ソードアート・オンライン NEOプログレッシブ 作:ネコ耳パーカー
side優月
4人で村やその周囲を回っていると、ユージオが小川の小さい橋の上で立ち止まる。
「ここ…来た気がする」
ユージオ曰く、アリスと二人で来たのだが、何故か曖昧らしい。
「帰る時には、アリスは無事で、僕だけびしょ濡れだったんだよね…」
ああ、わかって気がした。
「多分それ、キリトがいたぞ」
「え!?そうなのか!?」
「じゃあ聞くが、お前がここにいたら何をする?」
「「水のかけあい」」
「なんでユージオとアリスが即答するんだよ!」
本当によく分かってらっしゃる、この2人。
つまり、3人いないと成立しない記憶は、曖昧なのだろう。
ユージオはキリトの提案に、多分乗る。
だがアリスは育ちが良さそうなため、恐らくその辺りの一線は守るだろう。
「なるほどな…今のアリスなら、徹底抗戦しそうだけどな」
「ついでに勝つまで続けるぞ」
「お前たち…?」
それにしても…ちょっと寂しいな…。
「おい、優月?何してるんだ?」
「いや〜、なんか寂しくて?」
「だからってなんで、僕たちの腰に手を回してるんだい?」
「正解は…おりゃァァァ!!」
「「わぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
俺は2人まとめて、川にバックドロップをしかけて、3人まとめて川に飛び込む。
「ぷはぁ!アハハハ!」
「ブハァ!優月!?何するんだよ!」
「ゲホゲホ…ビックリするだろう!?」
「…は!?あ、貴方たち!何してるのです!?」
呆然としていたアリスが、やっと再起動して、俺たちに近付く。
「あ〜!楽し!…おらぁ!」
「ぶぁ!?この…それ!」
「ユージオバリア!」
「え!?ぶはぁ!?…やったなぁ!キリト!」
「貴方たち!…もう!風邪を引きますよ!」
こうしてしばらく、俺たちは水のかけあいをして楽しんだのだった。
「「「ビッショビショ…」」」
「全く…じっとしてなさい。ユヅキ、貴方は手伝いなさい」
神聖術を使い、全員の服と髪を乾かして、次に進む。
しばらく山間を進むと
「…あ」
突然ユージオが立ち止まる。
「ここは?」
「ええっと…秘密基地だったんだ、僕たちの」
こっちでも秘密基地とかあったんだな…。
とはいえ、何やら恥ずかしい秘密があるらしく、特に掘り下げられることはなく。
そのまま進んでいき、着いたのはバカデカい切り株だった。
「…ここに、ギガスシダー…キリトの剣の元があったのか」
刻み手が天職だったユージオにとって、半生が詰まった場所だ。
ここには、あのアリスが飯を作って来てたらしい。
「…あのアリスが?」
「ユヅキ?言いたいことがあるようですね?」
「あれだけのものを作って、よく強気になれるな」
まだカセドラルがある時、アリスが忙しい俺の代わりに作った飯は、整合騎士を全員ダウンさせるほどの物体だった。
「あ、あれは!?…そういえば、あれはどうしたのですか?」
「チュデルキンに流し込んだ」
あの時のチュデルキンの顔は、今でも忘れられない…面白すぎて。
「…まあ、いいでしょう。ですが!あれから練習したのです!」
「試食は誰に?」
「イーディス殿に」
「1番あてにならねぇ!」
よりもよって、イーディスかよ!
アリスに激甘なイーディスじゃ、全く参考にならないだろ!
「イーディス殿も、どんな人でもイチコロよ!って、褒めてくれましたし、大丈夫です!」
「今の発言に安心出来る要素が一つもないわ!おバカ!」
「ムゥ!でしたら、今晩は私が料理を振るいましょう!」
「村を滅ぼす気かァァァァァァァ!!!」
絶対に立たせるものか!
