当然海賊もほかの海に比べればレベルも低く数も少ない、しかし全く被害がない訳でもない。
レベルが低いと言っても民間人には手も足も出ない強者もいるし、極稀にだが悪魔の実の能力者もいる。そういった海賊達は町、及び島を占領し自分達の支配を拡大している。
頼みの綱は海軍だが東の海は海賊のレベルが低い故に強者は他の海──特に偉大なる航路に配属されることが大半であり、東の海にいる海兵はどれだけ強くても本部大尉クラスが限度。東の海の懸賞金平均額300万程度の海賊ならばいいかもしれない、だが1000万を超えてくると本部大尉では対処できない場合が多い、特に能力者ともなれば本部の海兵でないと手に負えない。
──東の海、オレンジの町
オルガン諸島にあるその港町は平和な町であった。しかし2年前に海賊が占領して以来、毎月支払いを強要される法外なみかじめ料と気分で町民を殺害する残虐な海賊達によって町は壊滅状態であった。この辺りは海軍の支部も少なく、救援も期待できない。仮にあったとしても東の海の支部では手が出せないだろう、それくらいその海賊達はこの海ではレベルが高い強者であった。
だが1年程前、とある少年達によって海賊達は倒された。これで解放されると町民達は歓喜したが現実はそう甘くはない。そう、少年達は元々彼らを支配していた海賊達より遥かに恐ろしかったから。
「……ねぇ、今月はホントにこれだけしか払えないの?」
「はい、……申し訳ございません」
オレンジの町の中央に位置する町では大規模な部類にあたるレストラン、その応対室のソファーに腰掛け店長を睨むのは一見可愛らしい少女だった。
しかし店長はその少女に対し頭を床に付け必死に謝罪する。傍から見れば異様な光景だ。比較的体格のいい──マッチョと言っても差し支えないであろう男性が華奢な少女相手に怯え、頭を垂れている。少女の後ろに部下の海賊が数名程いるのを差し引いてもやはり第三者から見れば異常なのは変わらないだろう。
しかし店長はそれでも頭を上げない──いや、上げることができない。
バギー海賊団副船長。“狩魔女ミズキ″ 懸賞金1300万ベリー。目の前の
「それにしては随分少ないね……まさか払えないの?」
「い、いえ……! ……しかしですね…………」
故に店長は頭を垂れるしかない。見た目に惑わされてはいけない、ミズキの強さは町民であれば誰もが知っている。100人以上の海賊をたった二人で降伏させ、その後も町にやってきた海賊を壊滅させ部下につけ、海軍の軍艦を簡単に沈めてみせたのをその目で見たのならば逆らう気など毛頭起きなかった。
一部では偉大なる航路でも通用すると言われている彼の強さに誰もが屈服していた。
「なに? ……払えない理由でもあるの?」
「……それは……」
バギー海賊団が要求するみかじめ料は収益の半分近くになる程の法外な額だった。普通に働いていては到底払えるものではない。それこそ生活を犠牲にしなければ。
だが今まではなんとか払ってきたのだ。払わなければ命はない。自分の、そして家族のために払わざるをえなかった。
だが今月はどうしても払えない事情があった。店長の様子からそれを感じ取ったミズキはその理由を問いただす。言い訳があるなら一応は聞いてあげてもいいと。
「実は……子供がとても重い病を患ってしまいまして…………その治療に多額のお金が必要だったんです。ですから……今月はそれ以上お支払いすることは……」
「へぇ……そっか。それは大変だね」
ミズキは店長の言い分を聞くと僅かに溜息をつき立ち上がった。その態度に店長は安堵の息を漏らす。わかってくれたようだと安心したのだ。
「……一応店の金庫とか調べてきて」
「ヘイ、お嬢!」
後ろの海賊達にミズキが指示を出すと彼らは店の金庫やレジなどを調べ始めた。その間は数分程度だっただろう。しかし店長には一生にも感じられる程長い時だった。目の前で冷ややかな視線を向けてくる少年に彼は身体を震わせて怯えるだけだった。
しばらくし、部下達が戻ってきた。その中の一人の手に何かが詰まったカバンがあるのを見た店長は顔を青ざめて俯いた。部下の一人が開けると、中身には札束がパンパンに詰められていた。
