「な……なんだこの化け物共!?」
「どっから現れ……ウァァァ!!?」
バレットとシキによって作り出された新たな戦場、マリンフォードを中心に四季が入り乱れる滅茶苦茶な空間で各勢力は戦力を分散されていた。味方との合流を試みようとも、金獅子海賊団によって解き放たれた猛獣達が彼らの行く手を阻んでいた。五皇の幹部や海軍将校クラスならいざ知らず、ただの雑兵では一方的に蹂躙されてしまう。
「
「ぐァァァ!!!?」
「ダメだ……どうやっても止まらない!!」
そんな中猛獣を海兵ごと燃やし尽くす死の熱線をカイドウが放った。今この戦場において、カイドウは間違いなくトップクラスの猛者、彼を止められる者など数える程しかいない。
「……ったく、もう少し手心加えなさいよ……!」
「青雉ィ……テメェの相手をするのもいい加減飽きてきたぜ」
「そりゃあ同感だ、オレもアンタの無茶苦茶な戦いに付き合うのはゴメンなんでね」
能力によりカイドウの身体を凍らせ、動きを止めるのは青雉。カイドウ相手に戦いを成立させられる数少ない戦力の一人だ。だがしかし、この場にいる海賊勢力はカイドウ単体ではなかった。
「……!!?」
突然背後から攻撃を仕掛けられ、青雉は咄嗟に覇気で防御した。しかし多少のダメージは免れず、口元から血を流す。空を飛び、青雉の前に立ち塞がったのは全身黒ずくめの大男、百獣海賊団のNo.2、火災のキングだった。
「カイドウさん、こいつは俺に任せてアンタは先へ」
「ああ……悪いなキング」
「……ッッ! 全く次から次へと……!」
「そういう訳だ、少しばかり付き合ってもらうぞ」
ルナーリア族の特性である背中の炎が勢いを増した。青雉もルナーリア族に関してはある程度の知識を持っており、油断できない相手であることも重々承知している。少なくとも目の前のキングを無視してカイドウを追うことはできないだろう。
──そして戦場は瞬く間に変化していた。
「勝負を一旦預けないか、カタクリ君」
「……いいだろう、ここで殺しあっていても利点がないからな」
ビッグ・マム海賊団のNo.2、将星カタクリを食い止めていたレイリーは戦況の変化を鑑みて一時休戦を持ちかけた。それにカタクリも同意し、牽制し合いながらも彼らは武器を収めた。
「チッ……! こっちは実戦久々だってのに! 多少の加減は欲しいもんだがな」
「必要ないだろう、オレも存外楽しめている」
王下七武海、ジュラキュール・ミホークと互角の戦いを繰り広げているのは元ロジャー海賊団No.3、スコッパー・ギャバンだ。彼も例に漏れず前線から離れ、歳もとっているというのに世界一の剣士と渡り合えるのはさすがの一言だろう。
「カイドウをどうにかしないと……こっちにも被害が増す一方だ! エースやルフィの身が危ない!」
ヤマトは戦場を駆け抜けカイドウの元へと向かっていた。カイドウは海兵海賊お構い無しに蹴散らしながらバレットの元へと進んでいる。バギー海賊団にも多数の被害が出ている以上、誰かが止めなければならない。エース達も狙われたら最悪だ。
「ヤマトボーイ!! ヴァナタ、無事ッチャブルの!?」
「イワちゃん! イナズマ! 僕は大丈夫だけど、ルフィ達を見失っちゃって!」
「ヴァターシも麦わらボーイを探しているのだけれど、居場所がわからない……! 早く見つけて脱出しないと……!」
革命軍のイワンコフ、イナズマと再会したヤマト。二人ともルフィ達を探しているようだが見つからない。カイドウも放ってもおけない。考えた後末、ヤマトは結論を出した。
「イワちゃん! 僕はカイドウを止めに行く! ルフィやエース達は任せたけど……その前に頼みがある!」
「……!! ヴァナタ、本気なの!?」
ヤマトのカイドウを止めるという発言、そして彼女からの頼み。それを聞いてさすがのイワンコフも驚く。しかし彼女の意志を汲み、その頼みというのを受け入れるのだった。
