チョコレートわーくす   作:水代

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バディ・ワークス・ブレイバー③

 

 

 森である。

 見渡す限り代わり映えのしない森の風景。

 

「ここ、どこ?」

 

 そんなヨルの言葉に返答を濁す。

 来た道を戻っていると思っていたのだが閃光手榴弾のせいでどうやら別の方向に来てしまっていたらしい。

 いや、案外これも森の作用なのかもしれない……『迷いの森』なんて通称しているのだし。

 とは言え今はそんなことはどうでも良い、問題は。

 

「アタシたち、どこから来たんだい……?」

 

 そんなアタシの問いにヨルもまた答えられない。

 少し考えて、もう一度周囲を見渡す。その中で一際高い木を一つ選び。

 

「ヨル、少し待ってて」

 

 蹴り上げるようにしてその幹の僅かな出っ張りを足場に木を登っていく。

 そうして高所からもう一度森全体を見渡そうとして。

 

「……おいおい」

 

 見えたのは霧に包まれた森だった。

 この場から歩いて少しばかりの辺りまでならまだ見える、が森の出口……というか端がどこにあるかは全く見えない。

 

「いや、というかおかしい」

 

 するすると木を降りていく、だが途中の視界に霧など見当たらない。

 もう一度木を登る、ある程度の高さを超えたところでいきなり視界に霧が飛び込んでくる。

 

「何だい、これ」

 

 普通の霧じゃないのは明らかだ。

 というか本当に霧かどうかすら怪しい。

 とにかく上から眺めて出口を見つけるのは無理そうだったので、諦めて降りる。

 ヨルに上で見てきたことを伝えれば、ヨルもまた怪訝そうな表情をした。

 そうして互いに顔を突き合わせ、どうしようかと考えるがけれど答えなんて一つしかないと歩き出す。

 そんな中、ちらりと持ってきた時計を見やれば時刻はそろそろ夕方に差し掛かろうとしていた。

 

「陽が暮れそうだね」

「うん、もう今日は森から出ることは諦めたほうが良いかもしれない」

 

 陽が暮れるまでもう時間が無い。

 森の中でキャンプするならまだ明るい内に準備しておかなければ暗くなっては作業が遅々として進まないのは目に見えている。

 そう思って先ほどからキャンプが張れそうな場所を探しているのだが。

 

「一応テント持ってきはしたけど、張れそうなところが無いね」

「こんな平地にテント張って明りつけてたら一発で魔獣が寄ってきそうだしねえ」

 

 何というか、この森、ひたすらに平坦なのだ。

 歩きやすいと言えばそうなのだが、逆に言えば視界が開けすぎていて遠くからでも見えてしまう。

 夜寝ている時に魔獣の襲撃に合う、などというのは勘弁願いたいものである。

 

「最悪徹夜しても良いけど」

「明日森を抜けれる保証があるなら、ってつくね、それは」

 

 アタシもヨルも一晩寝ないで、というのは不可能ではない。

 不可能では無いが、確実にいつもよりパフォーマンスは落ちるし、明日もし森を抜けられずにさらに一晩、となると二人して集中力を切らして交互に不寝番をするハメになりかねない。

 そのため素直に今日は安全な場所で寝て、明日のために余力を残しておくべきだろう。

 

 そこまでは良いのだが、問題はじゃあ安全な場所ってどこだ、という話。

 

「木の上に登って寝る?」

「地上はそれで良いかもしれないけど、さっき猿みたいなのもいたし安全とは言い切れないと思うよ?」

「適当に塹壕みたいな穴でも掘る?」

「さっきディグ・マナウルフ見たばっかで?」

 

 せめて大きな洞でもあれば……アタシもヨルも小柄なほうだし二人毛布でもくるまって一晩、というのも考えなくも無いのだが、それすらも無いとなるとどうしたものかと考えさせられる。

 そんなことを考えながら歩いていると、歩く先、前方の草むらが揺れる。

 

「「っ!!」」

 

 何かいる、それを理解すると同時に先ほどのこともあって、ヨルと二人警戒を強める。

 先ほどのように一方向に視線を向けるのは危険だと理解したため、今度はヨルがアタシの背のほうを見やる。

 それから揺れる草むらをじっと見つめ。

 

