【完結】MUDDY GLORY 〜泥だらけの栄光 byウマ娘プリティーダービー   作:ちありや

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20R GⅠレース

 私の記事が新聞に取り上げられた翌日、前代未聞の事件が起きた。

 以前「デビュー戦以降はファン数が計測され、その数で出られるレースのグレードが変わる」みたいな話をしたと思う。

 

 この数字に現れる『ファン』というのは、「私はこのウマ娘を一押しで応援します」という意志の証であり、URAの専用サイトで申し込んで登録して貰う形になっている。

 

 基本的に1人につき1人のウマ娘しかファンとして登録出来ない仕組みになっていて (これは有料で枠を増やせるシステムもある)、推しの変更も原則1ヶ月に1度のみとなっている。

 

 昨日までの私のファン数は累計252人だった。これは新戦4位の結果だけから見たら若干多い値と思われる。

 恐らく郷里の家族や親戚、商店街及び後援会の投票によって下駄を履かされた数字なのだろう。

 まずは1勝、と同時にこの数字をオープンレベルである3000まで引き上げるのが当面の目標だった。

 

 今朝になってURAから発表された『ウマ娘獲得ファン数ランキング』のサイトによると、今日になって私のファン数が3844人と、昨日までの15倍以上にも跳ね上がっていた。

 その理由は考えるまでも無い。昨日の『優駿タイムズ』の記事だろう。あの記事で「美談」とされた私のレースに同情票が集まった物と思われる。

 

 この情報を見つけたのはカメだ。朝、部屋で登校の準備をしている最中にふと気になって調べてみたらしい。

 もちろんトレセン学園2000人のウマ娘全てを調べた訳ではなく、大幅にファン数を上げたウマ娘がトップ画面にピックアップされるので、それで見つけたそうだ。

 

「ナッちゃん凄いね! ファン数は既にブラックリリィを抜いて同期で1番だよ。はぁ〜、良いなぁ、私もドカッとファン数が上がらないかなぁ…?」

 

 などと言っていた。ちなみに私と同じやり方は死ぬほど痛いのでオススメしかねるよ。

 

 名前の出たブラックリリィが今どれだけファンが居るかと言うと1823人で暫定2位。少ないと思われるかも知れないが、彼女の実績はまだ新戦の1勝だけ。むしろその1戦だけでこれだけのファン数を稼いでいるのは、彼女の将来に対して並々ならぬ期待を寄せている層が一定数いる証だ。

 

「私自身はあまり嬉しいニュースじゃないなぁ。やっぱりファンは実力でもぎ取らないと!」

 

 そう言いつつシャドーボクシングの真似事をしてみる。もちろん競走ウマ娘にボクシングは関係無い。

 

「まぁナッちゃんならそう言うと思ってた。でもナッちゃん、もし次のレースで勝てたらその瞬間オープンクラスになれるから、年末のジュニアGⅠに出られるんじゃない?」

 

 カメのこの言葉は衝撃だった。なんせGⅠなんて考えた事も無かったからね。

 そりゃ『日本ダービー』に代表される来年のクラッシックGⅠ戦線は参加する気バリバリだった。出来るかどうかは置いておいて、ウマ娘に生まれた者ならば一度は夢見る展開だろう。

 

 そしてそのクラッシックレースの行方を占うジュニア級のレースが12月に行われる。『朝日杯フューチュリティステークス』『阪神ジュベナイルフィリーズ』『ホープフルステークス』の3レースだ。

 

 この3レースはジュニア級のみで行われる為に、デビュー間もない選手達も多く出場するべく出走条件が緩い。具体的にはとりあえず1勝していれば出走資格は与えられる。そこからファン数上位者から枠が埋まっていくのだ。

 

 デビュー間もない頃のグレードの低いレースでは、1レースでのファン数増加は優勝した場合で平均して1000人前後だ。当然順位が下がるとそれに比例して獲得ファン数は減る。

 

 ホープフルステークスらジュニア級GⅠに出走出来るとしたら、やはり2000人の位はファンが居ないと足切りされる可能性があるのだろう。

 

 今の私のファン数は4000弱。その数だけで出走の是非を問うならば、問題無く参加する事が出来るはずだ。

 

「GⅠ…」

 

「そう、GⅠ! 私も次のレースで勝てたら挑戦してみたいな」

 

 まだ現実味はまるで感じていないけど、私もカメももし次のレースで勝てたら、GⅠという最高の舞台で走る事が出来るかも知れない、という事だ……。

 

 ☆

 

 午後になりトレーナー事務所に顔を出す。

 

「アイリス、ちょっといいかな…?」

 

 机で何やら調べ物をしていたアイリスを手招きして事務所の外に呼び出した。

 

「なぁにナズナ? 話があるなら中でも…」

 

 そう言いながらも私の手招きに応えて出てきてくれるアイリス。

 

「ええと… ちょっと相談があって… あまり他の人に聞かれたくないって言うか何て言うか…」

 

「ううん? ナズナらしくないわね。どうしたの? 何か悩み事?」

 

 今から言おうとしている事は少し、いやかなり恥ずかしい。それでも言わないと伝わらないし、頭の固いアイリスなら尚の事だ。

 

「あ、あのさ… 私、次のレース絶対に勝つから! だから… だからもし勝てたら… じゃなくて勝つから、そうしたらその次は年末のGⅠに出たいんだ。だからアイリスもそのつもりでトレーニングして欲しい!」

 

 私の言葉にアイリスは一瞬目を見開いて驚きの表情を見せる。その後ニヤリと笑って「わかった」とだけ呟いた。

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