ソードアート・オンライン NEOプログレッシブ   作:ネコ耳パーカー

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これでGGO編は終わりです。
よろしくお願いします。


51話

side詩乃

 

ログアウトした私は、自分の部屋にある、隠れられそうな場所を全て調べて、誰もいないことを確かめた。

 

「バカみたい…」

 

などと言いながら、身体中から力が抜けていくのを感じていると

 

ピンポーン♪

 

「ヒッ!?」

 

突然部屋のチャイムが鳴る。

それに怯えていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「朝田さん、いる?僕だよ!」

 

「…新川君!」

 

私は外の相手が新川君である事を知ると、すぐにドアを開け、彼を中に招き入れた。

 

「優勝、本当におめでとう。朝田さん、シノン。本当にGGO最強のガンナーになったね」

 

私は新川君からのべた褒めに、苦笑いしながら困っていると

 

「でも僕には分かってたよ。朝田さんは、誰にもない本物の強さを持っているから。…朝田さん!」

 

「…何?」

 

少しづつ、彼の雰囲気が変わってきた気がした。

その事に、言い様のない不安が募る。

 

「朝田さん、前に言ってたよね。『待ってて』って。言ったよね?」

 

それは…BoB本戦が始まる前の事?

 

「待っていれば、いつか僕のものになってくれるって」

 

「…え?」

 

待って、そんな事…一言も言ってない。

 

「だから…だから僕!…ずっと一緒にいてあげる。あんな奴らに頼らなくても僕が…一生君を守って…あげる…から…!」

 

新川君の顔が、明らかに異常で、怖くて、私は喉が干上がってしまい、体も動かなかった。

そしてその間に、新川君に抱きつかれてしまう。

身体中に走る、どうしようもない生理的嫌悪。

 

「朝田さん…好きだよ…愛してる…!僕だけの…シノン!」

 

「や…やめて!」

 

私は強引に突き飛ばしたが、女の私では男の彼の体勢を崩すのが精一杯だった。

 

「…ダメだよ、朝田さん。僕を裏切っちゃあ、ダメだ」

 

「…新川…君…?」

 

フラフラと近づく彼に、私は壁際まで追い詰められてしまう。

そんな彼が取り出したのは無針注射器だった。

彼はそのまま、恐怖で動けない私の脇腹に、それを押し当てた。

 

「動いちゃダメだよ、朝田さん。この中身が注射されると、筋肉が動かなくなるんだ。すぐに肺と心臓が止まっちゃうんだよ」

 

まさか…これが…デスガンの殺し方…!?

 

「君が…2人目のデスガン…!?」

 

「…へぇ、すごいね。デスガンの秘密を見破ったんだ。そうだよ、僕がデスガンの片腕だよ」

 

「ッ!?」

 

嘘…信じられない…。

でも彼の実家は、病院を経営している。

薬品を入手するのも、容易なはず。

 

「とは言っても、前回までは、僕がSterbenを動かしてたんだけどね。でも、今日だけは僕が現実役をやらせて貰ったんだ。だって…朝田さんを他の男に触らせる訳にはいかないもんね。…いくら、実の兄弟でも」

 

「き、兄弟…!?」

 

たしかに彼には、病気がちの兄がいる。

まさか…

 

「昔、SAOで殺人ギルドに入ってたっていうのは…新川君のお兄さん…?」

 

「そうだよ。そして今回、兄も乗り気だったんだ。かつてのライバルと、また殺しあえるって」

 

かつてのライバル…ツキノワの事!?

 

「まあ安心して…朝田さんを1人にはしないから…」

 

そう言って、私の服の下に手を入れる新川君を、何とか説得しようと試みる。

 

「まだ…まだ、間に合うよ…!やり直せるよ…!予備校言ってるんでしょ…!?お医者様になるんでしょ!?」

 

私がそう言うと、新川君の様子が変わる。

まるで、何かに怒り狂ってるように。

 

「そんなのどうでもいい!親も!学校の奴らも!どうしようも無い愚か者ばっかりだ!!僕はGGOで最強になれれば、満足だったんだ!なのに…!なのに、あのゼクシードのクズが!?アジ型最強なんて嘘を!GGOは僕の全てだったのに!現実を全て犠牲にしたのに!!畜生!!!」

 

それが…その程度の理由が…!?