「全く……デタラメってもんじゃないね。とにかく、まずは戦況を把握しないことには……」
冬島、豪雪が降りしきる地点をギオンは歩いていた。仲間達とははぐれてしまい、状況も完全には飲み込めていない。少なくとも彼女の実力ならばそうそう死ぬことは無いだろうが、なんにせよ仲間達と合流するのが最優先だ。
「ギオン……!」
「……!?」
不意に名前を呼ばれ、声をした方を振り返る。だが見るまでもなく声の主の正体はわかっていた。忘れるはずもない、かつての恩師。10年以上会っていないが、彼女の活躍は嫌でも耳に入ってくる。
「……おつるさん」
「探したよ……アンタだけは、私の手で止めなければならないからね」
海軍本部中将、大参謀おつる。かつては女性ながらガープやセンゴクと肩を並べ、大海の平和を守っていた伝説の人物。今でも中将として海兵の責務を全うしている。そしてギオンが最も尊敬した人物であり、かつ最も恨んでいる人物でもある。
「アンタからの連絡が届いた時は心底心配したよ……そしたらどうだい、まさか海賊団の……それも今や五皇の幹部に……いったいどうしたっていうんだい?」
「……ッッ……!? 何を今更……!」
おつるの態度にギオンは唇を噛み締めた。自分を捨てておいて、よくもそんな口が利けると。深く尊敬していただけに、裏切られた時の衝撃は計り知れない。
「アンタがあたしを捨てたんじゃないか! あたしはアンタを心の底から尊敬してた! なのに……!」
「……!? 捨てた? なんの事だい?」
「しらばっくれんじゃないよ……! あの日、あたしは確かに聞いたんだ……! アンタが政府の人間と……あたしを消す相談しているのを! ワノ国の秘密を知ったあたしが邪魔だったんだろ!?」
そう、当時彼女は身分を隠しバギー海賊団に潜入調査をしていた。その結果は逐一政府に報告していたが、中々思うような結果を出せずに苦戦を強いられていた。その時、確かに聞いたのだ。ワノ国で世界政府と百獣海賊団の取引が行われていること、そしてそれを知ってしまったギオンを消す相談を政府の役人とおつるがしているのを。
「……そうかい、それでアンタはバギー海賊団に……なんという……残酷なことを……!」
「……!?」
しかしおつるの反応はギオンの思っていたものとは違っていた。彼女はギオンの話を聞くと目頭に涙を溜め、拳を握りしめ怒りを顕にした。
「ギオン……アンタは騙されていたんだよ……“千両道化”と“宵魔女”に……!」
「……今更そんな言い訳……!? それにワノ国で取引があったのはこの目で確かに……!」
「ああそうさ……政府はそれを揉み消そうとしていた。だからといって、アンタを消すなんて……そんなことあたしがする訳ないだろう」
「……!!」
嘘をついているようには見えない。おつるは真っ直ぐギオンを見つめ、まるで何かを訴えかけるようにただギオンを見つめている。
「そんな……まさか……」
「アンタは取り返しのつかないことをしてしまった。だけどまだやり直せる、アンタが犯した罪はあたしも一緒に背負う……だから、戻っておいで」
「おつるさん……」
おつるがギオンに手を差し伸べる。たとえ海賊に堕ちたとしてもかつての愛弟子、見捨てる訳にはいかない。改心してくれるならば、罪を共に受け入れる覚悟もある。ギオンはゆっくりおつるの手を取り、刀で彼女の胸を貫いた。
「……ガハッッ……!」
一瞬理解が遅れたおつる。しかしじわじわ感じる痛みと口や胸から流れる血液、自分が置かれている状況をすぐに理解した。
「……ギ……オン」
胸から剣を抜かれ、おつるは無念そうに言葉を吐き、その場に倒れた。ふり積もった雪におつるの血液が染み渡り、周囲を赤い絨毯へと変えてしまう。その真上に立ち、ギオンは息絶えたおつるに向けて口を開く。
