騎士は人気の職業である。
というか騎士として誰かに仕えるというのはステータスなので、かなり倍率が高かったりする。
クレアは辺境の地では領主の護衛に当たっていたため、かなりの地位を気付いていただろう。
まあそんな場所から引きずり降ろしたのは俺なんだが。
そんなクレアは今、イスと訓練をしている。
単純な肉体鍛錬や素振り、模擬戦。
これを繰り返しているようだ。
ちなみにクレアは魔法の才能は欠片もない。
何故なら昔、試してみたからだ。
俺自身はバグってる肉体によって一瞬で習得できた魔法であるが、できない人間もいる。
というかほとんどができないはずだ。
しかし、クレアには読心術が通用しない。
というか魔法が通らない。
魔法無効能力を持っているようだった。
そんな相手に勝った俺は強いのではないだろうか。
いや強い。
まあ魔法以外ならあっさり通用するので、そういうところを突けば勝てるのだが。
知らない人間からすれば化け物スペックのクレアに魔法が通じないと知った瞬間絶望するわけだが。
「ぐぇー」
「まあ、今日はここまでだな。
風呂に入ってゆっくり体を癒すんだぞ」
「はいー」
都合3度ほどイスを転がしてから、クレアは木剣を置いた。
イスは起き上がることもできずにその場に倒れたままだ。
いやまあ、身体の完成してない子供が大人に勝てるわけがないのだが。
とはいえ、イスの性能はかなり良い。
魔法の才能はかなりのもので、剣術も才能があるとクレアが言っていた。
クレアにそう言ってもらえた人間を俺は知らない。
つまりかなりの高スペックに育つということだ。
しかし。
「ししょー……」
「なんだ?」
「ふつーの服をください……」
「我慢しろ、居候の身だぞ」
いつもの通り、イスの恰好は女性のそれ。
今日は花柄のワンピーススタイルだ。
可愛らしいことで。
「ボクは男の子なんだけどなぁ……」
「可愛いは正義らしいぞ」
「ふええ……」
可愛いことはすべてに優先される。
なので俺の優先順位はほぼ最下位だ。
ちなみに俺は自分で買ってきた服がある。
イスにはちょっと合わないサイズなので渡せないのである。
メイドたちの趣味とも合わないっぽいので、ひん剥かれて別の服に変えられる未来が見えるし。
「そういえばししょー」
「なんだ?」
「身体を強制的に成長させる魔法とかできるんです?」
「つまりこういう服が似合わない肉体年齢になりたいと」
「そうですー」
ふむ。
言われたので考えてみる。
まず成長させる魔法は作れる。
その成長させる魔法を作る時間を考える。
「できる」
「ほんとーですか!?」
「ただし10年くらいかかる」
「駄目じゃないですかー!!」
しかし、それくらいかかるのだから仕方がない。
新しい魔法を組み上げるのは大変なのだ。
もしかしたら既に作られていて保存されているのかもしれないが、それを見つけるのも年単位だろう。
「つまりはそういうことだ」
「悲しい……」
ぐでーっとその場に沈むイス。
まあ仕方ない。
これが現実なのだ。
なので成長し切るまでその恰好をやめないように。
被害が俺に来るので。
物理的な奴が。
「生贄は任せたぞ、イス」
「生贄ってなんですかー!?」
そのままの意味である。
「しかし……」
今日はちょっと違和感がある。
なんというか、世界が歪んでいる。
魔法関連の可能性が高いが……まあ、まだどうしようもない。
そもそも俺と関係があるのかすらわからないのだ。
対処するしない以前の問題だろう。
というわけで、とりあえず注意を促すだけ促すことにした。
イスは俺にくっつけておけばいい。
後は先にレクサ、そして最後に鍛錬をしているであろうクレアだ。
「ん……っあ!」
ずんばらり。
ドアを開けたら美味しそうなプリンを食べていたレクサがいた。
そして直後に斬撃。
斜めに切られた。
イス、見事に返り血を被る。
「目が、目があー!」
ごろごろ転がるイス。
すまんな。
ちょっと尋常じゃない出血量だから被る量もおおかったのか。
「んん! で、どうした?」
姿勢を正して聞いてくるレクサ。
いやまあ、お前がプリン好きなのは知ってるし。
今食べてた奴が俺の分なのも知っている。
だから後で別のおやつをよこしなさい。
「嫌だ。……で、違和感の話か」
「ああ」
とりあえず、ここの当主であるレクサに報告。
広範囲爆撃だったりしたら、狙いはレクサだろうからだ。
避難してもらわなければならない。
「んー……私は変な気配を感じていないぞ」
「そうか」
レクサは自身に向けられた敵意、殺意、その他諸々を感じ取れる能力を持っているらしい。
だから俺の読心術も防げるのだとか。
だからといってずんばらりされるのは困るが。
「そしてイスは拾い物だから、狙われる可能性はほぼ0、か?」
怪しい所だが、イスは確保してあるのでどうにかされる可能性はない。
というわけで。
「レクサお嬢様!」
「どうした!」
「クレア様がいなくなりました!」
つまりはそういうことである。