「お嬢、こいつ地下にこんだけ金を貯め込んでやがりました」
「へぇ……どうしたの……これ?」
「それは……もしもの時のために……貯金をと」
「じゃあ払えるんだね……嘘ついてたんだ」
「申し訳ございません! 払います! 多めに払いますのでどうかお許し……がはっ!!」
土下座し許しを乞おうとした瞬間、誰も触れていないにも関わらず店長の身体は宙に浮いた。何が起こったのかわからない店長はじたばたもがき苦しんでいる。
「……別に払えないならいいんだよ? 来月その分も払ってくれれば許してあげるつもりだったのに。どうして嘘ついちゃうかな?」
「ず……ずびません……許し……がはっがはっ」
紫に光る片手の手のひらを前に突き出し少し険しい顔をしてミズキは店長を問い詰める。必死に懇願する店長の言葉を遮るように突き出す手に力を込めると店長はさらに苦しみだした。
「……もういいや、楽にしてあげる。よかったね、これでもう払わなくていいよ」
「ぎゃああああ〜〜〜!!」
瞬間、店長の身体に稲妻が落ちたかのように光りだした。さらにじたばたもがく店長、必死の抵抗だったが強者には通じない。やがて黒焦げになり煙が出るほど焼けた店長をミズキはゴミを捨てるかのように投げ捨てた。
「これじゃあもう使い物にならないな……ねぇそこの君」
「ひぃぃぃぃ!? ご、ごめんなさい! なんでもしますから命だけは!!」
ミズキはドアの隙間からこっそり中を伺っていた店長の妻らしき女性に声をかける。怯えて腰を抜かしたのか尻もちをついた彼女にミズキは回収した金を部下に預けながら告げた。
「来月も来るからそれまでに稼いでおいてね。また払えなかったら次は君の番だから」
「っっっ!? ……そんな……」
「行くよ」
「ヘイ、お嬢」
そうして金を徴収した部下を連れて店を出る。店の外に出た瞬間、町を歩く町民達の顔色が変わった。ぎょっとしたような顔をしたと思えば誰もが目を合わせないように俯いた。
そういった視線には慣れているミズキは特に気にする素振りを見せず目的地へと向かう。
「なぁ、やっぱりお嬢って可愛いよな」
「まぁ……確かに可愛いがよ……でも男だぜ?」
「バカ! そこがいいんだろ、わかってねぇなお前は」
「……なに?」
『……!? いいえ!!! なんでもありません!!!』
ミズキの数歩後ろを歩いていた部下達がコソコソとそんな話をした。しかしそれは彼には筒抜けだった。振り向き問いかけるミズキに部下達は声を揃えて答えた。それに対しミズキはそう……と呟いて質問を重ねた。
「ボクって可愛い?」
「へ? ……可愛いと思いますが」
「……そっか」
表情を変えずにそう呟くとミズキは再び前を向いて歩き出した。その様子に部下達は顔を見合せ疑問符を浮かべたが、それ以上はなにか言及することはなかった。
──オレンジの町、中央街バギー通り
そこはこの町で一番活気づいており、そして危険な場所だった。
至る所にサーカスを思わせるテントがあり、様々な露店が列をなしている。そこで働いているのは無理やり連れてこられた町の住民達。海賊達が闊歩するそこは海賊にとっては天国、民間人には地獄という真逆の顔を持つ通りであった。
その中でも一際目を引く大きなテント。その中に足を踏み入れた者は生きては帰れないという。何故ならそこは泣く子も黙る海賊、懸賞金1500万ベリー “道化のバギー″のアジトだからだ。
「ぎゃはははははははは!! てめぇら、好きなだけ飲み食いして英気を養いやがれ!! そしてこの俺にもっと財宝を持ってくるんだ!!」
『バギー!! バギー!! バギー!! バギー!!』
壇上でスポットライトを浴び、高笑いしながら叫ぶ赤鼻の男。彼こそがこのバギー海賊団船長の道化のバギーだ。
元々は超少数の一味であったがこの町で海賊達の名声を集め、東の海でも指折りの海賊団へと成長を遂げた。それも彼の持つ妙なカリスマがあってこそなせる技。彼の経歴を知るものならある種納得できるかもしれないがそれを知るのはここではたった2人だけだった。
