【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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10R ささやかな宴

 模擬レースの最終的な着順は、

 

1位(プリン2個) オカメハチモク

2位 スズシロナズナ

3位 アーモリー

4位 コロボックル

最下位(おやつ無し) メルヘンランド

 

 という結果に落ち着いた。私とカメとはハナ差、私がほんの少し頭を前に出すなり手を伸ばしていさえすれば覆せる勝負だった。

 とは言え勝負は勝負、負けた悔しさは残るが、結果はともかく昨日と違って計算通りの、そして精一杯のレースが出来た。

 公式戦と模擬レースを比べるのも変だけど、悔しさと後悔しか残らなかった昨日と比べれば、今日のレースは持てる全て出し切ってとても清々しく終われた。改めてカメの怖さをこの身に刻んだのもあるが……。

 

「かぁーっ! また負けたぁっ! くっそぉカメめぇ、今度こそリベンジしてやるからな!」

 

 わざと悪役風な物言いでカメを祝福する。あの子も私がそういうキャラなのを理解しているから笑顔を崩さない。

 彼女にしては長めの距離を走ったせいか、まだ少し息が荒い。呼吸が落ち着くのを待ってからカメはゆっくり口を開いた。

 

「でもナッちゃんは昨日のレースの疲れがあって2着(これ)だから、もし体調万全だったら私絶対追い付けなかったと思う…」

 

 分かっている。そういう逃げ道があるから、まだ私はこの敗北を受容出来ている面も否めない。体力万全で今と同様の着順だったら、地団駄を踏んで悔しがっていたかも知れない。

 

 今現在地団駄を踏んで悔しがっているのはコロだった。

 

「ちくしょーっ! この作戦なら逃げ切れると思ったのにーっ!」

 

 この模擬レース、終始コロの執念は鬼気迫る物があった。通常ならスタミナ切れで後方に沈むケースで、最後に恐ろしいまでの末脚を見せてきた。一皮剥けたコロの新たな武器が開拓された感がある。

 源逸さんはここまで計算してプリンを景品に持ってきたのだろうか? それともただの偶然… だよねぇ……。

 

「お疲れ様。2人ともナイスレースだったよ」

 

 アモ先輩とメル先輩が2人でやって来た。2人とも20kgのハンデを付けてあそこまで走れるのだから、やっぱりオープンクラスの実力は凄いんだなぁ、と感心する。

 ハンデが無ければ私達なんかぶっちぎりで負かしていただろうし、その凄い先輩達ですらトゥインクル・シリーズを走るウマ娘の中では中ランクかそれ以下だ。

 

 やっぱりもっともっと強くならないとね……。

 

「お疲れ様です。メル先輩大丈夫ですか? 私のプリン分けましょうか…?」

 

 優しいカメが最下位のメル先輩を気遣う。対してメル先輩はゆっくりと首を振った。

 

「気にしないで良いのよ。『勝負の世界』なんだから下手な情けは見せちゃ駄目。本心からカメちゃんの勝利を祝福するわ」

 

 そう言ってパチパチと手を叩く。私とアモ先輩、コロも同様におめでとう、と手を叩く。「ありがとうございます」と皆に軽く会釈をして回るカメ。

 

「それにアモちゃんの言う通り、私も次のレースが近いからカロリー制限しなくちゃいけないしねぇ…」

 

 残念そうに言うメル先輩。レース中にアモ先輩がメル先輩に何かを言っていたのはそういう事か… アモ先輩は本当に恐ろしい人だ。

 当の本人はヘラヘラと笑って何でも無い風を装っている。

 

「いやぁ、なかなか感動的なレースだったな。これは是非レース場で見たかったぞ!」

 

源逸さんを先頭にトレーナー陣がやって来る。

 

「良いですねぇ。チーム〈ポラリス〉主催で『ニンジンプリンステークス』をやりますか。GⅠウマ娘集めて中山あたりで」

 

 アモ先輩がニヤついた顔で源逸さんに返し、その場の全員で大笑いになる。

 中山レース場と言えば日本の4大レース場の1つで、年末の有記念が行われる由緒正しい場所だ。そんな所でプリンを賭けてレースをするのか… それはそれで楽しそうだな……。

 

「時間も時間だから今日はもうみんな上がりましょう。ちょうどいい感じでプリンも冷えてると思うし」

 

 アイリスが締めて本日の練習は終了、競争する様に着替えてチームの事務所でトレーナーも交えてプリンパーティを行った。

 

 アモ先輩とメル先輩とで1つのプリンを分け合って食べていたけど、まぁメル先輩の敗因はアモ先輩の妨害工作にあったのだから、2人の友情の為にもこの結果は必然と言えるだろう。

 

 そして優勝者のカメは2つのプリンを前にして、その1つめをろくに味わわずに飲み物の様にスルンと飲み込んだ。

 目を見張る私達を前にカメは「一度こういう贅沢な食べ方をしてみたかったの」と言い放つ。その上で2つめのプリンを開封し、ゆっくりと味わいながらチマチマ食べ始めた。

 

 その言葉が本気なのか『2個のプリンを当てつけがましく食べたくない』という彼女の優しさなのかは計り知れないが、そういった普段は見られない各々の内面等も見られた今回の模擬レースでチームは大いに盛り上がったし、私も敗戦の暗さを払拭出来た気がする。

 

 さすがに中山とは言わないけど、またやりたいな、プリンレース!


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