ソードアート・オンライン NEOプログレッシブ   作:ネコ耳パーカー

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遂に、アインクラッド編が終わります。
それではよろしくお願いします。


39話

sideツキノワ

 

一撃でタンク隊が殺された。

この事実が、俺達の戦闘心をへし折るには、十分すぎた。

 

「「「「「「「「「「「「う…うわぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」」」」」」」」」

 

一気に恐慌状態に陥った攻略組は、出口に殺到するも、当然のように扉はビクともしない。

そんな中、ボスはさらなる追撃をしかけてくるが

 

「むん!」

 

ヒースクリフの堅い防御が、それをせきとめる。

しかしそれの合間を縫うように、冗談のような速さで、また1人プレイヤーが殺される。

 

「クソ…!」

 

「これじゃまともに、近付くことすら出来ねぇぞ!?」

 

「やらせない!ハァ!!」

 

俺は直ぐに駆け出して、ボスの鎌を打撃で受け止める。

最大火力を誇る一撃だが、それでも止めきれない。

 

「く…そぉ…!?」

 

やばい…!?もう一本が来る…!

 

「ぬん!」

 

片方はヒースクリフが抑えてくれて

 

「ヤアァァ!!」

 

俺が抑えてる方は、アスナ先輩が弾いてくれる。

 

「ツキノワ君!私達2人ならいける!!」

 

「…よし!俺達とヒースクリフが鎌を抑える!皆はその隙に攻撃を!!」

 

「ミト君、全体指揮を頼むよ」

 

「「「「「「「「「「了解!!!」」」」」」」」」」

 

こうして始まったボス戦は、今までで1番苦しい戦いだった。

どこかで聴こえる悲鳴と、ポリゴンの碎ける音。

やつが何かやる度に、それらが響き渡る。

 

「ハァァァァァァァァァァ!!!」

 

ミトの鎌か、引き裂く。

 

「ゼアァァァァァァァァァ!!!」

 

キリトの二刀流が、切り刻む。

 

「オォォォォォォォォォォ!!!」

 

クラインの刀が、切り裂く。

 

「オラァァァァァァァァァ!!!」

 

エギルさんの斧が、叩き壊す。

 

「ぬん!」

 

ヒースクリフの盾が、防ぎ切る。

 

「「ヤァァァァァァァァァ!!!」」

 

俺と先輩の剣が、弾き飛ばす。

それを何分、何時間かけただろうか。

やっと残り数ドット。

 

「全軍!!突撃!!!」

 

「「「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」」」

 

こうして、やっとの思いで、俺達攻略組はボスを撃破したのだった。

 

outside

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

何とかボスを撃破してツキノワ達だが、その顔に喜びはなく、あるのは疲労感と絶望感だ。

 

「…何人死んだ?」

 

クラインのその問いに、キリトが数を数える。

 

「…14人」

 

「マジ…かよ…!?」

 

「そんな…!?」

 

あまりの衝撃に、エギルが項垂れ、ミトが口を抑えて涙を飲む。

 

「…私が…もっと上手くやってれば…!?」

 

「ミト。ミトのせいじゃない」

 

「そうよ、ミト。ミトはちゃんと成し遂げたわ。きっとこれは、誰がやっても…ある程度の犠牲が出た。そういう戦いよ」

 

キリトとアスナがミトを励ます中、ツキノワはある人物を見続けていた。

ヒースクリフだ。

彼だけは、堂々と立ち、攻略組を見下ろしていた。

 

(ヒースクリフの伝説。彼が緑ゲージより下に落ちたことが無い。…あれは一体…?)

 

確かにそうなのだ。

ツキノワは1度も彼が、緑ゲージ以外になるのを見たことが無い。

そしてその目はまるで、何かを観察する科学者のような目をしていた。

 

(…まさか…)

 

彼はそっと、閉まっていなかった刀を握り、深呼吸を1つする。

 

「ツキノワ君?」

 

そして、一気に加速する。

 

「シッ!」

 

「ッ!?なっ!?」

 

刺突を放ち、ヒースクリフの視界を奪う。

その隙に背後に回り込み、

 

「ハァァァァ!!!」

 

気合一閃。

腹を横一文字に切り捨てた…はずだった。

 

「ツキノワ!?何して…え?」

 

「ツキノワ君!?どうし…て?」

 

ミトとアスナが慌てて駆け寄った先に見たのは、ヒースクリフを守る、紫の障壁。

それが示すのは…【IMMORTAL OBJECT】。

 

「破壊…不能…オブジェクト…?」

 

「団長…どういう…?」

 

