【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
アモ先輩が電話して来てくれたおかげで、アイリスの説教タイムも極めて短時間で済んだ。先輩に感謝だね!
医務室を出た私達は二手に分かれる。私とアイリスは近くの病院で私の検査に向かい、きりさんとカメはホテルに戻って帰りの準備とチェックアウトだ。
ホテルも病院も名古屋駅の近くにあるのだが、私達はタクシーで、時間的に余裕のあるカメ達は電車で向かう事になった。
検査の時間次第だが、恐らくカメチームを待たせる事になるだろう。先に東京に帰ってもらっても良かったのだが、カメが頑として残ると言い張った。
「もし時間が余ったらきりさんときしめんでも食べてるよ」
と言うことらしい。私を心配して残る照れ隠しなのか、本気で本場のきしめんが食べたかったのかは計り知れないけど、カメチームとは私の検査終了を待って名古屋駅で合流する事になった。
☆
「ふむ… 骨には異常無さそうですね。CTでも脳や内臓の内出血は無さそうです。あれだけの転倒をして軽傷で済んだのは奇跡ですよ… ただ神経的な後遺症が出る可能性は否めませんから、1ヶ月は激しい運動は控えて下さい」
お医者さんのデスクに据えられているパソコンのモニターから、私の体の内部を撮影した様々な写真を見せられて、細々とした説明を受けた。
奇跡か… どうせならその奇跡パワーはレースに勝つ為に使いたかったが、その辺りは文句を言っても始まらない。
☆
「1ヶ月もトレーニング出来なかったら体が
診察が終わり、会計を待つ間ヒマな私はアイリスと今後の事について雑談していた。
今が9月の末だから、そこから1ヶ月様子を見て10月末。更にそこからトレーニング再開で元の調子が戻るまで恐らく1ヶ月。
またしても『未勝利ウマ娘』の看板を背負ったまま2ヶ月ほど待たねばならないという訳だ。
「そうね… とりあえずしばらく体よりも頭のトレーニングをしましょう。幸か不幸か来週から中間試験でしょ? アスリートとは言え学生の本分は勉強。補習で練習時間が潰れるなんてあってはならない事ですからね?」
あう… 正直勉強はあまり好きじゃない。それでも赤点だけは取らないようにしてはいる。アイリスじゃないが、補習で練習出来なくなるのは本末転倒だ。
アイリスは頭が良いから私の勉強も見てくれようとするんだけど、こればかりは断っている。
だってトレーニングと勉強の両方を教わっていたら、私の人生完全にアイリスに占領されてしまうじゃないか。自由が死んでしまう!
「へいへい。んで、次のレースはいつぐらいで考えてる?」
アイリスは「そうねぇ…」と言いながらスマホでURAのレーススケジュールを確認する。
「復帰戦を12月の初め辺りに想定して… 中山の2000と中京の1600、どっちが良い?」
「中京」
間髪入れず即答した私にアイリスも苦笑いしながら「了解」と答える。
初戦で負けた距離『1600m』、2戦目で負けた場所『中京競レース場』、ケチの付いた2つの案件でリベンジ勝ちして厄を落としたい。何も言わずともアイリスも私の気持ちを汲んでくれている様だ。
次の
私に今一番必要な物は『1勝』という実績だ。郷里の両親や兄、後援会の皆さんを安心させる為にも早く体調を戻して元気に走る姿を見せなくちゃね。
その後、本当にきしめんを食べてたカメ達と合流して、私達は新幹線で東京への帰路に着いた。
☆
事務所に戻った私達を待っていたのは『アーモリーフォースGⅡ制覇おめでとう&ナズナとコロは残念また頑張ろう&ナズナ快癒祈念』と書かれた大きな手作り横断幕と、コロ達東京組のウマ娘らの抱擁だった。
特にコロは私の顔を見るなり子供の様に泣き出してしまって宥めるのに苦労した。
いやぁ、本当にご心配をお掛けしました。スズシロナズナさんは元気ですよ!
ちなみに私の実家の方には源逸さんから要経過観察ではあるものの全身軽傷である事は伝えられており、後日母親から来たメールにも「気をつけて頑張りなさいよ」とだけ書かれていた。
「んじゃあ場が暖まって来たところで、全員の次のレースを発表するぞ!」
源逸さんがおもむろに立ち上がり演説風にスケジュール発表を始める。少しお酒が入ってて呂律が怪しいんだけど大丈夫なのかな…?
「まずコロとメル、お前らは再来週の東京レース場な。コロは2000の未勝利戦、メルはその後の六社ステークスだ」
それを聞いたコロとメル先輩が向き合って「頑張ろうね!」と手を取る。コロは次レースが近くて羨ましい。
「次はカメ、お前は更に翌週の阪神でのもみじステークス、距離は1400だから一気に決めちまえ!」
源逸さんの大きな声に呼応したのか、カメも負けじと大きな声で「ハイ!」と答えた。
「ナズナはしばらく休養、復帰レースの予定は12月… で良いのかアイリス?」
「はい、それでお願いします。」
私のレースなのに私が口を挟む間もなく終わってしまった。まぁ良いんだけどね……。
「そしてメインイベントのアモ! お前の次走は、1ヶ月後の天皇賞だ!!」
「…は? えーっ!? そんなん聞いてないよ!!」
いつも飄々として余裕たっぷりなアモ先輩なんだけど、この時ばかりはギョッとたまげた顔をしていた。
天皇賞(秋)、言わずと知れた秋のシニア三冠の一角を担うGⅠレースだ……。