チョコレートわーくす 作:水代
『中には誘拐犯推定三名と人質一名。建物は二部屋。手前の部屋に犯人三名、奥の部屋に人質一名ね。私は裏から回るわ、アナタは表からお願い』
「オーライ、でも裏から入るたってここ三階だけど大丈夫かい?」
『問題無いわよ、こっちに任せなさい』
「アイアイ、頼りにしてるよ相棒」
通信を切り、やや古びた木造施設の入口を見やる。
すでに二階から下は制圧済だ。つまり下から敵が来ることは無い。
残すはこの木製の扉の先の2フロアのみ。
「さーて、精々派手に行くとするかい」
笑みを浮かべて。
「どっせーい!」
蹴り飛ばした木製の扉が派手な音を立てながら弾け、転がる。
突然の出来事に固まっている部屋の中にいる数人の男たちを見やり、ニィと笑みを浮かべる。
「抵抗は無駄だ、大人しくお縄を頂戴しな!」
とは言えど、それで大人しくするならば最初から誘拐なんてやるはずも無い。
向けられた銃器の射線から逃れながら床板を蹴り飛ばしながら一気に近づき木剣で一番近くにいた男を切り伏せる。
木剣であるが故に本当に切り裂いたりはできないが、この質量の物質が思い切り叩きつけられれば成人男性だろうと無事では済まない。
骨の一本二本逝ったかもしれないが、まあ犯罪者確保のための仕方ないの無い犠牲ということで済ませながら次の相手を見定める。
「お、お前!? こ、こっちには人質が!」
二人目の骨も圧し折ったところで三人目の男がそんなことを言いながら誘拐していただろう人質を求めて奥の部屋へと繋がる扉を開き。
「む? 見つかった」
「だ、誰d……ぐえ」
扉の向こうで縄で縛られた人質を救出する黒髪の少女の姿を認め一瞬硬直した間に黒髪の少女が男へと迫寄り、その腹部に掌底を打ち込む。
小柄な女の身とは言え、鍛えられたその一撃は男を蹲らせるのに十分な威力を持っていて、行動不能へと陥った男の元へ足早に駆け寄り、振り上げた木刀をその首に向かって振り下ろす。
「これで三人っと。ヨル、これで全部?」
「そのはずだよ」
人質は解放、犯人は制圧。
ならば。
「これで依頼完了だね」
「ええ、お疲れ様、チルハ」
事件解決に二人がほっと一息……つこうとして。
「っと! そこだ!」
「ごふっ……」
ぶん、と手に持った木剣を部屋の入口に向かってぶん投げる。
直後、刃物片手に扉から飛び出してきた四人目の男の顔面に木剣が突き刺さり、男が仰け反って倒れた。
「四人目? 情報に無いわよ」
「ま、そういうこともあるさ」
顔をしかめたヨルに対して、けれど肩をすくめて応える。
それから蹲って倒れた男たちを全員縄で縛り、拘束。
直後に建物の外からドタドタといういくつかの重い足音。
「警邏が来たね」
「なら引き渡して今度こそ依頼完了ね」
手と手を振り上げ。
「「お疲れ!」」
ぱちん、と叩いて合わせる。
そうして互いに笑った。
* * *
「依頼達成お疲れ様ってことで、かんぱーい!」
「乾杯」
グラス同士をこつん、とぶつけ合えば澄んだ音が響き渡る。
ぐいっと呷るようにして飲むグラスの中身はけれどただのジュースだ。
「リリカ姐さん、アタシ酒頼んだはずなんだけどー?」
「はいはい、お酒はチルハがもう少し大きくなったらねー」
「アタシもう十七だよ! 酒だって飲めますー」
甘ったるいくらいの風味は決して嫌いなわけではないが、『ワーカー』の仕事終わりと言えば酒に限る。
なんて言っていると厨房の奥から一人の茶髪の男性……グロック・エルメテスが追加の料理を運んでくる。
「お、きたきた、グロックさんの料理は美味いからなあ」
「全部食べたらダメだよ、チルハ?」
「分かってる分かってるぅ」
皿にフォークを突き立てながら大口を開けながらパクパクと口の中へ料理を運んでは飲みこんでいく、そんな自身に対面の少女……ヨル・エルハトールが嘆息する。
「もう少し行儀よく……というかお淑やかに食べられないの?」
「ちまちま食べてたって詰まらないじゃないか。美味しい物を口いっぱいに頬張る、それが最高に美味しい食べ方ってもんだろ? てわけでリリカさん、追加で酒お願いねー」
「だーめ」
クスクスと笑いながらカウンターの向こうで金髪の女性……このギルド『千の歌』のギルドマスターであるリリカ・エルメテスが空になったグラスに瓶に入ったジュースを注いでいく。
「それで、今回の依頼はどうだったの?」
「楽勝だよ楽勝! アタシと相棒がいればね」
「人質いるのに真正面から行こうとした人間の言葉とは思えないよ」
「アハハ、チルハはいつも通りだねー」
「ぐぬぬぬ」
