ソードアート・オンライン NEOプログレッシブ   作:ネコ耳パーカー

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最近真面目に運動を始めたネコ耳パーカーです。
よろしくお願いします。


27話

sideツキノワ

 

「…どういう事だ?これは」

 

キリトの呟きはここにいる全員の気持ちだった。

安全なはずの圏内で殺人事件が起きた。

この事実がもたらす衝撃は、計り知れなかった。

 

「…普通に考えれば、デュエルの相手が被害者の胸に槍を突き刺して、ロープで縛って、窓から突き落とした…。これしかない」

 

ケイタがポツっと呟く。

その呟きにキリトが返す。

 

「でもデュエルのWINNER表示がどこにも出なかった」

 

「でも!け、圏内でダメージを与えるには…」

 

「そう、デュエルしか有り得ない」

 

キリトの言葉にサチとアスナ先輩が反論する。

 

「…なんにせよ、このまま放置はできない。先輩、悪いですけど攻略は…」

 

「分かってるわ。それどころじゃ無くなっちゃったし。しばらくパーティ組みましょう?言っておくけど、お昼寝はさせないからね?」

 

「…よろしくお願いします。後で寝たのは先輩でっ痛ってぇ!?」

 

思いっきり握りつぶされた…、メチャ痛い…。

まあ、ペインアブソーバーがあるんだけどな。

 

「さてと、とりあえず私達はこの部屋をもう1回漁るから、キリト君達は目撃者を探してきて」

 

アスナ先輩が場を仕切り出す。

流石は血盟騎士団の副団長、様になる。

 

「?俺達も手伝うぞ?」

 

キリトがそう名乗りあげるが

 

「キリト!速く行くよ!」

 

「お前達も!行くぞ!」

 

何故かサチとケイタがみんなを手早く部屋から押し出す。

訳が分からないまま、部屋は俺達以外いなくなるった時だった。

 

「ツキノワ君。もう無理しなくていいんだよ」

 

そう言いながら、アスナ先輩に抱きしめられる。

…気づかれてたか。

 

「…俺、目の前にいたのに…助けられなかった…」

 

そう、あと一歩、あと一手速かったら助けられたかもしれなかった。

俺の剣豪スキルなら、十分間に合ったかもしれないのに。

 

「そんな事ない。あの状況、あれが最善、あれが最速だったよ。それでも間に合わなかった。ただそれだけ」

 

「でも…でも…!」

 

「もしかしての話は意味ないよ?今すべきなのは背負い込む事じゃないよ?次の被害を出さないようにする事。それが大事」

 

先輩の言葉が少しずつ俺の体を軽くしてくれる。

先輩の気持ちが少しずつ心を明るくしてくれる。

 

「例え、この世の誰が君を赦さなくても、誰よりも君が君自身を赦せなくても、私が貴方を赦します。だから、今は泣いていいんだよ」

 

「…ッ!!先輩…!!」

 

俺は遂に我慢しきれず、先輩の胸を借りて泣く。

もう、同じ事は繰り返さない、そう決意しながら今は泣き続けた。

泣き止んでから、俺達は黒猫団と合流して、情報共有をした。

黒猫団が調べて分かったのは

①発見者は【ヨルコ】というプレイヤー。

悲鳴も彼女のもの。

②死んだプレイヤーは【カインズ】。

スペルはKainz。

③2人は元同じギルド。

今晩、会う約束をしていた。

④広場ではぐれて、探していた所に出くわした。

⑤その際、後ろに見た事ない人影があった。

なお、恨まれるような事に覚えはないらしい。

 

「分かったのは、あの時の状況だけか」

 

「そうだな、次はこの槍だ。さっきサチが鑑定してくれた」

 

そうか、サチは生産職だから【鑑定】スキル持ってるんだったな。

 

「うん、これはプレイヤーメイドで名前は【ギルティソーン】。直訳すると罪の茨かな。作成者は【グリムロック】。少なくとも一線級の鍛冶屋じゃないよ。ちなみにロープも市販品」

 

なんと、殆どサチが調べてくれたのだ。

この事に俺とアスナ先輩は、呆れ半分にため息をつく。

 

「さっきの話もサチが聞いてくれたんだよな?」

 

「男子は何してたのよ?…まあいいわ、みんなはグリムロックって人の線を漁って。私達はシステム的な線を漁るわ」

 

「システム的な線?どういう事だ?」

 

「…とりあえず、今日は解散。俺達は明日、プレイヤーの中で、最もSAOに詳しそうな人に話を聞いてくる」

 

