ソードアート・オンライン NEOプログレッシブ   作:ネコ耳パーカー

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今回はきりよくする為に、短めです。
それではよろしくお願いします。


37話

outside

 

地下迷宮の安全地帯は真っ白な部屋で、真ん中に黒い石棺のようなものが置いてあるだけだった。

 

「ソードアート・オンラインというこの世界は、ひとつの巨大なシステムによって制御されています」

 

くろい石棺の前で、ユイは今までの子供っぽい喋りが嘘のように、流暢に話し出した。

 

「システム名は【カーディナル】。それがこの世界のバランスを、自らの判断に基づいて制御しているのです。カーディナルはもともと、人間のメンテナンスを必要としない存在として設計されました、二つのコアプログラムです。互いにエラー修正を行い、更に無数の下位プログラム群によって世界の全てを調整する。モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランス、何もかもがカーディナル指揮下のプログラム群に操作されています。…しかし、どうしても一つだけ、人間の手に委ねなければならないものがありました。プレイヤーの精神性に由来するトラブル、それだけは同じ人間でないと解決できない…。そのために、数十人規模のスタッフが用意される、はずでした」

 

ユイがそこまで語り、キリトが口を開く。

 

「ユイ……つまり君は、GM……ゲームマスターなのか?アーガスの、スタッフ……?」

 

キリトの質問に、ユイは静かに首を横に振って答える。

 

「カーディナルの開発者達は、プレイヤーのケアすらもシステムに委ねようと、あるプログラムを試作したのです。ナーヴギアの特性を利用してプレイヤーの感情を詳細にモニタリングし、問題を抱えたプレイヤーのもとを訪れて話を聞く……」

 

ユイはそこで一拍置き、自身の正体を明かした。

 

「【Mental Health Care Program】…略して【MHCP】試作1号、コードネーム【Yui】。それが私です」

 

サチが震える声で、尋ねる。

 

「プログラム…?AIって事なの…?」

 

ユイは悲しそうな笑顔のまま頷いた。

 

「プレイヤーに違和感を与えないように、私には感情を模倣する機能が与えられています。…偽物なんです、全部…この涙も…。ごめんなさい、サチさん…」

 

「でも…でも、記憶がなかったのは…?AIにそんなこと起きるの…?」

 

次に口を開いたのは、アスナだった。

 

「二年前。正式サービスが始まった日…何が起きたのかは私にも詳しくは解らないのですが、カーディナルが、予定にない命令をわたしに下したのです。それが、プレイヤーに対する一切の干渉禁止。具体的な接触が許されない状況で、私はプレイヤーのメンタル状態のモニタリングだけを続けました。状態は…最悪と言っていいものでした…。ほとんど全てのプレイヤーは恐怖、絶望、怒りといった負の感情に常時支配され、時には狂気に陥る人すらいました。私はそんな人達の心をずっと見続けてきました。本来であればすぐにでもそのプレイヤーのもとに赴き、話を聞き、問題を解決しなくてはならない…しかしプレイヤーにこちらから接触することはできない…。義務だけがあり権利のない矛盾した状況のなか、わたしは徐々にエラーを蓄積させ、崩壊していきました…」

 

ユイは声を震わせ語り、キリトとサチはおろか、ツキノワとアスナも何も言えずに聞き続ける。

 

「でも、ある日、いつものようにモニターしていると、他のプレイヤーとは大きく異なる、メンタルパラメーターを持つ数人のプレイヤーに気付きました。喜び…安らぎ…でもそれだけじゃない…。この感情はなんだろう、そう思って私はその人達のモニターを続けました。会話や行動に触れるたび、私の中に不思議な欲求が生まれました。そんなルーチンはなかったはずなのですが…その人達の傍に行きたい…私と話をしてほしい…。少しでも近くに居たくて、私は毎日、2人の暮らすプレイヤーホームから一番近いシステムコンソールで実体化し、彷徨いました。その頃にはもう私はかなり壊れてしまっていたのだと思います」

 

