ソードアート・オンライン NEOプログレッシブ   作:ネコ耳パーカー

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お久しぶりです。
ストックが尽きかけて来ました…。
ヤバいですね☆


24話

outside

 

【迷いの森】。

アインクラッド35層にある森林のフィールドだ。

細かくエリア分けされたここはマップがないと、まともに進むことすら叶わない、かなり複雑なエリアなのだ。

そんなエリアに

 

「くっ…!」

 

1人の少女が迷い込んでいた。

まだ幼いこの少女は、中層では人気者で【フェザーリドラ】というモンスターを、【飼い慣らし(テイム)】した【ビーストテイマー】なのだ。

しかし、少し前までパーティを組んでいたメンバーと衝突。

そのまま1人でこの森に入ってきてしまったのだ。

 

「ここ…何処なの…?」

 

戦闘しながらだったため、タダでさえ迷子になるこの森で更にどこにいるか、分からなくなってしまったのだ。

【フェザーリドラ】の【ピナ】を不安そうに撫でながら進むと、突然ピナが威嚇し出す。

 

『キュルル!』

 

「!?3体?」

 

テイムモンスターには索敵能力がある。

現れたのは【ドランクエイプ】というゴリラ型のモンスターだった。

この辺りでは1番強いモンスターであり、幾ら安全マージンを取っていても、疲労困憊でアイテムも消費している彼女には3体は、危険だった。

しかし、逃げることも叶わず戦闘を余儀なくされた。

 

「やぁぁぁぁ!」

 

少女は短剣を抜き、ソードスキルで攻撃する。

一撃で半分以上減らすも、後ろにさがられ、代わりに別の個体が出てくる。

追撃は叶わずそちらの対応を余儀なくされた。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

またもや半分以上削ると、後ろに下がろうとする。

その前に一気にカタをつけようと追撃に動いた瞬間

 

『キュルル!!!』

 

ピナの声に咄嗟に身を翻す。

そこには2体の無傷の【ドランクエイプ】がいた。

 

「え!?増えた!?」

 

周りを確認するも数は3体と変わっていない。

訳が分からずにいると、奥の1体が持っていた瓢箪の中身を飲んでるのが見えた。

その時、そのモンスターのHPは回復したのだ。

 

「!?嘘!?回復するの!?」

 

これまではパーティで、回復する隙を与えないくらい素早く倒したので、その事を知らなかったのだ。

それ以降も猛攻は続く。

疲労と焦りで空振ってしまった彼女の隙を【ドランクエイプ】は見逃さなかった。

 

「きゃぁぁ!」

 

攻撃され吹き飛ばされる少女。

その一撃は3割も彼女のHPを削った。

それを見た時、背筋が凍った。

これを後3回も喰らったら…そう考え、死を明確に意識してしまったのだ。

アイテムは尽きた。

体は恐怖で動かない。

振り上げられる棍棒に目を瞑る。

何時までも衝撃は来ない。

恐る恐る目を開けると

 

「!?ピナ!?」

 

主人を守った使い魔が地面に伏していた。

 

「ピナ!しっかりしてピナァ!!」

 

『キュルル…』

 

少女の叫びも虚しくピナはポリゴン状に散ってしまう。

 

「…ピナ。置いてかないで…ピナ…」

 

泣く事も出来ない少女を前にしても、モンスターに感情は無い。

無慈悲に棍棒を振り下ろすその瞬間、【ドランクエイプ】達は細切れにされていた。

 

「…え?」

 

ポリゴン状に散っていく奥にいるのは、1人の男だった。

 

「…大丈夫か?」

 

その男は赤いコートをはためかせ、紫色の髪をしていた。

少女を見る赤い瞳は心配の色を浮かべていた。

 

sideツキノワ

 

間に合わなかったか…。

俺は索敵スキルで引っかかった方に走ったが、相変わらずの複雑さに手間取ってしまい、着いた時には既に何か起きた後だった。

 

「私は…でも、ピナが…」

 

彼女は羽状の何かを握りしめながら俯く。

 

「君は…ビーストテイマーなのか…。それ名前あるか」

 

少女はタップして詳細を確認する。

 

「…【ピナの心】…」

 

アイテム名を見て、また泣き出す少女。

 

「泣くな泣くな!?落ち着けって!心アイテムならまだ間に合う!3日以内なら蘇生可能なんだ!」

 

俺はたまたまこの間デートの際、調べてたらついでに出てきた情報を教える。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ、47層にある【思い出の丘】にある【プネウマの花 】を使えば、復活出来るんだ」

 

少女の顔は明るくなるも、一瞬で暗くなる。

 

「47層…」

 

35層で苦戦する彼女では、47層は厳しいのだろう。

ふむ…丁度いいか?

