あれは!?」

 

 

 その時、ハンコックの身体を巨大な影が包んだ。彼女だけでなく、戦場全体を丸ごと包んでしまうかのような大きさの影。それを生み出しているのはマリンフォードのように空を飛んでいる島々だった。

 

 

「ジハハハハ!! こんな狭ェ場所じゃやりにくいだろ!! お前らの死に場所を作ってやるぜ!!」

 

「まさか……島を丸ごと浮かせるなんて!?」

 

「なんという能力……!」

 

 

 戦場に覆い被さるかのように現れた島々に海賊や海兵は圧倒されていた。シキが何をするつもりかはわからないが、事態は一刻を争う。センゴクがシキに向けて衝撃波を放つが空中を自在に飛びまわるシキには中々当たらない。

 

 

「くッ……!!」

 

「そう慌てるなセンゴク! いいものを見せてやるからよォ!」

 

「何をするつもりだ貴様ァ!」

 

 

 シキが指を立て、そしてゆっくりと下ろした。すると空を飛んでいたいくつもの島々が急降下を始めた。直撃すればマリンフォードは壊滅、そして海に叩きつけられ戦場にいる者は生きてはいられない。

 

 

「島が降ってくる……!?」

 

「た……退避! 退避しろ!」

 

「し、しかし……! どこに逃げ場が!!?」

 

 

 海兵達の言う通り、逃げ場などどこにもない。マリンフォード全体を覆い尽くす程の島が降ってきているのだ、建物の中に避難すればいいなどという次元ではまるでないのだ。しかし彼らの心配は一瞬だけ杞憂に終わる。

 

 

「カハハハハ!! まだ食い足りねェだろう!! オレの能力の真髄を見せてくれる!!」

 

 

 バレットの巨大な拳が落下してくる島々を捉えた。すると島がみるみる流動化していき、マリンフォードの大地と合体していく。そしてバレットのいる位置を中心に、巨大な爆発が起こった。

 

 

「……!?」

 

「このマリンフォードじゃ海賊王を決める戦いの場には相応しくねェ!! 更にデカく、頑丈なスタジアムを用意してやる!!」

 

 

 シキの用意した島をバレットの能力でマリンフォードに融合させていく。流動した地面に流され、あるいは爆発に巻き込まれ戦場である程度纏まっていた各勢力はバラバラに分散されていった。一定以上の実力者の中にはそれを回避する者もいたが、戦いは中断されてしまった。

 

 

「面白ェ! てめェの作戦にまんまと乗ってやろうじゃねェか!!」

 

「……!!?」

 

 

 龍に姿を変えたカイドウが空へと飛び立つ。マリンフォードの変化を待ってやろうというのだ。それは他の大物海賊達も同じ意見のようだ。

 

 

「ハ〜ハハハ!! 楽しいことを考えるねェ……! 邪魔すんじゃねェよ? ミズキ」

 

「別に邪魔する気はないけど……寿命が早まるだけだと思うよリンリン!」

 

 

 そして依然ミズキと激闘を繰り広げているビッグ・マムもカイドウと同じような反応を見せていた。ラフテルへの道標は必ずいただくし、邪魔者も全てこの場で排除する、その目的に何ら支障はない。

 

 

「おんどれ……これ以上好き勝手はさせん!!」

 

「無粋な真似はやめておけ、海軍大将赤犬」

 

「……パトリック・レッドフィールド!!」

 

 

 バレットを攻撃しようとした赤犬を止めたのは赤の伯爵、レッドフィールド。彼もまた、シキとバレットの生み出そうとしている戦場に興味があった。彼の目的を果たすためにも、都合がいい。

 

 

「我の悲願を果たすため……奴の作り出す状況は好都合。暫し足止めさせてもらおうか」

 

「海賊風情が……いつまで調子に乗っちょるんじゃ!!」

 

 