その2人がキリトとサチだったという事だ。

 

「森の中で、2人の姿を見た時…すごく、嬉しかった。…おかしいですよね、そんなこと、思えるはずないのに…。わたし…ただの、プログラムなのに…」

 

とうとう涙を溢れ、ユイは口を噤んだ。

その姿に、キリトとサチだけでなく、ツキノワとアスナも思うところがあった。

そんな中、キリトが優しくユイを抱きしめる。

 

「ユイはもうシステムに操られるだけのプログラムじゃない。だから、自分の望みを言葉にできるはずだよ。ユイの望みはなんだい?」

 

「…私は…私は…ずっと一緒に居たいです。パパと……ママと…お兄ちゃんと…お姉ちゃんと…ずっとここに居たいです…!」

 

「ずっと、一緒だよ、ユイ」

 

サチは泣きながらユイを抱きしめる。

 

「ああ。ユイは俺達の子供だ。一緒に帰ろう。そして、あの家でいつまでも暮らそう…」

 

そんなキリトの言葉に、小さく首を振るユイ。

 

「…もう…遅いんです…」

 

「遅い?どういう事だ?」

 

ツキノワが尋ねると、ユイは後ろにある黒い石棺を見る。

 

「これはただのオブジェクトじゃなくて…GMアカウントに緊急アクセスする為の、システムコンソールなんです。さっきモンスター倒すのに、これからデータをダウンロードしてしまったので、自然とカーディナルに、私というバグが認識されました。カーディナルシステムによって…私は削除されてしまうのかと」

 

それを証明するかのように、徐々にユイの身体が透け出す。

 

「嘘…だろ…!?」

 

「そんな…!?」

 

「いや!そんなの嫌だよ!!」

 

「何とか…何とかならないのか…!?」

 

「パパ…ママ…お兄ちゃん…お姉ちゃん…お別れです」

 

それぞれが衝撃を受ける中、どんどんと消えていくユイ。

そんなユイが、別れの言葉を口にする。

その言葉を聞いたサチが、ユイを抱きしめ直す。

 

「ダメ!ダメだよ!これからなんだよ!?これから皆で仲良く暮らすんだよ…!」

 

それでも止まることはなく。

ユイは、最後まで笑顔をうかべたまま、消えてしまった。

 

「いやあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ユイちゃん…!」

 

泣き叫ぶサチと、崩れ落ちるアスナ。

ツキノワはアスナを支えながら、悔しさに唇を噛み締めていた。

しかしただ1人、キリトだけは諦めていなかった。

 

「…ふざけるなよ…!」

 

「…キリト?」

 

「なんでもお前の思い通りになると思うなよ!カーディナル!」

 

キリトが突然、コンソールを操作し出す。

必死に何事か操作して、それを終わらせた直後、弾き飛ばされる。

 

「グハッ!」

 

「キリト!?」

 

慌ててツキノワが支える。

 

「大丈夫かよ!?」

 

「ああ…。それに、間に合ったよ」

 

キリトが取り出したのは、涙の形をした宝石だ。

 

「GMアカウントが使えるうちに、ユイのデータを、俺のナーヴギアに移したんだ。これは…ユイの心だ」

 

「ユイ…!」

 

それを見たサチは、涙を流しながら、それを強くにぎりしめるのだった。

 

 

sideツキノワ

 

俺達は、ダンジョンを出て、それぞれのホームに帰った。

アスナ先輩と2人で何を言う訳でもなく、ただじっとしていた。

その時、ふとメッセージが飛んできた。

 

「…ミトからだ」

 

「…団長からね」

 

その内容は…

 

「て、偵察隊が…全滅…!?」

 

「死者10名ですって…!?」

 

俺達の休暇は終わりを告げた。

次の日、それぞれ装備を整えて、転移門に向かう。

 

「「転移!【グランザム】!」」

 

俺達の頭の中は、3つ目のクォーターポイントでいっぱいだった。




あと少しで、アインクラッド編が終わります。
それでは失礼します。
ありがとうございました。
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