 

「だから…ゼクシードを…殺したの!?」

 

「そうだよ!デスガンでGGOの…いや、全VRMMO最強の伝説を作る生贄に、あいつほど相応しい奴はいないだろう!これでもう…こんな下らない現実に用はない…さあ、朝田さん。一緒になろう」

 

新川君の言葉の全てが、気持ち悪い。

完全に彼を受け付けられない。

何とか抵抗しようとしてるが、やはり力では叶わない。

 

「ずっと好きだったよ、朝田さん!学校であの事件の話を聞いてからずっと」

 

「…え?」

 

思わず呆然とする。

あの事件の話…まさか…

 

「本物のハンドガンで、悪人を射殺した女の子なんて、日本中探しても、朝田さんしかいないよ!言ったでしょう?朝田さんには、本物の強さがあるって」

 

本物の強さ…そんな訳ない。

彼は語る、だからこそ54式を選んだのだと。

私が彼の憧れだと…。

彼の顔が、あの時の犯人と被る。

…もう、何も見たくない、感じたくない。

きっとこんなの、現実じゃない。

ごめんね、2人共…。

 

ーーそんな事ないよ。

 

え?

…シノン?

 

ーー私達は自分の事しか見てこなかった。自分の為にしか、戦わなかった。もう遅いかもしれないけど、一度だけ、誰かの為に戦おうよ。

 

そうだ、2人はここに来ると言っていた。

今来たら、2人が危険な目にあう。

だったら…私は…。

私は、シノンの手を取った。

 

「やめ…て!」

 

私は彼の顔に、肘をぶつけた。

そのまま彼を引き剥がして、玄関まで逃げる。

でもそこで限界で、彼に足を捕まれ倒される。

 

「キャ!」

 

「朝田さん…!朝田さん!朝田さん!朝田さん!朝田さん!朝田さん!朝田さん!朝田さん!朝田さん!朝田さん!」

 

もう…ダメ…!

そう思った時だった。

 

「そのまま伏せてろ!詩乃!!…どけよ!!!」

 

「グワァ!?」

 

ここ数ヶ月で、よく聞き慣れた声が聞こえた。

その声は鋭く、そして強い声だった。

新川君をサッカーボールキックで吹き飛ばして、私の腕を掴み、玄関まで引っ張ってくれる。

その紫色の髪に、赤い目。

 

「悪ぃ、思ってたより混んでたわ。でも…もう大丈夫だからな、詩乃」

 

「ゆ、優月…!?」

 

私の相棒、ツキノワこと兎沢優月だった。

 

side優月

 

目を覚まして直ぐに、俺は部屋を飛び出して、バイクを走らせて、ここまで来た。

詩乃の言っていた部屋番号まで来ると、中から鍵を開けようとする音と、詩乃の悲鳴が聞こえた。

俺はすぐに飛び込み、中にいた男を蹴り飛ばして、強引に詩乃を連れ出した。

 

「…下がってろ」

 

思ったよりタフな奴らしい。

俺の蹴りを受けて、ふらつきながらも立ち上がってきた。

 

「誰だよお前…誰だよォぉぉぉぉ!!!」

 

うるせぇクズだな。

男はポケットから何かを取り出して、襲いかかってきた。

…無針注射器、か。

 

「ゆ、優月!?それに当たっちゃダメ!!」

 

「だろう…な!」

 

俺はスウェーで躱して、渾身の右ボディを打ち込んだ。

 

「ゴホォ!?」

 

「おら…終わりじゃねぇぞ!」

 

髪を掴み頭を持ち上げさせて、今度はその顔に拳をめり込ませた。

 

「ゴバァ!」

 

俺は蹲るそのバカの手を蹴り、注射器をあらぬ方へと飛ばした。

俺はそいつの襟首を掴みあげ、顔の高さまで持ち上げる。

 

「まあ、どこの誰でもいいけど…じゃあな♪」

 

俺はそいつの頭に、思いっきり肘をぶつけて、そのまま全体重をかけて、床に叩きつけた。

 

「ガ…」

 

流石にここまですれば、気を失ったのか、白目剥いて、泡を吹いていた。

 

「…うん、やりすぎた、かな」

 

「やりすぎでしょう…どう見ても…」

 

詩乃の小さな声を聞いて、俺は詩乃の安否を確認する事にした。

 

「おう、怪我ねぇか?」

 

「…大丈夫よ…」

 

その視線は、気絶している男と、そいつが持ってしたと思しき、ケーキの箱がある。

こいつが詩乃の信用出来る友達、シュピーゲルなのだろう。

その目は悲しみがあった。

 

「…怖かっただろう、もう大丈夫。よく頑張ったな」

 

outside

 

数日後、詩乃は学校で、自分へのケジメをつけた。

トラウマの克服、それに漬け込んでくる自分へのいじめっ子との決別。

それらの小さい…でも確かな1歩を踏み込んだ詩乃を待っていたのは、校門の人だかり。

その視線の先にいる紫色の髪の男に、詩乃は見覚えしかなく。

 