 赤犬のマグマの拳、それを武装色の覇気を纏わせた傘で防ぐ。しかし全てをカバーすることは出来ず、レッドフィールドは僅かに後退した。全盛期の彼なら赤犬とも真正面からやり合えた。しかし歳をとった今となっては正面衝突は不利だ、その事実に彼は憤る。

 

 

「我も衰えたものだ……嘆かわしい……!」

 

「だったら地獄の底で永久に隠居しとらんかい!!」

 

 

 赤犬とレッドフィールドのぶつかり合いが激しさを増した頃、マリンフォードは完全に遥か上空へと到達し、更にはシキの振り下ろした冬島、秋島、夏島、春島と融合することによりまるで別の場所へと変貌を遂げていた。広さは元の5倍以上海軍本部を中心に四季が入り乱れる魔境へとその姿を変えてしまったのだ。

 

 

「うわ……地面が……!?」

 

「エース……! ルフィ……!」

 

 

 地面の隆起と合体時の激しい衝撃によりルフィ達はバラバラの場所へと飛ばされてしまった。彼らだけではない、各勢力が完全に分離されてしまったのだ。

 

 

「クソ……全員回収するのは無理だよい!」

 

「マルコ! こうなっては“金獅子”とバレットを叩くしかないぞ!」

 

「ああ、そうらしいな!」

 

 

 仲間達を救い出していたマルコだが人数が人数、全員を助けることはできない。エースを解放した今、白ひげ海賊団がここに留まる理由はない。ビスタの言う通り、一刻も早くシキとバレットを討伐し、逃げ道を確保するしかないのだ。

 

 

「ぐ……!? なんだ、どうなったんだ!?」

 

「大丈夫かルフィ!?」

 

「エース! ……どこだここ?」

 

「わからねェ……バレットの野郎、無茶苦茶しやがる。島と島を合体させるなんて正気の沙汰じゃねェぜ」

 

 

 吹っ飛ばされたルフィとエースが落下したのは周囲を深い森に囲まれた場所だった。気候から考えてどうやら秋島のようだが、マリンフォード全体がもはや別の島と化しているため現在地がどこかすらわからない。

 

 

「サボもウタもオカマもいねぇ……バラバラになっちまったらしい」

 

「う〜ん……木の上からなら何か見えるか?」

 

「やめとけ、どこにヤベェ敵がいるかわからねェ。海兵も海賊も、周りは敵だらけと思った方がいい」

 

 

 これからの行動指針を決めていたその時だ、茂みの向こうから誰かが歩いてきた。褐色肌に白髪、そして黒い翼に背中の炎。そしてルフィとエースには見覚えがある顔、ミズキにそっくりな少年が彼らの前に立ちはだかった。

 

 

「……ミズキ? じゃねぇ……」

 

「……!? ルフィ!!」

 

 

 その少年はルフィ達を見るなり手の平からビームを放った。間一髪のところでエースがルフィを抱えて回避したが、着弾したビームは周囲の木々を燃やし尽くしてしまった。当たっていたら一溜りもないだろう。

 

 

「クソ……いきなりぶっぱなしてきやがった!」

 

「なんなんだアイツ!?」

 

 

 いきなりビームを放ってきたミズキ似の少年に二人は危機感を覚える。明らかに敵対的だ、少なくとも仲良くしようとは思っていないだろう。

 

 

「グルルルル……!!」

 

「ガッッ……!!」

 

「なんだコイツら!?」

 

 

 更に彼らの背後から巨大な動物達が襲いかかってきた。ライオン、ゴリラ、ワニ等明らかに凶暴な猛獣、しかもどういう訳か恐竜と間違えるくらい巨大なサイズをしているのだ。

 

 

「ガオォォォ!!」

 

「んにゃろ……ゴムゴムのJET(ピストル)!!!」

 

「……ガァルル……!! ガァァァ!!」

 

 

 ルフィの攻撃が巨大なライオンの頬を襲う。しかしダメージはあるようだが倒し切れていない、余計に動物達の怒りを買ってしまう結果になってしまった。

 

 

「……!? こっちもかよ……火拳!!! 