「薄々わかってたさ……騙されてたことくらい。でもね、どうやら性に合ってたみたいだ。楽しかったんだよ……何にも縛られず、自分の人生を謳歌するのが」
ギオンは口元を緩ませる。彼女は完全に堕ちきっていた、海賊として、そしてバギー海賊の幹部として、かつての恩師よりも今の立場を選んだのだ。
「じゃあねおつるさん。アンタの首は一生手元に置いて愛でてやるよ」
そう言うとギオンは亡骸となったおつるの首を切断し、胴体を放置したまま歩みを進めた。恩師を手にかけたというのに、彼女の顔はまるで極上の料理を口にした時のように赤く染まっていたのだった。
そしてまた別の場所、打って変わって夏のような気候をしているエリアにて、一人の男が強敵との戦いを繰り広げていた。
「もうやめてくれ……タイのお頭!!」
「……」
ジンベエと同じかそれ以上の巨漢の少年を、彼は押さえつけていた。同じ魚人であっても、七武海の称号を得るまでに強いジンベエと戦える者など数えるしかいない。しかしその少年は互角にやり合って見せている、魚人の特徴、そしてルナーリア族の特徴。この二つを合わせ持つパシフィスタの姿は、フィッシャー・タイガーそのものだった。
「ぐぬゥ……何か止める手立ては無いのか……!」
目の前の相手がタイガーでは無いことはわかっている。しかしたとえクローンだとしても大恩人に手を出すことなどジンベエに出来なかった。加えてルナーリア族の無敵の肉体、いくらジンベエであろうと大苦戦は必至だ。
「おいあれ見ろ! “海侠のジンベエ”だ!!」
「ヒャッハー!! 討ち取りゃ一気に大看板だぜ!!」
「……!? こんな時に……!」
更に間の悪いことに百獣海賊団の兵士達が乱入してきた。元七武海のジンベエを討ち取ったとなれば飛び級で幹部になれる。その考えの下多数の兵士達がジンベエに襲いかかってきた。
「どうしやす、ササキ様?」
「ハハハ……ベガパンクの趣味の悪ィ発明のおかげでジンベエを討ち取るまたとない機会を得たな……当然、やる気に決まってんだろ」
「百獣海賊団の……ササキじゃな……!」
「ほォ、俺のことを知ってんのか? そいつは意外だ……同じ魚人として光栄に思うぜ、ジンベエ親分」
飛び六胞、ササキ。百獣海賊団の中でも大看板の次に実力者と言われている強者だ。その実力は並の覇気使いでは勝てないほど、パシフィスタの相手をしながらではジンベエでも厳しい相手だ。
「背後を狙うようで悪いが……俺の出世のための生贄になってもらうぜ」
「ぐッッ……!!?」
タイガーのパシフィスタの猛攻をしのぎならがも、ジンベエは背後の警戒をする。しかしその時には既にササキはトリケラトプスへと姿を変えており、今にも攻撃してくる状況だった。
「よってたかってリンチとか……ダサいよ!」
「……!!?」
だが、突如として頭に蹴りをくらいササキは顔面を地面に叩きつけられた。突然のことに反応できなかったササキはダメージこそないものの戸惑いを隠せないでいた。周囲を見渡すと、さっきまでいなかったはずの二人組がそこにはいた。
「なんだテメェらは!?」
「百獣海賊団飛び六胞ササキか……悪くない、お前を仕留めれば戦果としては十分だろう」
「え〜!? どうせなら大看板とか狙おうよ! クイーンとかよくない?」
いきなり攻撃され怒りを露わにするササキを前に、臆することなく言い合う二人。その姿にジンベエは見覚えがある。
「お前さん達、確かバギー海賊団の……すまん、助かった……!」
「全然! 敵の敵は味方ってことで、一時共闘ね!」
「僕はそのセラフィムとやらが気になる……上手いこと捕獲出来ればいいが」