「うん!?」

 

思わず、変な声が出る詩乃。

 

「朝田さん!どういう知り合い!?」

 

「まさか彼氏!?」

 

詩乃は恥ずかしさから、顔を赤くしてその言葉を無視する。

しかし女子達からしたら、その反応すら美味しい。

黄色い歓声を上げながら、詩乃とその男…優月に注目が集まる。

 

「ちょっと!///待ち合わせって言ったけど、何もこんな目立つ場所じゃなくても!///」

 

「見つけられないかもしれねぇだろ?」

 

「そんな目立つ髪色、あんたしかいないわよ!」

 

詩乃の抗議をテキトーにスルーした優月は、手の持っていたヘルメットを詩乃に投げ渡す。

 

「ほら、早く乗れ。行くぞ。じゃあ、朝田詩乃さんは借りてくね?」

 

再び上がる、黄色い歓声。

詩乃は最早何も言わず、無言で背中を引っぱ叩いたのだった。

2人ともう1人、和人は総務省の菊岡から、話を聞く事になっているのだ。

事件のその後はこうだ。

あれからすぐ、新川恭二と兄の昌一は逮捕された。

昌一の供述により、共犯者の存在が明かされた。

名は金本敦…ラフコフの元メンバーで、ジョニーブラックだ。

彼は今、逃走中。

デスガン誕生のきっかけは、昌一がリアルマネートレードによって、光学迷彩マントを手に入れた事がきっかけだった。

昌一はマントと双眼鏡で、プレイヤーの個人情報を手に入れるのに夢中になっていた一方、弟の恭二はキャラ育成に行き詰っていた。

そんな中、ゼクシードの口車に乗せられたシュピーゲルは、ゼクシードに対して怒りを募らせ、それを聞いた昌一は、ゼクシードの個人情報を教えて、どうやって粛清するか、連日話しあった。

それでも、最初は本気では無かったらしい。

だが徐々に現実味を帯びてきた2人は、ついに父親の経営するしさ病院から、注射器と劇薬を盗む算段をつけた。

彼らは念入りに下調べをして、ターゲットをセキュリティの低い部屋で、一人暮らしをしている人物に絞った。

昌一はマスターコードで、最初の被害者宅に侵入、事前に示し合わせた時間に、彼を殺した。

2人目の被害者、薄塩たらこもほぼ、同様の手口。

しかしデスガンは、プレイヤーの恐怖の対象どころか、遊び半分にからかわれる事に。

業を煮やした昌一達は、BoB本戦にて、一気に3人を殺すという、計画を立てた。

ターゲットはペイルライダー·Garret…そしてシノン。

 

「…だが、3人を殺すには、現実的な問題が一つ」

 

「そう、デスガンの動きに合わせる必要がある。そこに金本なる人物が加わった、という事だよ」

 

これらは全て、兄の昌一の供述を元にしているらしく、弟の恭二は黙秘を続けている。

 

「ちなみに、兄の昌一は病弱で、父は早々に見限り、恭二を跡継ぎにするつもりだったらしい。だが意外な事に、兄弟仲は悪くなかったそうだよ。そして昌一はMMOにのめり込み、SAOの虜囚となった」

 

その言葉に、和人がムスッとし、優月が侮蔑するような目で、菊岡を見る。

 

「…お前さ、官僚ならもう少し考えて話したら?お前の言う虜囚がここに2人、いる訳だけど?」

 

「…配慮に欠けた発言、謝罪しよう。申し訳ない」

 

菊岡は優月の言葉に謝罪したが、優月からしたらどうにも上っ面しか響かず、何も言わず睨みつけるだけだった。

 

「…続けよう。昌一は恭二にだけ、自分がSAOでは何者だったのか、語ったそうだよ。彼の目には、兄が英雄に見えたのだろうね」

 

そして昌一は語る。

この計画は、ゲームだったと供述している。

装備を整え、獲物の情報を調べ、実行する。

SAO時代と、何も変わらない、と。

 

「…VRMMOのダークサイド、なんだろうな。現実が薄くなっていく」

 

「…君は、君の現実はどうなんだい?和人君」

 

菊岡は和人にそんな質問をぶつけた。

 

「…あの世界に置いてきたものは、確かに存在する。だから今の俺の質量は減少している…とは思う」

 

「戻りたい…と思うかね?」

 

その問いかけに、和人は肩を竦めながらこう答えた。

 

「聞くなよ、悪趣味だぜ」

 

「うむ…君はどうかな、優月君」

 

次に聞かれたのは、優月だった。

 