 

 

 今度はミズキの方が襲いかかってくる。火拳で吹き飛ばしたエースだが平然と立ち上がってくる少年を見て冷や汗を流した。

 

 

「キリがねェな……一旦引くぞルフィ!」

 

「おう!」

 

 

 猛獣達の数とミズキらしき少年の強さに形勢不利だと判断した彼らは一時撤退の判断をした。しかしルフィ達は知らなかった、パシフィスタと呼ばれる政府の兵器、そしてシキの部下であるDr.インディゴによって改造された猛獣達がこの島に大量に解き放たれていることに。

 

 

 

 

 

 ♦♦♦♦♦

 

 

 バレットとシャンクスは依然として島の中心で戦闘を繰り広げている。戦場の拡大も相まってタイマンに近い戦いだ。その戦いの場の付近、バレットによって叩き潰された大地の一角で死の淵をさまよっている男がいた。

 

 

(ちくしょう……身体が動かねェ……ここまでか)

 

 

 何とか息はしているが、全身ボロボロで生きているのが不思議なくらいだ。その男は唯一戦場から脱落してしまった皇帝の一角、千両道化のバギーだった。

 

 

(俺にしちゃ……よくやった方…………か)

 

 

 遠のく意識の中でバギーは過去の記憶を見た。走馬灯というやつだろうか? 死ぬ間際の最後の思い出なのかもしれない。その中で少年のバギーは常にシャンクスと共に居た。

 

 

『すげェなシャンクス! 今日の手柄はお前のモンだ!』

 

『へへ、大したことないさ』

 

『…………』

 

 

 シャンクスは強かった、子供ながらに手柄を上げてくることもあるくらいに。それに引替えバギーはただの足でまとい。無論ロジャー海賊団の面々は二人を平等に扱ったが、しかし劣等感というのはどうしても生まれてくる。

 

 

『俺と来いよバギー!』

 

『うるせェ! お前の部下なんて真っ平だ! あばよシャンクス!』

 

 

 ロジャー処刑の日、二人は別々の道を進んだ。本当はシャンクスの誘いが少しだけ嬉しかった、しかし断ることしかできなかった。シャンクスとは違い、自分には才能がない。東の海の辺境で、コソコソと海賊を続けよう。それが自分にはお似合いだと心のどこかで諦めていたのかもしれない。だからこそ、大きな口を叩きながらも東の海に残ることを選んだのだ。

 

 

『バギーは海賊王になる男!! ボクらはバギーを海賊王にする!! そのためだったら命だって賭けてもらうよ、わかったか野郎共!!』

 

『ウォォォォォォォォ!!!!』

 

 

 そんな時ミズキと出会った。初めは変な奴としか思っていなかったが、同じ飯を食い同じ船で旅をするうちに無二の相棒となっていくことになる。ミズキはいつだってバギーが海賊王になると信じて疑わなかった。そのためなら七武海や海軍本部、四皇にだろうと立ち向かっていく、はっきり言って異常だろう。何故ミズキはここまで自分を信じるのか、いつの間にか五皇の一角に数えられるようになっても、バギーの心の奥にはそんな疑問があった。

 

 

 ──そして約一年前。その日はカライ・バリ島全体での大きな宴があった。傘下の海賊達も参加する一大行事、しかしいつもは宴の中心でハデに騒いでいるバギーがその日に限ってはいなかった。部下達が彼の行方を案ずる中、ミズキは街の外れにある小さなバーに入っていった。

 

 

『な〜に? こんなところで一人で飲むとか、珍しいこともあるもんだね』

 

『うっせぇ……ほっとけ』

 

『だって気になるもん……静かなバギーとか調子狂うし』

 

 