俺はストレージから幾つかの装備を引っ張り出した。

 

「これとこれと…あとこれと…あ、これも。これだけあれば大丈夫だろ。ほら、やるよ」

 

「へ?ま、待って!待って下さい!こんなの受け取れません!」

 

そうは言われても、こっちも事情がある。

 

「君が来ないと意味が無いんだ。それに何時までもタンスの…違うか、ストレージの肥やしにしておくのも勿体ない」

 

最もらしい理由を答えながらトレード画面に出す。

 

「あの…お金は…」

 

「要らない…その代わりに君には…命を懸けてもらう」

 

「…え?」

 

俺はここに来た理由を話す。

彼女は酷く驚いていたが、俺は気にしない。

 

「もちろん君の命は、俺が命を懸けて守る。ただそのリスクは背負ってもらう。自分の命か、テイムモンスターの命か。好きな方を選べ」

 

俺は冷酷に2択を突きつける。

心は痛むが、それでも俺は心を鬼にする。

彼女ならきっと…

 

「…ピナは、命を懸けて、私の命を救ってくれました。今度は私がピナを助けます!命を懸けても!」

 

やっぱり。

彼女ならそう選ぶはずだと思った。

そんな気がしていた。

 

「分かった。なら俺は君の命を守る。 たとえ俺の命を懸けてでも。俺はツキノワだ。君は? 」

 

「…【シリカ】です。よろしくお願いします。【剣豪】のツキノワさん」

 

「…その二つ名は止めてくれ。恥ずい」

 

主街区【ミーシェ】に戻った俺達は宿屋に向かっていた。

 

「何処かオススメはないか?」

 

「私もあまり…私の泊まってる風見鶏亭には下にレストランがあって、チーズケーキが美味しいですよ?」

 

「何!?チーズケーキ!?」

 

マジか!?知らなかった!?

もっとリサーチしとけよ俺!

…しまった。ついテンションが…。

 

「…好きなんですか?チーズケーキ」

 

「…というより、甘い物が好きなんだ…ほっとけ」

 

ヤバい、さっきより恥ずい。

顔どころか耳まで真っ赤なのが自分でも分かる。そんな俺の耳に、笑いを噛み殺す声が聞こえる。

 

「…おい笑うな」

 

「だって…さっきまでと…アハハハ!!」

 

「わ〜ら〜う〜な〜!!」

 

「アハハハ!!」

 

全く不届きな奴だな!

…まあ、笑ってくれるならいいか。

シケた面されるよりよっぽどマシだ。

 

「「シリカちゃ〜ん!」」

 

ん?誰か来た。

 

「シリカちゃん!遅かったけど大丈夫!?」

 

「心配したよ…誰あんた?」

 

おや?俺を睨んで何事?

 

「あの…私この人とパーティ組むので…」

 

俺の腕を掴みながら、苦笑い浮かべるシリカ。

 

「あんたな〜!横入りすんなよ!みんな順番待ちしてるんだぞ!」

 

いや知らんわ。

そんな事情。

 

「ふ〜ん…明日には47層行くけど、着いてくる?」

 

「「よ、47層!?」」

 

行く階層を教えるとビビり上がる2人。

そりゃそうだ。

 

「お、お前は大丈夫なのかよ!?」

 

1人が声を震わせながら聞く。

俺は鼻で笑って一言で切り捨てる。

 

「余裕。…行くぞシリカ。早くチーズケーキ食べたい」

 

「あ、はい!それでは失礼します!」

 

シリカは律儀に頭を下げて、俺に着いてくる。

 

「はぁ…シリカ。これが終わったら俺の彼女と姉を紹介するから、男のあしらい方を教われ。律儀に全部を相手したら、絶対に面倒事になるぞ」

 

「彼女と姉って…【閃光】のアスナさんと【狩人】のミトさんですか?」

 

「そう…やっぱりあのニュース、ここでも広まってるか…」

 

「むしろアインクラッド中に広まってると思いますよ」

 

「アルゴメェ…」

 

あのネズミどうしてやろうか…そう思ってると

 

「あらぁ?シリカじゃなぁい!」

 

妙に甘ったるい、耳にベタっと残る声が聞こえる。そこには赤い髪のおばさんがいた。

 

「…ロザリアさん…」

 

…なるほど…こいつが…シリカには話してあるから、こいつの事も知っている。

 

「あら?あのトカゲは…まさか」

 

「確かにピナは死にました…ですが!生き返らせます!」

 

「へぇ、【思い出の丘】に行くのね。でも貴女程度で大丈夫なの?」

 

ロザリアはシリカをねっとりとした視線で見る。

 

「余裕だよ。あの程度なら簡単だ」

 

俺はシリカの前に立ち塞がる。

 

「へぇ…いい装備してるけど、あんたも誑かされたの?…あら、よく見るといい男じゃない。そんなちんちくりんより、私と来ない?」

 

…うわ…気持ち悪い。

俺こういうの無理。

 

「悪いけどお前みたいな気持ち悪い、厚化粧ババアこっちから願い下げだよ。お前なんかよりシリカの方がよっぽどいい女だ。まあ、俺は彼女いるけど」

 

「厚…!?ババア!?」

 

「いい女!?」

 

ん?2人揃って何を赤く…いや、ババアの方は挑発したし、当たり前か。

 