「俺は逆だな。あの世界に置いてきたもの無い。むしろこっちに持ってきた。だから前より質量は増えている…気がする」

 

「君も、戻りたいと思うかね?」

 

「戻るとか戻らないとか、そういう問題じゃない。仮想も現実も、俺には大差無い。どこだろうと、なんだろうと、俺の耳で聞いて、目で見て、鼻で嗅いで、口で味わって、肌で感じて。俺の五感全てで感じたものが、俺の現実だ。その経験が、こっちかあっちかの差、それだけだ」

 

同じ世界、同じ経験をしていて、全く正反対の意見を持つ2人に、菊岡は目を見開いてから、面白うに笑った。

 

「…さて、僕から話せることは以上だ。なにか質問はあるかな?」

 

それから幾つかの話をして、3人は菊岡と別れた。

それから3人が向かったのは、エギルの店Dicey Cafeだ。

中に入ると

 

「おそーい!アップルパイ2切れも食べちゃったじゃない!太ったらあんた達のせいだからね!」

 

「知るか。自制心を鍛えるこった」

 

呆れたように優月が、ため息をついて言い返した。

 

「こら、優月!女の子にそんな言い方しない!」

 

「里香に優しくするのは、和人の仕事。俺は明日奈先輩と深澄ぐらいで十分だろ」

 

「あら。そういう割には、珪子とか直葉には優しいみたいだけど?」

 

「年下には優しくして当たり前だろ」

 

「はいはい、2人共。そこまでにして。優月君!紹介して!」

 

「うん、和人早く。私も楽しみだったんだよ」

 

唐突に始まるマシンガントークに、詩乃が唖然としてると、和人が紹介を始める。

 

「まずこちらが、第3回BoB優勝者、シノンこと、朝田詩乃さん」

 

「や、やめてよ///」

 

「で、こっちがぼったくり鍛冶屋のリズベッドこと、篠崎里香」

 

「ちょ!?何ですって!?」

 

「で、こっちがサチこと、指原千笑。こっからは優月にバトンタッチ」

 

「もう。ちゃんと紹介してよ、和人。指原千笑です。よろしくお願いします」

 

怒る里香と、少しムスッとしながらも、丁寧に挨拶する千笑。

そして突然のバトンタッチに、優月は驚きながらため息をつく。

 

「全部やれよ…こっちの紫が姉の兎沢深澄。でこっちが俺の彼女の結城明日奈先輩」

 

「あんたも紫でしょ」

 

「は、恥ずかしいよ…///」

 

呆れたような深澄と、彼女と紹介され恥ずかしそうにする明日奈。

 

「…あー…なんだろう、あんたが自慢しまくる理由が、よく分かったわ、優月」

 

「だろ?」

 

「何の話をしてたの!?」

 

そんな姦しさはあれど、すぐに仲良さげに話し出す女性陣を見て、優月と和人が踏み込んだ。

 

side優月

 

「詩乃、先に謝る。すまない」

 

「…い、いきなりどうしたのよ、優月」

 

俺が突然頭を下げ出したことに、詩乃が困惑するのが口調で分かる。

 

「俺達は、詩乃の事を話して、お前の故郷に向かった」

 

「なっ!?…どう…して…?」

 

俺は動揺する詩乃の目を見て、しっかりと答える。

 

「それは、お前がまだ、見るべきものを見てないし、聞くべき言葉を聞いてないし、知るべき事実を知らないからだ」

 

「…どういう…意味…?」

 

「俺は前に言ったよな。自分を正当化してきたって。詩乃、お前もそれをして良かったんだ。俺達は、決して許されない事をした。だからこそ、全てを知る必要がある。お前が手を汚したその裏で、救われた命があった事を、知る権利があるんだ」

 

「救われた…命…」

 

ここからは、俺の出番じゃない。

深澄と里香に誘導されて連れてこられたのは、1組の親子だ。

3人はそれぞれ頭を下げ、自己紹介をした。

その女性は…

 

「私はこの子が産まれる前は、郵便局で働いていました」

 

「…あ…」

 

そう、彼女はあの事件の時、郵便局にいた職員なのだ。

そしてその時、彼女のお腹の中には、娘がいたんだとか。

そしてその娘は今、母親の隣で笑っている。

詩乃には、この事実を知って欲しかった。

そうしないと、自分の心が砕けてしまうから。

 

「…優月君」

 

「明日奈先輩?」

 

「…私は何があっても、そばにいるからね」

 

「…ありがとう」

 

俺は優しく抱きしめくれる先輩によりかかって、詩乃の様子を見る。

その目に浮かぶ涙は、とても綺麗な涙だった。




それでは失礼します。
ありがとうございました。
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