「たった1年でえらく出世したもんだな。さすがは元ロジャ──」
「おめぇそれは黙っとけ!!」
何かを言いかけバギーに口止めされたのは宝箱に身体ごと入っているという珍妙な姿をしたガイモン。この町に来る以前からバギー海賊団にいた古株と言ってもいい男だ。
最近では海賊団内でも幹部の役職が板に付いてきた彼だが、その見た目からか実力を疑問視されることがたまにある。実際彼の素の力はそこまで強くはない。副船長であるミズキの特訓──彼やバギー曰く地獄のしごきを受けているのでその辺の雑魚ならば一蹴できる。だが彼の強さの真髄はその身が詰まっている箱にある。元々はただの箱であったがミズキの能力の実験台としてよく使われていたので今や色々なものが飛び出すビックリ箱と化している。
「それよりおめぇ……今日のノルマは終わらせたのかよ?」
「ん? ぎゃはははは!! あいつは今日みかじめ料の集金で手一杯だからな! サボってもバレや……ぶべぇ!! 」
ガイモンが思い出したかのように確認するとバギーは大笑いして返答する。が、言い終わる前に後ろから頭を何かで殴られて目を回し倒れた。
「てめぇ何しやがる!! ……ゲッ!!」
「サボってたんだ……へぇ……いい度胸だね」
「ミズキ……おめぇ今日は集金の日じゃ……」
「さっき終わった……で、特訓サボってたの?」
バギーが怒りに叫び犯人を確認する。殴ったのは集金に行っていたはずのミズキ、彼は背中に背負った鞘から短剣を取り出すと柄の角でバギーの頭を思いっきり殴ったのだ。
「いやぁ……サボってたっつうかよ……その……なんだ」
「サボってたぞ」
「てめぇ!! 告げ口なんて卑怯だぞ!!」
「……覚悟はいい?」
「待て! 今すぐやってきますはい!!」
剣を振りかぶるミズキを見てバギーは慌ててバックへと下がっていった。ミズキが立てたノルマは毎日の筋トレや能力の特訓。バギーは調子に乗るとサボりだし弱体化するのは目に見えている。それを誰よりも理解しているミズキが課したノルマなのだが、これがものすごくキツいものだった。常人ならばとっくに限界になっているだろう。
「……いちごケーキ持ってきて」
「は! すぐに!」
ソファーに腰掛けながら近くの適当な部下に命令する。すぐにやってきたケーキを頬張りながらミズキはガイモンに確認する。
「君はちゃんとやったんだよね?」
「ああ、ノルマはこなしてるが……あいつ完全に尻に敷かれてるな」
冷や汗をかきながら答えるガイモン。自分もサボっていたらと考えると恐ろしくて考えたくもないと思いつつ船長に同情する。
「さすがお嬢! キャプテンバギーにあんな態度をとれるのはお嬢くらいだぜ!」
「あんたもやっぱりすげぇ人だ!!」
その様子を見ていた周囲の部下達は一連のやり取りに興奮に歓声を上げる。どう解釈すればそうなるのかとガイモンは半ば呆れ顔でその光景を呆然と見つめている。一方のミズキはいつの間にかおかわりしたのか二つ目のケーキを頬張っていた。
「お嬢、ご報告します! たった今船が完成したようです!」
「!? ……おお、ついに完成したのか!」
「んぐ……わかった……もぐ……バギーにも伝えてきて」
「おめぇ話す時くらいケーキ口に入れるのやめとけよ……」
報告を受けたミズキはバギーにも伝えるように部下に指示を出す、ケーキを頬張りながら。ガイモンからツッコまれつつしばらく待つとバギーが血相を変えて走ってきた。
「はぁ……はぁ……俺様の船がついに完成したのか!?」
「……バテバテだね」
「誰のせいだ!!」
肩で息をしながら確認するバギーにミズキがそう呟く。しかしバギーはお前のせいだと言わんばかりに反論した。実際彼がバテているのは走ってきたのもあるが大半はミズキの特訓が原因なのだが。
「だが船が完成したってことはつまり……」
「ああ、いよいよ入るとしようか」
半年前から町の職人を中心に作らせていたバギー海賊団の海賊船。元々町には海賊達の船が何隻かあったのだがそれでは性能が不足している。何故なら彼らがこれから行くのは東の海よりも遥かに過酷な海なのだから。
「懐かしの……偉大なる航路へ!!」