【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「ねぇ、そう言えば今何時? コロのレースってどうなったの?」
私のレースの終了時間が11時過ぎだから、そこからどれだけ気を失っていたかによるんだけど……。
「今は午後3時過ぎ。コロは残念ながら7着だったわ。貴女の事故をリアルタイムで見てから気持ちがレースどころじゃ無かったそうよ…」
そうか… コロには悪い事をしてしまったなぁ。私のレース如何でコロやアモ先輩の走りに影響が出る事は分かっていたのに……。
「ナッちゃんのせいじゃないよ。今きりさんが源逸トレーナーに『ナッちゃんが目を覚ましました!』ってメールしたから、今頃はコロちゃんやアモ先輩も安心していると思うよ」
カメのフォローがありがたい。とりあえずこれ以上心配をかけない事が、今の私に出来る最大の仕事だろう。
「ありがとうカメ。でもこれで同期3人のうち2人が未勝利だからねぇ、源逸さんきっとがっかりしてるよねぇ…?」
「そんな事無いよ。
「そうね、きりの言う通り無事が何よりだわ。あんな派手な転び方をしてたら2、3箇所骨折してても不思議じゃ無かったわよ? ホント見てるこっちの心臓が止まりそうだったんだからね?」
アイリスやきりさんにも心配をかけた。大怪我をしていないのは自分でも不思議だ。それこそ一歩間違えばアイリスの言う様に、何箇所も骨折して競走ウマ娘としての人生を棒に振る可能性もあったのだ。
「うん、私も何度もこんな幸運は続かないと思う。だからこそ神様に貰ったこの体と命で、今度こそ1着取りに行くからね!」
「ナズナはその前に怪我を治しなさいね。ナズナは私が担いで行くから、今日はもう帰りましょうかね…」
アイリスが傍らの荷物をまとめ始める。その荷物の最たる物が私自身なのだろう。引退したとは言えアイリスもウマ娘だ。細い身体して
「あ、待って! もうすぐツキバミのレースが始まるんだよね? それ見てからでも良いかな…?」
今日、中京レース場に来た理由は2つある。1つは私のレース、そしてもう1つはツキバミのレース観戦なのだ。
正直そこまで私にはツキバミに拘る理由は無いのだけれども、未だクラッシック級にして『現役最強』と呼ばれる存在を見てみたくもある。
「じゃあ私がナッちゃんをおんぶして上げる! それなら良いでしょ、アイリスさん?」
カメが提案してくれたが、アイリスはまだ難しい顔で何やら思案している。
「…その事なんだけど、今ナズナをお客さんの前に出すと騒ぎになると思うの。精密検査を受ける前に様態の事を他人に話したくないし、それに医務室の外に何人か雑誌や新聞の記者さんが待機してるのよ。ナズナを取材したいみたいなんだけど…」
アイリスの口ぶりの重さが、彼女の迷いの深さを物語っているようだ。
騒ぎになると言う事なら、私とて本意では無いからツキバミ観戦は諦めるか……。
「さっきのナズナの走りと観客席の盛り上がりを記事にしようとしているみたい。後々の事を考えるとマスコミに顔を出しておくのは得策ではあるんだけど、当のナズナ自身が弱っている姿を見られたくないんじゃないかな? って思って…」
なるほど、それで私の意見を聞きたいって事なのね。
「うーん、そうねぇ… 確かに今は取材を受ける気分じゃないかなぁ? 盛り上がったって言っても意図してやった訳でもないし、結局は最下位なんだしね… どうせなら勝ってインタビュー受けたいよ」
「分かった、じゃあ外に居る記者さん達には、私から取材のお断りをしておくわ」
そう言うとアイリスはそそくさと部屋を出て行った。
その瞬間、観客席から大きなどよめきの声が上がる。きっとパドックにツキバミが姿を現したのだろう。
今日、中京レース場に来ている人は大半がツキバミ目当てのはずだ。お目当てのウマ娘の登場に、観客席の熱気と興奮が
やっぱり彼女のレース見たかったなぁ……。
「ね、ナッちゃん、やっぱりレース見に行こうよ。ナッちゃんには大きなタオルか何か被せて顔を伏せておけば隠せるよ。ね、きりさん、良いでしょ?」
カメが珍しくはっきりと自己主張している。私の希望を汲んで… ていうかカメもツキバミのレースを見たいんだな、これ。
「え?! カメちゃんは良いけどナッちゃんはアイリスの許可を取らないと駄目だよ。今アイリスは外に出てるし、勝手に許可したら私が怒られるもん。アイリスが怒ったら怖いんだよ?」
うん、知ってる。アイリスは怒るとキレるのではなく理詰めでネチネチ文句を言ってくるタイプだ。しかも口に出す事で発散されずに余計に体内に毒を蓄積させるタイプの面倒くさい女なんだよね……。
「見たらすぐ戻るから! お願い、レースの数分だけで良いから」
いつに無く押しの強いカメにたじろぐ、私ときりさんの2人。
「…確かにツキバミを見に来たのも目的の1つだからね。うん、分かった。私がアイリスに怒られておくよ、気をつけてね」
「ありがとうきりさん。後で骨は拾ってあげますから!」
あ、カメも前回の
タオルを頭から被った私は、カメに背負われてこっそり医務室を後にした。