【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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14R 泥とゴール

 転倒した時のスピードは時速にして50km程だろうか? そりゃあもう盛大にもんどり打って転がったわよ。

 体中が痛い。そりゃ時速50kmで走っている自動車から飛び降りた様な物だから、その衝撃は推して知るべしだ。

 

 だが不幸中の幸いとでも言おうか、泥濘んだ芝がクッションの役目を果たしてくれたのか、絵面の割には私の受けたダメージは軽かった様に思えた。

 まぁそれでもすぐに立ち上がれるほど軽くはない。ボンヤリと仰向けになり、ゴール手前250m程の内ラチ横で私は雨降る空を見上げたまま動けずにいた。

 

 倒れて動けない私を後続のウマ娘達が避けて進んでいく。彼女たちが横を通る度に弾けた泥飛沫が私の体操着を染めていく。

 

 痛みで薄れそうになる意識を引き戻してくれたのが、この泥の洗礼だ。

 

『おう、コラ! ブスども! よくもこのスズシロナズナさんの顔に(文字通り)泥を塗ってくれたね?!』

 

 と、怒りで気持ちを取り戻す。レースはまだ終わっていないんだ……。

 

 自分の体を(あらた)める。全身打撲を負ってはいるが、脚を含めてどこも骨は折れていないようだ。

 内ラチにぶつけた右腕が痺れていて感覚が無いが、脚さえ無事なら問題は無い!

 

 体中が痛い… でもまだ立てる!

 体中が痛い… でもまだ一歩前に踏み出せる!

 体中が痛い… でもまだ歩ける!

 体中が痛い… でもまだ走れる!

 

 頭が痛い、肩が痛い、腕が痛い、腰が痛い、肘が痛い、膝が痛い、足首が痛い…

 それでも私はレースから降りたくない!

 

 気持ちだけが前に出て脚がうまく運べない。他の娘達はすでに全員ゴールしているのだろう。観客席の声が何やら盛り上がっている。

 レースはどうなったのだろう? あのままドキュウセンカンが勝ったのだろうか? この歓声はドキュウを祝福している声なのだろうか?

 

 ふらつく脚で不格好に走る。足元が泥濘んでいる為に余計にスピードは出ない。今の私は普通の人がジョギングしている程度の速さしか出せない最遅のウマ娘だ……。

 

「スズシロナズナーっ! 頑張れーっ!」

 

 …え?

 

 私の名前が聞こえた様な気が……。

 

「スズシロナズナーっ! もうちょっとだぞー!」

「ゴールはすぐそこだーっ!」

「ナズナちゃん、頑張ってーっ!」

「そのガッツはGⅠクラスだぞーっ!」

 

 その他にもたくさんの「頑張れ」の声が聞こえた。お客さん達が私を応援してくれる… コケてビリッけつになった私を……。

 

 不思議な事に、この応援の声を聞いていると体の痛みが段々と引いてくる。力がどんどん湧いてくる。踏み出す足に少しずつ力が宿っていく。

 

 ああ、これが応援の力なんだ… 今までも家族や町内会の皆の力を感じた事はあったけど、数千の声援は全く次元の違う感覚だ。

 

 坂を超えゴールが見える。レースを終えた娘達がまだゴール地点近くで集まって不安そうな顔でこちらを見ている。

 ハイハイお待たせして申し訳ありませんね。スズシロナズナ只今ゴールに到着しましたよ、っと。

 

 私がゴールラインを超える瞬間に観客席も一気に沸き上がる。ハハハ、これGⅠじゃなくて未勝利戦だよ…? こんな盛り上がった未勝利戦なんて初めてじゃないの…?

 

 ラインを超えた時に、他のウマ娘達が揃って私に駆け寄ってきた。

 

「大丈夫…?」

「頑張ったね、凄いよ!」

「早く医務室に行こう!」

 エトセトラエトセトラ。

 

 何よ、そんな事を言うために皆で雨の中残ってたの…? バカみたい。私なんか放っておいてさっさと控室に帰れば良かったのに……。

 

 全く甘っちょろい娘ばかりで、これからが心配だわ。

 

 頭ではそう思ってたのよ? でもね、何故だか私の口から出た言葉は、

 

「ありがとう… ありがとう…」

 だけだった。でも泣いてなんかいないよ。これは雨の雫だからね……。

 

 ゴールした事で体の力が一気に抜けて、立っていられなくなった。体の痛みがぶり返し、同時に意識も薄れていき目の前のウマ娘に倒れ掛かりそうになる。

 そこで何かに体を支えられて体が浮き上がった所で私の意識は途切れてしまった。

 

 ☆

 

 右腕がお腹の上に乗っている様な重たい感覚に、気が付くと私は何処かに寝かされていた。

 

「気が付いた? ナズナ…」

 

 すぐ横にアイリスが居た。その後ろにカメときりさんも控えている様だ。

 

「ここは…? えっと、何がどうなったんだっけ…?」

 

 体を起こそうとしたが、全身に痛みが走って「あ痛っ!」と声を出してまた倒れ込んでしまった。

 

「もぉっ! ナッちゃん無理しすぎ!」

 

 涙目のカメが迫ってくる。その後ろできりさんがカメに同意するようにウンウンと頷いていた。

 

「とりあえずお医者様の話では、どこも骨折はしていないそうよ。でも右肘脱臼の他、全身打撲で全治3週間ですって。あと貴女を医務室(ここ)まで運んでくれたのはドキュウセンカンよ。今度会ったらお礼言っておきなさいね」

 

 そうか、ドキュウが私を運んでくれて… って、私をこんな目に遭わせた犯人がドキュウセンカンなんだからお礼はお礼でも『お礼参り』の方が正しい気がするんだけど…?

 

「…レースはどうなったの…?」

 

 ドキュウに対する複雑な気持ちは置いておいて、私の質問にアイリスは優しく答えてくれた。

 

「あのままドキュウセンカンの優勝よ。そりゃもう。あの娘のステージは迫力あったんだから」

 

 …そっか。あいつが勝ったのならまたリベンジする機会はあるだろう。ブラックリリィに続いてまた1人倒すべき奴リストに新たな名が記された。

 

 ぶっちゃけステージが既に終わっていて良かったと思う。「Make debut!」の中の『勝利の女神も夢中にさせるよ』のくだり、バックダンサーはセンターに跪く動きがあるのだけれども、ドキュウ(あいつ)にだけはそんな真似したくないからね!

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