ソードアート・オンライン NEOプログレッシブ   作:ネコ耳パーカー

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圏内事件も佳境です。
最近寒いですね〜
雪はもう勘弁です。
それではよろしくお願いします。


29話

sideミト

 

「基本的にプレイヤーの圏内ではHPは減らない。でも、オブジェクトの耐久値は話が別だ。さっきのアイテムみたいにね」

 

ツキノワはそう言って謎解きを始めた。

 

「あの時、あの槍はカインズのアーマーを貫通していた。あの時削っていたのはHPではなく、カインズのアーマーの耐久値だったんだ」

 

「じゃあ、あの時飛び散ったのは…」

 

アスナの言葉にツキノワは頷きながら答える。

 

「はい、カインズのアーマーです。そしてアーマーが砕けるまさにその瞬間、結晶でテレポートしたんです」

 

「そうか!」

 

突然キリトが、納得いったと言わんばかりに、手を叩く。

 

「ヨルコさんの時も同じだ!あの時彼女は誰にも背中を見せなかった。ケープの耐久値を確認して、砕ける直前で、いかにも今刺されたみたいな演技をしたんだ!」

 

「じゃあ、キリト達が見た黒いローブの男は…」

 

「十中八九、グリムロックじゃない。カインズじゃないかな。2人はこの方法なら死を偽装出来ると踏んだんだろう。圏内殺人という最高の演出を加えながら。そしてその目的は…」

 

「指輪事件の犯人を見つけ出すこと、ね」

 

私の言葉に、ツキノワは頷く。

タネが割れれば、なんて事ないわかりやすいトリックだ。

でもそれを実際にやるのは、かなりシビアな事だと思う。

 

「彼らは自分の殺人事件を偽装し、幻の復讐者を作りあげた」

 

「おそらく、シュミットの事は、ある程度疑ってたんだろうな…」

 

「ああ、狙いがピンポイントだったしそうだろうな。キリト、ヨルコさんとフレンドにはなってないのか?」

 

「なってるぞ。調べてみる」

 

メニューを立ち上げ、少し調べているとすぐにわかった。

 

「いた、19層の主街区の外れの方だな」

 

「そうか…まあ、ここまでだな。後は彼らに任せよう」

 

これでこの事件は終わり。

分かってしまえば、呆気ないものだった。

30分前までは、そう思っていた。

 

「間に合って…!!」

 

 

sideツキノワ

 

「2人はレアアイテムがドロップしたらどうする?」

 

近くのレストランで一休みしていると、突然先輩がそんな事を聞いてきた。

 

「ん〜、そうだな…。俺はそういうのが嫌で、ソロやってるのがあるしな」

 

「俺も同じくです。もしギルドに入っていたら…俺は直ぐに言って、俺のだってアピールします。言ったもん勝ちです」

 

俺達はそれぞれの理由を言う。

 

「あんたらしいわねツキノワ…。うちはドロップした人のもの、そういう風に決めてるのよ」

 

ミトが血盟騎士団のルールを教えてくれる。

 

「このゲームでは何が出たかとかは、自主申告しないと分からないでしょ?だからその手のトラブルを避けるには、そうするしかないのよ。…でもだからこそ、この世界の結婚に重みがあると思うの」

 

アスナ先輩のしみじみとした顔に俺は不思議に思う。

 

「どういう事ですか?」

 

「だってストレージ共有化ってある意味、身も蓋もないじゃない。それまで隠せた事が、隠せなくなる。ストレージ共有化って、凄くプラグマチックだけど、同時に凄くロマンチックなシステムだと思うの」

 

アスナ先輩のそのウットリとした顔と声に、俺は真剣に結婚について考えた。

 

「プラグマチック?」

 

「実際的ってことよ。それより…2人はいつ結婚するの?」

 

ミトが爆弾を落としてきた。

 

「「な、何言ってんだよ(るのよ)!!?」」

 

2人揃って顔真っ赤にしてるのがわかる。

 

「俺達に結婚なんて!?」

 

「何言ってんのよ!男らしくしゃんとしなさい!」

 

「ミトこそ何言ってるのよ!?ツキノワ君はこの前だって凄く男らしかったわよ!」

 

…このおバカ。

これはヤバいやつだ。

 

「この前?この前ってもしかして初デートの時?貴方達、あの時何をしたのよ?」

 

「…あ、あの…えっと…そのぉ〜…」

 

「…貴方達まさか!?」

 

思わず2人揃ってミトから視線を逸らす。

その逸した先には、キリトが難しい顔で考え事をしていた。

 

「キリト?どうした?」

 

何やらミトが騒いでいるが、それは無視してキリトに話しかける。

 

「…もし片方が死んだ時、死んだ相手のアイテムはどうなるんだ?」

 

急になに物騒なことを言ってるんだ?

