【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
Eclipse first, the rest nowhere.
(「唯一抜きん出て並ぶ者なし」)
───日本ウマ娘トレーニングセンター学園スクール・モットー (校訓)───
☆
18世紀に活躍したエクリプスと言うウマ娘が居る。
彼女は公式のレースだけで18戦18勝、更に対戦相手が逃亡棄権して不戦勝となったレースが8戦。
都合26戦を負け無し、それも全戦を圧倒的大差で勝ったと言う偉業を成し遂げた『伝説』だ。
エクリプスとは日蝕や月蝕を意味する言葉だが、今私の眼前には「月を
赤錆の様な暗い茶髪を無造作に背中まで伸ばしている、中肉中背のウマ娘。その眼光は鋭く、滾る闘志が体の外に溢れている様にすら見える。
あの目はこれから
「ナッちゃん、こんな後ろで良いの? 一般席じゃなくて関係者席ならもっと前で見られるよ…?」
私をおんぶしたカメが恐る恐る聞いてくる。カメにはツキバミの闘気みたいな物が感じられないのかな? 私は一般席からでもビンビン感じてビビリまくってるんだけど…?
「いや、良いよ… これ以上前に出たら
「そうなの…? ナッちゃん凄いね。格闘マンガのキャラみたいなこと言ってるよ」
楽しそうに茶化してくるカメ。何だかバカにされた気がしないでも無いけど、多分この子は本気で感心してるんだろうなぁ……。
観客席の視線はツキバミに釘付けで、本来なら目立つ外観の『ウマ娘を背負ったウマ娘』も、さほど気にされる事もなく観衆に紛れ込めていた。
全員のゲートインが完了し、程なくレースが開始された。
もの凄い歓声が辺りを包む。殆どがツキバミに対しての声援なのだろう。「ツキバミーっ!!」「行けーっ!」という声が大勢の口から飛び出していた。
さて、注目のツキバミだが、なんとゲートから出ると同時に前のめりに転倒してしまったようだった。
…いや違う。あれこそがツキバミの走り方。前にビデオで見た通り、ツキバミは極端なまでの前傾姿勢で走る人なんだ。
最初からスパートを掛けている様な力強い走り。戦術としての『逃げ』と言うよりも、獲物を追い掛けている野生の肉食獣と表現する方が正しいだろう。
第3レースだった私の試合の時でも馬場状態は最悪だったのに、現在行われている神戸新聞杯は第11レースだ。
その間に行われた7レース分のウマ娘らの蹄鉄が、芝を抉り土を掘り下げ、およそ走るには相応しくない道を作り出している筈だ。
それでもツキバミの脚は正確に大地を捉え、一歩を踏み出す毎に後続のウマ娘からぐんぐんと離れていく。
最終コーナーを抜けた時点でトップはツキバミ、2位のウマ娘との差はおよそ6〜7馬身。
そして最後の直線でツキバミは更に加速して見せ、後から追い上げてきたウマ娘らをも尻目に9馬身差で余裕の1着をもぎ取っていった。
彼女の次のレースは間違いなく『菊花賞』だろう。菊花賞の3000mをあの調子で走り切るつもりなのだろうか…?
『伝説』のエクリプスの名を継ぐ (?)怪物、ツキバミのレースに圧倒されて、私とカメはしばらく無言で立ち尽くしていた……。
☆
中京の最終レースが終了したが、帰ろうとするお客さんは非常に少ない。
観客席正面の電光スクリーンが中山競レース場の様子を映し出した。そう、神戸新聞杯の直後に中山で「オールカマー」が行われるのだ。
せっかくなので大きい画面でアモ先輩を応援しよう。
「見て見てナッちゃん、アモ先輩が居たよー!」
ツキバミショックから解放されたカメが、画面に映るアモ先輩を見て無邪気に喜ぶ。
大画面では丁度スターティングゲートが設置され、これから各員のゲートイン、という場面が映し出されていた。
アモ先輩は3番人気、十分に優勝候補の一角だ。うまく彼女の戦法がハマれば、めでたくGⅡ勝利ウマ娘となってくれるはずだ。
「ナッちゃん、私何だかドキドキしてきたよ〜」
「うん、分かる。アモ先輩念願のGⅡだもんね。勝って欲しいよね」
今の私達に出来る事は無い。アモ先輩の勝利を信じて祈るだけだ。
目を閉じて手を組み、アモ先輩の為の祈りを三女神様に捧げる。
そしてゲートは開かれ、アモ先輩を含む15人のウマ娘が飛び出して行った。