「ヒースクリフの伝説。曰く、彼は1度も緑ゲージ以下に落ちたことが無い。そりゃそうだ、システムに守られてる訳だからな」

 

誰もが唖然とする中、ツキノワだけは淡々と、口を開く。

 

「ずっと考えていた。茅場晶彦は言った。『この世界を作り、鑑賞する為だけに、この世界を作った』と。では何処から見ているのかって」

 

そう言って天井を見上げるツキノワ。

 

「俺自身が当事者になったせいか、単純な事を忘れてたよ。そう、『他人のRPGをやってるのを見るほど、つまらないものは無い』。そうだろ、ヒースクリフ。いや…茅場晶彦」

 

「「「「「「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」」」」」」

 

「…確かに私は、茅場晶彦だ。付け加えるなら、君達を最終層で待ち構える、最終ボスでもある」

 

全てを明かされたヒースクリフは、不敵に笑い、堂々と宣言した。

自身がこの世界の、創造主だと。

 

sideツキノワ

 

「…チッ。最強のプレイヤーが一転、最悪のラスボスか。随分と悪趣味だな」

 

「そうかい?悪く無いシナリオだと思うが…。参考までに、なぜ気付いたか教えてくれないかな」

 

「…デュエルの時、最後だけあまりにも速すぎたよ、あんた」

 

俺はあのデュエルの最後を、思い出す。

確かにあの時、俺はガードを抜いたと確信した。

しかし現実は違った。

何故かあの瞬間だけ、異様に戻りが速かったのだ。

その瞬間、俺の疑念はほぼ確信に変わった。

 

「フッ、やはりか。あれは失策だった。あまりの勢いについ、システムのオーバーアシストを使ってしまったよ。しかし…この展開は予想していなかったな」

 

「何?」

 

ヒースクリフはキリトを見る。

 

「私の前に立つのは、キリト君。彼だと思っていたのだよ。【二刀流】スキルは、プレイヤーの中でも最速の反応速度を持つものに、与えられる。そして、【二刀流】スキルの使い手こそ、魔王を倒す勇者のつもりでいたのだ。しかし…」

 

そこでヒースクリフが俺を見る。

 

「【剣豪】スキル。私が開発段階で取りやめたスキルを、何を思ったかカーディナルシステムが、サルベージして、取り込んでしまった。そしてそれが、君の手に渡った。これは私にとっても予想外だった。何せそのスキルは、他のスキルと違い、完全プレイヤースキル依存型。それを十全に扱える者などいない…そう思っていた」

 

その目はまるで、俺を観察するようで気持ち悪い。

 

「しかし君は、それを100%…いや、120%使いこないしている。ボス戦に通じる程鍛え上げ、私の前に立つほど強くなるとは、思いもしなかった。まあ、その想定外もMMORPGの醍醐味と言えるかな」

 

その時、金属が擦れる音がする。

 

「俺達の…俺達の忠誠を…!よくも…よくもぉぉ!!!」

 

ヒースクリフの後ろから、血盟騎士団の奴が、斬りかかったのだ。

しかしそれより早く

 

「ガァ!?」

 

突然倒れ伏すプレイヤー達。

それは先輩達も例外ではなく

 

「ウッ…!?」

 

「これは…麻痺!?」

 

「先輩!?ミト!?…どうするつもりだ?このまま隠蔽か?」

 

「まさか!そんな理不尽なまね、する気は無いさ。私はこのまま第100層【紅玉宮】にて、君達の到着を待つよ。しかし…ツキノワ君。君にはチャンスを与えよう」

 

チャンス…だと?

 

「今この場で、私と1vs1で戦う機会を与えよう。無論、不死属性は解除する。そして、私に勝てば…ゲームはクリアされ、全プレイヤーがログアウト出来る。…どうかな?」

 

そう言ってヒースクリフは本当に、不死属性を解除した。

やるか…やらないか。

俺は周りを見る。

皆ここまで、時に絶望に折れながら、希望に燃えながら戦ってきた。

そして、それを終わらせるチャンスが、目の前にある。

でも、そのリスクは計り知れない。

 

「ダメ…ダメよ、ツキノワ」

 

「今はダメ…。今は引いて…ツキノワ君」

 

最後に俺は、2人を見る。

大好きな姉と、大好きな恋人。

2人のリアルの体も…リミットが迫っている。

だったら…!