えっと、ストレージは共有化してる訳だし…

 

「…もう1人に全部行く?」

 

そう答えた瞬間、場が一気に静かになった。

 

「それって…指輪は盗まれてなかったって事?」

 

「いや、この場合…盗まれたって言った方が正解です。まさか、グリセルダを殺したのは…グリムロック!?」

 

「もしそれをレッドギルドに依頼していたら…シュミットが危ないわ!!」

 

「そんな事引き受ける奴らは【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】しかいない!」

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】とは、犯罪者ギルドの代表格だ。

リーダーのPoHを始め、奴らに殺されたプレイヤーの数は多い。

 

「キリト!19層には馬がいたよな!」

 

「いたけど…まさか!乗れるのか!?」

 

「なりふり構ってる暇ない!」

 

「無茶苦茶!」

 

「速く行くぞ!!」

 

「アスナ!貴女は1度ギルドに戻って数を揃えて!いざとなったら突っ込んできて!」

 

「わかった!パーティ申請して!何か異常があったら突撃するわ!」

 

アスナ先輩の提案を受けいれた俺達は、直ぐに店を飛び出して、19層に向かった。

そのまま馬を借りて、森を駆け抜ける。

 

「ツキノワ!このまま突っ込むわ!」

 

「わかった!接敵まで3,2,1!今!」

 

俺達は一気に突っ込み、3人のプレイヤーを蹴散らした。

そこには黒いローブを着た3人組と、ヨルコ、カインズ、シュミットがいた。

 

「あんた達…どうして…?」

 

「間に行ったな…何とか」

 

「久しぶりだなPoH。相変わらず暑苦しそうな雨合羽だな」

 

「てめぇの黒づくめには言われたくねぇぜ、【黒の剣士】。それに【剣豪】に【狩人】とは…随分大盤振る舞いじゃねぇか」

 

キリトとPoHが軽口を叩きながら、睨み合う。

 

「【剣豪】…オ前ハ…俺ガ…殺ス…!」

 

「俺をご指名か?【赤目】の【ザザ】。いいぜ、こいよ」

 

俺とザザはお互いの得物を抜きながら、構える。

 

「俺はお前だな!どうしようかな!?どうされたいんだ【狩人】!!」

 

「一々煩いわよ【ジョニーブラック】。その煩い口、閉じさせてやるわ」

 

ミトとジョニーブラックが、挑発しながら、隙を伺っている。

誰かが身じろいだ時、俺達は一気に踏み込んだ。

 

 

outside

 

「シッ!」

 

「フッ!」

 

1番最初に接敵したのは、ツキノワとザザだった。

 

「ハァ!」

 

ツキノワは、1度たりもとザザの攻撃を、喰らう訳にはいかない。

その剣先には、きっと毒がある。

故に、動き続け、狙わせないように、しなくてはならない。

 

「シッ!」

 

一方のザザは、1度たりとも受け止められない。

その破壊力の前では、武器ごと両断されかねない。

故にザザは、止まらずに動き続けて、躱し続けなくては行けない。

2人の戦いは、次第に攻防の切り替えが、速くなっていく。

ザザが突きを放つも、それは横に弾かれる。

その反動を利用し、ツキノワは横一文字に斬ろうとするも、回転しながら躱される。

ザザは回転した勢いを利用し、顔面を狙うもそれは剣の腹で、逸らそれる。

お返しと言わんばかりに、ツキノワも突きを放つも、躱され、腹を蹴られ体勢を崩す。

ザザがその隙を突こうとした瞬間、ツキノワの斬撃が彼を吹き飛ばす。

お互いに距離を取り、体勢を整える。

彼らには一つだけ、ある共通点があった。

それは、互いに技を磨き続けてきたという事だ。

その2匹の剣鬼は、奇しくも同じ感情を抱いていた。

 

((タノシイ…!!!))