結局ギガスシダーの切り株の前では、思い出話は出来なかったのだった。
途中カラントを見つけて切り倒した後、帰ろうした時、ある事件が起きた。
「あ、あれ!?財布がない!?」
ユージオが財布をなくしたのだ。
ただ落としただけならいいのだが、その直前誰かとぶつかっているのだ。
「…まさかスられた?」
「だがそれは禁忌目録で禁止されている。ということは…」
冒険者の可能性が高い。
そう思った俺たちは、すぐに追いかけることに。
思ったより近くに、彼らはいた。
当然財布を返すように言うが、シラを切られる。
「1日以内に返せば、禁忌目録にはなりません」
「禁忌目録…?」
禁忌目録を知らない…となると…やはり、冒険者か。
そう思っていると、奥から子供も女性が出てくる。
「…なるほど、食い扶持もなく、困窮に飢えた末のスリ、ということか。とはいえ、罪は罪だ」
「落ち着いて。僕達に危害を加える気は無い。それに、このままだと、君は本当に犯罪者になってしまう。だから、返してくれないかな?」
ユージオの優しい声と雰囲気に当てられたか、やっとユージオの財布を返しくれた彼らから、細かく話を聞くことに。
その結果やはり【ベクタの迷子】…冒険者と確定。
それぞれのやりたい事や得意なことを聞き、村で引き取ってもらうことに。
「す、好きなことをやらせてもらえるのか!?」
「可能な限り善処するよ。どうにか村長に頼んでみる」
だが、どうやら他にもいるらしく、村が受け入れてくれるか心配だ。
「多分大丈夫だよ。見た感じ開拓が進んで、少し豊かになったみたいだし。それに仕事もしてもらうわけだし、多分受け入れてもらえるよ」
outside
村へ着いた優月たちを出迎えたのは、メディナだった。
「おかえり。…彼らは?」
「冒険者です。私たちが保護しました」
「そうなのですか?彼らほどの数がいれば、戦力として申し分ないですね」
メディナのその一言が、優月とアリスの目を鋭くさせる。
「戦力?彼らに接触するつもりですか?」
「…本気か、お前」
「ま、まあまあ2人とも。メディナの考えが…」
キリトが慌てて間を取り持つが、2人の目は変わらない。
「…どうやら私は、すっかりお2人からの信頼を失ってしまったようです」
「いえ、そういう訳ではありませんが…」
「…」
否定するアリスと、何も語らない優月。
彼の中でメディナへの評価は、ギリギリまで落ちている。
剣の腕をかっているのは本当だが、それ以外では、あまりいい感情は抱いていない。
「…たしかに、前回は先走り過ぎましたし、やりすぎました。ですが今回は、きちんと話し合って行います。それに、この村で情報を集めて分かった…」
「彼らには、彼らのやりたいことがあります。それそれが、それぞれの目標や理想があるのです」
「アリス様…?」
「貴女のやり方が間違ってるとは、思いません。ですが彼らは、誰1人として戦士になりたかったとは言いませんでした」
「ですがこの村を守るためには、必要なことがあるのではないですか!?」
「お前に接触すれば、みんな従順な戦士、もしくは情報を集めるやつになるだろう。だがこいつらは、誰一人として戦いたいとは、言わなかった。それを無視して押し付けるのは、間違っている。冒険者は、お前の望みを叶える道具じゃない」
「…誰も、好き好んで誰かの人形には…なろうとは思わないのです」
3人の話し合いは、どこまで行っても平行線だ。
そんな様子を、キリトとユージオは不安げに見つめる。
「…お2人はやはり、現状を分かっておりません。対策本部は人手不足。近衛兵はこのザマ。四皇帝を始めとする貴族たちも非協力的。道具、人形…確かに、そのように表現されてしまえば、否定のしようがありません。ですが、事実私が接触した冒険者たちは、命令に従い、魔獣を倒し、情報を集めている」
「命令?お願い、じゃなかったのか?」
メディナの言葉を、優月は耳聡く聞き、反論する。
その言葉に、メディナは押し黙った。
「…お前の功績自体は認めている。たしかに冒険者達のおかげで、人員という点については、大きな助けとなっている。だがな、それとこれは別だ」
さらに泥沼化していく状況だったが、冒険者が情報を持ってくることで、とりあえずそこはお開きとなった。
だが2人と1人の溝は、もはや修繕不可能なところまで、来てしまったのだった。
「…」
冒険者の持ってきた情報をまとめ、翌日を出発とした一行は、村近隣で野営をすることに。
夜、フラフラと散歩していた優月は
「ん?デュソルバートさん?」
「奇遇だな、ユヅキ殿」
「やっほー、私たちもいるよ!」
「お疲れ様です」
「フィゼルにリネル!?」
デュソルバートとフィゼルとリネルに出会う。