唸りながらも次の皿を取る。
スープ皿だったらしい、それをスプーンで掻きこむように一気に流し飲む。
「ちょっとチルハ……もうちょっと味わって食べなさいよ」
「ちゃんと味わってるよ、うんまい! やっぱグロックさんの料理最高だね!」
「ありがとうね、あの通り無口な旦那だけでチルハたちが美味しそうに食べてくれるのは嬉しいって言ってたよ」
「グロックさん、お代わりー!」
「まだ食べるの?!」
「アハハー」
依頼で金が入れば目いっぱい食べる。
それで仕事が終わり日常に戻ってきたのだと実感する。
それもまた『ワーカー』らしさ、というものだ。
「ふー食べた食べた」
「食べすぎよ、ホントに……もう食べてすぐに寝ころばない、太るわよ」
「大丈夫大丈夫、アタシ太らない体質だし」
「世界中の女性を敵に回す発言ね」
満腹になると横になって一休み。
「リリカさーん、いい加減このボロソファー買い替えないの?」
「まだ使えるでしょ? それに買い替えて欲しかったらもっと依頼をこなして頂戴な」
買って随分と日が経つのであろうソファーはあちこち破れやほつれがあり、寝転ぶと少しばかり埃が舞う。
「相変わらずの零細ギルドだねえ」
「仕方ないわよ、だって所属が私たち入れてたったの五人よ?」
「数少ないA級
今現在この蒸気と歯車の街『ナイトベルグ』のギルドは十を超えるが、その中でもA級闘士が在籍するギルドともなれば片手で数える程度だ。
『ワーカー』の中でも『
「全員有資格者のギルドなんてそんなに無いはずなんだけど」
『ギルド』は基本的にどの街にも存在する『何でも屋』のような存在だ。
少し語弊のある言い方をすれば『仲介屋』でもあり、『職業斡旋所』でもある。
街の行政や町に住む人々から『依頼』を集め、『ギルド』に登録された『ワーカー』に『依頼』を割り振る。
中でも『特定の技能を所有している』と『ギルド』に認められた『ワーカー』は資格を与えられる。
『
資格持ちとは簡単に言えば『ワーカー』のエリートであると言える。
例え一番下のE級認定ですら素人には取得することは難しいと言わざるを得ない以上、その数は『ワーカー』全体の数と比べて少ない。
A級ともなれば街全体で見ても五十とはいない、そういうレベルだ。
「と言うか絶対に『女神の使徒』が幅効かせすぎだよ」
「ソファーに靴履いたまま足を乗せない、行儀悪いわよ……そうは言ってもあっちは公認だしね」
基本的にギルドの設立は個人の自由だ。勿論ただ立ち上げただけでは信用も何も無いので依頼が来ずに立ち行かなくなるだけだが。ただ作るだけなら本当に誰でも作れる。
けれどその中でも街に『公認』されたギルドとなると、話が変わって来る。
簡単に言えばギルドのスポンサーに街が付くことになるのだ。
当然行政庁から割の良い依頼や名声の高まるような依頼が優先的に割り振られるし、街の行政
「遺跡系依頼なんてだいたいあいつらが独占してんじゃん」
「遺跡に行きたいの?」
「別に依頼をえり好みするつもりはないけど、このままじゃ何時まで経ってもソファーの一つも買い換えられないままじゃん」
「まあ言いたいことは分かるけど……今の私たちじゃねえ」
何か切っ掛けがあれば、なんて呟くヨルの言葉に嘆息した。
その数日後。
思わぬところから切っ掛けはやってきた。
* * *
基本的に『ワーカー』の仕事は短期間と長期間の二種類だ。
毎日ギルドに顔を出して何がしかの仕事を探す者が探すのは短期間の依頼。
専門技能を持たない『ワーカー』の仕事は『何でも屋』の名に違わずもっぱら雑用だ。
人手の足りないところに手を貸しに行き、多少の報酬と共に返って来る。
実際のところ先日のような戦闘系依頼というのはそこまで多いわけではないのだ。
とは言え多いわけではないが無くならないのもまた事実である。
一度の報酬は大きいが時々しか無い、または長期間拘束される依頼が終わった『ワーカー』は数日休養を入れたりする。
戦闘系だけでなく、他にも『
ギルド『千の歌』のメンバーは全員後者だ。
先日の依頼だってそれなりの報酬は受け取った。
とは言えそれだっていつまでもあるものでも無い。
依頼を達成するためにかかる費用は大半経費では落ちないのだから、報酬から達成のためにかけた費用を抜けばいつまでも怠けてもいられない。
何よりアタシには夢がある。
目指すものがあって、たどり着きたい場所がある。
故に今日も今日とて依頼を受けるのだ。
「つーわけでリリカさん、何か良いの頼むよ」
「曖昧ねー」
そんなことを言いながらも手元の依頼書をめくりながら確認してくれるリリカさん。
