【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
「ナズナ!」
レース終了後、私の専属トレーナーが駆け寄ってきた。
彼女の名は『プラチナアイリス』。その名の通り灰色を通り越して銀色にも見える美しい瞳を持つ、モデルとしても通用しそうな美人ウマ娘。
数年前まで重賞勝利経験のある現役の競走ウマ娘だったが、練習中に脚を痛めて引退、以後は猛勉強してトレーナー試験に合格した新人のトレーナーだ。
せっかく美人なんだから裏方のトレーナーじゃなくて芸能界に行けば良いのに、と思わなくも無い。
恐らくトレーナーの指示を無視して勝手に作戦を変更した挙句にボロ負けした私に説教をしに来たのだろう。
「なに? これからステージなんで説教は後にしてもらえる…?」
「説教って… まぁいいわ。それより貴女、ちゃんと踊れるの?」
そう、レースの後には『ウイニングライブ』と呼ばれるステージが待っている。そこでは出走したウマ娘全員がステージに立ち、歌と踊りを披露する。
正確には歌を歌えるのはレースの上位3名だけだ。3着まで入ったウマ娘はお揃いの専用衣装を着て、ステージの中央で歌って踊って観客の歓声を受ける。
もちろんセンターは1着の子で、受け持つ歌の尺も長いし、一番多くスポットライトも当てられる。今日ならあの髪の長いスカした女と言う事だ。
そして4着以下の子たちは、ちょっと気の利いたチアリーダーみたいな衣装を纏い、事もあろうに『今しがた自分を負かしたウマ娘の為の』バックダンサーを務めなければならない。
「当たり前でしょ。『
「そう、ならいいけど… くれぐれも1位の娘に足を引っ掛けて転ばそうとかしないでよね?」
「ンな事しないっつの…」
口ではそう答えたが、本音を言うと私よりも上の順位の奴ら全員をステージから蹴り飛ばしてやりたい。私に恥をかかせた奴らに仕返ししてやりたい気持ちは多分に強くある。
もちろんそんな事はご法度だし、やれば私はレース界からは永久追放、所属チームごと重いペナルティを受ける事になる。
私の周りにも今のレースで負けた娘達が、各々のトレーナーに涙の報告をしている所だ。
全員が悔しさで泣いている。全員が「勝てる」と思ってレースに出て、そして負けた。
大小の違いはあるだろうが、私たちはこの悔しさをバネにステージに臨むんだ。
『あいつ、いつか私のバックダンサーにしてやるから覚えてなさいよ…』
そう思いながら私達は
まるで軍隊みたいだ。一糸乱れぬ統制が高い完成度を誇る、という点では間違いなくウイニングライブは軍隊活動と変わらないだろう。
普通のアイドルグループと決定的に違うのは「レース終了後まで誰がセンターになるのか分からない」事だ。
だから私達は誰が何着になっても対応できる様に、1着の、2着の、3着の、それ以降の振り付けと歌うパートを叩き込まれる。
GⅡレースまでは披露する曲は「Make debut!」だけだが、GⅠになると途端に曲目数が増える。
ジュニア級GⅠで「ENDLESS DREAM!!」、クラッシック路線で「winning the soul」、ティアラ路線で「彩《いろどり》 phantasia」。
更に短距離〜マイル戦で「本能スピード」、それ以降の中、長距離で「Special Record!」、ダートコースで「UNLIMITED IMPACT」、そして春秋の天皇賞と有馬記念でだけ歌われる「NEXT FRONTIER」と多岐にわたり、そのそれぞれに歌と踊りが付いてくる。
一度でも「NEXT FRONTIER」でセンターを務める事が出来れば、堂々と『日本一』を名乗ることが出来る。ウマ娘としてのゴールの1つだ。
とりあえず今の私には関係無い。「Make debut!」だけ完璧に覚えとけば当面は困らないだろう。
☆
ライブを待つ観客のざわめきを背に、まだライトの当たらない薄暗いステージに8人のウマ娘が集う。所定の位置につき、目を閉じて精神集中しながら開演を待つ。
ステージに備えられたたくさんのライトが私達をあまねく照らしだす。大勢の観客の歓声が湧き上がる。まだ実績の無いデビュー戦でこれだけの観客が居るのは、多分に1着になったブラックリリィの前人気によるものだろう。
この観客の中には
でもそれで良い。今はまだそれで良い。
でもいつか… いつか私を見に来たファンで会場をいっぱいにしてやる。その為にはどこかで
今日感じた圧倒的な力の差。それを跳ね返す力が私にあると信じて。
私の為の願いを込めて私は歌う。マイクを装着されていないから私の声は私にだけしか聞こえない。まずはその第一号の
曲のイントロである管楽器の演奏が会場に鳴り響く。
響けファンファーレ、届けゴールまで……。