ふと、優月はあることを思い出した。
「そういえば魔獣討伐の命令が出てたっけ…デュソルバートさんには。…デュソルバートさんには」
「なんで2回も言ったの?」
そう、命令自体はデュソルバートに出ていたのだが、何故か2人も着いてきていた事に、疑問を抱く優月。
「勝手についてきたのだ…」
「…お疲れ様…」
「ユヅキさん。子供の失踪事件ってどうなってんですか?」
(こいつら…さてはこれが目的か…)
案の定連れてけと、ごねだす2人。
優月はデュソルバートの判断に委ねることに。
「ダメだ」
「えー!ケチんぼ!」
「…まあ、ついて行く手段は、いくらでもありますしね」
不穏な空気を醸し出す2人に、優月とデュソルバートは、深くため息をつく。
「…済まないが、ユヅキ殿。同行しても構わないだろうか?…というより、ついて行かねば何をしでかすか、まるでわからん」
「こいつら、シャレにならんしな…。仕方ねぇ。道中、デュソルバートさんの言うことを絶対に聞くこと!分かった!」
「「はーい!」」
((絶対に分かってない…))
動機が不純すぎて、逆に感心する2人。
旅が賑やかになる…そう思う優月なのだった。
outside
優月たちは、道中魔物を倒しながら進んできたが、何やら魔獣の被害範囲が広い気がすると、睨んでいた。
「…」
アリスも黙っているが、ルーリッド村が心配なのか、時々後ろを気にしている。
優月はひとつため息をつくと、
「幾つかの班に別れるか」
「え?」
目的の村まではさほど遠くはない。
そんな近くまで魔獣がいる事実を鑑みて、優月は班分けして、魔獣の対応を進めながら、村を目指すことに。
「アリス·デュソルバートさん·リネル·フィゼル·キリト·サチ·ユージオはこっち。残りはこっち」
「…分かりました。そうしましょう」
そうして彼らは二手に分かれて、目的の村を目指すことに。
「アリスさんのことが気になるの?」
アスナにそう言われた優月は、前髪をかきあげながら心配そうに呟く。
「…今のアリスは、かなり迷ってるから」
「迷ってる?何を?」
「俺以外の整合騎士はみんな、最高司祭によって作られた存在。それ故、『人界を守る』。この願いは自分の願いか、それとも作られた存在としての、存在意義としての願いなのか。本人がそれを、把握しきれてないんですよ。…まあ、俺もなんですけど」
「え?」
アスナの意外そうな顔で、優月を見る。
その目は迷いに満ちた色をしてきた。
「俺は最高司祭に作られた存在ですらない。おっさんみたいにそれを良しとするのでもなく、アリスみたいに真剣に迷う訳でもない。俺には、その余地すらない」
使命も義理もない。
この世界で何を成すべきなのか、それすらも分からず、ただ整合騎士という立場が持つ責任を果たすだけ。
「みんなを巻き込んでまで、俺は一体、なんの為に戦ってるのかな…な〜んてね!早く行こ!」
無理やり笑って先を急かそうとする優月に対して、一番先に声を出したのは
「『仮想も現実も、俺には大差無い。どこだろうと、なんだろうと、俺の耳で聞いて、目で見て、鼻で嗅いで、口で味わって、肌で感じて。俺の五感全てで感じたものが、俺の現実だ。その経験が、こっちかあっちかの差、それだけだ』…そう言ったのは、貴方でしょ、優月」
「シノン…?」
「アンダーワールドだとか、人界だとか、整合騎士だとか…そんな話、どうでもいいのよ。貴方は…兎沢優月は、何をしたいのよ?何を感じたのよ?その思ったのよ?それに従うことが大事だって…そう言いたかったんでしょう?」
(自分の気持ちに従う…)
シノンに言われた優月は、ハッとさせられた。
アンダーワールドに来て、カセドラルで過ごし、整合騎士見習いとして過ごしてきた日々。
色んな戦いを経験し、色んなことを見てきて、優月の中で現実とVRの世界がゴチャゴチャになってきていた。
1年が経ち整合騎士となり、世界を旅してこの人界の歪みに気がつき、世界と戦うことを決めた。
その戦いに勝った後にあったのは、更なる問題と混乱。
そのせいで色々と見失っていたものが…やっと見えだした。
「…俺は…人界がどうとか、アンダーワールドがどうとか…はっきり言って、どうでもいい」
「…それで?」
「でも、この世界には俺が守りたいものが沢山ある。…だから戦う。それが俺の…兎沢優月の…ツキノワの…優月=シンセシス=ゼロの、戦う理由だ。…これでいいってことだよな?」
その言葉に全員が頷く。
やっと、本調子を取り戻した優月は、顔を叩いて頭を切り替える。
「よし!だったら急ごう!」
「「「「「「「ええ!」」」」」」」
そんな様子を
(これが…ユヅキ様の強さ…)
メディナは静かに見つめるのだった。
それでは失礼します。
ありがとうございました。