ソードアート・オンライン NEOプログレッシブ 作:ネコ耳パーカー
それではよろしくお願いします。
outside
刀に手をかける優月の気迫に、エルドリエは呑まれてしまい、唾を飲み込むしか出来ずにいた。
(なんだ…この気迫は…!?これほどの心意…感じたことない…!?)
「…なぁ、後輩くん。早く用意してくんねぇかな?やる気ねぇなら帰るぞ」
この時初めて、エルドリエは自分がただ棒立ちになっていたことに、気が付いた。
慌てて自身の神器【霜鱗鞭】を構える。
エルドリエは優秀な騎士だ。
故に気が付いてしまった。
(今、本気で斬りかかれていたら、数回は死んでいた…!)
自身が、ただの気まぐれで生きていることに。
一方の優月は、エルドリエの構えを見ながら、どう勝つかを考えていた。
(速攻キメるか?いや、鞭は動きが読みにくい。それにあれは恐らく神器。何かヘンテコ能力を持っている可能性が高い。まずは…先手を取らせるか)
そう考えた優月は、わざと隙を見せる。
「っ!ハァ!」
振るわれる鞭の先端は、目では追えない。
だから優月は、エルドリエの腕の動きを追って、その軌道を予測する。
軌道の予測自体は当たった。
だが、予想外の変化が、鞭に起きた。
「っ!?何!?」
慌てて避ける優月。
その理由は、エルドリエの【霜鱗鞭】が、二つに分かれたからだ。
分裂…それがエルドリエの神器【霜鱗鞭】の能力である。
「ハァァァァァァ!!」
空気を切り裂く音と共に、鞭がいくつにも分裂して、エルドリエ周辺を埋めつくしてしまう。
「…なるほど、これは不利だ」
優月はエルドリエへの、間合いを詰める道を失ってしまった。
どこを通ろうにも、鞭の餌食になる。
「さてさてさ〜て…どうするかなっと…!」
優月は刀身を伸ばして、超高速でエルドリエに向かって攻撃を仕掛ける。
その勢いは鞭の攻撃を全て弾く程だ。
「何!?」
驚きつつも、エルドリエとて整合騎士。
その刀身の動きをしっかり見切りつつ、鞭のを丸めて、その一撃を防ぐ。
だがそれに気を取られた隙に、優月が視界から消えた。
エルドリエは唖然としながら鞭を構えると、上から何かが落ちてきて、腕を止められてしまう。
「っ!?これは…鞘!?」
「ハァァァァァァア!!」
落下の速度を乗せて、振り下ろされる刀。
エルドリエは咄嗟に、腰に差した剣で防ごうとして、なぜか剣がすれ違った。
「なに!?」
「詰みだ」
気付いた時には、小さい刃がエルドリエの首元に突きつけられていた。
「…刃が…小さい…?」
「目に頼りすぎだぜ、後輩くん」
優月は攻撃をわざと見切らせ、それに気を取られせた隙に上に飛んでから、鞘で動きを止めた。
この時エルドリエは、鞘から刃わたりを無意識に予測していたのだ。
それもこれも、エルドリエが優秀であるが故に、利用された隙。
振り下ろされた刀が、想定より小さくなっていたのは、優月の神器の特性【千変万化】だ。
「…さてと、いい加減出てきたら?そこの観客。金とるよ」
「…なぁんだ、気付いてたんだ」
「だから言ったじゃないですか、イーディス殿。ユヅキは気配に敏感だと」
「ま、これくれぇ気付けねぇと、まだまだだがな」
優月の言葉に現れたのは、ベルクーリ、イーディス、アリスだった。
「あんな露骨な視線送っといて、白々しい…なぁ、エルドリエ?」
「と、当然ですとも!」
「ふふ、エルドリエは、将来有望ですね」
(((いや、あれは気付いてなかったな…)))
アリス以外のメンバーが、心を一つにしていると、ベルクーリが咳払いをして、優月の神器を指さす。
「そいつが、坊主の神器か?随分と小さいな」
「いや、こいつは大きさを変えられるから」
そう言って、優月は神器を元の大きさに戻した。
「へぇ、便利ね」
「名前はなんですか?」
「【桜刀:舞姫】」
前の使い手が女性だったことを考え、すこし華やかな名前にした優月。
「へぇ、かわいい名前ね。…うん、刀も美人さんね」
白い鞘に桜色の柄、刃も純白でまるで美術品と見間違う美しさがある。
優月はそれをしばらく見つめて、ゆっくりと鞘にしまう。
(まるで、【菊一文字正宗】みたいだな)
「さてと、今日はもう休め。報告は明日でいい」
「じゃあお言葉に甘えて。風呂に入って寝るわ…おやすみ」
優月は欠伸を噛み殺しながら、中に入っていく。
それを4人は見送りながら、アリスはポツリと呟いた。