「とにかく、邪魔」

 

そう言って俺はシリカの手を取り、先を急ぐ。

後ろで何かヒスってるが気にしない気にしない。

 

「どうして…あんな酷い事言うのかな…」

 

宿屋に着いて、飯を食べてる時にシリカが呟く。

 

「シリカはMMOはこれが初めて?」

 

「はい…ツキノワさんは?」

 

「俺もだ。…兄弟分と姉貴曰く。こういうゲームでは性格が変わる奴が多いんだと。かくいう姉も元は性別偽ってやってたしな」

 

見た事は無いけど、きっとあの格ゲーみたいなおっさんなんだろうな。

そんな気がする。

 

「逆ネカマって言えばいいのか?」

 

「そ、そうなんですね…」

 

「ま、小難しく考えるな。要は自分がどう生きていくか、それだけだ。さて、そろそろケーキ食べよう!すみません!」

 

俺達はケーキを食べて解散した。

ケーキの味?美味かった…!

 

sideシリカ

 

不思議な人。

最初はすごく冷たい人だと思った。

でもケーキの話をした時、目が輝いてた。

その後すごく顔を赤くしながら恥ずかしがってた。

ロザリアさんには、冷静だったけど怒ってた。

ご飯食べる時は優しかった。

きっと本来のあの人は感情豊かな人なんだろう。そんな彼と付き合ったらきっと凄く楽しいのかな。

彼女さんのアスナさんは会った事ないけど、きっと楽しそう。

お姉さんのミトさんにも会った事は無いけど、心配になりそう。

きっとあの人は信頼出来る…。

今まであまり大人の男性は信用出来なかった。

求婚までしてくる人もいた。

だから上辺だけの付き合いをしてきたけど…あの人ならきっと…。

そう今日の事を振り返ってるとノック音がする。

 

「は、はい!?」

 

「ツキノワだけど、明日の説明し忘れた。入っていい?」

 

「あ、はい!少し待っ…!?」

 

私は普通に部屋に入れようとして、自分の姿を思い出した。

下着以外、全部装備を解いてた事を。

 

 

「す、少し待っててください!?」

 

「お、おう…?」

 

あ、危なかった…!!

慌てて身なりを整えてからツキノワさんに入ってもらった。

危うく大惨事なるところだった…。

 

「シリカ?どうした?」

 

「な、なんでもありません!?それより、そのアイテムは?」

 

何やらツキノワさんが、ツボのようなものを取り出した。

お香でもたくのかな?

 

「【ミラージュスフィア】ってアイテムだよ」

 

そう言って何やら操作すると、アインクラッドのホログラムが飛び出してきた。

 

「わぁ…!綺麗!」

 

思わず感嘆の声を呟いてしまう。

でもでも、綺麗だったんだもん!

その様子に穏やかに笑いながら、47層をピックアップして、説明してくれる。

 

「ここが主街区。でこっちが【思い出の丘】。この道を真っ直ぐ…」

 

突然、説明をやめてドアの方を見る。

 

「ツキノワさん…?」

 

私の声は無視して、いきなり扉を乱暴に開ける。

 

「誰だ!?…チッ!逃げられたか。て言うか、聞かれてたな」

 

聞かれてた?この部屋の話を?

 

「で、でもノックしないと声は…」

 

「【聞き耳】スキルがあれば別だ。まあ、そんなスキル上げてるやつは中々いないけどな…」

 

「…これもあの人達の仲間なんでしょうか?」

 

「そういう事」

 

私は怖くなった。

ここまでする人達が本当にいるなんて…。

体が震えだす。

その時、ツキノワさんが優しく肩に手を置いてくれた。

 

「俺が言ったリスクはこういう事だ。君はそのリスクを背負うと、自分で決めたんだ。そこに俺は同情はしない。その代わり、俺は君を守ると約束した。だから俺を信じてくれ」

 

…ああ、そういう事か。

この人は私を子供として見てる訳じゃない。

1人のプレイヤーとして対等に見て話してくれているんだ。

だから冷たい訳ではなく、私を甘やかさないんだ。

 

「…はい。確かに怖いですけど、私は止まりません!ピナを救うって決めたんです!」

 

「…その意気だ。さて今日は休もう。明日の事は現地で説明するよ。それじゃあ、おやすみ」

 

「はい!おやすみなさい!ツキノワさん!」

 

そうして彼は部屋を出た。

私はそれを見送ってベッドに寝っ転がった。

あんな人初めて会った。

大抵私を子供扱いするか、マスコットみたいに扱う人が殆どだ。

中には求婚する人もいたが、それは忘れる。

だけどあんな風に対等に見てくれる人は初めてだった。

だから信頼出来る。

 

「…おやすみ、ツキノワさん」

 

そうして私は明日に向けて寝る事にした。

夢で彼と背中合わせで戦ってる夢を見て、いつかそうなるといいなって思ったのは別の話。




シリカと会うのはツキノワでした。
ちなみに、シリカをヒロインにはしません。
良き兄的な存在を目指します。
それでは失礼します。

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