 

outside

 

「ツキノワ君、今回の件、君はどう考える?」

 

次の日、ツキノワとアスナは、50層の待ち合わせの店に着くまでの間、見解を纏めていた。

 

「…大きくわけて3つです。1つ目は正当なデュエル。2つ目は既存のシステムを使ったシステムの抜け道。3つ目は未知のスキル・アイテムの存在。でも3つ目は正直ないと思います」

 

「その心は?」

 

「フェアじゃないからです。このゲームは基本的にフェアネスを貫き通してます。ここに来てこれを覆すなんて無茶苦茶です。」

 

「なるほど…」

 

「…ところで本当にこっちなんですか?待ち合わせの店って」

 

「ええ。…どんどん奥に入ってってるけど…。」

 

「ちなみに指定したのは誰?」

 

「…ミトよ」

 

「…そんな気がしてたけど…本当にあいつは…」

 

ミトが指定した店と言うだけで、2人の顔は優れない。

というのも、ここでもリアルでも彼女の選ぶ店は割とピンキリなのだ。

 

「変の所でチャレンジ精神豊富っていうか、なんて言うか…」

 

「…ちなみにお店の事話したら、キリトも推してた」

 

「ダメなやつじゃない!?彼もチャレンジ精神は大概でしょ!?」

 

思わず大声でツッコミを入れるアスナ。

2人揃ってため息をついてると

 

「ツキノワ!アスナ!大丈夫!?」

 

前からミトが走りよってくる。

 

「ミト。いきなりごめんね」

 

「…ううん、気にしないで。流石に無視できないから圏内殺人なんて。それより…無事仲直りできたのね。良かった」

 

ミトは胸を撫で下ろす。

2人の事が、ずっと気が気じゃなかったのだ。

 

「う…それは…ごめん。心配かけた」

 

「もう大丈夫よミト。心配かけてごめんね」

 

「うん!さて、本題に入らないと。団長!お待たせしました!」

 

「うむ、どうやら2人の仲は無事元通りになったようだね」

 

そう言って奥からやってくるのは

 

「久しぶり、ヒースクリフ」

 

「ああ、久しいねツキノワ君」

 

血盟騎士団団長、ヒースクリフだった。

 

「…ふむ、圏内で殺人事件か。確かに不可解だ」

 

ここは50層の料理屋。

そこに、ツキノワ達とミトとヒースクリフはいた。

 

「そもそも圏内ではHPゲージを1ポイントも減らすことは、元々出来ないはずなんだ」

 

「団長、どう感じますか?」

 

「…その前に、ツキノワ君、アスナ君。君達はどう考えているのかな?」

 

ヒースクリフは自分の意見からではなく、ツキノワ達の見解から聞く。

その姿はまるで学者のようだ。

 

「…先輩にも話したけど、大きく分けて3つ。1つ目は正当なデュエル。2つ目は既存のシステムを使ったシステムの抜け道。3つ目は未知のスキル・アイテムの存在。でも3つ目は正直ないと思います」

 

「その通りだ。3つ目の可能性については除外して良い」

 

ツキノワが3つの可能性を言った直後、彼は即座に3つ目の可能性を否定した。

その事にミトが質問する。

 

「団長、どうしてですか?」

 

「よく考えるといい。君たち自身がこのゲームを作るとしたら、そのようなスキル、武器を作るかね?」

 

「…無いですね」

 

「理由は?」

 

ヒースクリフの言葉にミトは渋々といった感じに、理由を話す。

 

「理由は1つ。認めるのは癪ですが、このゲームはあの日から基本、公正さ…フェアネスを貫いてきています。それを急に覆すのは考えられません。例外的に【ユニークスキル】を除いては」

 

ミトは話しながらヒースクリフとツキノワを見た。

ツキノワは気まずそうに視線を逸らしたが、ヒースクリフの表情からは何も伺うことは出来なかった。

その言葉にアスナが続く。

 

「流石に今の段階で3つ目の可能性について討論するのは無理があるかと……なので今回は1つ目の正当なデュエルによるPKについてから検討しましょう」

 

「よかろう……しかし、この店は料理が出てくるのが遅過ぎないか?」

 

やはりヒースクリフも気になったようだ。料理を頼んでかなり時間が経っている。

 

「私はここのマスターがアインクラッドで1番やる気のないNPCだと確信してます。まあ、そこも含めて楽しみましょう。はい、氷水」

 

「ありがとう」

 

「はい、アスナも」

 

「あ、ありがと」

 

