ソードアート・オンライン NEOプログレッシブ 作:ネコ耳パーカー
side優月
メディナが冒険者を連れて失踪してから数日。
未だ手がかりは掴めずにいた。
俺はアスナ先輩と一緒に、西帝国にいた。
「この辺りね、魔獣の情報があったのは」
「はい。早めに片付けて、情報収集の時間を長めにとりしょう」
「…心配してるんだね、メディナさんのこと」
心配…というより、後悔かもしれない。
確かにメディナのやり方はやりすぎだと思うし、俺自身間違ったことは言ってないと思っている。
だが、やはり言い過ぎたのは事実だ。
メディナのことを理解しようとせず、ただ頭ごなしに否定しただけ。
「…大丈夫。大丈夫だよ、優月君」
「アスナ先輩…」
「大丈夫、会えるよ。会ってちゃんとお話しよ?私もそばにいてあげる。何があっても、私は優月君の味方だから」
「…ありがとう、先輩」
先輩の優しさと温かさに、ホッとしていると、魔獣の声が聞こえてきた。
「…先輩、行きましょう」
「うん。こっちだね」
俺達は急いで声の方へ移動して、魔獣を討伐した。
割と早く終わった討伐任務の後、俺達は周辺で聞き込みを行った。
だが大した収穫はなく
「知れたのは、【ベクタの迷子】の西帝国バージョンか」
特に気になる情報も無かった俺は、少し肩を落としていると
「ヒャア!ゆ、優月君!」
突然先輩が飛びついてきた。
びっくりした…何事!?
「せ、先輩!?どうたんですか!?」
「お願い…手を繋いで帰ってくれる…?せ、戦闘中は離すから!」
「それはいいですけど、どうしたんですか?」
「だって!お化けがいるかもしれないんだよ!?」
…もう、相変わらずお化けは苦手なんだな、アスナ先輩。
仕方ない…さっきのお返しだ。
「大丈夫…俺がいますから。俺が守りますよ」
そう言って、俺は強く先輩の手を握った。
「…うん。ありがとう、優月君」
そのままアスナ先輩は、まだ西帝国での捜索を続けるらしく、シノンとリーファと交代する形で、俺は対策本部に戻ったのだった。
outside
少し日にちが経ったが、未だにメディナの手がかりは無く。
「アリス、どうだった?」
「…いえ。なんの手がかりもありませんでした」
優月は執務をしながら、続報を待ち続けた。
「ユヅキ、ちょっといい?」
「シェータ?どうした?」
話しかけてきたのは、シェータ=シンセシス=トゥエルブ。
最優先度を誇る神器【黒百合の剣】を使う、生粋の人斬り。
その無口さから、【無音】とすら呼ばれている女性騎士だ。
「巡回中の近衛兵が、カラントを見つけたって。ついてきて欲しい」
「了解。行こうか」
「…私も同伴していいでしょうか?」
恐らく、じっとしてられなかったのだろう。
アリスがついて行きたいと言い出したことを、優月は少しだけ悩んだが、これを同意。
3人でカラントを斬りに行くことに。
「魔獣を討伐した後は、また周辺住民から話を聞きましょう」
「彼女のこと、心配?」
アリスの言葉に、シェータが小さく呟く。
アリスは頷くが、同時にただ心配しているだけでは無い。
アリスの一番の懸念は…
「ハァシリアンか」
「はい。もしあの男の誘いに乗っていたら…」
「最高司祭を甦らせるのに、協力するかもってことか」
優月は苦い顔で、一番嫌な可能性を口にする。
もし蘇られたら…全てが水の泡と化す。
「…それの何がいけないの?」
「…え?」
シェータの何気ない一言に、アリスが呆然と呟いた時、魔獣の鳴き声が響き渡る。
声の方を確認すると、ハリネズミ型の魔獣が数体、出現していた。
「…お話は一旦やめようか。行くぞ!飛んでくる針に注意しろ!」
優月は直ぐに飛び出して、近くの魔獣を斬りつける。
だが踏み込みが浅く、深手とはならなかった。
(クソ…。この針、邪魔くさいな…!)