 ぴょん、と飛び出してきたのは茶色い兎だった。

 

 飛び出してきた兎がこちらに気づくと、慌てたように逃げ出していく。

 直後に何か来るか、と気を張り詰めるが、けれど何も起こらない。

 そのまま十秒、二十秒と経ち。

 

「来ない、わね?」

「ホントにただの兎みたい?」

 

 警戒を解き、安堵の息を漏らす。

 

「全部が全部おかしいってわけでもないってこと?」

「少なくともさっきの兎は普通だったね」

 

 襲ってきたやつらとの違いは何だろうと考えてみるが違いが多すぎて絞り込めない。

 もう少しサンプルが欲しいところだ。

 それから少し考えて。

 

「ヨル、今の兎が逃げた方に行ってみないかい?」

「え? いきなり何で?」

「そこまで大した根拠があるわけじゃないけどね。兎なんて臆病な動物だし、それが逃げた方向ならまだ安全なんじゃないか、くらいの適当な理由さ。でも方角すら曖昧な今の状況ならそんな理由でも良いかと思ってね」

「……うーん、確かに、正直否定したって他に何か道標になるようなものがあるわけじゃないんだよね」

 

 少し悩んでいた様子のヨルだったが、やがて頷く。

 それから兎の逃げて行った方向を見やり。

 

「確かこっち、だったよね」

 

 足元の草に体重の軽い何かが踏みつけたような跡があるので間違いないはずだ。

 

斥候(スカウト)技能のある仲間が欲しくなるわね」

「あってもどれだけ役に立つかね、この森で」

 

 軽口を叩きながら歩きだす。

 

 結果的にこれが正解だったのか、不正解だったのか。

 

 それは後になれば分かることだった。

 

 

 * * *

 

 

 兎を追って森の中を進む、なんてまるで絵本か何かのシチュエーションのようだが、現実にはそんな楽しいものでも無い。

 近づきすぎれば駆け足で逃げられるので、小動物の残す小さな痕跡を追いながらどこまで続くのか分からない鬼ごっこである。

 時間にして三十分近くそんなことをやっているとさすがにこれは無駄な行為なのではないか、と思ってしまうのも仕方ないというもの。

 

 刻一刻と陽が完全に沈むまでの時間が近づいているというのに本当にこんなことをしている場合なのだろうか、そんなことを考えたりもするが、だからと言ってじゃあ次どうするのだ、と言われればアタシもヨルも返答に窮するのも分かっていた。

 

 どうしてこんなことになってしまったのか、少しだけ振り返ってみる。

 

 必要な事前調査を怠ったつもりはなかった。

 森についても、そこに住まう物についても必要なだけは調べてきたはずだし、必要な道具類も集めてきたはずだ。ただそれでも予測が甘かったと言わざるを得ない。

 

 あの複数種の魔獣が同時に襲い掛かるという異常事態。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()予想だにしなかった。

 

 多分もうそれが甘い考えなのだ。

 人が未来に起こる全てを予想することなど不可能だ、だから予想もしていないことが起こり得るのが常であり、だからこそ必要以上に準備しておくべきだった。

 こんなことが起きると分かっていればもっと別の準備もあっただろう。

 だがそんなこと分かるはずも無いのだから、だからこそもっと備えて置くべきだった。

 

 要するに、アタシもヨルもその辺の経験が無かったのだ。

 

 見込みが甘い、とはつまりそういうことだ。

 

 そもそもアタシもヨルも基本的に対人向きの技能が多い。というかヨルの場合ほぼ対人技能しかない、というべきか。

 それを後から学習して知識をつけてある程度補ってはいるものの、アタシたちは()()この道のプロフェッショナルというわけではないのだ。

 

 そう考えれば。

 

「運が無かったね、全く」

「え……? 何か言った?」

「いや、何でも無いよ」

 

 問題なく終わらせることができたはずの初調査でいきなりのこれ、全く運が悪いとしか言い様が無い。

 なんて、嘆いたところで何が変わるというわけでも無いのだが。

 

「お腹空いた……」

「そう言えばお昼食べてからそこそこ時間経つもんね」

 

 午後から森の中を数時間と歩いているのだ、それは空腹感だって覚えるだろう。

 こういう時のために持ってきたポッケの中の携行食を取り出すとひょいと口の中に放り込む。

 