「ミト、水の飲みすぎで、腹いっぱいなるぞ?これで3杯目だし…」

 

露骨にため息をつくツキノワに、ミトはムスッとするように言った。

 

「これしかないし、しょうがないでしょ」

 

ツキノワは仕方ないと言った感じで口を潤して、自らが見たことを説明し始めた。

 

「圏内でプレイヤーが死んだんなら、それこそデュエルの結果が常識だ。でも…これは断言する。カインズが死んだ時、WINNER表示はどこにも出てなかった。そんなデュエルあるか?」

 

「そもそも、WINNER表示って、どこに出るものなの……?」

 

アスナの疑問にヒースクリフはすぐに答えた。

 

「決闘者同士の中間位置、あるいは決着時2人の距離が、一定距離以上離れている場合は、双方の付近に2枚のウィンドウが表示される」

 

「なんでそれ知ってんだよ。まさか何回もデュエルして調べたのか…?」

 

唖然としながらツキノワがヒースクリフに突っ込む。

 

「そもそも広場でウィンドウを見た人はいなかったし、アスナも教会の中でWINNER表示を見なかったのね?」

 

「ええ」

 

「じゃあ、デュエルの結果…とは言いづらいよな。ってことは…」

 

「…ねえ、ミト。店の選択を間違ってない?注文してから10分は経ってるよ?」

 

「…まあ、首がキリンになるまで気長に待ちましょう」

 

「それはそれで困るんだけど!?」

 

真面目な話の合間に行われるコントに、少し笑うヒースクリフ。

 

「気を取り直して…残るは2つ目…システム上の抜け道、だな。まあ、そうだろうとは思ってたけど…」

 

「…私、引っかかるのよね」

 

「何が?」

 

「【貫通継続ダメージ】よ。あれ、公開処刑の演出としてってだけではないと思うの」

 

「でも、貫通継続ダメージが圏内で続かないのは、さっきも試したから分かったことですよね?」

 

サラッと言われた言葉にミトが思わずストップをかける。

 

「ちょっと待って。ツキノワ、試したって何?」

 

「こっち来る前にモブの剣を刺したまま、街に出入りしてみたんだよ」

 

「…何してるのアンタは!!」

 

実はここに来る前、少し検証してから来たのだが、その事でミトに説教されることになった。

 

「でも、あれを転移結晶や回廊結晶で試したらどうなるのかしら…?」

 

「無論、ダメージは止まるとも」

 

アスナの疑問に再び鋭く答えを返すヒースクリフ。

 

「徒歩や回廊などのテレポートであろうと、あるいは誰かに投げ入れられたとしても…つまり街の中に入った時点でコードは例外無く適用される」

 

「…じゃあ、上はどうなるんだ?例えばプレイヤーが落下ダメージで即死する高さからテレポートとしたら?」

 

純粋なツキノワの疑問に今回は少し考えるような仕草を見せたが、ものの数秒で答えた。

 

「…厳密には【圏内】は街区の境界線から垂直に伸びる次層の底まで続く円柱状の空間を指す。故に即死に値する高さからのテレポートであっても、落下ダメージは発生しないことになる。」

 

「「「へぇ〜」」」

 

すべての疑問に答えてみせたヒースクリフに感嘆の声を漏らす3人。

 

「なら、こういうのはどうだ?」

 

「「「ん?」」」

 

またもやツキノワが何やら思いつく。

 

「物凄い威力のクリティカルヒット食らった時って、HPバーってどうなる?」

 

「ごっそり減るわね」

 

「違うよ。俺が言ってるのは減り方。このSAOは他のゲームと違って、ダメージを受けた瞬間とHPゲージが減るのにはちょっとしたタイムラグがあるわけだ」

 

2人の推理に耳を傾け、ヒースクリフも目を閉じ静かに聞いている。

 

「例えば、圏外でカインズのHPをあの槍の一撃で全部吹き飛ばとして。カインズはおそらくタンクだ。HPの総量を考えれば、HPが全て無くなるまで…約5秒。その間に…」

 

「手法としては不可能ではない。だが、無論君達を知っているだろう。貫通属性を持つ武器の性質を」

 

ツキノワの思いつきをヒースクリフが、真っ向から否定する。

 

「リーチと装甲貫通力に特化している武器ですね」

 

貫通属性を使うアスナが、ヒースクリフの言葉に答える。

 

「その通りだ、アスナ君。打撃武器や斬撃武器には単純な威力で劣る。重量級の大型ランスならともかく、ショートスピアなら尚更ではないかね?」

 