バギー海賊団の中でもミズキに選ばれた精鋭部隊〖天使の小悪魔〗。実力もさることながら、元インペルダウンの囚人や元天竜人の奴隷など特殊な出自の者が多い。そして最大の特徴は全員がミズキのように女性と見違えるような美貌を持つ男だということだ。
「……そうか、確かに見覚えがある。お前ら以前の戦争でクイーンとやり合ってた奴らだな? ちょうどいいぜ、お前らも殺せば手柄が増える!」
「あ〜懐かし! あったねそんなこと!」
ササキの問いにサラがそんなこともあったなと懐かしむように答えた。ムシムシの実、モデルアゲハ蝶の能力者である彼女は背中に蝶の翅を出現させササキと同じ目線まで飛び上がった。
「あの時は決着つかずだったけど……今回はそうもいかないっしょ?」
「フン……当然だ、今回の戦争でカイドウさんは海賊王になる。そうなりゃお前らはお終いだ、一生奴隷として使ってやるよ」
「なるほどなるほど……外観はルナーリア族の特徴を再現……。背中の炎はどうやって……? そもそもクローンの類なのか或いは機械的な改造が……実に興味深い」
「……ってネオン! よそ見してないでアンタもこっち加勢してよ!」
「そんなトリケラ1匹、お前1人で十分だろう? 僕はあっちに興味がある、邪魔しないでくれ」
科学者であるネオンはササキよりもジンベエと戦っているセラフィムの方に興味があるようだ。目の前の敵そっちのけで目を輝かせているので、隙だらけもいいところだ。
「ジンベエ親分、少しの間そいつを引き付けておいてくれ。上手くいけば、停止させることができるかもしれない」
「……! そうか、わかった!」
「だからこっち手伝えっての!」
ジンベエとネオンのやり取りを、サラはササキの頭突きに蹴りで応戦しつつもツッコミを入れた。また1箇所、激しい戦闘を繰り広げる場所が増えた。そして別の地点でも、強者同士の戦いが始まろうとしている。
「お〜……シリュウ看守長……いや、元看守長か。わっしに何か用かい?」
「フン……この戦場での用事なんざ、決まっているだろう」
海軍大将黄猿と対峙するのは元インペルダウンの看守長、そして今はバギー海賊団の最高幹部の一角、雨のシリュウだ。二人は余裕の態度を保ちつつも、警戒を怠らず互いの出方を伺っている。
「アンタを野放しにしておくと、世界政府としても面目丸潰れなんでね〜。悪いが、そっちから来た以上……無視はできないよ〜」
「元からそのつもり……そもそも海賊なんだ、無視などしてくれないだろう」
瞬間、シリュウが黄猿に向けて飛ぶ斬撃を放った。覇気を込めていなかったので黄猿には当然当たらずすり抜けるが、彼の背後にある大木を真っ二つに切ってしまった。その威力は鷹の目にも勝るとも劣らないだろう。
「怖いね〜。“雨のシリュウ”の実力は健在というわけかい」
「……相変わらず気色悪い野郎だ」
黄猿の能力で作り出した剣とシリュウの刀がぶつかる。互いに世界トップクラスの実力者同士、その戦いの結末は誰にも想像がつかない。
♦♦♦♦♦
「カハハハハ! どうした、もうバテたのか! 五皇の実力はこんなもんか!!」
「……くッ……!」
島の中心で未だ繰り広げられているバレットとシャンクスの戦い。情勢は互角、と思えたが実際はバレットの方が優勢だった。一見互角の戦いをしているように見えるが、バレットとシャンクスの質量差は圧倒的だ。もちろんデカければ勝てる訳では無いが、近い実力の者同士の戦いではこれが多分に影響する。
──加えて。
「くだらねェ情に流されてなきゃ、もう少しマシな戦いができたかもな!! 片腕でおれとやり合うのはキツイだろう!?」
そう、シャンクスは左腕がない。これがこの戦いでは大きな分岐点となっていた。当然その弱点を物ともしないほどシャンクスの覇気や身体能力は極まっているが、これもやはり互角の戦いの中では勝敗を決する要因となり得る。
「別にこの腕のことは後悔しちゃいないさ……! 失った物ばかり数えていても仕方が無いからな……!」