「何食べてんの?」

「ガナハ」

「確かチョコレートのブランドだったよね。チルハ、ホント好きだね、それ」

「単純に好み、ってのもあるし、カロリー高いからエネルギー補給に便利なのもあるかね」

「私もそっちにすれば良かったかも……スナックバーで口の中乾いてきた」

 

 食料品もそうだが、先ほどから探してはいるがこの森、水辺が全く見当たらない。

 そのせいで持ってきた水も相対的に貴重品と化してしまっている。

 どこかで見つけられれば良いのだが……。

 

「ねえ、チルハ」

「何?」

「決めたよ、私。帰ったら『探索者(シーカー)』の資格取る」

「そういうのは帰ってから言ってよね」

「あ、今のフラグだったかも」

「フラグ……?」

「こっちの話、こっちの話」

 

 何でも無いと言わんばかりに手を振るヨルに、どうせまた本の受け売りか何かだろう、と思いながらも視線を彷徨わせて。

 

 視界の端で影が揺らめいた。

 

 同時。

 

 タッタッタ、と足音が響く。

 

「ヨル!」

「分かってる」

 

 すぐさま木剣片手に前に出る。

 ヨルが後ろを警戒し、さあ今度は何が来る、と身構えたその時。

 

「ガ、ガウ! ニンゲン?!」

 

 木の陰から飛び出してきたのは頭部に獣のような耳を生やした一人の少女だった。

 

 

 

 

 

「ニ、ニンゲン、ニゲテ、クル、アイツ、クル!」

 

 こちらに向かって走ってきた少女がそう叫びながらそのままアタシたちを抜き去り。

 直後、轟、と音を立てながら目の前の木が弾け飛んでその奥から黒い熊が現れる。

 

「またこいつかよ!?」

「あ、でも今度は単体だよ」

 

 ちらり、と視界の端を見やれば先ほどの獣耳の少女が木の陰に隠れながら半分だけ身を出して必死になって逃げろと身振り手振りで示していた。

 

「ヨル」

「うん、オッケー。ようやく出会えたまともな相手だもんね」

 

 後ろを守るヨルに一言を声をかければそんな返答。

 まさに以心伝心、アタシの相棒である。

 

「なら、行こうかい!」

 

 地を蹴り上げる、足に引っ掛けた土が抉れて黒い熊の顔にかかる。

 理性の無さそうな様子だったが、目に砂が入れば痛いのか唸りながら熊がよろめく。

 その隙を逃すことなく、ヨルが後方から発砲。

 

 ばん、ばん、と大口径拳銃の重い爆音が響き、熊のそのつま先を抉る。

 

 痛みに熊が悲鳴を上げ、さらによろめいたところに追い撃つようにつま先を負傷し、その巨体を支えきれなくなって転がる。

 

「魔獣相手なら遠慮は無用だからね、思いっきり行くよ」

 

 大きな隙を晒し動きの止まった熊へと走り寄りながら、振り上げた木剣を力いっぱい握りしめて、その頭に向かって振り下ろす。

 毛皮のせいで少しばかり手ごたえは鈍い。だがその衝撃は魔獣熊の首の骨を圧し折る程度の威力はあったようで、熊の全身から一気に力が抜けて大地へと崩れ落ちた。

 

「ま、単体ならこんなもんだね。お疲れ、相棒」

「お疲れ、まあもう一体いたらふっつうに逃げ出してたわね」

 

 ぱん、と差し出した手を叩き合いながら邪魔者は片付いた、と視線をずらしていき。

 

「アンタも無事かい?」

 

 その視線が木陰から震えながらこちらを見つめる少女へと向いた。

 向けられた二対の視線に少女がびくり、と体を大きく震わせ……けれど少しずつ木陰からその体が出てくる。

 そうして視線をアタシたちに、それから熊へと二度、三度と往復させる。

 再度アタシたちへと視線を向け、口を開いて最初に出てきたのは。

 

「コ」

「こ?」

「コロサナイデ」

 

 震えた声で頭を低くしての命乞いだった。

 

 

 * * *

 

 