優月は直ぐに針を切り落とすが、直ぐに生えてきてしまい、意味は無いと判断。
その時、魔獣の体に力が入るのを見て取った優月は、次の行動を予測した。
「針飛ばすぞ!防御!」
「クッ!…シェータ殿!?」
優月とアリスがガードする中、シェータだけが切り払いながら進み、無防備となった魔獣を一突きで倒した。
「マジかよ…!?シェータ!しゃがめ!」
シェータの背後から攻撃しようとした魔獣を、優月は刀を伸ばして貫く。
そのまま刀を手元戻すのではなく、自分の体を近づけるように元の刀身に戻して、力ずくで薙ぎ払う。
「スゥ…ハァ!」
そのままソードスキル【緋扇】で、魔獣を倒すと、今度はアリスが前に出る。
「ハァ!」
【金木犀の剣】の耐久値を利用して、強引に距離を詰めると、【ホリゾンタル·スクエア】で魔獣を倒した。
「よし!シェータ、最後の一体任せていいか?俺とアリスはカラントを斬る」
「ん。お願い」
優月たちは役割を分担して、無事にカラントを斬ることに成功したのだった。
sideアリス
「…お疲れ様です」
「おう。シェータも、お疲れ様」
「それじゃ私は、【西の峡谷】の警護に向かうから」
【西の峡谷】とは、西帝国最西端だ。
…正直、ここに警護はいらない気がしますが…ハァシリアンの件もある。
1人は置いておく必要があるかもしれない。
そう考えながら私は、シェータ殿を引き止め、さっきの言葉の意味を尋ねていた。
「最高司祭様が何をしようとしていたのか、騎士長から聞いて知った。実際にこの目で見たわけじゃないからなんとも言えないけど、騎士長の言葉なら信じられる。でも私は…最高司祭様が、完全な悪だとは思えない」
「それは…何故ですか?」
私の問いに、シェータは神器【黒百合の剣】を抜くと相変わらずの眠そうな顔で、小さく呟く。
「この剣は、暗黒界に咲く黒百合を剣に変えたもの。その時こう言ったの」
『この剣は、あなたの魂に刻まれた呪いを、形にしたものよ。性質遺伝変動数値が生み出した、殺人衝動という名の呪いをね。斬って斬って、斬り続けなさい。その血塗られた道の果てにのみ、あなたの呪いを解く鍵がある…かもしれないわ』
なんともあの方らしい、残酷で冷たく、そして僅かながらに優しく暖かい言葉だ。
「私はその意味を考え続けながら、生きていくことになった。それがいいことなのか、悪いことなのかは分からない。でも最高司祭様に与えられた物も、たしかに存在する」
そしてシェータ殿はこう締めくくった。
もし蘇るなら、なぜあんな言葉を残したのか。
なぜ望み通りに、罪を犯した自分を眠らせてくれたのか…と。
シェータ殿の話を聞きながら、私はこの【金木犀の剣】を貰った時のことを思い出した。
『この剣は不朽の存在とされる、世界最古の金木犀をリソースにしたもの。あなたが信じ続ける限り、この剣は何者にも斬られない。あなたなら、この剣を信じ続けられるでしょう?』
だがあれは、私たちを騎士人形として使うために、優先度の高い武器を与えたに過ぎない。
あの人に情など、僅かにも存在するはずが無い。
「…シェータ殿は、最高司祭様が蘇ったら、再び彼女に与すると?」
「分からない。その時私の魂が何を求めるかは、私自身知る由もないこと。そしてそれは、どの整合騎士も抱える問題。…あなた達以外」
そう、私たちはそれを知った上で、最高司祭様に逆らうと決めた。
いや、ユヅキはそもそもあちらの人間だ。
そして私たちには未だに、敬神モジュールが埋め込まれている状態。
今私たちを繋ぎ止めているのは、整合騎士団という集団への忠誠心だけ。
私たちは、薄氷の上を歩いているのだと、再確認させられた気がしたのだった。
side優月
西の峡谷に向かうシェータを見送りながら、俺はこう思っていた。
…シェータって、こんなに喋るんだ。
いや、だって…【無音】とすら呼ばれるほどの無口な人だぞ。
そんな人がこんなにペラペラと喋るとは…実は結構お喋り?
「…なんというか…意外に色々考えてたんだな、あの人」
「若干失礼な言い方ですが…そうですね。彼女の言葉は正しいです。私たちは迷っている。何が正しく…一体何のために、私たちの力は存在するのか」
「…俺は、その迷いを抱く余地すらないよ」
その言葉にアリスは、ハッとしたような顔をする。
だがその問題は、既に乗り越えた。
「なぁ、アリス。アリスはどうしたい?整合騎士とか、作られた存在だとか…そういうのは一旦置いといてよ。アリスって女は、どうしたいんだ?」
「私が…アリスがしたいこと…」
アリスが難しい顔をして、考え込み出す。
それを黙って待っていると、恐る恐る口を開いた。
「私は…人界の民を兵器にしてしまう、そんな計画は許せない。それゆえ、最高司祭様復活など、決して認められない。ですがそれは…」
「作られた騎士の意志か、アリスの意志か分からない…と言いたいのか?」
「はい…」
「ばーか。どんなアリスでも、アリスには変わりねぇよ」
俺はアリスを軽くデコピンしながら、カラリと笑う。
「どんな私も私…?」
「騎士のお前も、ユージオが取り戻したいお前も、同じアリスって女の子だってこと。わざわざ区別するから、ごっちゃになるのさ。お前が見て、聞いて、感じたことが大事なんだぜ?」
そう言って、俺はアリスの肩を叩く。
「さ、聞き込みと行こうぜ」
結局聞き込みは、大した成果は上げられず、俺たちはセントリアに戻るのだった。
それでは失礼します。
ありがとうございました。