痛いところを突かれたな、とツキノワは渋い顔をする。

 

「そのショートスピアが高級品ではないのだとして、ボリュームゾーンの壁戦士を一撃で即死させようと思えば…そうだな、現時点レベル140はないと不可能だろうね」

 

「140!?私達でさえレベル100になってまだまもないのに…!?」

 

140という誰も到達しえないであろうレベルにアスナが震えながら呟く。

因みに攻略組のトッププレイヤー達は殆ど90、ツキノワ達に至っては少し前に100に到達したところだ。

 

「十中八九そんなプレイヤーはいないだろうね。…私もここまでレベルが高くなるとは思っていなかったのだよ」

 

ヒースクリフも同意見のようだ。

最後何かを呟いたが、彼らの耳には入らなかった。

 

「ならレベルじゃなくて、スキルって線はどうだ?……2人目の《ユニークスキル》の使い手が現れたってのは?」

 

「そんなプレイヤーがいたなら、私が即座にKoBに勧誘しているだろうね…ツキノワ君、君も」

 

「入らないからな」

 

全ての推理を真っ向から全否定されたツキノワ。

そんなツキノワを勧誘するヒースクリフだが、それを真っ向から否定するツキノワ。

 

『…お待ち』

 

すると店の奥からおぼんに丼を4つ乗せて運んできたこの店の店主が現れた。

いつも通りの接客態度を見せ、安心した様子のミト。

 

「あっ、キタキタ」

 

「15分もかかるってどういうことだよ…?」

 

「知らないわよ」

 

ツキノワの疑問にミトは遠い目をしながら答えた。

 

「…これは…」

 

「…ラーメンなの…?」

 

「正確にはラーメン、のような何かね」

 

4人は一斉にラーメンのような何か……通称【アルゲードそば】を啜る。

勿論味はミトの台詞を肯定するかの如く、なんとも微妙な味だ。

常に表情が崩れないポーカーフェイスのヒースクリフも流石に顔をしかめた。

 

「さて、ヒースクリフ。何か閃いた?」

 

「…ふむ」

 

五、六分後。

そのラーメン擬きを完食したヒースクリフは顰めた顔の状態で、答えた。

 

「一つだけ言えることは…これはラーメンでは無い」

 

「全面的に同意見だけど、違うそうじゃない」

 

大真面目に答えるヒースクリフに思わずツッコミを入れるツキノワ。

意外にもヒースクリフは、天然なのかもしれないと3人は思った。

 

「ではこのラーメンもどきの味の分だけ、答えることにしよう」

 

そして、彼は割り箸を丼に置き、答えた。

 

「今揃っている材料のみで何が起きたか、それを断定することは不可能だ。だが、これだけは言える。この事件に関して唯一確実と言えるのは、君らがその眼で見た事、その耳で聴いた事のみである」

 

「「「ん?」」」

 

難し過ぎて何を言っているか分からない。

意味不明な説明だった。

 

「つまり、ここで直接見聞きするものは、デジタルデータであり、そこに幻覚や幻聴が入ることは無いという事だ。だがしかし、その他のデジタルデータでない情報には、常に幻や嘘が入る可能性がある。この事件を追いかけるのならば、己の目や耳、つまり己の脳が直接受け取ったデータだけを信じることだ」

 

彼はそう言い残し、ご馳走様とだけ言って店を後にした。

 

「なぜこんな店があるのだ…」

 

そう言い残して。

 

「…どゆこと?」

 

「多分、自分たちがその場で見て、聞いた事だけを信じなさいって事じゃないかしら」

 

「他から入手した情報は虚偽が入り込んでいる可能性がある、ということね」

 

「分かりやすく言ってくれよ……」

 

テーブルに突っ伏しながらツキノワは帰ってしまったヒースクリフに愚痴を零した。

 

「あとこの店は二度と来ない」

 

「何でよ!?」

 

「逆に来ると思うの!?これなら私達は自分で作るわよ!」

 

ミトのオススメは絶対に来ない。

改めてツキノワとアスナは誓ったのだった。

 

「…ん?キリトからだ…へ?」

 

キリトからのメッセージを受け取ったツキノワは、その内容を見て、絶句した。

 

「…どうしたの?」

 

アスナが尋ねると、震える声でこう返した。

 

「…ヨルコさんが…死んだ…?」




ミトのお店チョイスの悪さを勝手に決めました。
だって、彼女何やらキリトみたいなところあるんだもん…
ゲームに対する態度とか。
ありがとうございました。

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