 

お互いに笑みを浮かべながら、再び衝突する。

その笑みはまさに、修羅の笑みだった。

 

sideミト

 

私は鎌をしっかりと構え、油断なく周囲を警戒していた。

ふと、風を斬る音が聞こえ、そちらに鎌を振ると、金属同士がぶつかる音が聞こえた。

 

「勘がいいな!狩人!」

 

「そういうあんたは分かりやすいわね」

 

ジョニーブラックは毒使い。

こいつの毒で死ぬ事はないだろうけど、何されるかわかったもんじゃない。

だがら、攻撃を受ける訳にはいかない。

 

「というか、一体何本目よこれ?持ちすぎじゃないかしら」

 

嘘だ、本当は知っている、15本目だ。

私が知りたいのはそこじゃない。

 

「さあな!?何本だろうな〜!!」

 

…見つけた。

3,2,1…今!

 

「そこね!」

 

私は弾いたナイフの1本を拾い上げ、投げつける。

 

「なにぃ!?」

 

慌てて茂みから、ジョニーブラックがでてくる。

その隙、この好機、逃さない!

一気に接近戦に持ち込む。

 

「てめぇ!?さっきまでの無駄話は!?」

 

「あんたの位置を炙り出すためよ。バカみたいに声がデカいから、思ったより簡単だったわ」

 

さらに挑発する。

この手の輩には、こういうのはよく効く。

 

「このクソアマァァァァァ!!!」

 

ほら、すぐにキレる。

本当にバカで助かるわ。

 

「隙あり…フッ!ハァ!!」

 

私は一気に攻めてきたジョニーブラックの腕を、切り落としてから、忍ばしていたこいつのナイフで、麻痺状態にさせる。

そのまま紐で縛りあげて、拘束する。

 

「ジョニーブラック、拘束完了」

 

sideキリト

 

「ハッ!」

 

「シャァ!」

 

俺の片手剣と、PoHの包丁型のダガーがぶつかる。

PoHが使う武器【友切包丁(メイト・チョッパー)】は、俺の50層フロアボスLAボーナスの【エリュシデータ】と同じ、魔剣クラスの武器だ。

そんな武器を十全に扱うこいつの技量は、本物だ。

 

「考え事か?」

 

「!?しま!?ガァ!」

 

一瞬の隙を突かれ、蹴り飛ばされる。

 

「まさか、剣だけで戦うのでも思ってたのかよ!?」

 

その隙に襲いかかってくるPoH。

しかし、すぐに身を翻した。

その直後、後ろから斬撃が飛んでくる。

 

「…何ボサってしてる。まだやれるだろ、兄弟」

 

気づくと、すぐ後ろにツキノワがいた。

その言葉と背中に感じる熱が、俺に力を与えてくれる。

俺はゆっくりと立ち上がり、剣を構え直す。

その剣の輝きは増し、黒により深みが出た気がした。

 

「…やっとヤル気になったか?黒の剣士」

 

「ああ…行くぞ」

 

俺は一気に近づき、正面から斬り掛かる。

それを防がれた瞬間、俺は剣を手放した。

 

「…あ?」

 

「おぉぉぉぉ!!」

 

惚けてるPoHの顎に、全力のアッパーカットを打ち込む。

 

「はァァァ!!」

 

すぐさま逆の手で剣を掴み、斬る。

イメージはツキノワの動きだ。

腹を斬り、下から斬りあげ、一気に切り落とす。

その連撃を受けて、吹き飛ぶPoH。

 

「ハァ…ハァ…」

 

少しやっただけでこの集中力だ。

これをボス戦でやってのけるツキノワは、やっぱりイカれてる。

改めて、兄弟のぶっ飛び加減を理解した。

 

outside

 

「ハ、ハハハハハ!!!やっぱり最高だぜ!!黒の剣士!!もっと殺ろうぜ!!…って言いてぇが、時間だな。あばよ」

 

突撃、PoHが何かを懐から取り出して、投げつけた。

1番速くキリトがその正体に気づく。

 

「煙玉だ!みんな気をつけろ!!」

 

その瞬間、瞬く間に煙が吹き出して、一体を包む。

 

「次ハ…確実ニ…殺ス…!!」

 

「逃がすか!?」

 

すぐに追撃しようとしたその時

 

「きゃ!!」

 

「「ミト!?」」

 

ミトの悲鳴が聞こえ、すぐにそっちに向かう。

そこには麻痺状態になって蹲ってるミトがいた。

 

「ミト!?大丈夫か!?」

 

「えぇ…麻痺ってるだけだから…それよりも…」

 

煙から晴れたそこには、3人の姿はなかった。

 

「ジョニーブラックに…逃げられた…!!」




ありがとうございました。
久しぶりの戦闘描写にかなり苦労しました。
実は最近走り出したんですけど、すんごい筋肉痛です。
なれないことは大変ですね…
この小説と一緒に頑張って続けていこうと思います。
それでは、失礼します。

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