「チルハは……良いとして、ヨルは何か依頼の希望ある?」
「うーん……私とチルハだとやっぱり討伐系になるよね。功績まで考えるなら魔物系の討伐依頼とか良いんじゃないかな」
「そうね、街の警察機構からの要請を何度か受けて対人成績なんかは順調に伸びてるし、魔物系の討伐依頼をあといくつかこなせばチルハがB級闘士資格試験を受けることはできそうね」
「ホントかい?!」
「ホントよホント。だ、か、らあ……そうね、この辺なんて良いんじゃないかしら」
そう言ってリリカさんが手渡してきた依頼書を開けば、そこにあったのは。
「『森林迷宮』でディグ・マナウルフの討伐……」
「正確にはその毛皮の収集ね。だいたい10匹分……って結構多いわね」
「ディグ・マナウルフは名前の通り、穴を掘って潜む珍しい狼の魔獣ね。だいたい三匹か四匹で一つの群れを作ってるから注意してね」
「ん、大丈夫だよ、リリカさん。それなら知ってる」
名前に『マナ』のつくのは全て『魔族』だ。
正確には亜人系統の『魔人』、物質系の『魔物』、そして獣系の『魔獣』の三種をひっくるめて『魔族』と呼ぶ。
『魔族』とそれ以外の区別は単純で『マナ』を扱えるか否かである。
つまり魔獣は『マナ』を扱う獣であり、それだけで一般人には手の負えない存在と言える。
『闘士』へ割り振られる依頼としてはかなりポピュラーであり、だからこそ上位の闘士を目指すアタシとしても知識としては知っている。
「あとチルハ、毛皮の収集だから下手な切り方して毛皮をダメにしたら依頼未達成だからねー」
「そういう細かいのアタシは苦手なんだけどなあ……まあいざとなったらヨルに任せるよ」
「そう言われても、私の獲物もあんまりそういうの向いてないんだけどなあ」
カウンター席の上に乗せられたヨルの愛用のゴツイ拳銃を分解、整備しながらヨルが嘆息する。
「解体所は開けておく?」
「いや、アタシもヨルもそういうの苦手だしプロにお任せで」
「うーん、本当は私かチルハが出来れば良いんだろうけど……」
「無理無理、アタシそういう細かい作業苦手なんだ」
「チルハはこの調子だし……私は、うん」
「グロいの苦手なんだから無理しなくて良いんだよ。こういうのはできる人に任せりゃ良いのさ」
当然ながら自分で出来たほうが余計な出費も減るのだが、まあヨルの場合半ばトラウマのようなものなので無理にやらせるのは酷というものだろう。
アタシは……まあ自分でいうのも何だが、アタシがやると売れるモノも売れなくなるし。
「ま、ならうちでいつも使ってるとこに連絡つけておくから、帰ってきたら持ち込みなさいな」
「アイアイ。頼んだよ、リリカさん」
告げながら愛銃の整備の終わったらしいヨルの様子を見計らって席から立ち上がる。
「行けるかい、相棒」
「待たせたわね、何時でも行けるわ」
そんなヨルの頼もしい言葉に苦笑し。
「そんじゃ、ま……行くかい」
用語辞典
『ギルド』
いわゆる『何でも屋』のような存在。もっと正確に言えば『仲介屋』であり、ある種の『職業斡旋所』でもある。
ギルドは街中の人間から『依頼』を受け付けており、その『依頼』をギルドに登録した『ワーカー』に斡旋、仲介することを主な業務としている。
またより正確な仲介のために『ワーカー』たちの適性ごとに『資格』を発行し、ランク付けることも行っている。
『ワーカー』
働き手の意。この場合、依頼を受けて金品を稼ぐために『ギルド』に登録した人間を指す。
中でも『適性資格』を取得することで各資格持ちのみが受注できる専用性のある依頼を受けることができる。
主に『闘士』『探索者』『回収者』などがある。
『回収者(サルべージャー)』
約千年前に作られたとされる神代の遺跡へと赴き、そこに眠る宝を回収する『ワーカー』の資格の一つ。
『闘士(ブレイバー)』
数百年前に世界中で魔物が大発生した『大災害』の際に、国を守る兵士だけでは戦力が足らず、国家が臨時に募集した戦力に対して『勇士(ブレイバー』という名を付けたのが始まりとされている。
現在において戦闘を得手とする『ワーカー』が取れる資格の一つで、戦闘系依頼を割り振られている。
『探索者(シーカー)』
かつて大陸が今ほどに開拓されていなかった時代に『開拓者』と呼ばれる人たちが大陸を切り開いていった名残であり、未開の地へ赴き現地を調査を主とする『ワーカー』たちの資格。
基本的に探索者が未開の地へ赴き、神代の遺跡を発見したらそれを回収者が赴いて探索する。その護衛を闘士が行うというサイクルがある。