「カハハ! そうか、そりゃいい心意気だ! だがここで死んだらそれも無駄になるなァ!」
シャンクスの剣が大型バレットの腹を切り裂く。しかし周囲をあらゆる無機物で囲まれたこの場所では即座に合体、再生してしまう。バレットを倒すには本体を叩くしかないが、彼と戦いながらそれを行うのは至難の業だ。
「ちょこまかと……鬱陶しい!」
しかしバレットの方も手こずっている。シャンクスの俊敏な動きと未来視の合わせ技を前に攻撃を直撃させることができないでいた。そして再生するとはいえ彼の斬撃も無視できないダメージとなる。お互いがお互いに攻めあぐねる、そんな状況だ。
──その時、バレットの視界の隅に何かが映った。
「あ?」
バレットからすればほんのゴマ粒のような小さな物。それがゆっくりとこちらに近づいてくる。感じる微弱な覇気と特徴的な見た目でバレットはすぐにその正体に気づいた。ほとんど同時にシャンクスもその存在に気づいたようだ。
「カハハ……まだ生きていやがったのか」
「バギー……!!」
先程バレットの拳に押し潰されたはずのバギーだ。服は破れ上半身はほぼ裸、髪留めもちぎれたのか縛っていた長い髪は重力と風で揺れている。フラフラで歩くのもやっとに見えるが、確かにバレットに向かってやってくる。
「そういやテメェは昔から悪運だけは強かったな! だが同じこと! もう一度叩き潰してやる!」
バレットがもう一度バギーを殺すために拳を振り上げた。今の状態でもう一撃くらったら確実に命を落とす。にも関わらず、バギーは笑っていた。
「ウォロロロロ!! そろそろ貰おうか! ラフテルへの道標をよォ!」
「おれを無視しておっ始めてんじゃねェよお前ら!」
「……!! カハハハハ……いいじゃねェか、役者が揃ってきたな!」
だがここで乱入者が現れた。右から龍の姿へと変身したカイドウ。そして左からヘラに乗り猛スピードで突っ込んでくるビッグ・マム。ここに来ての横槍、それにシャンクスはどう対応すべきか考え顔を顰めた。
「バギーの!!」
「邪魔しないでよね!!」
ところが、俺ほとんど同時にカイドウとビッグ・マムは何者からかの攻撃を受け、地面へと落とされた。それの正体にそれぞれ目を向け、違った反応を見せた。
「……! ミズキ〜、どうあってもおれの邪魔をするってことかい!?」
「当たり前じゃん! もうつまらない鬼ごっこはやめ! 決着つけよう、どっちかが死ぬまでさ!」
「ハ〜ハハハ!! そりゃァお前、死ぬ覚悟ができたってことかい?」
「老害を1匹、駆除してやるってコト!」
ビッグ・マムがミズキに向かってくる。それに対し構えつつも、ミズキは横目でバギーの方を見てニヤリと笑った。しかしすぐに視線を前に戻し、目の前の敵に集中する。バギーが勝つ、そして自分もビッグ・マムを倒す。そのシナリオを確信して。
「ちくしょう……誰だ、おれの邪魔をしやがるのは」
「久しぶりだな! 全てを終わらせに来た、カイドウ!」
「……! テメェ……まさか……ヤマトか!?」
金棒で殴られた顔面を押さえながらもカイドウは平然と立ち上がった。そして彼の目の前に立ちはだかる男、それを見て目を丸くした。髪の長さ、髪の色、その他の特徴は息子であり娘のヤマトそのもの。しかしカイドウの前にいるのは、間違いなく男そのものだ。
「ああそうだ! 完全な光月おでんになり、そしてお前を倒すため! 僕はここにやって来た! 覚悟しろ、カイドウ!」
そう、カイドウの目の前にいるのはイワンコフの能力で男になったヤマトだった。カイドウを倒すため、生まれ持った性別を捨てる覚悟で彼の能力を利用したのだ。
「どういうことだ……なぜ男になってやがる……!」
「そんなことはどうだっていい! お前はここで倒す! そしてワノ国を救ってみせる!」