 

「…行ってくる」

 

そう言ってそっと、2人を下ろす。

 

「待って…戻りなさい!!ツキノワ!!!」

 

「ダメ…ダメだよ…!!ツキノワ君!!!」

 

「行くな…ツキノワ!!」

 

「よせ!やめろ!!」

 

「動け…動けよ…!!ツキノワ!!ツキノワ!!!」

 

俺はエギルさんを見る。

 

「エギルさん。色々サポートありがとう。知ってましたよ?売上のほとんどを、中層ゾーンのプレイヤーの、育成に使ってた事を」

 

次にクラインを見る。

 

「クライン。あの時、俺達はクラインを置いてった。ごめん。でも、いつも俺の事心配してくれて、ありがとう。…姉貴のこと、よろしくね」

 

次にキリトを見る。

 

「キリト。お前と会えて良かった。全てが始まった日、お前がいてくれたから、何とか正気を保てた。お前がいたから、強くなれた。…ありがとう、兄弟。サチと幸せにな」

 

次にミトを見る。

 

「姉貴。ガキの頃はさ、俺泣き虫だったよな。そんでいつも姉貴が助けてくれて…憧れだった。でも、もう憧れてるだけの、俺じゃない。今度は俺が姉貴を助ける。だから…行ってくる」

 

最後にアスナ先輩を見る。

でもかける言葉が見つからず、ただ笑いかけるしか出来なかった。

 

「…もし、俺が負けたら少しの間でいい、先輩とミトを自殺できないようしてくれ」

 

「…よかろう」

 

「待ちなさい…待ちなさいよぉ!!!」

 

「そんなの…そんなの無いよぉ!!!」

 

2人の悲鳴を無視して、俺はゆっくりと構える。

俺の持つ全てを、2振りの刀に篭める。

俺は今…ここで…この男を…殺す!!!

 

「はァァァァァァ!!!」

 

俺の右袈裟切りは、盾で防がれる。

流れるように左逆袈裟切りを放つも、それも剣で防がれる。

 

「ぬん!」

 

反撃のシールドバッシュは、蹴って衝撃を殺しながら、距離をとる。

 

「くらえ!」

 

俺はその状態で刺突や斬撃を放ち、弾幕を張る。

しかしヒースクリフはお構い無しに、盾を構えて突撃してくる。

 

「シッ!」

 

ヒースクリフの鋭い一撃を、左の刀で滑らして体勢を崩させる。

がら空きの背中を切り裂こうとするも、重装備とは思えない身軽さで躱される。

 

「やっぱり…強ぇな…!」

 

「こちらのセリフだよ、ツキノワ君」

 

そのまま再び俺達はぶつかる。

俺の攻撃は全て、ヒースクリフに防がれる。

まだだ…まだ速く!

もっと…もっと鋭く!

お互いに決め手にかける中、遂に均衡が崩れた。

俺が全力で、至近距離からの打撃を放った時だ。

 

「…!…あ」

 

俺の【菊一文字正宗】が、砕けてしまったのだ。

度重なる連戦に耐えきれなかったのだ。

 

「ハァ!」

 

「クッ!?」

 

その隙をつかれた俺は、ヒースクリフの猛攻を防ぎきれず、膝をついてしまう。

 

「さらばだ、ツキノワ君」

 

ここが勝機だと、捉えたのだろう。

ヒースクリフの剣に、エフェクトライトが光る。

 

「一か八か…!」

 

俺もまた、残った【和泉守兼定:真打】を握りこみ、至近距離で斬撃でのカウンターを狙う。

 

「「オォォォォォォォォォォ!!!!!!」」

 

俺の斬撃と、ヒースクリフのソードスキルが、全くの同時に発動した。

 

outside

 

元々限界だったのか、ツキノワの一撃はヒースクリフの盾をあっさりと砕き、剣同士が衝突する。

激しい鍔迫り合いの末、お互いの剣も砕け散る。

その光景を呆然と見ながら、ヒースクリフは自身の失策を悟る。

 

(…やられたよ、ツキノワ君)

 

ツキノワは砕け散る事まで、予想していたのだろう。

いつの間にか右手に違う武器を握っていた。

レイピアだ。

アスナの【ラズペントライト】によく似た、そのレイピアの銘は【ブラックパール】。

ヒースクリフは知らないが、ツキノワが刺突の練習をする為に、リズベットが鍛えた1振りだ。

よろけるヒースクリフと違い、既に構えている。

技後硬直中の彼に、その一撃を防ぐ術はなく

 

「ハァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

その鋭い一撃に、貫かれるしか無かった。




ツキノワVSヒースクリフ、勝者はツキノワです。
キリトと違い、ソードスキルを使わないのが、勝因です。
逆にヒースクリフは、ソードスキルを使ったのが、敗因です。
技後硬直になった隙を、つかれました。
それでは失礼します。
ありがとうございました。

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