一話
「……何か出たんだけど」
誰もいない場所で独り言を呟いてしまう。
その日俺、影野雪平は放課後にいつもの様に道場で棒術の訓練をしていた。
俺の家は代々続く武術一家だ。俺はその十六代目当主に当たり、唯一の身内だったが祖父が他界した後も一人で武術の研鑽に励んでいた。
ある日、拳で丸太を叩く修行をしていると凄まじい轟音と共に丸太が粉々に粉砕された。
それだけならたまにある事なので驚きはしない。
けれど俺の拳には炎が発火していた。
それもただの炎では無い。黒い炎だ。
不思議と熱さは感じないが、不気味な感じがして気味が悪い。早く消してしまいたいが、何となく水をかけただけじゃ消え無さそうだと直感する。
思わず呟いてしまうのも仕方が無いだろう。
すると思ってもいなかった場所から、その質問の回答が来た。
「そいつは死ぬ気の炎だぞ」
「っ、誰だ?」
この道場には俺しか住んでいないし、門下生もいない。だから他人がいるはずがない。いるとすれば不法侵入者だけだ。
「ここだぞ」
声がした方向を見るとーーーー蝉のコスプレをした子供がいた。四歳くらいか。
「ちゃおっす」
器用に壁に張り付いているが、顔の部分が背中にあるのがちょっとキモい。
「それにしても凄えな。一人で死ぬ気の炎を出せる奴なんて初めて見たぞ」
「良くわからんが、それって凄いのか?」
「大抵は人から指導を受けるのが大半だぞ」
「へえ」
そんなに凄いのか、黒炎(これ)。
「だが黒い炎は初めて見たぞ」
「そうなのか?」
「俺が見た事あるのは十五種類だけだぞ」
「ふうん。正体不明ってことか」
「ああ。面白えな」
そう言って、赤ん坊はニヤリと笑った。
「それにしてもお前は驚かねえんだな。俺は子供だぞ」
「まあ、ウチでは人を見た目で判断するなって言う教えがあるからな。驚きは無いぞ」
「ますます気に入ったぞ」
それが俺と家庭教師リボーンとの出逢いだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
昨日あった事は突然で驚いたが、ある程度の炎の使い方をリボーンに教わった。炎の抑え方や、自由に出す方法もだ。
とりあえず炎の詳細がわかるまで使ってはいけないとの事だったので、昨日は大人しく炎を使わずに寝た。
次の日は普通に学校だ。
俺は特にこだわりもなかったので、家の近くの並盛高校に通っている。今は高校二年生だ。
「よう、ツナ」
「おはよう。影野」
俺が挨拶をしたのは隣の席の沢田綱吉。
中学時代は通称ダメツナなんて呼ばれていたらしいけど、俺からすれば一本芯が通った人間に見える。高校では唯一と言える友人かもしれない。
(さて、寝るか……)
机につっぺした。
「十代目! おはようございます!」
「よう、ツナ!」
「二人とも! おはよう!」
ああ、また騒がしくなってきた。
ツナの隣の席はこれがあるからちょっと怠い。
ツナの周りに集まって来たのは獄寺隼人と山本武。二人とも同じクラスで、ツナとは「並盛トリオ」なんて呼ばれるほど仲が良い二人だ。
今日も今日とて、騒がしい。
何故か聞いた事がある「ボンゴレ」なんて、いつの日か聞いた事がある単語も聞こえるが興味も無い。
眠気に逆らわず、眠りの世界に落ちて行くーーーー
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ちゃおっす!」
「おう」
放課後、道場にはすでにリボーンがいた。
適当にお茶を沸かして淹れ、道場に座布団を出して出迎えた。
お互いにお茶を啜り、静かな雰囲気に獅子脅しの音が鳴り響く。
「それにしても驚いたぞ。まさか、お前があの天武無双流の正統後継者だったとはな」
「知ってるのか?」
「古くは平安時代まで遡る、日本の殺し屋一家だ」
「それを知ってるって、本当に何者なんだよ」
「俺は凄腕のヒットマンだからな」
「へえ。じゃあ先輩だな」
「歴史だけ見たらお前の方が大先輩だぞ」
「んじゃ、お互いに敬語はなしって事で」
そうしてまた二人でお茶を啜り、沈黙が流れた。
何度目かの獅子脅しが鳴り、リボーンが口を開く。
「俺は今、ボンゴレ十代目の家庭教師をしてるんだ」
「ボンゴレ……?」
「イタリアンマフィアだぞ」
「あー……、何かちょっとだけ聞いたことがあるようなないような…………」
何だっけなー、最近も聞いた事があるんだけど。
リボーンは「まあ良い、続けるぞ」と言って本題に入った。
「お前には新しい十代目ボンゴレに入って欲しい」
「断る」
「だろうな」
「ああ。悪いな」
即決だった。
別に断る理由はないが、やる理由もない。
ならば道場で訓練していたいし、何より面倒ごとに首を突っ込むのは御免だからな。
だが、リボーンは特に驚いた様子もなく、続けて言った。
「だから勝負しろ」
「?」
「武術家は勝者には従うしきたりだ。そうだろ?」
そう聞いて、ニヤリと笑う。
試合と聞けば、武術家としては楽しみなものだ。
特にこの、目の前の未知の強者が相手となるのなら。
「まさかリボーン。お前が相手してくれるのか?」
「いや、俺は手を出さねえ。代わりにーーーー」
ちょうどそこに騒がしい声が聞こえて来た。
「ちょっ、こんな場所に呼び出して、何のつもりなんだよ、リボーン!」
「十代目、大丈夫ですか!?」
「ははは! 野球の外周よりはマシだぜ!」
「うっせぇ、野球バカ! 筋肉サイボーグのお前と十代目を一緒にすんな!」
「ひ〜っ!!」
そこに現れた面子を見て、少し驚いた。
何故ならーーーー
「ボンゴレ十代目とその守護者がお前の相手だぞ」
ーーーーそこにいたのは俺の友人、沢田綱吉を含む、並盛トリオだったからだ。