【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー 作:ちありや
レース翌日、普通に登校してきた私はクラスメートからの驚きの目で迎えられた。
私は性格上あまり友人が多くは無い。そのせいで他人に囲まれるのも慣れてはいないのだ。
「昨日見てたよ。びっくりして大きい声出ちゃったよ」
「体に痛みは残ってないの?」
「レースには復帰できそう?」
「今後どうやってあのドキュウセンカンを攻略するの?」
等々同級生らの質問攻めにあった。学年の違う娘からも話しかけられて、「ナズナ先輩に勇気をもらいました!」とか目をキラキラさせて言ってくる娘もいたりして、慣れていない分、嬉しいよりもちょっと怖かった。
極めつけは放課後、トレーニングしなくても顔だけは出しておこうと事務所に寄った時だ。
「おぉ、ナズナ来たか。これ見ろこれ!」
室内に入るなり源逸さんから手渡されたのは今日のスポーツ新聞「優駿タイムズ」。
その1面には『ツキバミ快勝! 菊花賞への確かな手応え』との煽り文句で昨日のツキバミのレースの写真と記事がでっかく取り扱われていた。
そして2面には『オールカマーに伏兵、魅せたアーモリーフォースのテクニック!』との煽り文で昨日のアモ先輩の記事が載っていた。
「あー、アモ先輩カッコ良かったですよねぇ。でもツキバミなら昨日生で見てましたから知ってますよ。これがどうかしたんですか?」
「そっちじゃねぇよ、裏見ろ、裏」
言われて新聞の裏面、普通の新聞ならテレビ欄が載っているページを見てみる。
そこにあったのは、『《鉄人》スズシロナズナ!』と大きく書かれた記事。GⅡを獲ったアモ先輩よりも私の方が紙面の扱いが大きい……。
私が転倒してから立ち上がり、歩きながら坂を登るシーンの写真が連続して載り、最後にゴールと同時に他のウマ娘達に抱き抱えられるシーンを大判の写真で飾っていた。
『ツキバミの神戸新聞杯に遡ること数時間、シトシトと降り続く雨に嫌気を差して、観客がレースよりも食堂のおでんを気にし始めた頃に事件は起きた』
こんな書き出しで始まって、レースの状況を事細かに記していた。やがて私の転倒シーンになる。
『スズシロナズナの転倒の瞬間、観客席には驚きと悲しみのどよめきが上がった。あの様な転び方をしてタダで済む訳が無い。複数の骨折、最悪は命の危険すらも十分に考えられた』
『しかしスズシロナズナは立ち上がる。立ち上がって自分の足でゴールを目指した。私の近くで「もういい、走るな、そこで寝てろ…」という声も聞こえた。私も同感だ。下手に動いて怪我を悪化させる可能性の方がよっぽど高い。どうせ今からゴールしても最下位は確定なのだ…』
『それでも我々はスズシロナズナから目を離せなかった。彼女の一歩一歩の歩みが躍動する生命の讃歌であった』
『この未勝利戦という、ツキバミを見に来た観客にとってさして意味も興味も無いレース、だがそこで我々は感動の奇跡を見たのだ』
『最後まで走り抜きゴールしたスズシロナズナ。そして彼女を抱き抱える、数分前まで1つしか無い椅子を取り合っていたライバル達。この一連の動きは何者かの演出によって生まれた物では無い。ウマ娘という業に塗れた娘達による美しき即興の協奏曲なのである』
「なんか随分持ち上げられてるねぇ。この記者さんもなんだか自分の文章に酔ってない?」
こんな目立つ場所に記事に取り上げてもらい、光栄ではあるんだけど嬉しさよりも面映ゆさの方が強い。どうにも照れくさくてこんな斜に構えたコメントを口に出してしまう。
「もう少し後を読んでみな」
源逸さんにそう言われて再び紙面に目を戻す。
『本紙はこの後スズシロナズナへの取材を試みたのだが、彼女のトレーナーであるプラチナアイリス女史からにべも無く断られてしまった。しかしながらスズシロナズナは現在意識を取り戻し、極めて幸運な事に骨折等の重傷は免れたらしい』
『現在は復帰予定等はまるで白紙の様だが、現役時代に知性派で鳴らしたプラチナアイリスの愛弟子が、今後どの様な走りを見せてくれるのか注目して追っていきたいと思う』
そして記事はこう締め括られていた。
『かつて未勝利のウマ娘がここまで我々の心を揺さぶった例を私は知らない。そこでスズシロナズナには今回見せたガッツと将来への期待を込めて《鉄人》の称号を送りたいと思う』
「な? 二つ名なんて普通はGⅠに勝ってようやく貰えるかどうかも怪しい物だぞ?」
楽しそうな源逸さん。確かに言いたい事は伝わってくるんだけど……。
「でもこれ、優駿タイムズさんが勝手に言ってるだけでURAが公認したものじゃ無いんじゃないスカ?」
「いやぁ、そうでも無いぞ。大体この手の二つ名はどっかのマスコミが言い出したネタをURAが追認するパターンが多いんだ。後々よっぽど目立たないと、お前の二つ名は《鉄人》で決まりだ」
新聞で取り上げられた事は確かに嬉しい。でも医務室で言ったように、どうせなら勝って取材を受けたいと思う。
「いやでも《鉄人》って女の子に付ける渾名としてはどうなんだろう…? とか思ったり…」
そのまま微妙な気持ちで1日を過ごしてしまった……。