「それにしても…恐ろしい心意の強さでしたね」
「そうね。私も飛び上がっちゃったもの」
(あるいは、坊主の心意は俺より上かもしれねぇな)
ベルクーリは、優月の心意の強さに疑問を抱きつつも、好戦的な笑みを隠せないでいたのだった。
side優月
翌日、俺は報告書と共に、この2年でわかったことをまとめていた。
俺は自分の手の甲にS字を書いて、真ん中をタップする。
「【ステイシアの窓】…ね…」
ステイシアの窓とは、それ自身のステータスやパラメータを視覚化するものだ。
それに現れるのは天命値、【オブジェクトコントロール権限】、【システムコントロール権限】だ。
【オブジェクトコントロール権限】とは、物体を操るのに必要な権限レベルだ。
ゲームに例えるなら、武器の装備に必要なステータス数値とかだ。
「今の俺は48。神器は46…か」
このレベルが低いと、持ち上げるのすら一苦労。
逆に少しでも軽ければ、難なく扱えるようになる。
「次は【システムコントロール権限】…」
これは神聖術に必要なレベルだ。
高いほど、高位な神聖術を扱える。
俺のレベルは38。
それなりに高い方だろう。
…多分、きっと、恐らく。
「…まあ、数値はあまり意味ないか」
俺が驚いたのは、この世界において、数値はあまり意味をなさないということだ。
この世界で大切なのは…イメージ力だ。
イメージ力が強いほど、その人自身の強さも跳ね上がるということ。
それはつまり…イメージ力次第では、世界すら変えられるということ。
そして戦いに大切なのは、勝てるという自分自身のイメージ出来るかどうか、ということだ。
レベル差があっても、勝つイメージがあれば強くなる。
逆にそのイメージがなければ、レベルで勝っていても負けてしまう。
「次は…ソードスキル…か」
そしてこの世界では、ソードスキルが使えるのだ。
剣の流派があり、それぞれに【秘奥義】という形で、ソードスキルが存在していた。
例えばハイ·ノルキア流の技、【天山列波】は両手剣ソードスキル【アバランシュ】にあたる。
「イメージ次第では、OSSも使用可能。オブジェクトのレベルが高い程、高位のソードスキルを使用出来る…か」
武器の性能が高い程、高位のソードスキルが使用可能。
そしてもうひとつ、この世界のソードスキルは単発系しかない、ということが分かった。
要は当たれば勝ち、外せば死、ということだ。
だから連続技は、全く存在しない。
俺はそれを知った時、いざと言う時のために連続技を封印した。
「そして何より…この世界は綺麗すぎる」
一番俺が違和感を感じたのは、この世界の人間は禁忌目録を守りすぎている、ということだ。
禁忌目録には人を殺すな、とかの当たり前な内容から、貴族などの強者が弱者を搾取することを、良しとする法まで様々だ。
現代日本だって、禁止していても毎日殺人事件は起きる。
ましてや強者が弱者を虐げる事を、法律の下許可するなんて、言語道断だ。
「なのにこの世界では、デモやクーデターが起きていない」
それはつまり…公理教会が、絶対的支配を敷いていることに、他ならない。
ハッキリ言おう。
「反吐が出る」
1年間、世界中を旅して、この世界の歪さを理解出来た。
俺は…公理教会に反旗を翻す。
そう決めた俺は、その時を待ち続けた。
そして1ヶ月が経った頃。
「アリス?こんな朝早くからどうしたんだ?」
朝練をしていると、完全武装したアリスが発着場へと向かっていた。
「おはようございます、ユヅキ。実は昨夜、【北セントリア修剣学院】で、殺人の禁忌を違反した者が2人現れたらしく、それの捕縛に向かうのです」
殺人…この世界で…?
「それは…なんとも珍しい。名前は?」
「たしか…【キリト】と【ユージオ】ですね」
…何?
俺はあまりにも予想外の名前に、思わず思考が停止する。
キリト…だと?
まさか…あのキリトなのか?
「…ユヅキ?どうしましたか?」
「あ…あぁ…いや、何でもない。気にするな。気をつけろよ」
「ええ、ありがとうございます」
そう言ってアリスは、飛竜の【雨縁】に乗り、修剣学院へと飛んでいった。
「…時は来た」
間違えはいつか、正さなくてはならない。
敵は…セントラル·カセドラルにあり、だ。
ここから少しだけ、主人公視点から外れる時があります。
それでは失礼します。
ありがとうございました。