「……! そうか、残念だ。どうやら息子をこの手で殺さなきゃならねェらしい」
ヤマトの言葉を聞き、カイドウは確信した。これはもはや親子喧嘩ではなく、殺し合いだと。もう親子の関係などとっくに破綻していたのだ。それを察知し、カイドウは金棒を握る拳に力を入れた。
「ここは戦場だ! どちらかが死ぬまで戦いは終わらねェ! その覚悟はあるんだろうな!」
「当たり前だ! 僕はお前を殺し、この鎖を断ち切る!」
ヤマトとカイドウの金棒が衝突する。因縁の親子対決は、最終ステージへと突入したのだった。
「……邪魔が入ったか。まァいい、まずはお前らを殺してやる」
「おい、大丈夫かバギー?」
カイドウをヤマトが、ビッグ・マムをミズキが止めているところを見たバレットはまずはシャンクスとバギーを仕留めるべきだと判断した。ミズキには個人的に深い恨みがあり、殺してやりたいところだが後で消せばいい話。そもそもビッグ・マムとやり合って無事ではいられないだろう。そしてシャンクスもバレットが狙いをこちらに戻してことを確認し警戒を深める。その過程でボロボロのバギーを案ずるが、返ってきた答えは意外なものだった。
「うるせェな……おめェも引っ込んでろシャンクス。アイツはおれの獲物だ……!」
「……お前」
それはどんな時よりも低く、かつ真剣な声だった。こんなバギーはシャンクスでも見たことがない。しかしその覇気は死にかけの男にしては嫌に強かった。
「わかった。おれは仲間達を逃がすための手筈を整えてくる。それまでに必ず奴を倒せ」
「へッ……! 言われなくても……わかってらァ!」
そしてシャンクスは戦線から離脱した。バギーがバレットを倒し、ラフテルへの
「そんなボロボロの状態で何が出来る! 瀕死の赤っ鼻が……次で終いだ、ぐちゃぐちゃにすり潰してやる!」
バレットの巨大な拳がバギーに迫る。今までの彼では何も出来ず、逃げ惑うのが関の山だっただろう。しかし今は違った、バギーは降ってくる巨大な拳に自ら飛び込むと、自身も拳に覇王色を込めて応戦した。
「カハハハハ!! 貴様ごときに何ができる!! 運がいいだけのゴミが!! 真の強さってもんを教えてやろう!!」
バレットの拳とバギーの拳がぶつかった。質量差は歴然、バギーが叩き落とされて終わり、誰もがそう思うだろう。だが結果は違った、バギーの拳がバレットに触れた瞬間、バレットの拳が急激的にバラバラになってしまった。
「な……!!?」
拳だけではない。そこからどんどんと亀裂が走り、足、胴体、頭。大型バレットを形成していた全ての物質がバレットの元を離れ、重力に身を任せ落ちていってしまったのだ。
「ガハッッ……!!?」
バレットが乗り込んでいたカタパルト号までもがバラバラにされ、バレットを生身をさらけだし血を吐き出した。何が起こったのか理解できず、彼は空中を落下していく。
「……あれは……バラバラの実の……覚醒!」
ビッグ・マムと戦いながらもバギーを気にしていたミズキが思わず言葉を漏らし、口元を緩めた。ずっとミズキと共に訓練していた悪魔の実の覚醒、それをこの土壇場で成功させたのだ。
「グァァッッ……!!」
バレットは自らが纏っていた瓦礫の残骸の山へと落ちていった。死んではいないが、かなりのダメージを受けている。そんな彼の前にバギーは見下すように現れた。
「き……さまァ!!」
「おう、さっきまでの威勢はどうした? 合体野郎」
バレットの頭を踏みつけ、バギーは彼を見下すように言葉を紡いだ。今までの弱い彼はもういない。いや、元からいなかったというのが正しいだろうか。ミズキと出会い、海賊として名を上げ、五皇になった時からこうなる運命だったのかもしれない。ともかく、今ここにいるのは悪魔の実の覚醒を使いこなし、他を圧倒する覇王色を持つ五皇の一角、千両道化のバギーだ。