 コボルトというのは魔人の一種に数えられる。

 大本は獣だったのだが、マナを得たことによって変化し、人に近い姿を得たとされる。

 その姿はまさに半人半獣であり、特に雄は獣としての姿が、雌は人としての姿が強く表れる。

 

「別に殺さないよ、アンタ、コボルトだよね」

 

 勘違いされがちだが『魔族』=外敵……というわけではない。

 『魔族』はあくまで人類以外の種族で『マナの扱いを覚えた』種族という分類である。

 そのため『魔人』だから『魔獣』だから『魔物』だからとその全てが人類に敵対しているわけではない。

 

 ただ大半の『魔獣』や『魔物』はその大本の性質からして人間を襲うこともあるため外敵というイメージが強く印象づいているだけであり、都市内で普通に人間のペットとして飼われている『魔獣』とかもいるし、『ワーカー』の武器として共に戦う『魔物』などもいる。

 

 中でも魔人と言うのは基本的に人と姿が近しいこともあって、友好種も多い。

 妖精の魔人『ゴブリン』、獣の魔人『コボルト』、植物の魔人『エルフ』、鉱石の魔人『ドワーフ』などが有名だろうか。

 彼らは都市外に住みながらも人類と友好関係を持ち、時に交易などもしたりする。

 そもそも人類が都市を作る際に街を囲う壁などはドワーフのものだったり、都市内の植物はエルフの手によって植えられた物だったり、と人類が今日も平和に暮らせるのは彼らの協力あってのことでもある。

 

 目の前の少女はぱっと見は人間だ。

 ただその頭に被った帽子の隙間から垂れた獣耳や、スカートの下に見える尻尾などは『コボルト』の雌の特徴でもある。

 友好種の魔人は都市内でも普通に人権を持っていたりするし、そんな相手を害したりすれば当然ながら罪に問われたりもする。

 

「ちっと事情聴きたいんだけど……ああ、アタシはチルハ、こっちは相棒のヨル。ナイトベルグの『闘士(ブレイバー)』だ」」

「ガウ! ブレイバー!」

 

 警戒心を少しでも解こうとしての自己紹介だったが、思いもよらぬところに少女が食いつく。

 

「ガウ! ニンゲン、オネガ……う、えほん、えっと、ニンゲンさん、おねがい、したい、ある」

 

 ゆっくりとしたその口調は先ほどまでよりこちらの言語の発音に近く、聞き取りやすくなっている。

 街の外の魔人は基本的に人間との交流が少ないため言語が聞き取りづらいと聞くのだが、少女はそうでも無いのだろうか?

 

 まあ、それはそれとして、だ。

 

「お願い、って何だい、言ってみな」

 

 こちらとしても聞きたいことはたくさんあるのだが、目の前の少女の切羽詰まったような表情が全てを後回しにさせた。

 そんなこちらの意図に気づいた様子も無いままに少女がアタシの服の袖を握り。

 

「ガウ! たすけて、おねがい、わたしの、ともだちを!」

 

 目端に涙すら浮かべた少女の姿に一瞬言葉に詰まり。

 

 苦笑する。

 

 友達とは誰か、助けてとはどういうことか。

 そもそもここはどこで、とか他にも色々言いたいが。

 

 全て置いておいて。

 

「おう、アタシに任せな!」

 

 告げて少女の頭にぽん、と手を置いた。

 

 

 

 




くっそあざといケモミミ少女だぞ。
因みにロリってほどではない。


人物紹介①


名前:チルハ・スピネル
性別:女
年齢:17
身長:145cm
体重:40kg
外見:蒼髪赤目 ロングヘア 頭に黒いリボン 白と青ワンピース、胸元に赤いリボン
好物:チョコレート、正義の味方
嫌物:熱い物(猫舌)、悪いやつら
説明:主人公その一。脳筋パワーファイター。因みに頭自体は悪くないけど考えないほうが楽しく生きれると思ってるため脳筋ファイターになってしまった……。
戦闘センスは飛び抜けて良いがまだ経験が足りない。あと手加減が苦手なので、極端にやり過ぎるか、極端に抜き過ぎるかでいまいち実力発揮できてない。戦闘経験を積むほどにその辺も上手になりそう。
木剣なのは鉄にするととある事情により不都合なのもあるし、それ以上にハンデつけれるから。
ぶっちゃけ単純なパワーがゴリラ(
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