 バギーは客が一人もいないバーの片隅で酒を飲んでいた。既にかなり飲んでいたのか周囲には酒瓶がいくつも転がっている。

 

 

『ミズキ……お前の船長は……俺でよかったのか?』

 

『え……? 何いきなり、怖いんだけど』

 

『考えちまうんだよ……俺なんかについてなきゃよ……シャンクスや白ひげの部下になってりゃお前はもっといい思いができたんじゃねぇって。それこそお前なら自分の海賊団で……そうなりゃ皇帝って呼ばれてたのはミズキ、お前だ』

 

 

 バギーにしてはしんみりと、そして自虐的にその言葉を放った。彼が後ろ向きな発言をするのはいつもの事だが、ここまでの雰囲気になるのは初めて見た。

 

 

『俺はよ……シャンクスの奴が優秀すぎて……あいつの才能を見てとっくに自分の夢なんか諦めてた』

 

『…………』

 

『だがお前はこんな俺をずっと信じ続けてくれた……一度は諦めてた夢を、お前が拾ってくれたんだよ』

 

 

 バギーの言葉をミズキは黙って聞いていた。彼がこんなことを考えていたとは思ってもみなかったが、しかし言いたいことは山ほどある。しばらく考えた後、ミズキが出した答えは……チョップだった。

 

 

『ばーか! 何言ってんのバカっ鼻』

 

『いッ……! てめ……!』

 

『あのねェ! ボクが誰かの下に付く人間に見える!? バギー海賊団以外で海賊やる理由ないんだよボクは!』

 

 

 ミズキは腰に手を当て、さも当然かのように言った。面食らうバギーを前に、ミズキは言葉を紡ぎ続ける。

 

 

『あの日ガープの軍艦からボクを助けたのはバギーでしょ!? ボクは死んでもいいと思ってたのに、バギーが助けに来たから今ここにボクはいる! ボクらがここまで来れたのはバギーの行動の結果!』

 

『……ミズキ』

 

『あの瞬間からボクの人生の目標は決まったの! ボクがバギーを信じるのも海賊王にしたいって思うのもボクのエゴ! だから君がらしくもない悩み抱える必要なんてないんだよ!』

 

 

 それを聞いてバギーはハッとした、バギーだけではなかったのだ。彼がミズキと出会い人生が大きく変わったように、ミズキもバギーと出会ったことで全く別の人生を歩むことになった。これは二人で始めた物語、それがバギー海賊団なのだ。

 

 

『ハァ……俺の未来を勝手に決めんじゃねェよ……バカミズキ!』

 

『でもなりたいんでしょ? ……海賊王』

 

『ああ、なってやろうじゃねェか! 誰の意思でもねェ! 俺様の未来は俺様が決める! 海賊王にでもなんでもなってやらァ!』

 

『そうこなくっちゃ!』

 

 

 ミズキに言われたからではなく、自分の意思がそう言い放った。してもらうのではなく、自分がなってやるのだと意気込みを強く胸に刻んだ。そんな彼の前に、ミズキは二つの酒の入った盃を差し出した。

 

 

『……なんだよ?』

 

『そういえばこういうのやってなかったなって……兄弟は……シャンクスがいるから……う〜ん……相棒盃?』

 

『なんだそりゃ、聞いた事ねェぞ』

 

『いいじゃん、ボクらが史上初! 海賊王とその相棒の新たな船出にはピッタリでしょ!』

 

 

 そう言って盃をバギーの方に向けてくるミズキ。それに対し、バギーも笑いながら盃を差し出した。二つの陶器が擦れる音が響く、そこでバギーの意識は戻ってきた。ここは戦場だ、奇しくもバギーはミズキの声で目を覚ましたことになる。

 

 

「……ハデ馬鹿野郎……ゆっくり眠らせやがれ」

 

 

 地面から這い上がったバギーは暴れ続ける究極バレットの元へとゆっくり歩み始めた。自身の役割を果たすために。

 

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